何も出来ないけど
「あ、あの、今のは?」
少し時間が経ったところで、商人の人がそう聞いてきた。
……そんなの、私が聞きたいよ。そもそも、私は何が起こったのかすら知らないし。
「護衛、ですから」
そう思いながら、私はセナの方を見たけど、何も答える様子がないのを察して、私はそう答えた。
何が起こったのかは分からないけど、多分、護衛の仕事をしたんだと思うから。
「そ、そうですか。あ、ありがとう、ございます……」
すると、商人の人は、引きつった笑みを浮かべながら、そう言ってきた。
よく分からないけど、護衛としての仕事は出来てるってこと、だよね。……うん。大丈夫なはず。
私はそう無理やり自分を納得させて、また荷馬車が走り出すのを待った。
そういえば、魔物はセナに怯えるのに、馬はセナに怯えたりしないのかな。
私は、荷馬車が走り出したところで、そう思った。
馬って賢いって言うし。
まぁ、怯えてないなら、怯えてないでいいかな。
「今日は、この辺りで野宿ですかね」
辺りが暗くなってきたところで、商人の人がそう言い出した。
……荷馬車を使っても、一日ではつかないんだ。
「……夜も、護衛、お願いします、ね」
私がそう思っていると、商人の人が私たちに、また引きつった笑みを浮かべながらそう言ってきた。
「分かりました」
「……私は、一応の時のために、その辺で待機させてもらいますね」
私が商人の人に頷くと、保険の人がそう言ってきた。
私は保険の人にも頷いた。
「マスターも眠っていて、大丈夫ですよ」
そして、商人の人と保険の人が離れていったところで、セナがそう言ってきた。
「限界までは、セナと一緒に起きてるよ」
私が起きてたって、出来ることは何も無いけど、私はそう言った。
昇格試験だし、さっきも何もしてなかったのに、夜もセナだけ起きてて、私が寝てたら、昇格試験に落とされちゃうかもしれないし。
「だったら、もっとくっついてましょう。夜は寒いですから」
「うん」
そんなセナの言葉に私が頷くと、セナは私のことをギュッとしてきた。
……セナの体温が温かくて、眠っちゃいそうなんだけど。
そう思ったけど、セナと離れるのは嫌だと思ったから、私は瞼が閉じそうなのを我慢することにした。
「マスター、無理はしないでくださいね」
「……うん」
私が眠たいのを察してくれたのか、セナは優しくそう言ってくれた。
私はそんなセナの言葉に頷いて、私からもセナのことをギュッ、とした。




