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マスターに迷惑をかけないように

※セナ視点


「行ってきますね。何かあったら、私を呼んでもらえれば直ぐに来ますので」

「えっ、う、うん。こ、この人達、元に戻るんだよね?」

「マスターが望むのなら、戻しますよ」


 私はマスターにそう言って、階段を登りだした。


 ……早く殺して、マスターの所に戻ろう。

 あ、でも、一応立場が偉い人を殺しちゃったら、マスターに迷惑がかかるかもしれない。……マスターに殺してもいいか、聞いておけばよかった。……少し前のあの門番みたいに、こっそり(マスターにバレないように)できるならともかく、今回の奴は、呼び出されてるところをマスターに見られちゃってるし、マスターに隠せない。

 だからといって、何もしないでマスターの元に帰るっていう選択肢は無い。

 マスターを放っておいて、私だけを呼び出すことも気に入らないし、何より、マスターが報酬を寄越せって言ってるのに、全く渡す素振りを見せないこいつらを許せない。マスターが寄越せって言ってるんだから、さっさと寄越せばいいのに。


「セナ、早く戻ってこないかな……」


 私が階段を登りながら、イライラしていると、マスターのそんな声が聞こえてきた。

 マスター、可愛いなぁ。だって、小声で言ってるってことは、私に聞こえるとは思ってなくて、言ってるって事だもんね。


「えへへ」


 さっきまでの感情なんか消え失せて、私は、だらしない笑を零してしまった。

 こんなの、しょうがないに決まってる。だって、マスターにこんなこと言われて、嬉しくないはずがないんだから。


 あぁ、このまま引き返して、マスターに抱きつきたい。それで、マスターの体温や、胸の柔らかさを感じたい。……でも、そんなことしたら、ギルド側が違う方法で無理やり接触してきて、その結果マスターに迷惑をかけることになるかもしれないから、さっさとここで終わらせよう。

 さっきは殺しちゃったらマスターに迷惑をかけちゃうかもって思ったけど、仮に殺して、追われることになったとしても、どうせ私とマスターは、既に追われてる身。だったら、今更ギルドに追われようがどうでもいいはず。だって、マスターには私が居れば充分なんだから。

 

 そう考えて、もうさっさと殺しに行こうと思ったけど、私は身分証の事を思い出してしまった。

 ……身分証も使えなくされるのかも。……だ、だめ。殺せない。身分証を使えなくされるのは、絶対にマスターに迷惑をかけてしまう。

 

 ……もういっその事、眷属にして言うことを聞かせる? 有り得ない。


 一瞬でも考えてしまったことを否定するように、私は首を横に振った。

 だって、眷属にするには、眷属にする対象に噛み付いて、私の血を流さないとだめなんだから。有り得ない。マスター以外の体に私の口を、牙を付けるなんて、考えたくもない。

 ……こんな事考えてたら、マスターの血が飲みたくなってきてしまった。……マスター、お願いしたら、今日も飲ませてくれるかな? 


 そんなことを考えていると、とうとうギルドマスター室って書かれた扉の前に来てしまった。

 ……マスターに迷惑をかけないように、なるべく穏便に話し合おう。

 そう決めて、私は扉を開いた。


「おう。よく来たな。早速だが、あんななんの力もない奴の下に着くのはやめて、俺の元に来い、権力が怖いかもしれねぇが、俺なら――」


 開口一番に開かれた言葉を最後まで聞き切る前に、気がついたら私は、ふざけたことを言うゴミの四肢を吹き飛ばしていた。

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