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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第八章 俺が盟主?

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15.結婚式?

 (ハスィー)の妊娠は三度目なのでお互いに気分的には余裕があった。

 でも胎児の成長具合から言って、どうも俺がセルリユに戻ってその日のうちにヤッた時に命中したらしいんだよ。

 まあ、自分たちも覚えてないくらい何度もヤッたんだけど。

 やっぱ俺、溜まっていたらしい。

 (ハスィー)の方もどうも欲求不満だったみたいで、あの時は乱れていたからな。

 まあいい。

 ヤジマ家の子供は何人いても多すぎるということはない。

 日本にいた時と違って今の俺は大金持ちだ。

 教育費とか養育費で困るはずもないし、保育園を探し回る必要もない。

 乳母や子守なんか志願者が3桁いるらしいんだよ。

 何だったら専用の保育園を建ててもいいくらいだ。

「ヤジマ学園にそのホイクエンを作りましょうか」

 いや、いいです(泣)。

 そんなもんを作っても通わせられる人がそれほどいるとも思えないからね。

 日本とは違うのだ。

「ハスィーはこれから絶対に無理をしないように」

「はい。

 でも仕事は続けますよ?」

 それはそうだ。

 妊娠しても仕事を続ける人の方が日本でも普通だからな。

 増して(ハスィー)の仕事は肉体労働じゃない。

 むしろ妊娠している方が上手くいったりして。

 ただでさえ傾国姫(ハスィー)に逆らえる人なんかいないのに、身重だったらもう平身低頭して何でも引き受けるしかないだろう。

 酷い話だ(笑)。

 そうやって冬を過ごした俺たちは、恒例の王城での新年祭(ニューイヤーパーティー)に出た他は何もしなかった。

 新年祭(ニューイヤーパーティー)でも俺と(ハスィー)は王家の皆様と並んで座っていたしね。

 王太子殿下の後見人だから(泣)。

 公侯爵の人たちすら立っているのに、何で俺が座っているんだろう。

 いや、楽だったからいいけど。

 それに「成り上がりが偉そうに」というような雰囲気はまったく感じなかったんだよなあ。

 むしろ敬意というかそういう視線が集中していたみたいで。

 俺より(ハスィー)が目立っていたのはもちろんだけど、妊娠が知れると更に注目度が増したようだった。

「ヤジマ大公家に新たな御子様が誕生するのですから。

 嫁でも婿でも可能性が増したと言う事で」

 ユマさんの解説で納得した。

 何でもいいからヤジマ大公家と繋がりたいと思う人たちにとってはチャンスが増えたようにしか感じられないんだろうな。

 でも種馬というかサラブレッドみたいでちょっと嫌だ。

 初代帝国皇帝(ヴァシールさん)もこんな視線に曝されていたんだろうか。

 そういう圧力がないと13人もいた正室にいちいち子供を産ませたりしなかったかも。

 ヴァシールさんの場合、子供が少なかったら俺と違って帝国が分裂する可能性すらあったはずだからな。

 子供の奪い合いで。

 良かった俺、そんな状態に巻き込まれなくて。

 新年祭(ニューイヤーパーティー)を乗り切ると、次はジェイルくんたちの結婚式だった。

 クルト子爵夫妻の結婚式はヤジマ学園の大講堂のこけら落としとして行われた。

 俺の時は参列する人が多すぎて野外でやるしかなかったんだけど、ジェイルくんの場合は呼ぶ人を選べるからね。

 そもそも子爵家の結婚式だから、あまり高位の貴族に来て貰ったら面倒な事になる。

 下手すると結婚する当人が脇役にされてしまうかもしれないのだ。

 それにジェイルくんの実家のクルト家やソラルさんのマルト家は平民だ。

 両方とも結構な規模の商家ではあるんだけど、貴族が来たら礼をとるしかない立場だからな。

 よって基本的には俺やシルさんといったジェイルくんと親しい人以外の貴顕には参列を遠慮して頂く事になった。

 そういう人たち向けには別途ヤジマ商会主催で披露宴というか報告会を開くことになる。

 というわけで結婚式に参列したのは俺と(ハスィー)に加えてヤジマ商会の幹部達、それからヤジマ商会の取引先や関連企業から選ばれて招待された人たちだけだった。

 いや、そうでもしないと大ホールに入りきれないからね。

 さすがにこの寒さの中、屋外で開催するのは無理がある。

「別の目的もございますもので」

 ユマさん、それってジェイルくんたちに失礼なんじゃ。

「ご両人の提案、というよりは企画でございます」

 何なんだろう。

 ジェイルくんもソラルさんも凄腕の商人だから、多分これを機会にもっと儲けようとか考えているのかも。

 まあいいか。

 というわけで当日、俺は大ホールいっぱいに集まった人たちに向けてジェイルくん夫妻の後見人となることを宣言した。

 まずジェイルくんとソラルさんがいかにヤジマ商会の事業に貢献したかを述べ、次に二人の忠誠や業績を褒め称える。

 それから二人の前途を祝福し、そこで終わった。

 いやこういうスピーチって短いのが肝なのだ。

 偉い人の話を長々と聞かされる辛さは(サラリーマン)にも身に染みている。

 案の定、俺のスピーチが終わると満場の拍手だった。

 やっぱ短いっていいよね。

「違うと思いますが。

 まあいいです。

 ありがとうございました」

 ジェイルくんに礼を取られて俺は引っ込んだ。

 (ハスィー)が迎えてくれる。

 ちなみにソラージュ語を話せない俺のスピーチが受けたのは、要所要所に配置された「通訳」の人たちが中継してくれていたからだ。

 同時通訳で俺の日本語、というよりは魔素翻訳で伝わる言葉をソラージュ語に直して周囲に配信してくれているのだ。

 これは別に俺の発明というわけではなくて、多国籍の大勢の人が集まるような場では普通に用意されている。

 トルヌでやった「すべての国と組織の(ミルトバ)連合」の出席者は俺を除いて全員が語学に堪能だったけど、そこまで参加者の粒が揃っていないような場合もあるからな。

 なお、ヤジマ芸能などのアーティストはそんなものは使わない。

 肉声で何とかするのがプロだ。

 舞台? では何とジェイルくん自身がソラルさんを伴ってスピーチしていた。

 ジェイルくんに寄り添うソラルさんは赤ちゃんを抱いている。

 大丈夫なのか?

「護衛を最前列に配置している他、目立たないように会場内に散らしております。

 というよりは参列者の大半はヤジマ商会系列企業の舎員でございますので。

 更に野生動物護衛もおります」

 ハマオルさんが教えてくれた。

 なるほど。

 考えてみればこの会場にいるのは招待客を除けば全員がヤジマ何とかの関係者だ。

 その招待客も大半が准身内みたいなもので、ジェイルくんに何かあったら大変どころの話じゃない。

 むしろ積極的に守ろうとするだろう。

 俺の時とは違うんだよ。

「……(ジェイル)がここまで来れたのはすべて理事長(マコトさん)のおかげだ。

 私はただ、理事長(マコトさん)の背中を追ってひたすら駆けていただけだ!

 もちろん盲目的に従ってきたわけではない。

 全知力を振り絞り、努力に努力を重ねてようやく理事長(マコトさん)の後ろ姿がかすかに拝見できるほどなのだ!」

 ジェイルくん、一体何の話をしているの?

 自分の結婚式じゃなかったっけ?

(ソラル)も同じです。

 アレスト興業舎の頃から理事長(マコトさん)の後ろ姿だけを追い求めてここまで来ました。

 そして今、愛する人と共にここに立っています!」

 ソラルさんの方は少しは結婚式らしいけど、それでも何か違う。

 でも誰も不思議に思ってないみたいで、ジェイルくんたちが話し終えると再び満場の拍手が沸き起こった。

 変だけど別に俺がどうこう言うことじゃないもんな。

 ジェイルくんたちが舞台裏に引き上げてきたので聞いてみた。

「これからみんなに挨拶するの?

 大変なんじゃ」

 だって大ホールには客席なんかないんだよ。

 立食式のテーブルが配置されているだけで、お客さんたちは自由に動いている。

 結婚式って新郎新婦がキャンドル持って挨拶して回るんじゃなかったっけ?

 いや、俺の結婚式では蝋燭(キャンドル)使わなかったけど。

 するとジェイルくんはニヤッと笑った。

「これは結婚式というよりは結婚宣言式みたいなものですので。

 本番はこれからです」

 ではこちらへ、と新郎なのに俺たち夫婦を案内して歩き出すジェイルくん。

 赤ちゃん付きのソラルさんも一緒だ。

 舞台裏の階段を昇って着いた先は、オペラ座の観客席みたいな場所だった。

 ホールの客たちからは見えないけど舞台を見下ろせる貴賓席だ。

 並びの部屋(ブース)にはシルさんやラナエ嬢を筆頭にヤジマ商会の幹部の人たちが見えた。

 俺たちは仲人として新郎新婦と同席させて貰えたらしい。

「どうぞ」

 ジェイルくんが勧めるので豪華な椅子に(ハスィー)と並んで腰掛ける。

 新郎と赤ちゃんを抱いた新婦も席についた。

 ジェイルくんの部下らしい人が入って来て報告する。

「準備完了です」

「では開始だ」

 何が始まるんだ?

 すると大ホールが暗くなった。

 天井や壁の灯りが半分くらい落とされたらしい。

 そして舞台が煌々と照らされたかと思うと、突然隠れていたオーケストラが演奏を始めた。

「皆さーん!

 元気ですかーっ?」

 大声で叫びながら飛び出してきた露出が多い派手な衣装の美少女。

 凄い声量だ。

 何なの?

「準備はいいですねー?

 ではこれからみんなでクルト子爵閣下夫妻、いえヤジマ商会大番頭であるジェイル様と元ヤジマ芸能舎長ソラル様のご結婚を祝してぶち上げましょーう!」

 どっと叫び出す観客、じゃなくて招待客の人たち。

 これ、結婚式じゃなかったのかよ?

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