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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第八章 俺が盟主?

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2.新生ミルトバ連合?

 壇上のユマさんはしばらく待ってから手を上げた。

 拍手が沸き起こる。

 ユマさんが手を降ろすと潮が引くように拍手が収まっていった。

 指揮者(コンダクター)か。

「ありがとうございます。

 多数のご賛成を持ちまして、ここに『すべての国と組織の(ミルトバ)連合』の設立を宣言させて頂きます」

 再びの拍手。

 これでユマさんは歴史に残ったな。

 「略術の戦将」が世界を相手に勝利を刻んだ瞬間だ。

 いいのかねえ。

「当然でございます」

 オウルさんが立ったまま言った。

「ご覧下さい。

 すべての者共が主上(マコトさん)に敬意を表しております」

 何それ、と言いかけて気がついた。

 みんな立っているのに俺だけ座ったままだよ!

 慌てて立ち上がると拍手が一層大きくなった。

 何か皆さん、俺の方に向けて手を叩いているんですけど?

 ユマさんも手を叩いている。

 まずい。

 俺は頭を下げてから座った。

 拍手はしばらく続いた後、静かに引いていった。

 ユマさんが壇上を降りる。

 するとトルヌ皇国の官僚らしい人が演台に上がって言った。

「これで国際(ミルトバ)連合の設立準備総会を終了させて頂きます。

 ご臨席の皆様、ありがとうございました。

 近日中に国際(ミルトバ)連合の第一回総会および祝賀会を開催致しますので、どなた様もご参加下さるようお願い申し上げます」

 トルヌも必死だな。

 何とか存在感を出そうとしているみたいだけど、聴衆の関心は既に完全にヤジマ財団に移っている。

 というよりはユマさんか。

 今回の件でユマさんは完全に俺の代行として認められたわけね。

「ユマ殿の本意ではないでしょうが、これもお役目でございます」

 俺の隣に腰を降ろしたオウルさんが言った。

「我等はあくまで主上(マコトさん)の従者でしかありません。

 代行、いえ名代を務められるのは略術の戦将(ユマ殿)しかいないでしょう」

 そうなのか。

 公的なヤジマ大公()の名代はラナエ嬢なんだけどね。

 もっとも名前だけとも言える。

 あれはラナエ嬢がヤジマ商会会長代理としてソラージュ経済界に対するための権威付けだからな。

 特に何をするわけでもないんだけど、ヤジマ大公家の看板を背負っていると見做されることでラナエ嬢の言葉にとてつもない重みが加わる。

 実際、ラナエ嬢が会長代理になってからヤジマ商会関係ではまったくトラブルがないらしいし。

 例え貴族だとしたって、たかが商人が大公名代に文句言えるはずがないでしょう。

(あるじ)殿。

 そろそろ移動をお願いします」

 ハマオルさんが囁いてきた。

 そうか。

 このままだと俺の所に皆さんが殺到してきてしまいそうだ。

 いつの間にか野生動物護衛(イヌネコ)に加えて屈強な警備の人たちが俺を取り巻いている。

 周りが見えない(笑)。

「判りました」

 俺が立ち上がると当然のようにオウルさんが俺の前に立った。

 帝国皇太子に護衛される王国の大公。

 そんな変な設定の軽小説(ラノベ)は駄目だ。

 間違いなく売れない(泣)。

「こちらへ」

 誘導に従って通路を進むとルリシア殿下やアレサさんたちが合流してきた。

 もともと近くに固まって座っていたからね。

 エラやララエの護衛も加わって大集団となって進む。

 助かった。

 ユマさんがいないので俺の隣にいるラウネ嬢に聞いてみる。

「これからどうするの?」

「本日はこのまま宿舎に戻ると承っております。

 その後に報告会が」

「そうか。

 ありがとう」

 ラウネ嬢が頭を下げた。

 帝国騎士(ライヒスリッター)はある意味万能の従者だからな。

 オウルさんには悪いけど、帝国皇太子の仕事があるオウルさんより俺の身辺には詳しい。

「構いませぬよ。

 従者にもそれぞれお役目がございます。

 ラウネ、ご苦労であった」

「ありがたき幸せ」

 ラウネ嬢の返事が違う。

 この場合、自国の皇太子殿下だから「お心のままに」じゃないの?

「私はヤジマ皇子殿下の随伴騎士でございますれば。

 今現在の私がお仕えするのは御身ただ一人でございます」

 徹底しているな。

 任務のためなら身分とか国とか関係ないのか。

 近衛騎士が「自由」なのと同じくらい、帝国騎士(ライヒスリッター)もやりたい放題なんだろうな。

 まあいい。

 俺たちは一団となって円形劇場を脱出し、待機していた馬車に乗り込んでその場を去った。

 その後、会議室にしている大部屋に集まった列強諸国代表の前でユマさんから報告があった。

「『すべての国と組織の連合』の設立が完了致しました。

 運営についてはヤジマ財団がもともとのミルトバ連盟組織の事務局を吸収することで継続して行う予定です。

 もちろんヤジマ財団の担当部署(チーム)が梃子入れを行います」

 完全に乗っ取りだな。

 しかも一度ミルトバ連盟を解散してから再結成しているので新参者とか古参といった区別を無くしてしまっている。

 さすが。

「『すべての国と組織の(ミルトバ)連合』と聞こえたのですが」

 レネ第一王女殿下(ソラージュ代表)が聞いてきた。

 なかなか闊達な性格のようだ。

 俺、あまりよく知らないんだよね。

 活動的な方だとは聞いている。

 確かソラージュ王家の夕食か何かに呼びつけられて紹介された時に、強引にヤジマ商会の話題にもっていかれて「ご招待」させられたっけ。

 そういう意味ではソラージュの代表に相応しいかもしれない。

「『ミルトバ』の名を残しました。

 我が(あるじ)のご希望でもございますし、旧ミルトバ連盟の方々の感情にも配慮することで移行をスムーズにしたいと」

 いや俺の希望って何?

 ああ、全然覚えてない俺の演説か。

 どうでもいいんだけどね。

 でも確かに「国連」よりは元ミルトバ連盟(北方諸国)の方々にはウケはいいかもしれない。

「ちなみに新組織の通称は『国連』になる予定でございます」

 ユマさんが爽やかに笑いながら言った。

「『ミルトバ』は古代語で『すべての者をあまねく統合する』という意味でございますから、新組織の名称に相応しいかと」

 世界帝国(ミルトバ)か。

 ユマさん、もはや隠そうともしてないな(泣)。

 ヤジマ財団が世界を統一してしまった。

 経済帝国ではあるんだけど、実は軍事力も物凄いものがある。

 少なくとも(トリ)(くじら)は圧倒的だ。

 陸上だって、野生動物が本気になったら人類なんかすぐ滅ぶぞ。

 何てこった。

 俺の役目ってそういった事態が起こらないように平穏を維持することなのかも。

主上(マコトさん)君臨さ(おら)れる限り、そのような事態になることはありますまい」

 オウルさんが上機嫌で言った。

「我等従者が御身をお守り致します。

 ご安心あれ」

 さいですか。

 それは安心です(泣)。

「用意が調い次第、すべての国と組織の(ミルトバ)連合の総会を開催致します。

 その場で国際魔王対策組織(NPO)の認定を行う予定でございます」

 ユマさんが言うのでちょっと聞いてみた。

「北方諸国の代表者の皆さんには説明済みですか?」

「いえ。

 総会で説明致したいと」

 それはまずいのでは。

 ここまで結構強引な手を使ってきているからね。

 いきなり頭から押しつけたら反感を買いかねない。

「ですが」

 ユマさんが珍しく反論しかけたけど、俺は被せるように言った。

「俺が説明します。

 納得して貰ってから総会を開きましょう」

 ここは俺が泥を被った方がいい。

「……それでは早速説明会の準備を」

 それじゃ駄目なんだよ。

 ユマさんも判ってはいるんだろうけどね。

 俺の負担が大きすぎるとか思ったんだろうな。

 いいんだよ。

 俺は案山子だから突っ立っているくらいの事はさせてくれ。

「代表の皆さんのご予定を伺って個別に予定(スケジュール)を組んで下さい。

 あまり詰めないで。

 時間はたっぷりあると思いますから」

 実際、俺は(ニート)だからね。

 いくらでも時間をかけられる。

 いや、あまり長いと冬になってしまうからいくらでもは無理か。

 むしろ問題は北方諸国の代表の方々だな。

 急いで帰国しなきゃならない人もいるかもしれないし。

 それに、全員の説明が終わらないと総会が開けないからトルヌで足止めを食ってしまう。

「もし長引くようだったら最初の総会はもっと後でいいと思う。

 差し迫った魔王の顕現(災害)も予見されてないみたいだし」

 そう言いながらユマさんを見ると、渋々頷いてくれた。

 すまんユマさん。

 でもここまで来て躓きたくはないんだよ。

「……お心のままに」

 ユマさんが言って頭を下げた。

 良かった。

 ていうか悪かった。

「せっかく計画してくれたのにすまない」

「とんでもございません。

 私が我が(あるじ)のお心を考慮出来なかっただけのことでございます」

 そう言いながら席を離れて俺の前まで歩むと片膝を突くユマさん。

「改めて感服致しました。

 北方諸国の方々すべてにまでお心を配る御方でございました。

 我が(あるじ)

 ご命令をただちに遂行させて頂きます」

 すると部屋にいる人たちが一斉に立ち上がった。

 全員が席を離れて片膝を突く。

「「「お心のままに」」」

 止めて(泣)。

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