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おかしくてもいい

「セナ、依頼の報酬分のお金だけ持って、この街から出よっか」


 私はセナを撫でながら、そう言った。

 宿屋で部屋を借りちゃってるから、お金がもったいないかもしれないけど、早く出た方がいいと思うしね。


「わ、かりま、した」


 もうセナは泣いてないけど、嗚咽が酷くて、まだ上手く喋れないみたいで、たどたどしていけど、笑顔でそう言ってくれた。


 そんなセナと手を繋ぎながら下の階に降りて、お金を取った。

 

「セナ、この人たちの状況なんだけど、どのくらいの距離までなら直せる?」


 私は目の焦点が合ってない人達を見ながら、そう言った。

 このままにしておけば、暫くはギルドマスターが死んだことがバレないかもしれないけど、このままにしておいて見つかる方が問題が大きくなりそうだし、普通にここに居合わせただけの人たちが可哀想だし。


「ど、こからでもっ、なお、せます!」

「だったら、私たちが街を出たところで、直してくれる?」

「も、ちろんで、す!」


 私がそう聞くと、セナは元気よく、頷いてくれた。

 

「た、ただ……」


 その後に、セナは俯きながら、言いにくそうにして、何かを言おうとしてくる。


「ただ、どうしたの?」

「あ、あいつ――あの人、だけ、は、な、直したくない、です」


 そう言ってセナは、さっきの職員の人を指さした。

 正直、セナが直したくないなら、私は別にいいけど、直した方が、まだ問題にならないとも思う。


「私に失礼な態度をとったから?」


 もしそうなんだとしたら、私は気にしてないから、直してもらおうと思ってそう聞いた。


「は、はい……」

「だったら、私は気にしてないから、直してあげて」

「……ど、どう、しても、直さない、とだめ、ですか?」


 セナは遠慮がちに、上目遣いでそう聞いてきた。

 

「だめって訳じゃないけど……直したくないの?」


 そう聞くと、セナは黙ってこくんと頷いた。


「私は気にしてないよ?」


 一応、念の為に私はもう一度そう言った。

 

「は、い……で、でも、わ、たしが、嫌、なんです……わ、たしのせいで、こ、こんなこと、に、なってる、のに、わ、わがまま、で、ごめ、んなさい」


 すると、セナはまた、目に涙を貯めながら、そう言ってきた。

 

「セナの力なんだから、セナの好きにしたらいいよ」


 騒ぎが大きくなるとは思うけど、セナが本当に嫌なら、私的には全然仕方ないと思う。……そもそも、正直今更騒ぎが大きくなった所で、あんまり変わらないと思うし。

 そう考えたから、私はセナを抱きしめて、頭を撫でながらそう言った。


 すると、さっきまでは罪悪感からか、私が抱きしめても、セナは何もしてこなかったのに、今回は私が抱きしめると、セナの方からもギュッと抱きしめてくれた。

 それが嬉しくて、私の方からも少しだけ力を強くして、セナをギュッとした。


 こんな状況で幸せな気分になるなんて正直おかしいと思うけど、セナがいてくれるなら私はおかしくてもいいと思って、周りを気にせずにセナに抱きついて、満足するまで過ごした。

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