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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第七章 俺が英雄?

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18.南方種(ドワーフ)?

 これは予想外だった。

 南方種(ドワーフ)の誕生にもスウォークが関わっていたのか。

 いや、考えてみればそれは当然かもしれない。

 俺の脳が帝国の人たちを南方種(ドワーフ)と認識するのがその証拠だ。

 北方種(エルフ)が意図して「作られた」種族、いや人種なのだとしたら南方種(ドワーフ)も同様なんだろうな。

 魔素(ナノマシン)は単純に意志や言葉を伝えるわけではない。

 ある意味、その対象の本質を伝えるんだよ。

 だから南方種(ドワーフ)は「人間」と区別されて俺に聞こえると。

南方種(ドワーフ)北方種(エルフ)と同じく僧正様(スウォーク)の成果なのでしょうか」

 ユマさんが聞いてくれた。

「同じというのがどういう意味かで違ってきますが、本質的にはその通りです。

 南方種(ドワーフ)もまた、我等(スウォーク)がある一定の意図の元に育て上げた人種と言えます」

 ラヤ様によればミルトバの滅亡の後、大半のスウォークは当時の北方から去ったそうだ。

 野生動物たちの知性維持や魔素翻訳の問題があるので一定数は残ったそうだけど、その後人間には積極的に関わることはなかったらしい。

 もっとも困窮したり争いが起こりかけたような集落を見捨てるわけにもいかず、むしろ個人的に助けて回っていたとか。

 現在の教団の原形はそこで出来たと。

 ただしミルトバの件は当時のスウォークにかなり酷い精神的外傷(トラウマ)を与えたらしくて、もう人間の政治に介入するのはよそうという意見が主流になったという。

「ですが数世代を経て、やはりこのまま人間を放置すると我等(スウォーク)の将来が心配だという声が大きくなってきました。

 ミィルトーヴァの版図だった現在の北方領域で人間の集落が拡大したにも関わらず、混乱状態が続いていたからです。

 それには気候条件も関係していました」

「気候でございますか」

 ユマさんが聞いたけど、俺には判った。

 なるほど。

 地球でも似たような事は起こったからな。

 人類文明って地球の環境に露骨に影響されるから。

「マコトには判るようですね」

「ええまあ。

 前に聞いたことがあります。

 かつてこの世界、というか土地は全体的にもっと気温が高かったと。

 現在の帝国の辺りは人が住めないとまではいかなくても、住みにくいほど暑かったのではありませんか」

 ソラージュやエラ、ララエの辺りも今と比べて気温が高かったはずだ。

 北方諸国で最初の文明が発達したって事は、当時はその土地が一番住みやすかったということだよね。

 気温が暑からず寒からずで肥沃な土地だったんだよ。

 でも今はどっちかというと寒い。

 ていうか冬なんか寒すぎる。

 ララエの冬ですら難儀したからな。

 暮らしにくい土地になってしまっている。

「当時は間氷期だったんじゃないでしょうか。

 そして今は氷河期に向かいつつある」

「『間氷期』でございますか?」

 ユマさんが戸惑った表情を向けてくる。

 知らないか。

「驚きました。

 それもマコトの世界(ふるさと)の知識ですか」

「そうですね。

 地質学とか気候変動とかの研究で判明したと聞いています」

 ラヤ様はさすがに判っているらしい。

 もっとも氷河期の概念を知っているかどうかは疑問だけど。

 こういう体系化された知識って理論をこねくり回しているだけでは駄目だ。

 大勢の研究者が長年に渡って積み上げてきたデータがないと導き出せないからな。

 こっちの人間はまだ科学的には判ってないみたいだし、スウォークは絶対数から言ってそんなに多くの研究者がいるとは思えないから。

「氷河期ですね。

 知っています。

 ただ、マコトのように明確な概念(ちしき)として認識しているわけではありませんが」

「そうですか」

 まあ、別に氷河期がどうのという知識は今は必要ないからね。

 暑い時期と寒い時期が交互に来るということさえ判っていれば基本大丈夫だ。

「申し訳ありません。

 出来ればご説明頂けませんでしょうか」

 ユマさんが必死な口調で言ってきた。

 俺とラヤ様が自分の知らない知識で語り合っているために心配になったらしい。

 無敵のユマさんにも死角はあったか。

 いかに天才でもさすがに地球科学まではカバーしていなかったと。

 それはそうだよ。

 俺だって中学校の理科とかで習わなかったらそんなの知っているはずがない。

 義務教育ってとりあえず雑多な基礎知識を詰め込んでくれるから凄い。

 何かについて無関心だとしても、言葉くらいは聞き囓っていることが多いからな。

 でも俺だって氷河期の専門知識なんかない。

 教科書でもちょっと触れる程度だし、あとは小説なんかに出てくる「常識」として知っているだけだ。

「お願いします!」

 ユマさんが必死な表情で言ってくるもので、俺はちょっと引きながら説明した。

 地球は全体として寒い時代と暑い時代があって交互に来ること。

 なぜそうなるのかは俺もよく知らない(泣)けど、とにかくそうなっていること。

 その証拠は地質学的な調査で判明したこと。

「そのようなことが」

「あるんですよ。

 だから気候によってある土地の文明が起こったり廃れたりします。

 そしてその変化は百年とか千年単位で発生するので」

 長ければ数百万年以上の間隔が空くらしい。

 その辺りはいい加減だけど、多分合っているだろう。

 前に読んだ小説に、戦国時代や江戸時代の日本は今より寒かったとか書いてあったからな。

 縄文時代は温暖な気候で狩猟文化が栄えたけど、寒くなったので獲物や自然に生えてくる作物なんかが減って稲作しないと食っていけなくなって弥生時代が始まったとか。

 いやうろ覚えだから本当かどうか知らないけどね。

 ひょっとしたらネットの流言(ホラ)かもしれない。

 でもそんなことはいい。

 説明するのが面倒くさくなったので、とにかくそういうことなのですと言って終わらせた。

「簡単に言えばミルトバが栄えた時代は北方諸国の辺りは温暖な気候だったんだけど、滅んだ後はだんだん寒くなっていったんじゃないかな」

「その通りです。

 いつもながらマコトは素晴らしい。

 どこまでが知識でどこまでが類推(あてずっぽう)なのかは判りませんが、常に本質を射貫くのは見事という他はありません」

 さいですか。

 でも類推(あてずっぽう)って。

 見抜かれている(笑)。

「話を戻しますが、スウォークの一部はもう一度人間に干渉することを決意し、現在の帝国領土である南方に向かいました。

 というよりはその意志がある者共(スウォーク)が移動したというところでしょうか」

「といわれますと?」

我等(スウォーク)もその頃にはかなり広がっていたのですよ。

 ミィルトーヴァ時代においても少しずつ南方に移り住む者がいたようですし、その後は寒冷化するに従ってその動きは加速しました。

 北方が住みにくくなると同時に現在の帝国領土の辺りは気温が温暖化したため、我等(スウォーク)にとっては過ごしやすい気候になったからのようです」

 なるほど。

 そういえばスウォークってトカゲ人というか、いわゆる恐竜の末裔だったっけ。

 卵生と言っていたしね。

 爬虫類じゃないかもしれないけど、人間より外気温に影響されやすい可能性がある。

「そうでもありませんが。

 寒すぎるよりは暑すぎる方がまだましなのは事実ですね」

 やっぱトカゲに近いのか。

「だったら今の北方は住みにくいのでは」

「昔とは違います。

 暖房もありますし、体温調節くらいは出来ますから」

 さいですか。

 変温生物じゃないのか。

 まあいい。

 で、スウォークは南方に主力を移したと。

「はい。

 現在の帝国領土の辺りは当時、まだ未開だったようです。

 人間や野生動物は生息していましたが、文明と呼べるほどのものは存在しませんでした。

 記録によれば、移り住んだ我等(スウォーク)は以前からその土地に落ち着いていた者共(スウォーク)と協力して人間の啓蒙を行ったとあります。

 北方の時と同じく十数世代に渡って人間に干渉し続けたと」

北方種(エルフ)の時と同じにですか?」

 ユマさんが聞くとラヤ様は首を振った。

「逆の方法をとったようですね。

 北方では統治者(トップ)を育てて干渉したわけですが、南方では逆に下を指導する形をとりました。

 同時に南方種(ドワーフ)の育成も行ったと」

 どうやってだろう?

 北方種(エルフ)はまあ判るんだよ。

 ショウジョウバエと同じ方法で遺伝的に選別強化していったわけだから。

 でも南方種(ドワーフ)北方種(エルフ)みたいな際だった特徴がない。

 ていうかそもそも南方種(ドワーフ)って作られた人種なの?

 どこといって普通の人間と変わらないように見えますが。

「均一化を目指したようです。

 平等といいますか、特に抜きんでた特徴を持つ個体を育てるのではなく、多くの人間が同様の特徴を持つような交配を指導したと記録にあります」

 それでか。

 南方種(ドワーフ)って均一人種だったのか。

 もちろん個体差はあるけど、遺伝子プールは同じに見えるからね。

 日本人みたいなものだ。

 もちろん色々な人種の特徴が出ることもあるけど、大抵の人が「日本人です」と言えば納得できるような外見的な特徴を持っている。

 なるほど。

 突出した個体を作らないようにすることでミルトバの悲劇を回避しようとしたと。

「そうです。

 それは一応上手くいったはずなのですが」

 ラヤ様の声が沈んだ。

 やっぱ何かヤバかったと?

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