4.第一回国連総会?
ヤジマ財団の気象予報部門の報告によればいよいよ寒波が襲ってくるらしい。
そこで予定を繰り上げて「すべての国と組織の連合」の第一回総会が円形劇場で開催された。
寒いんだよ!
代表者の方々も着込めるだけ着込んで震えながら座っている。
野外だからな。
トルヌ皇国の司会者が寒さにもめげずに声高に開会を宣言。
続いて会場を提供したトルヌ皇国の皇王陛下が議題を読み上げた。
第一号議題として「すべての国と組織の連合」の命名。
第二号は設立に伴う規定の承認だ。
この辺りは事前にお配りした予稿に書いてある。
第三号議題で参加国および組織が読み上げられて承認される。
第四号は組織運営のための規定で、暫定的にヤジマ財団に委託された。
第五号議題で参加各国や組織は代表者を送ることが決められる。
これでおしまい(笑)。
今回は「国連」をでっち上げるだけだ。
あまり細かい所を詰めようとすると時間がいくらあっても足りなくなるからな。
冬が来てしまう。
春になったら第二回総会を開催する事を決定して、第一回総会は閉会した。
さて帰らないと。
ヤジマ商会で集めた送迎用の馬車が北方諸国に向けて旅立って行く。
新型馬車は数が限られるため、まずは近場の国へ代表を送り届けて戻ってくる予定だ。
遠地の国は後回しになる。
俺たちは最後だ。
北方諸国の代表が優先されるのは当然で、列強諸国が乗る馬車は旅だったら帰ってこないからね。
ちなみにララエ公国の影の代表たるユラン公子は自前の馬車で帰っていった。
アレサ公女、いやアレサ近衛騎士は残ったけど。
「茶番は終わりました。
私はマコトさんと一緒にセルリユに戻ります」
さいですか。
それがララエの代表を引き受けた条件だったらしい。
大公会議もまあいいか、と了承したそうだ。
ララエ公国はアレサ公女がいなくても別に問題ないからね。
でもアレサさんはヤジマ大公家近衛騎士になってしまったから今まで通りにはいかない気がするんだが。
「構いません。
ララエに戻ってお飾りになるよりはマシです」
まあそうか。
ララエ公国の公女でありながらソラージュの爵位を持っているような人材はいくらでも使い道がありそうだ。
どっかに投入されて遣い潰されるのがオチか。
「それよりセルリユ興業舎の仕事は大丈夫なの?
休職中なのでは」
「問題ありません。
その辺りはユマ殿と交渉済みです」
アレサ公女も成長していた。
色々と荒波に揉まれたからな。
今回の件はむしろチャンスだったそうだ。
ララエの公女で狼騎士隊の騎手というだけだと大公会議が何かさせようとしたら逆らいようがない。
でもヤジマ大公家近衛騎士なら結構自由が利く。
ソラージュのヤジマ大公が後ろ盾だと言い張れるからな。
しかもララエの代表を引き受ける事で大公会議に貸しを作った上に、ユマさんにも希望を言えるようになったとか。
「すると?」
「セルリユ興業舎からヤジマ財団に出向する形になります。
調査隊の一員として動く予定です」
つまりマコトさんの直卒ですね、とアレサ近衛騎士。
何とまあ。
心配することはなかったね。
フクロオオカミの相棒もいるらしいし、既に独立独歩でやっていけそうだ。
収入面でも近衛騎士の俸給があれば、ただそれだけで末端貴族レベルの生活が出来る。
いい人生だなあ。
変わりたいくらいだ。
「私は嫌です。
マコトさんみたいに世界を背負って立つような覚悟も能力もありません。
私は一介の騎士がお似合いです」
いや、俺だってそんな覚悟も能力もないよ。
でも昔読んだSFで主人公が言っていたんだよね。
確か「すべての責任を背負ってから忘れるんだ」とかだった。
忘れてしまえばいいのだ。
まあ、無責任ではあるんだけど、俺の場合はユマさんを筆頭に出来る人が集団でついていてくれるから。
案山子やっていれば何とかなるでしょう。
ていうかサラリーマンにはそれ以上は無理。
あとはよろしく(泣)。
そんなわけで俺たちは最後までトルヌ皇国に留まって、去って行く北方諸国の代表団を見送った。
オウルさんたちは断っても俺についてくるだろうし、ルリシア王太女殿下とロロニア筆頭女官は途中まで俺たちと同行する予定だ。
トルヌ皇国から陸路でソラージュに帰ろうとすると、どうしてもエラを通ることになるからね。
ルリシア殿下たちは王都エリンサに戻ってとりあえずルミト陛下に成果を報告することになる。
その時に正式に王太女に登極させられるらしい。
本国の貴族院とかでルリシア王太女は承認されたんだけど、まだ儀式をやってないから今は仮の身分だということだった。
いいのか?
「勅任状が届いていますし、ご身分は正式なものでございます。
エラ国内でのお披露目が終わっていないというだけですね」
近衛騎士の叙任みたいなものか。
俺はソラージュの辺境であるアレスト市でユマ・ララネル公爵名代に叙任されたんだけど、ソラージュ王政府から承認? されたのは王都セルリユに行ってからだったからね。
もちろんそれ以前から近衛騎士として扱われていたし、身分も保障されていた。
「でも国内で披露する前に国際会議で言っちゃって良かったの?」
「時間的に間に合わなかったということになるそうです。
今回の「すべての国と組織の連合」の結成式にエラ王国代表として出席するためには王太女のご身分が必要で、正式な儀式を行っている余裕がなかったということで」
色々考えるなあ。
まあ別に良いけど。
ルリシア殿下はエラ王宮で正式に王太女に登極すれば、もはやフラフラ出歩く訳にはいかなくなりそうだな。
ロロニア嬢も筆頭女官として王宮を仕切ることになるかもしれない。
ただの侍女から宮廷女官のナンバー2に昇格か。
凄い出世だけど、本人は露骨に嫌がっていたんだよなあ。
「ロロニアは大丈夫です」
ユマさんが笑いながら言った。
「そうなの?」
「あれは道化師でございます。
ルミト陛下相手ならともかく、エラ宮廷ごときに後れを取るほど甘いモノではございません」
略術の戦将にそこまで言わせるんだからそうなのか。
まあいいや。
よく考えてみたら俺に関係ないもんな。
俺は早くヤジマ屋敷に帰って嫁や子供達に会いたいだけだ。
最後まで残っていた北方諸国の代表団が帰国の途につくのを見送った後、俺はトルヌ皇国皇王陛下の謁見に臨んだ。
いや呼び出されたんだよ。
教団からも命令が出ていたみたいで逆らえなかった。
ユマさんの同席も不可らしい。
ハマオルさんとラウル嬢だけを伴ってトルヌ皇国の仮宮になっている建物に行く。
もちろんお忍びだ。
何か俺、トルヌでは救世主だという評価が定着してしまったらしくて見つかったら人が殺到してくるんだよ。
それどころか俺たちが滞在している屋敷の前に、いつの間にか祭壇が作られていて毎日お供え物が並んでいたりして。
俺は仏か!
ちなみにそのお供え物は食材がほとんどなので、警備の人が毒味と称して摘まんだ後にヤジマ食堂に送られているらしい。
今のところ毒は見つかっていないそうだ。
ヤジマ食堂の派遣隊では誰かが茶目っ気を出したらしく、届いた食材を利用してちょっとしたお菓子などを作り、護衛隊や帝国軍部隊に配っているという。
受け取った人たちはそれをヤジマ大公からの落雁扱いして有り難がり、時々「万歳!」とか「万歳!」の声が響いてくる。
更にはヤジマ財団の人たちがその一部をトルヌ皇国の孤児院みたいな所に配ったもんだからますます救世主扱いが酷くなっているという話だった。
余計な事を!
いや、もういいです。
勝手にして下さい。
でもそのせいもあって、トルヌ皇国の仮宮では俺に出会った人たちが全員片膝を突くもんだから大変だった。
しかも通り過ぎるまでは頭を垂れて俺を見ないようにしている。
俺は見たら目が潰れる邪神か何かか?
「こちらでございます」
唯一片膝を突かない高官らしい人に案内されて奥に進み、とあるドアを開けるとその向こうにまたドアがあった。
このパターンか。
高官の人がその場で片膝を突いてしまったので、俺はしょうがなく入る。
ハマオルさんが前を警戒してくれているし、ラウネ嬢は俺の背中を守ってくれているから大丈夫だよね?
いや、ここで誰かが俺を襲ったらトルヌは本日中に滅ぶだろうけど。
「よく来てくれましたね。
マコト」
ドアを抜けた先の部屋で待っていたのはラスボス、じゃなくてラヤ様だった。
それからトルヌ皇国皇王陛下。
それはいいんだけどセレイナさん、なんで貴方まで片膝突いているんですか?




