10.まったり?
その夜は当然というべきか我慢出来なくて嫁と連続してヤッてしまった。
もちろん子供達が寝てからだけど。
ハマオルさんたちも心得ていて、完全に人払いしてくれた。
一応満足してから一緒にシャワーを浴びる。
風呂場で淡いランプの光に照らされた嫁の裸身が凄すぎて、また立ったままヤッてしまった。
もう一度お湯を流してシャワーを浴びてから二人でソファーに並んで座る。
ちょっと冷えるのか、嫁が寄り添ってきたのでベッドから毛布を取ってきて二人で潜り込む。
ぬくぬくの中、身体を密着させたままとりとめもなく雑談した。
いやー、やっぱ惚れた嫁とこういう風に話すのは楽しいわ。
久しぶりだしな。
そういえばハマオルさんもヤジマ屋敷で嫁と娘が待っているんじゃなかったっけ?
「リズィレは一緒に来てくれていますよ。
娘さんは連れて来ていませんが」
そうか。
リズィレさんは嫁の最後の盾だからな。
来ないはずがない。
今頃は旦那としっぽりかも。
いや、それはないな。
任務の権化であるハマオルさんが勤務中にそんなことをするはずがない。
万一ハマオルさんがしたいと言っても奥方が拒否するだろうし。
多分、今も近くで待機してくれているはずだ。
「ハマオルさんの娘さんは?」
「順調に育っています。
リズィレにそっくりですよ」
それは良かった(笑)。
まあ、娘はやっぱ父親に似るより母親だよなあ。
ハマオルさんはカッコいいけどイケメンというタイプじゃないから。
リズィレさんは美少女というか可愛いタイプだし、似ているのならやはり美少女になるだろう。
そういえば娘さんって何て名前だったっけ。
「ティラナです。
ジークの乳姉妹ですね」
そうなるのか。
超幼馴染みというところか。
でも身分が違いすぎるな。
ティラナちゃんも近衛騎士の娘だから貴族家の令嬢なんだけど、息子は大公の世継ぎだもんなあ。
王子様みたいなものだ。
軽小説みたいにはいかないか。
「将来の事は判りません。
貴方もまだ若いですし」
「それはそうだ」
もう三十路だけどね(泣)。
それでも若いと言えば若いんだよ。
サラリーマンなら特殊な業界を除いてはせいぜい主任とか良くて係長だろう。
間違っても会長とか理事長とかじゃない。
今さらだけど、どうしてこうなった。
いや、別に文句はないけどね。
そもそも俺、北聖システムで出世したいとかいつかは経営層に、とか全然思ってなかったし。
普通に仕事して給料貰えていれば十分だったんだよな。
それと年金。
これは外せない(笑)。
今となっては夢だけど。
でも、俺たちの世代のサラリーマンはみんな似たようなもんだと思うけどね。
ていうかかなりの大企業の正社員になれた事自体、幸運だったし。
俺が新卒の時、日本経済がちょっと上向いていて本当に良かった。
会社の先輩たちの話を聞く度にぞっとしたもんな。
「貴方。
故郷の事を思い出しているのですか?」
嫁が不安そうにしがみついてきた。
いやそうだけど、俺はどこにも行きませんので。
ていうか行けない(泣)。
日本どころかこっちの世界でもヤジマ財団を辞める事すら無理だ。
無職とか生活費とかの問題じゃなくて、俺がヤジマ財団辞めたらマジで世界が崩壊すると言われているんだよ(泣)。
かなりの確率で戦争になるらしいし、少なくとも大恐慌が来ることは間違いないそうだ。
何でだよ!
俺はただのサラリーマンなのに!
でも、だからこそ命令されたら逆らえない。
自分が退職したら世界が滅ぶって俺は邪神か何かか?
それはしょうがないけど、俺にだって矜持くらいはある。
「ハスィーや子供達を置いて逃げたりはしないよ」
嫁は嬉しそうに微笑むとキスしてきた。
それから俺を横目で軽く睨む。
「逃げてもいいですよ。
でも逃げ切れるとは思わないで下さい」
さいですか。
確かに無理だろうな。
傾国姫からは逃げられない。
ていうか逃げませんって!
「寝ようか」
「はい」
そして俺たちはベッドに戻った。
いや、本当に寝たよ。
だってヤッたらまた同じ事の繰り返しでしょう!
夜明け前に目が覚めるとやはり嫁に拘束されていた。
子供達はいない。
別の部屋で休んで貰ったんだよね。
ヤッたから(笑)。
いつものように慎重に嫁を起こしてプロレス技を解いて貰い、フラフラしている嫁と一緒にシャワーを浴びる。
低血圧の嫁も俺が身体を洗ってやると目覚めたようだった。
きびきびとした動きで俺を洗ってくれた。
ヤりたくなったけど、ここは我慢だ。
用意されていた作業着に着替えて並んで部屋を出ると、ハマオルさんやラウネ嬢が片膝をついていた。
後ろには護衛やメイドの人たち。
いつもの事だ。
「お早うございます」
「「「お早うございます!
大公殿下。
大公妃殿下」」」
はいはい。
ハマオルさんに聞くと子供達はまだ寝ているとのことなので、先に朝練を済ませることにする。
広い演習場なのか何なのか判らない場所ではオウルさんたちが待ち構えていた。
ブレないな。
「主上!
お早うございます!」
「お早うございます」
オウルさん達はご一家勢揃いだった。
こっちも嫁が一緒だ。
その場で挨拶の嵐が巻き起こる。
王国の大公夫妻と帝国皇太子一家だから身分的にはほぼ同格か。
もちろんその他の人たちはフレスカさん以外の全員が片膝を突いていた。
物凄い身分のインフレだからね。
野生動物護衛の皆さんは片膝なんか突かないで待機してくれている。
助かります。
ちなみに一緒に来たはずのララエ公国アレサ公女の姿はなかった。
元の職場に戻ったのだろうか。
まあいいか。
「それでは」
オウルさんの子供達は急遽集められたらしいセルリユ興業舎舎員の皆さんの子供達と一緒に別メニューということで、俺たち夫婦とオウルさん夫婦が固まって走り出す。
周囲が見えないくらい大勢の護衛に囲まれて。
ハマオルさん配下の護衛の人たちと帝国軍騎兵隊の人たちが混じっていた。
セルリユ興業舎の舎内なんだからそこまでしなくてもいいのに。
「遮蔽の意味もございます。
主殿のご帰還は既に広まっておりますので」
箝口令は敷いてあるけどどうしても野次馬を防ぎきることは出来ないそうだ。
下手するとセルリユ興業舎の舎員ですら野次馬化しかねないらしい。
「奥方様もご一緒でございますからな。
用心に越したことはございません」
そういえば嫁の前にはリズィレさんもいる。
総力戦か。
オウルさんはいつものように俺の前を駆けながら周囲に気を配っているようだった。
そこまでしなくても。
「油断大敵でございます。
主上は今や世界の主とも言えます。
どうぞご自愛下さい」
もちろん何があろうが私共がお守り申し上げますが、とオウルさん。
嫁と並んで走っている皇太子妃もにっこり笑って頷いていた。
ていうか帝国皇太子妃も俺たちの護衛なの?
そういえばメルシラさんって元帝国軍の下士官だったっけ。
しかも剣ではオウルさんより強いとか。
騎兵でもあったりして。
軽小説じゃねえっての!
まあいい。
護衛は別にして、皇太子妃は嫁と一緒に走れて嬉しそうだった。
元々ファンだったらしいからね。
俺の嫁はどこにでも支援者がいるんだよ。
いやファンというよりはもう崇拝者というべきか。
もし一緒に危機一髪な事態になったら、護衛は全員が俺をほっといて嫁を守ろうとするだろうな。
「その時はわたくしが貴方を守ります」
嫁に守られる夫って(泣)。
そんな馬鹿話をしつつ適当に走ってから俺たちは宿舎に帰還した。
護衛の人たちは運動が足りないとかで、これから騎馬戦だとか。
それが終わったらいよいよヤジマ食堂の朝クイホーダイだそうで、皆さん張り切っていた。
これが俺の朝練に付き合う報酬ということで、参加したさに毎回殴り合いが起こるらしい。
頑張って下さいね。
オウルさんの子供達と合流して食堂に向かう。
一応俺たちは貴顕なので、そういう人達用に用意してある豪華な場所だそうだ。
案内されたのは立派な屋敷だった。
これ全体が接待用というかそういう施設だとか。
セルリユ興業舎にも貴族籍の商人が来るのでここでもてなすんだろうな。
「ぱぱ!」
部屋に入った途端、叫び声がして小さな身体が飛びついてきた。
娘か。
見ると息子を抱いたリズィレさんが頭を下げている。
先回りしてくれたらしい。
「ぱぱ」
「はいはい」
抱き上げて何気なくオウルさんの方に向き直ると、息子さんたちが片膝を突いていた。
あー。
「「姫様。
我等御身の騎士、ただいま帰還致しました」」
それ、ここでやる?




