追っ手
「黒い髪と、白い髪をした子供の女二人組を見かけたりはしなかったか」
ギルドを出たところで、そんな声が聞こえてきた。
私は声がした方向を見た瞬間、セナの服の裾を掴んだ。
だって、あの街の領主の紋章を付けた騎士が、街の住人にそんなことを聞いていたから。
「……マスター、殺しますか?」
すると、セナがそう聞いてきた。
「あ、あの二人……」
そして、私がセナに返事をしようとした瞬間に、騎士に聞かれていた街の住民がそう呟くように言って、私たちの方を指さしてきた。
そのせいで、騎士が私たちの方に振り向いて、そのまま私たちの方に向かってきている。
「……マスター、掃除、しますか?」
すると、セナが声を低くしながら、そう聞いてきた。
「逃げよ、セナ」
ただ、私はそう言った。
だって、こんな街中で、騎士に手を出すなんて、それこそ、あの領主以外にも、追われることになっちゃう。
せっかく、ギルドに追われてなかったんだから、そんなことにはなりたくない。……まぁ、逃げる時点で何かがあるとは思われるかもだけど、あの貴族はプライドがあるから、理由なんか話さないはず。理由が分からなかったら、他人には追うことなんて出来ないし、何より貴族のプライドを傷つけることになるかもしれないし、絶対にそれを恐れて、余計な真似は出来ないはず。
「分かりました」
すると、私の言葉を聞いたセナは、私を安心させるように、笑顔で頷いて、私を抱き抱えてくれた。
そしてそのまま、いつもとは比べ物にならないくらいの速さで、走り出した。
私はすごい風圧が来るのを覚悟したんだけど、何故か風圧はなかった。……それでも、私はセナに抱きついて、目を閉じた。……怖かったから。
「あっ、おい! 待――」
騎士の言葉が聞こえた瞬間、私の体はビクッと震えてしまった。
ただ、騎士の言葉は、そこまでしか聞こえなかった。
「セナ、ありがとね」
「マスター、私の事だけ、考えててください。そうしたら、大丈夫ですから」
「……うん」
私はセナの言葉に頷いて、セナの事だけを考えながら、目を閉じ続けた。
「セナ、セナ、セナ、セナ……」
暗闇の中で、私はセナのことを呼び続けた。




