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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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7.秘書?

 ギルドのプロジェクト室には、2日か3日おきには顔を出すようにしている。

 行っても別に仕事があるわけでもないけど、そんなことを言い出したらアレスト興業舎にいても書類にサインするくらいしかやることがない。

 俺は自由というか、基本的にはどこで何をしていてもいいことになっているらしい。

 もちろん、ハスィー様から呼び出されたり、アレナさんに書類を渡されたりする時は従わなければならないのだが、それ以外は無任所というか、特に決まった仕事がないのだ。

 確かに、会社の社長ともなると、誰かに命令されて仕事するわけではないからな。

 うちの会社の社長も、というよりは役員レベルになると、好き勝手に動いていたような気がする。

 どっかのパーティに行ったりよその会社や役所の偉い人たちと会ったり、それが仕事なんだろう。

 つまり会社を経営する側になると、自分が会社のために役に立つと思えば何をやってもいいわけだ。

 ハスィー様が、プロジェクト「あの丘の向こう」をでっち上げたように、その行動が結果的に自社の業績を向上させたり利益を上げたりすれば、自由に動いていいのだ。

 もちろん、法律に触れたり後ろ暗い取引に手を染めたりするのは論外だろうけど。

 ああ、判っているさ。

 そんなことを言っていられるのは、俺がアレスト興業舎の舎長代理とはいっても案山子だからだ。

 本当に舎長代理として働いているのなら、つまり舎の存続に責任を持たされているのなら、こんなにブラブラしていられるはずがない。

 寸暇を惜しんで、仕事に役立ちそうなあらゆる人の所を回って、顔を売ったりコネを作ったりしているはずだ。

 お飾りの舎長代理である俺は、そういうことを求められてはいない。

 役所の関連団体の理事長みたいなもんだな。

 むしろ、下手に動いて事態を悪化させることを避けるべき立場にいる。

 何せ、俺ってアレスト興業舎やギルドどころか、この市や国のことをまるで判っていないんだから。

 しかも、舎長代理とは言ってもアレスト興業舎は未だギルドの関連団体に過ぎず、予算をすべてギルドに頼っている。

 つまり、ギルドの一部門でしかないのだ。

 ギルドの外様である俺が、何かする意味はまるでない。

 というようなことが判っていたから、俺も基本的にはブラブラしていて、というよりはむしろ積極的に何もしないでいたんだけどね。

 事実、アレスト興業舎は俺なんかいなくても、各部門が勝手にどんどん仕事を進めているし。

 最近では、シルさんが先頭に立って土木工事みたいなことまで始めている。

 人手は、プロを何人か雇った以外はシイルのかつての仲間というか、アレスト市で燻っていた若い者を大量に使っているらしい。

 軍事教練じみたことまで始めていて、俺はビビッたね。

 教官がホトウさんなんだよ!

 やはり、ホトウズブートキャンプは実在した!

 俺は巻き込まれないように、知らないふりをしているから、詳しいことは判らないけど。

 それにしても、ハスィー様が言っていた通り、事が始まったら予算は青天井らしい。

 どれほどの資金が投入されているのか、実は書類が俺の元を通るのでちらっと見たことがあるんだけど、凄かった。

 知りたくなかった。

 個人が扱える金額じゃなかったよ。

 あれを平然とやってのけるって、やっぱりハスィー様とかラナエ嬢って俺と人種が違うよな。

 貴族って、本来ああいうものなんだろう。

 何かを決断して実行することを恐れない、というよりはむしろ仕事として出来る階層。

 ラノベだと、貴族といえば着飾ってお茶飲んでいたり、平民を差別したりといった言動ばかり強調されているけど、違うのだ。

 会社の社長が平社員と違うように、異なる行動原理や思考の元で動いているのだ。

 ああ、嫌だ嫌だ。

 関わり合いになりたくない。

 でも、俺って舎長代理なんだよね。

 なんで俺が。

 しかも、その責任を求められていない。

 ラノベに出てくる、甘やかされた貴族のドラ息子か何かみたいじゃないか。

 こんなことしていたら、俺って腐ってしまうぞ。

 というような事を考えてうじうじしていたら、ある日報告に来たラナエ嬢が俺を見て言った。

「マコトさんにも、そろそろ秘書が必要なのかもしれませんわね」

 秘書ですと?

 何ですかそれ。

 ラノベの秘書といえば、愛○の別名なのでは。

 いやラノベじゃないから、文字通り秘書なんだろうけど。

「そうですか」

「そうですわよ。今までは、規模が小さかったこともあってマコトさんが自由に動いていても問題が表面化しませんでしたが、これからアレスト興業舎の事業が拡大していけば、どうしても舎長代理の秘書が必要になってきます」

 マコトさんの本来の仕事には、あまり関係がないかもしれないですけれどね、とラナエ嬢は付け加えた。

 俺の本来の仕事って、何?

 舎長代理じゃないの?

 違うんだろうな。

 そもそも、俺って身分的にはギルドの臨時職員だし。

 給料だって、そっちから出ているわけで。

 いや、その給料って凄いんだよ。

 額を聞いて、ぶったまげた。

 信じられなかったんでアレナさんに確かめたら、ギルドの臨時職員の給与は一般のギルド職員とは違う体系になっているそうだ。

 しかも、俺は上級職として採用されている。

 高度な専門家を雇うには、それなりの報酬ってところなのかな。

 そこら辺はラノベ的で驚いたけど、まあプロ野球の選手とか、そういう扱いなんだろう。

 一時的に雇って、その間の報酬をかさ上げするわけだ。

 その代わり、ずっと雇って貰える保証はない。

 使えなくなったらすぐに首だ。

 つまり、俺ってまだサラリーマンではなかったということだ。

 一時契約の職人もしくは専門家だな。

 臨時でも、職員というから期待していたんだけどなあ。

 やっぱ定額報酬が続くって、いいよね。

 でも今は、助っ人外国人だ。

 何とかして、まともな企業の正規雇用者になれないもんかな。

 給料は安くてもいいから。

 いや、あまり安ければ困るけど。

「というわけで、本日からマコトさんに秘書をつけることになりました」

 事務室に行くと、アレナさんがそう言って、後ろにいた人を押し出してきた。

 ソラルちゃんではないか。

 君、事務職だったのでは。

「兼任です。というよりは、メインがマコトさんの秘書で、サブが事務班ということになります。

 四六時中同行するわけではありませんが、マコトさんのスケジュール管理などはソラルが行います」

 アレナさんが言うと、ソラルちゃんはぺこりと頭を下げた。

「ソラル・マルトです。よろしくお願いいたします」

 いや知っているから。

 でも手続きなんだろうな。

「マコトです。よろしく」

 何か馬鹿みたいだな。

 でも必要な手続きなんだろう。

 美少女秘書か。

 ラノベには、そういうのはあまりないよね?

 普通、美少女といったら愛人候補(違)だし。

「それからマコトさん、舎長室が出来ましたので、これからはご自由に使ってください」

 俺、舎長代理なんだけど、いいのか。

 聞いてみたら、舎長であるハスィー様はほとんどいないので、代理である俺が使っていいことになっているらしい。

 アレナさんが、俺にキーを渡してくれた。

 鍵を掛けられるのか。

 まあ、そうだよね。

「ちなみに、このキーはソラルはもちろん、アレスト興業舎の主要メンバーは全員持っています」

 そんなの、部屋に鍵をかける必要があるのか?

 顔に出たのか、アレナさんが済まなそうに言った。

「その、ついでですので幹部会議室と併設になりました。

 マコトさんは、あまり舎長室にいないと思われますので」

 ついでって何だよ。

 今の言葉に俺の立場が如実に示されているな。

 アレナさんに案内された部屋は、アレスト興業舎の建物の中二階というか、吹き抜けの場所に二階建ての家が建っているような所にあった。

 ああ、こういうのって時々アニメで出てくるよね。

 企業の倉庫とかの、内部を囲って部屋になっている場所。

 それを二階に作ったらしい。

 無駄に広い倉庫だからできることだな。

 舎長室も無駄に広かった。

 奥の方に立派なデスクがあって、そこが俺の居場所らしい。

 そして、部屋の中央にはソファーがあった。

 なるほど重役会議室、というよりは社長が来客を接待する場所ということか。

 ドラマなんかで時々あるよね。

 使われている所はあまり出てこないけど。

 でも、でかくて広いソファーだった。

 オフィスラブとかも出来そうだ。

 やらないけどな。

 それとは別に、端の方に事務机があって、そこがソラルちゃんのデスクということだった。

 ソラルちゃんは、早速そのデスクに駆け寄ってあちこち調べていた。

 嬉しそうだ。

 そうだよね。会社で自分の机を貰ったら、どんなものでも嬉しいわけで。あ、この話はしたっけ。

 俺も自分のデスクについて、椅子の座り心地を試していると、いつの間にか姿を消していたアレナさんが戻ってきた。

 書類の束を、どさっとデスクの上に置く。

「ではマコトさん、これをお願いします」

 鬼め!

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