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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第七章 俺が英雄?

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12.呼び出し?

 舞踏会は夕食前から開催されていて、かなり遅くまで続くことになっているらしい。

「出られますか?」

「お断りします」

 そもそも俺、踊れないし。

 これまでだって無理矢理参加させられても、みんなが踊っている間はずっと誰かと話していたからな。

 かえって疲れる。

「そもそも舞踏会を開く必要があるんですか?」

 ミルトバ連盟の総会なんだから夕食会とかでもいいのでは。

「色々思惑がございます。

 夕食会は席が決められてしまうので、オウル様の社交には不適切です。

 立食式のパーティも人が集中してしまって残りの場所は閑散としている、という状況になりかねないと」

「でもそれは舞踏会でも一緒なのでは」

 ああいう場所が実は密談の場だということは判っている。

 軽小説(ラノベ)でも踊っているだけじゃなくて、休むふりしてちょっとバルコニーに出たりしていたからね。

 アベックが庭の暗がりにしけ込んだりして。

「少なくとも踊っている間は二人きりになれますでしょう。

 北方諸国の外交官の皆様がご夫人を同伴されていらっしゃるのはそういう意味もございますので」

 なるほど。

 オウルさんは男だから、まさか男とは踊れないだろうけど、その夫人となら踊っても不自然じゃない。

 そして外交官という存在は家族を含めて国の代表だからな。

 特にご夫人はご本人も政治的な存在である場合が多い、というよりはそれが当たり前なんだそうだ。

 列強代表の残りのメンバーはみんな女性だから、北方諸国の代表と踊るのはむしろ当然か。

 そして踊っている間に密談が交わされると。

 凄いもんだなあ。

 軽小説(ラノベ)で貴族が踊りを練習する意味が判った気がする。

 そういう技能がなければやっていけない場合もあるらしい。

 俺なんか踊れないから失格だね。

「舞踏の技能は必要不可欠というわけではございません。

 もちろん、例えば下級貴族が踊れなかったりすると社交界では致命傷になり得ますが、我が(あるじ)には関係ございません」

 ユマさんに言い切られた。

「というと?」

礼儀(マナー)と同じと考えればよろしいかと。

 そもそも礼儀(マナー)は下位身分の者が上位の者に対して失礼がないように礼を尽くすための技能でございます。

 逆に言えば、上級の者は必ずしも礼儀(マナー)に拘る必要がない場合があります」

 そうか。

 軽小説(ラノベ)で馬鹿な王太子が学園の卒業パーティ席上で婚約破棄したりするもんね。

 いや、あれは現実にはあり得ないだろうけど(笑)。

「舞踏についても我が(あるじ)ほどのお立場()があればいかようにもなります。

 踊りたくないと主張してもかまいませんし、下手な踊りを披露しても誰も何も言わないでしょう。

 そもそも踊って頂ける事に感激して、大抵の相手は実力を発揮できないかと」

 いや、俺は舞踏会で踊るどころかそもそも出席する気もありませんが。

 昔は社交だとか言われてしぶしぶ出ていたけど、今はヤジマ財団理事長(ニート)だからな。

 何もしなくてもいいのだ。

 ていうかいいよね?

「当然でございます、と言いたいところですが」

 あるのかよ。

「社交ではなくご相談を是非とも、と依頼(めいれい)されております」

 是非ともか。

 なるほど。

 ユマさん相手にそう言える相手は限られているし、トルヌなら尚更だ。

 そして俺が断らないと踏んでいる相手ね。

僧正様(スウォーク)が?」

「お判りになられますか」

 それはそうだよ。

 今思い出したけど、ラヤ様が「トルヌでお話しします」とか言っていたような。

 何だったっけ。

 まあいいや。

「いつですか?」

「我が(あるじ)のご都合の良い日に、とのお言葉を頂いております」

 つまり緊急とかじゃないわけね。

 するとアレか。

 まあ、知りたいと言えばそうなんだよな。

 知ったからと言ってどうなるわけでもないけど。

 でもせっかく僧正様(スウォーク)が話してくれるというのなら聞かないわけにもいくまい。

「俺の方はいつでもいいと伝えて下さい」

「お心のままに」

 そういうわけで、翌日朝練と朝食の後、俺は出かけた。

 ユマさんが速攻で連絡をとってくれたらしく、ではなるべく早く、ということになったんだよね。

 オウルさんたちは昨夜から引き続いて社交があるそうだ。

 昨日の舞踏会で約束したとかで手分けして社交場(サロン)を回るらしい。

 トルヌ皇国政府が全面的に協力してくれているそうで、ミルトバ連盟の代表の人たちがトルヌ(ここ)にいる間に決めてしまいたい勢いだとか。

 何をやっているんだろう。

 いや、大体は判るけど。

 気にしない気にしない。

 オウルさんたちは朝食が済むとすぐに出かけて行った。

 そのまま夜まで帰ってこないということで、同行しない俺は暇だからな。

 僧正様(スウォーク)との「相談」なら人払いしなきゃならないから、絶好の機会でもある。

 俺の同行者は例によってユマさんにハマオルさんとラウネ嬢だ。

 それから護衛が一分隊。

 これは直卒だけで、それ以外にも一個小隊くらいが目立たないように守ってくれているらしい。

 随分多いなと言ったら叱られた。

 俺なら最低でも完全武装の一個中隊(3桁)くらいの護衛は当然なのだそうだ。

「トルヌですのでこの程度で済んでおります。

 本来なら要塞か宮城の中心部で辣腕の護衛に囲まれておられるべきお立場でございますよ。

 御身の重要さをご認識下さいませ」

 そんなこと言われてもなあ。

 俺、別に何かしたつもりもないしね。

 もうヤジマ商会は辞めたんだから今さら俺を殺っても何にもならないと思うし。

「我が(あるじ)のそういった所は好ましく思いますが……とりあえず御自重下さい。

 今が一番重要な局面でございます」

 へい。

 よく判らんけどまあいい。

 目立たない下級貴族用の馬車で宿舎(ホテル)を出る。

 どこに行くのかと思っていたら、前方にあの馬鹿でかい皇宮というか皇城というかが見えて来た。

 でもあれ、危険だから使用禁止になっているのでは。

「まだ大丈夫な部分はございます。

 それに危険ということで自然に人払い出来ますので」

 なるほど。

 確かに閑散としている。

 もっと完全に無人というわけじゃなくて、あちこちに警備隊らしい人影が見える。

 つまり俺がここに来た事はバレバレだと。

 密談になってないような。

 でもそこは外交だから、北方諸国の代表の人たちもスルーするんだろうな。

 エントランスに馬車をつけてみんなで降車すると案内役らしい人が待っていてくれた。

 そのまま護衛に囲まれて進む。

 前に来た場所とは違うようだ。

「ここはトルヌ皇国宮廷の別棟として使われていた施設ということでございます。

 トルヌ皇王は世襲ではないので明確な皇家といったものは存在しません。

 ですが祭祀を継承する一族は存在しますので、そちらの居住施設と」

 その人たちも危険が危ないということで退去して、今は離れた屋敷などに住んでいるそうだ。

 益々秘密会談になってきた。

 俺に含む所はないから、多分スウォークにとって今回の「相談」とやらが重要なんだろう。

 魔素(ナノマシン)の事とかね。

 だとすれば、確かにソラージュやエラでは出来ない。

 ていうかやろうと思えば不可能じゃないだろうけど、余計な興味を引いてしまう。

 エラでラヤ様を始めとした僧正様(スウォーク)の方々にお目にかかったけど、あれはオウルさんを紹介するとかいう理由をつけられたからだな。

 今回はそのオウルさんすら拒否(シャットアウト)だ。

 だとすれば内容は大体判る。

 俺にしてみれば警戒しすぎという気がするけどね。

 でもスウォークにとっては自らの存在意義(アイデンティティ)に抵触する事なんだろう。

 並んで歩いているユマさんが俺を見たけど何も言わなかった。

 ハマオルさんとラウネ嬢も無言だ。

 今は護衛に徹しているらしい。

 何度か止められて、その度に護衛の数が減っていく。

 そしてついにあるドアの前でハマオルさんが言った。

「私共はここまででございます」

 そうか。

 今回はハマオルさんやラウネ嬢も駄目なのか。

 案内の人がドアをノックしてから俺たちを通してくれた。

 ドアの向こう側にはかなり離れてまたドアがあった。

 徹底しているな。

 人払い対策か。

 後ろでドアが閉まった後、俺はユマさんと一緒に進んだ。

 ユマさんは大丈夫らしい。

 教団(スウォーク)から見た略術の戦将(ユマさん)って物凄く評価が高い、というか信頼出来るんだろうね。

 というよりは防諜上の問題かもしれない。

 ユマさんは多重思考回路(ダブルトラック)の持ち主で、つまり魔素翻訳でも滅多なことでは内心を読まれないからな。

 秘密を守るにはうってつけだ。

 俺?

 俺はほら、内心がダダ漏れで何が秘密なのかそうでないのか五里霧中らしいから。

 ドアをノックすると「お入りなさい」と返事があった。

 いよいよか。

 面接とかじゃないよね?

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