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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第八章 俺が盟主?

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7.衝撃の事実?

 寒いのでなるべく野営は避けて進む。

 いや、ホテルとかに泊まれるのは俺やオウルさんたちだけなんだけどね。

 護衛隊や帝国軍の騎兵隊は人数が多すぎて常に野営だ。

 でもあの人たち、全然気にしてなかったりして。

 むしろ野営することで毎朝毎晩バーベキューが食えるし、夕方や早朝には騎馬戦もやれるということで楽しそうだった。

 寒くないの?

「帝国軍部隊は堪えているようでございます。

 もちろんその程度で弱音を吐くような者はおりません。

 むしろ騎馬戦に熱が入っているようで」

 ハマオルさんが報告してくれた。

 帝国は気温が高いからね。

 真冬でもめったに雪なんか降らないらしい。

 そんな環境に慣れていたら堪えるだろう。

「その件にはついては(オウル)から厳命してございます」

 朝練の後、一緒に朝食をとりながらオウルさんが教えてくれた。

「今後、『すべての国と組織の(ミルトバ)連合』が機能することで帝国軍部隊の国外展開も常態化します。

 これまでのようなぬるま湯に浸かった環境でぬくぬくと任務を果たせば良いというものではございません。

 従って帝国軍部隊も寒冷地での軍務に慣れておく必要がある。

 その先達となれと命じてございます」

 なるほど。

 帝国皇太子(オウルさん)なら言いそうだな。

 でもオウルさん、将来的に帝国軍の海外派兵を考えているんですか?

「当然でございます。

 もちろん侵略などではございません。

 主上(マコトさん)が命じるままに動く、魔王対策部隊としてですな」

 つまり国際連合平和維持軍(PKO)か。

 地球だとあれは国際紛争の調停や解決のための活動なんだけど、こっちでは魔王の顕現(自然災害)対策に特化するわけね。

 なるほど。

 ヤジマ財団もそれをやるつもりではあるけど、地道な復旧作業なんかはやはり軍隊とかの方が向いている。

 短期間に統制がとれた大量の兵力を投入するような対応は民間団体では難しい。

 その点、帝国軍は土木工事の専門家(エキスパート)集団だ。

 帝国内だけじゃなくて、必要があれば北方にも派遣されて活動することになると。

「皆さん大変でしょう」

「何の。

 フレスカが言うには、帝国軍(あやつら)はヤジマ食堂(レストラン)の飯が食えるのならば地の果てまで行軍して魔王とでも戦うそうでございます。

 むしろその機会を切望しているそうで」

 さいですか。

 結局は飯か(泣)。

 ヤジマ食堂(レストラン)凄い。

 本当の意味で世界を統一しているのはヤジマ食堂(レストラン)料理人(コックさん)なのかもしれない。

主上(マコトさん)あっての事でございます」

 そうかなあ。

 いや、それはそうかもしれない。

 俺が偉いとか偉大とかじゃなくて。

 どうも俺って存在自体が(キー)というか(かなめ)機械の身体(ネジ)というか、そういうものになっているらしいんだよ。

 (ヤジママコト)がいるからどうこうするべきだとか。

 ヤジマ大公が望んでいるからとか。

 俺が本当は何を考えているとかはもう、あまり関係なくなっているようなのだ。

 そういう存在ってどっかで聞いたことがあるような。

 確か「狂言回し」と言ったっけ。

「違います」

 ユマさんに否定されてしまった。

「我が(あるじ)は自由に何でもなさってよろしいのですよ?

 何をするにも制限はございません。

 我等(しもべ)はただそのお言葉(命令)を淡々と遂行するののみでございます」

「その通りでございます。

 例えば主上(マコトさん)が『帝国を滅ぼせ』とおっしゃるのでしたら(オウル)はすぐに」

 どうして皆さん、そんなにすぐに物騒な方向に飛ぶんですか。

 俺は間違ってもそんなことは言いませんよ。

 軽小説(ラノベ)じゃあるまいし。

 でも厨二病ではあるような気がしてきた。

 俺、仕事先から北聖システムに帰る途中で交通事故にでもあって、今病院で寝てるんじゃないよね?

 植物状態で。

 俺が大公とかになるという荒唐無稽で長い長い夢を見ているという可能性の方が高い気がする。

 でも異世界物の軽小説(ラノベ)で読んだけど、俺はあの「ヒャッハー」とか「俺Tueeee」とかいうの、全然理解出来なかったんだよなあ。

 まあ未成年向けの小説なんだから(サラリーマン)が理解出来なくても別に問題じゃないと思うけど。

 現実の不良とかヤクザとかでもああいうのはあり得ないと思う。

 でも厨二病とやらに患って植物状態になってしまったら。

 あるいはああなるのかもしれない。

 実際になったわけじゃないから判らないけど。

 それでもやはりあれは14歳くらいの年齢じゃなければ無理だと思う。

 その年頃なら変身して悪と戦ったり巨大ロボットに乗ったり出来るらしいし(笑)。

 中学二年生女子なのにやたらに胸があってスタイルがいい美少女とか。

 青髪で。

「我が(あるじ)の世界ではそんなに」

「想像を絶する社会ですな。

 主上(マコトさん)はそのような事を経験なさっておられるからこそ、このような大業を為される事が出来るのでございましょう」

 帝国皇太子(オウルさん)略術の戦将(ユマさん)がまだ斜め上の発言をしているけど、俺に言わせればお二人の方がよほど厨二だよ!

 いや、恐ろしい事にお二人ともその立場に合った実力を持っているんだけど。

 夕食後、泊まったホテルの部屋でちょっと悩んでみた。

 いつもならすぐに寝てしまうんだけど、厨二な事を考えてしまったせいで気になって。

 ちなみに俺たち一行は既にエラ王国に入っている。

 何とかいう領地の領都にある最高のホテルに泊まっているんだよ。

 もっとも俺の部屋が最高というわけではない。

 帝国皇太子と王国王太女が一緒だからね。

 二人には遠慮されたんだが、ここは押し通した。

 俺の部屋はホテルで三番目といったところだけど、それでも十分豪華だった。

 貴族用の部屋であることはもちろんで、ちゃんと従者用の控え室もついている。

 でも実はそんなの関係なくて、今回はホテルごとヤジマ財団が借り切ったからね。

 まあ、そのくらいは当然なわけだ。

 エラ王国側からも役人が同行していて領主に圧力をかけていたし。

 いくら自領では絶対的な支配者だとしても、その自国の王太女(ナンバー2)がいるんだからな。

 領主もどうしようもない。

 俺、いつの間にかそういうのが当たり前になってしまっている事に気がついてしまったわけで。

 これ厨二病じゃね?

 もっとも日本に居た頃に俺に軽小説(ラノベ)やアニメを吹き込んだ奴に言われた事があるんだよ。

 「お前の厨二病の理解は間違っている」と。

 いや、俺はそいつの行動を見て厨二だと思っていたんだけど。

 でもあれは本当の事だったのかもしれないなあ。

 本当の厨二病って今の俺みたいなのかも。

(あるじ)殿」

 ハマオルさんが声を掛けてきた。

「何でしょうか」

「お悩みのようでございますな」

 まあ、魔素翻訳でバレバレだっただろうね。

 ハマオルさんは俺の護衛として視界から外れている時でも常に俺に気を配っている。

 だから俺が大声で悩みを叫んだも同然なら気づかないはずがないのだ。

 つくづく忌々しいぜ。

「悩みというか、俺の存在意義(レゾンデートル)がちょっと」

(あるじ)殿はまだお若い。

 悩まれて当然でございます」

 意外な事にハマオルさんが俺に同調するような口調で言い出した。

「そうでしょうか」

「むしろ、今までそのようなお悩みを口にされなかった事に驚嘆しております。

 わずか数年、しかもたったお一人で偉人や英雄の集団が生涯をかけて行うような偉業を成し遂げられたのでございますから」

 さようで。

 でもそれは俺がやったんじゃなくて。

 まあいいか。

 今さら言ってもしょうがない。

 ソラージュ国王(ルディン)陛下とかエラ国王(ルミト)陛下とかにも散々言われているからな。

 俺は触媒(トリガー)だ。

 みんなが力を発揮するための踏み台だと思えばいいわけか。

 なるほど。

 これは「ヒャッハー」や「俺Tueee」とは全然違う方法だよね。

「ありがとうございます。

 ハマオルさん。

 心が晴れました」

「それはようございました。

 もっとも(あるじ)殿には既にお判りになっておられたと愚考します。

 ただ心に押し込めてしまっておられただけで」

「そうかもしれませんね」

 ハマオルさん、いい人だなあ。

 こういう大人の人がついていてくれるから、俺はやっていけるんだよな。

「それでは。

 ごゆっくり」

 ハマオルさんが一礼して去ると、俺は再びソファーに沈み込んだ。

 いや、ハマオルさんの言葉に何かひっかかると思って考えたら気づいてしまったんだよ。

 「まだお若い」と。

 確かにハマオルさんとかに比べたら俺はまだ若いよね。

 シルさんやロッドさんも俺より年上だ。

 オウルさんも。

 でもそんなのは関係ない。

 無意識で考えないようにしていた事実がのしかかってくる。

 俺、転移してからもう7年くらい過ぎたんじゃない?

 浪人して留年したから新卒入社と言っても歳食っていたんだよね。

 つまり。

 俺ってもう三十路じゃねぇか!(泣)

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