24.決定?
晩餐会は盛況のうちに終わったけど、その後も大小の会合や会談が続いた。
トルヌ皇国がヤジマ財団に委託して「サロン」を開設し、ミルトバ連盟加入者が自由に使えるようにしたんだよ。
ダブルブッキングしないように多数の施設を作る念の入れようだ。
無料だとさすがにアレなのでリーズナブルな料金で貸し出したところ、北方諸国はそれぞれ最低一度は自国が主催するサロンを開いていた。
大抵は立食パーティ形式で、軽食をつまみながら自由に交流できるというものだ。
参加は自由で、各国の代表者たちだけでなく随行員にも門を開いた。
といってもやはり王族と同席したいという官僚はあまりいなくて、そういう人たちは随行員向けの会で交流しているらしい。
俺はユマさんに言って護衛や騎兵隊などの従者向けの会場も作って貰った。
非番の時に気楽に軽食やお茶を楽しめて交流出来る場だ。
こっちはヤジマ財団主催で常時開設、参加は自由にした。
偉い人たちが楽しんでいるのに下々の者は待機していろでは気分が悪いだろうからね。
北方諸国も代表や随行員以外にそれなりの護衛や配下を連れてきていたため、むしろこっちの方が活況を呈していた。
違った国の護衛や随行員と話すのはとても面白くてためになるらしい。
もちろん喧嘩とかが起こらないようにヤジマ財団とトルヌ皇国の警備隊が目を光らせている。
それでも時々殴り合いになるようだが、終わったらケロッとして話していたりして。
帝国軍が持ち込んだらしく、いつの間にか意見の相違の決着は騎馬戦でつけようということになって、急遽作られた演習場はいつも混み合っていた。
「私が我が主との距離を感じるのはこういう時でございます」
ユマさんがため息をついた。
「すべての者共に対して平等に気を配る。
それこそが本当の『愛』なのでございましょうね」
大袈裟な(笑)。
俺がもともと庶民だから気がついただけですよ。
「今や世界を配下に置く御方でございます。
なのにそのお心は広く深い。
このオウル、主上に帰依しとうございます」
何か変な事になっているみたいだけど無視。
それよりサロンは大丈夫なんですか?
結局の所、北方諸国の王族が納得しないとコケるのでは。
「順調でございます。
もちろん北方諸国の統治者の方々には温度差がございますが、そこは各個撃破で」
言う事がいちいち物騒なんだよ!
でも大丈夫みたいで安心した。
サロンを開いても客が来てくれなければ何にもならないからね。
この場合の客って他国の貴顕なんだけど。
客を呼ぶには目玉が必要だ。
というわけで 列強諸国の代表にゲスト依頼が殺到していた。
オウルさんたちは積極的にそれに応じて活動しているらしかった。
よくやるなあ。
ところで俺はいいの?
「呼ばれたいのですか?」
「いえ結構です。
ていうか嫌です」
面倒くさい。
「それがよろしいでしょう。
この段階で我が主がサロンに現れますと面会希望者が殺到して収集がつかなくなる恐れがございます。
我が主におかれましては今しばらくは自重していただければ」
言われなくてもそうします。
まあ、確かに俺が出ていって何か変な事をしゃべったらせっかく順調に進んでいる計画が台無しになるかもしれないからね。
ていうか俺、ユマさんの作戦を知らないし。
大まかな方向は判るんだけど、仕掛けがさっぱりなんだよ。
多分ユマさんの頭の中には北方諸国の詳細な情報が詰まっているはずだ。
その一国一国をどうやれば破綻なく説得出来るかとか、効率の良い国連の作り方なんかも既に出来上がっているんだろうな。
オウルさんたちはそれぞれ依頼に従って動いていると。
列強諸国の最上位の貴顕を思いのままに動かす略術の戦将。
悪の組織に入らなくて助かった。
ていうか自分で作ってしまったのか。
ヤジマ財団という道具を。
そして首領が俺。
たまんねぇっス。
「ちょっと寝てきます」
「お心のままに」
そういうわけで俺は自分の部屋に逃げ帰ってベッドに潜り込むのだった。
いや美女とかいないよ?
強いて言えばラウネ嬢が次の間に控えてくれているはずだが無関係だ。
考えちゃ駄目だ。
魔素翻訳で筒抜けになってしまう。
だってラウネ嬢、万一俺が誘ったりしたら平気で服を脱ぎかねないんだもん(泣)。
軽小説の主人公がああなる理由が判った。
いや俺は違うから。
ヒーローとか勇者とかじゃなくてサラリーマンだから。
そうやって悶々と過ごしている間にも情勢はどんどん変わっているようだった。
ていうかもともと素地は出来ていたんだよね。
ミルトバ連盟は北方諸国が同意して結成された組織だ。
なぜ同意したのかといえば、当然だけど必要だと感じたからなんだよ。
北方諸国の王様たちは小国が故に状況判断と生き残り能力に優れている。
その人たちが名目上とはいえ団結する事を選んだ。
危機感があったんだろうね。
お題目的には南方の列強への対抗策ということになっていても、実際は違ったんじゃないかな。
だから今回の件は北方諸国にとっても渡りに船だったのかもしれない。
何せ南方の諸国は大国だ。
国力が桁違いなんだよ。
つまり金があって人がいる。
北方諸国が余裕がなくて動けないような場合も楽々と実行出来てしまうのだ。
ミルトバ連盟の例会を開くことすら苦労していた北方諸国とは大違いだ。
「概ね、同意を得られました」
ある日の夕食でユマさんが何げなく報告してきた。
「新しい組織にはミルトバ連盟の構成国がそのまま横滑りで参加します。
列強諸国も同時に。
そのための総会を開催して議決します」
皆様がトルヌ皇国にいる間に詳細を詰めます、とユマさんは淡々と言った。
凄い。
国連を作ったりするのにそんなに簡単でいいのか。
普通は各国国内で議論したりする必要があるのでは。
「今回は北方諸国の代表者がそのまま統治者でございますので。
そうでない代表もいらっしゃいましたが、ヤジマ航空警備の急送便で状況説明をして頂いた所、いずれも快諾を得られたとのことでございます」
列強については既に合意が取れている、というよりは我が主の指示がございますれば、とユマさん。
そうか。
そこまで計算していたのか。
確かに国王がここにいるんだから国に戻って議論する必要ってないよね。
民主主義とは違うのだ。
北方諸国はフラビアを除いてはすべて封建制だから、国王が決めたと言えばそれで通ってしまう。
後で色々あるかもしれないけど、とりあえずサラリーマン的な「持ち帰って検討させて頂きます」はあり得ないんだよ。
なるほど。
だからヤジマ財団は経費をすべて持つと。
凄まじい戦略だ。
まあ、金があるから出来るんだけど(笑)。
「主上が言われる通り、恐るべき作戦計画でございます。
どこにも無理がない。
川の流れのようにスムーズに目的を達成出来ます」
オウルさんが畏れ入ったという態度で唸った。
元帝国軍大佐として軍事作戦方面から理解したんだろうな。
確かにユマさんが参謀だったらどんな戦争でも勝てる。
というよりは戦争にならないうちに相手は降伏しているかもしれない。
「それもすべて皆様のご協力があればこそでございます。
改めてお礼を申し上げます」
ユマさんが頭を下げた。
同席しているオウルさん、ルリシア殿下、アレサさんなどが慌てて手を振る。
「私たちは何も」
「ご命令通りにしただけです」
「そうだ。
すべてユマ殿の手柄だ。
もっとも」
オウルさんは俺の方を向いて頭を下げた。
「これも主上のご威光があってこその成果と言えます。
実際、私などはサロンでの会談では相手を説得する必要がまるでございませんでした。
大抵の場合、北方諸国の方々が気にしておられるのは主上の意向だけで」
何だって?
俺は関係ないのでは。
「そんなことありません!
私もお目にかかった方々全員からマコトさんの事を聞かれました。
私が全部マコトさんのご命令だとお伝えすると、もうそれだけでご安心になさって」
「そうですね。
私も何度も聞かれました。
マコトさんに謁見して頂きたいのでご都合を教えて頂けないかと」
ルリシアさんとアレサさん、何を言ってるの!
その「謁見」ってどういう意味?
お相手って北方諸国の国王陛下でしょう?
「我が主の謁見はミルトバ連盟の総会後になりますね。
近日中です」
ユマさんがにっこり笑った。
「総会でミルトバ連盟の発展的解消を宣言致します。
国際連合の立ち上げです。
我が主」
おめでとうございます、とユマさん。
パネェ。




