宿じゃないの?
セナに案内してもらって、ギルドの中に入ると、視線を集めることはあったけど、それだけだった。
「セナ、多分、あっちだよ」
私はそう言って、セナの手を握ったまま指を指した方に向かった。
「……全部、私たちの特徴とはかけ離れてるね」
手配書を見るなり、私はそう言った。
いくら絵とはいえ、セナくらい可愛かったら、すぐに分かると思うから。
「そう、ですね。マスターにこれ以上迷惑をかけずに済んで良かったです」
そんなことを考えてると、セナがそう言ってきた。
私はセナに迷惑をかけられた覚えなんてないから、握っているセナの手を優しくギュッギュッとした。
言葉でそう言おうか迷ったんだけど、手配書の前でこれ以上小声で話し合う様子を見られるのは、何かがあると思われて怪しまれると思ったから、言葉では言わなかった。
すると、セナに私の意図が伝わったのか、セナは嬉しそうに、私に体を寄せてきた。
「セナ、依頼受けよっか」
少なくとも、今はギルドには追われてないみたいだから、私はそう言った。
稼げるうちに、稼いでおきたいから。……と言っても、私はいつも通り、セナについて行くだけなんだけどさ。
「はい、わかりました!」
セナが元気にそう言ってくれたのを見た私は、依頼を受けに行った。……もちろんセナと一緒に。
適当な討伐依頼を受けて、報酬を受け取った私たちは、宿で部屋を借りるために、宿を探してるんだけど……全然宿が見当たらない。……いつもだったら、適当に歩いてても、すぐに見つかるのに。
「宿、見つからないね」
「そうですね……」
「このまま見つからなかったら、この前みたいに、一緒に外で寝よっか」
「はい! 任せてください!」
私がそう言うと、セナは嬉しそうに、頷いてくれた。
まぁ、セナがいてくれるなら、全然外で寝ても大丈夫だけど、それでも、ベッドで寝る方がいいに決まってるから、見つかるといいな、と思いながら、歩いた。
「あ、あれ宿じゃない?」
そう言って、私が建物を指さすと、何故かセナに手で目を覆われた。
私は一瞬びっくりしたけど、すぐにセナの手だとわかったから、安心して、セナに聞いた。
「セナ? いきなりどうしたの?」
「あ、あれは、宿じゃないですよ、マスター。だから、早く離れましょう」
そう言って、セナは珍しく強引に私の目を覆いながら、器用に手を引いてくる。……強引といっても、もちろん痛くはないんだけどさ。
「離れるのは分かったけど、セナ、なんでか聞いていい? あれ、宿じゃないの?」
「そ、そうです。宿じゃないです。……だから、見ちゃダメです」
私がそう聞くと、セナはそう言ってきた。
……宿じゃないのは分かったけど、なんで、見るのもだめなんだろう。……別に見ることくらいは良いと思うけど。
セナにそう言おうと思ったけど、必死で私が見ないように目を覆ってくるセナの様子を感じていると、言わない方がいいと思って、やめておいた。




