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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第七章 俺が英雄?

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22.晩餐会?

 数日後、トルヌ皇国皇王陛下(セレイナさん)主催の晩餐会が開催された。

 日本の庶民にはあまり馴染みがないけど、時々テレビに出てくるあれだ。

 ノーベル賞授賞式とか国賓の歓迎会とか。

 要するにでかい会場にずらっとテーブルを並べて、参加者が一堂に会して一緒に飯を食うわけだ。

 活発な会話は推奨されない。

 座っているので両隣と前の人としか話せないからね。

 礼儀(マナー)を守って控えめに。

 だからあまり地位や身分の差が出ないように席の位置は慎重に決められるらしい。

 基本的には上座ほど身分が高く、主催者が一番前になる。

 俺もよく知らないんだけど、今回はちょっと変則的な座席配置だということだった。

 まず、出席者が貴顕だらけだ。

 それも国王とか王太子級の最高位身分がほとんどだという。

 小国でも国王は国王だからな。

 そういう場合は国力や国の格で序列を決めるんだけど、ミルトバ連盟の参加国は五十歩百歩の国ばかりで、下手に序列をつけると角が立ちかねないらしい。

 だったらいっそ立食式のパーティにしてしまえという意見も出たらしいが、さすがにそれは無理だ。

 北方諸国の国王陛下や王妃殿下の中には高齢者もいらっしゃるからね。

 中には喜寿? のお祝いを兼ねて海外旅行(違)に来たという方もおられるそうで、ここは着座しかない。

 それでどうしたのかというと日本の結婚披露宴形式になった。

 主催者や花嫁花婿に親なんかが壁際のテーブルに着き、出席者の席は円形テーブルになる。

 もちろん披露宴じゃないから花嫁とかはいないけど、主催者ということでトルヌ皇国皇王(セレイナさん)が壁際のテーブルに着座する。

 そしてオブザーバーである列強の代表者が一列に並ぶ形だ。

 これだとトルヌ皇国皇王(セレイナさん)がミルトバ連盟の盟主みたいでちょっと角が立ちそうだったけど、一番端の世話役席? に座ることで華麗に回避した。

 さすがは皇王陛下(セレイナさん)

 人の顔色を読むことで世間を渡ってきた達人だからな。

 そういうわけで、日本の晩餐会で言えば首相とか来賓の外国高官が座るような場所に俺たち(オブザーバー)が並んだんだけど。

 問題はなぜか俺がその中央に座らされた事だった。

 長いテーブルに横一列に並んでいる中央が俺だ。

 俺の両側は帝国皇太子殿下(オウルさん)エラ王国王太女殿下(ルリシアさん)

 その両向こうにソラージュ王国第一王女殿下(レネ様)とララエ公国公女殿下(アレサさん)

 あの、俺はたかが大公なんですが(泣)。

 それが何で皇太子や王太女より上座みたいな席になっているんですか?

「お気になさらず。

 単なる順番でございます」

 いや気になるよ!

 だが俺以外は誰も気にしていなかった。

 みんな当然だという顔付きだ。

 北方諸国の王様たちも平然としている。

 身分はどうなった?

「我等はいわば来賓でございます。

 トルヌ皇国皇王陛下や北方諸国の方々は、南方から来たオブザーバーをもてなす立場にいると考えれば」

 オウルさんがしれっと言った。

 それはそうかもしれないけど、俺が真ん中にいる理由にはならないよね?

 不安だ。

 こんな目立つ席で何か礼儀(マナー)上致命的な失敗でもしてしまったらヤバいのでは。

 頼りのユマさんたちの姿は見えなかった。

 それはそうだ。

 だってここにいるのは国の代表ばっかなんだよ?

 今まであまり気にしてなかったけど、今回のミルトバ連盟臨時総会に代表として参加してきた人たちは北方諸国の役人とかじゃなかった。

 全員が国王か王太子、あるいは最低でも王族らしいのだ。

 普段は政府の高官とかが来るそうなんだけど、今回に限って国家の支配者階級(トップ)ばかりになっている。

「当然です。

 オブザーバーとはいえ帝国皇太子(オウル様)がいらっしゃるわけですから。

 官僚などを送ったら恥になります。

 国の格から言って国王陛下でもどうかというくらいで」

 意外にも逆隣に座っているルリシア殿下が教えてくれた。

 天然に見えてもさすがは王族。

 いや王太女殿下だったっけ。

 自分も王太女だという事を言い忘れているけど。

「と、ロロが言ってました」

 さいですか。

 別にいいですけど。

 もう礼儀(マナー)も何もあったもんじゃないな。

 オウルさんも愉快そうに笑っている。

 この人はこの人で礼儀(マナー)なんかどうでもいいと平気で言うからな。

 俺の従者を自称しているし。

 ていうか俺も成り行きで認めてしまったから、今や公認だ。

 困るんだよなあ。

 だって従者が帝国皇太子って、俺の身分は何だよ。

 いや帝国で言うと皇子なんだけど。

 それでもおかしいでしょう。

「お気になさらず。

 建前というものはどこでもついて回るものでございますれば」

 オウルさんと話していてもらちが開かないんだけれど、席の関係で俺は両隣としか話せないからな。

 しょうがなく雑談していたら突然ファンファーレが響き渡った。

 何事?

「皆様。

 長らくお待たせ致しました。

 これよりミルトバ連盟臨時総会晩餐会を始めさせて頂きます」

 誰かの声が響く。

 反響が凄い。

 言い忘れていたけど、俺たちが座っているのは巨大な部屋だ。

 もともとはトルヌ皇宮の一部で、荒れ果てていたのを突貫工事で改修したらしい。

 総会で使われなかったのは屋根があるから、じゃなくて密閉されていて暗いからだ。

 俺も最初は驚いたんだけど、こっちの世界での晩餐会って大抵は暗いんだよ。

 映画なんかでは中世ヨーロッパでも煌々と灯りが灯って明るいけどあれは演出だ。

 何せ電気なんかないからね。

 油を燃やすランプとか蝋燭がせいぜいだ。

 こっちの世界でもそれは同じで、さすがに蝋燭じゃなくてもうちょっと明るい灯油ランプみたいな照明が使われているんだけど、マジで光量が不足している。

 シャンデリアってその乏しい光量を鏡やガラスで乱反射させて少しでも光度を上げようという涙ぐましい努力の結果だったりして。

 こっちの世界で晩餐会とか舞踏会に出席して初めて知ったんだよね。

 巨大なシャンデリアが存在する理由はそれなのだ。

 でも暗い。

 天井や壁だけじゃなくてテーブルの上にも灯りが置いてあるんだけど、それでも薄暗がりがせいぜいだ。

 日本で言うと開店前で灯りが消えているレストランとかそんな状態なんだよ。

 これでは総会なんかやっても遠くの人はよく見えないからな。

 だから日中に屋外でやったわけで。

 でも晩餐会はそうはいかない。

 野外パーティは無理だ。

 昼間にやったらランチになってしまう。

 夜は暗い上に寒くて駄目だ。

 というわけで密閉した食堂になったということだけど。

 近くの人としか話せないのは、単純に暗くて遠くが見えないという立派な理由があったりして。

 見えないけど司会(アナウンス)の人が控えると、端の席でトルヌ皇国皇王陛下(セレイナさん)が立ち上がった。

 盛大なる拍手。

 堂々とした印象(イメージ)だと思ったら、ラナエ嬢もかくやと思える色々と装飾がついたドレスを着ている。

 祭祀なのにいいのか?

 そんなことを考えているとトルヌ皇国皇王陛下(セレイナさん)が話し始めた。

 まずはミルトバ連盟臨時総会の開催の成功のお祝い。

 出席者への感謝。

 そして帝国皇太子(オウルさん)を始めとする列強諸国の代表への参加のお礼。

 北方諸国の面子を刺激しないように慎重に言葉を選んでいるけど、全体としてはミルトバ連盟を代表して演説しているな。

 まあこの晩餐会の主催者なんだからいいんだけど。

 ちょっと心配になって前列にいる参加者の人たちの表情を見てみたけど、特に不快な顔は見当たらなかった。

 その程度は許してやるか、ということか。

「むしろこれから何が起こるかが気になってセレイナ殿の話を聞き流しておられるようですな」

 オウルさんが不意に小声で語りかけてきた。

 俺も囁き返す。

「というと?」

「これだけの晩餐会は経費面から言ってトルヌ主催などあり得ないということでございます。

 主上(マコトさん)の意向であることは全員が理解しております」

 いや、俺は何も考えてないけど(泣)。

 判ってます。

 俺の代わりに考えて実行している人がいるってことですよね。

「ご安心下さい。

 この程度の事で主上(マコトさん)のお手を煩わせる必要はございません。

 我等で片付けてご覧に入れます」

 さいですか。

 お手柔らかにね。

 俺は引っ込んでますから。

 まあ、何が起こるのか大体は判っているんだけど。

 ていうか今までの仕掛けは全部、この晩餐会を開くためにあったと思っていい。

 呆れるくらい遠回りな作戦だ。

 でも多分、これが最短距離なんだろうな。

「それでは遠路参列して頂いた帝国皇太子オウル・ホルム・セレ・ホルム殿下よりご挨拶を頂きます」

 いつの間にかトルヌ皇国皇王陛下(セレイナさん)の演説が終わっていた。

 司会(アナウンス)の人の紹介に参加者から拍手が起こる。

 ヤジマ芸能や帝国紋章院の時みたいに、どこからともかく射し込んだ(スポットライト)に照らされるオウルさん。

 ゆっくり立ち上がるその姿は、まさしく帝国の次期皇帝に相応しい威光(カリスマ)に満ちていた。

 その帝国皇太子殿下は拍手が止むのを待ってから口を開いた。

「ミルトバ連盟の諸氏にご挨拶申し上げる。

 ホルム帝国皇太子オウルであります」

 シーンとした中に支配者(カリスマ)の声が響き渡る。

 オウルさんはいくつか礼賛の言葉を述べた後、静かに爆弾を落とした。

「このオウル、感服致しました。

 つきましてはお願いがございます。

 是非、我が帝国も諸氏の仲間に加えて頂けまいか」

 やっぱアレ、本気だったの?

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