4.総会?
数日後、最後の国の代表が着いたということでミルトバ連盟の臨時総会の開催日が決まった。
明後日だそうだ。
着いていきなりではその国の代表も大変だろうからね。
他の国はみんな待たされてイラついているのかと思ったら全然そんなことはないらしい。
ヤジマ商会の接待を十二分に堪能しているという。
人の金で食う飯は美味いからな。
「それだけではございません。
トルヌ皇国政府主催で社交場を開いておもてなししております」
何とトルヌ皇王陛下自ら女主人を務めているらしい。
なりふり構ってないな。
「俺たちはいいんですか?」
「真打ちはここぞという時まで登場しないものでございます」
時代劇みたいになってきたな。
というわけで俺とオウルさん、フレスカさんはあいかわらず閉じこもっていた。
レネ第一王女殿下は一日休んで疲れを癒やすと、すぐにサロンに参加した。
もちろんグレンさんのエスコート付きだ。
ソラージュ、エラ、ララエの列強代表が全員未婚の若くて高貴な美女ということで、代表者として参加してきている北方諸国の王子様たちが色めき立っているとか。
嫁に出来れば凄い事になるからな。
「無理です。
代表の方々もそれは判っていらっしゃいます」
ユマさんが言うように、いくら美女だからといって王族の結婚はそう簡単に決まるもんじゃないからね。
軽小説とは違うのだ。
戯れならともかく国家を跨ぐ結婚となると色恋沙汰はまずないと言っていい。
ていうかもしあったら両者とも廃嫡覚悟になる。
特に北方諸国の場合は下手を打つと国ごと潰されかねないからな。
「それにレネ様はともかく、ルリシア様とアレサ様は我が主のお手つきと思われていますので」
ユマさんが平然と言った。
そうなの?(泣)
まあそうか。
前回の親善訪問で露骨に侍らしちゃったからなあ。
今回も狙ったように代表として来ているし。
しかも俺自ら近衛騎士に叙任済み。
どう考えても覇王の所有物だよな。
そんなつもりは全然ないのに!
同じ理由でユマさんへのアプローチもなかった。
そもそもユマさんは俺の事を絶対者だと公言しているからね。
それだけで手を出してくる人なんか皆無だ。
俺、物凄い女好きだと思われているんじゃないのか。
誰も何も言ってくれないから定かではないけど。
「英雄、色を好むと申しますからな。
初代皇帝陛下などは正室だけでも二桁に」
あれは違うと思う。
それに初代皇帝は正室以外には手をださなかったという話だし。
まあそんなことはいいのだ。
俺はただ、この茶番が平穏無事に終わればそれでいい。
「実際の所はどうなの?
根回しとか」
「順調でございます。
我が主に逆らおうなどと考える者は最初から排除されております」
ユマさん、何というか最近秘密警察的な雰囲気が露骨になってきているようなんだよね。
まあ、もともと俺の前だとなりふり構わない所はあったけど。
あまりやり過ぎるとヤバいのでは。
「我が主がご心配なさることではございません。
私の名など地に落ちて結構でございます」
「そうです。
汚名は我等が受けましょうぞ」
駄目だ。
オウルさんとユマさんが同調してしまっている。
そういえばこの二人、今回の件では最初から組んでいたみたいだからな。
帝国皇太子と略術の戦将が共謀したら何だって可能だ。
もういいです。
自由にやって下さい(泣)。
「「お心のままに」」
というわけでいよいよ総会開催日がやってきた。
俺はいつものように夜明け前に起きるとオウルさんたちと一緒に朝練をやってからシャワーを浴びた。
朝食の後、儀礼服に着替えて待機する。
会議場は何と野外だそうだ。
「トルヌ皇宮のホールは傷みが酷くて使い物になりませんので。
他に多人数を収容できる施設が見当たりません。
建設している余裕がなかったため、円形劇場を使用することになりました」
そうか。
こっちの世界はかなり露骨に地球の影響を受けているところがある。
特にローマ時代の技術や発想が随所に見られるんだよね。
当時の迷い人が持ち込んだんだと思うけど。
もっとも、例えば闘技場みたいなものは存在しない。
野生動物たちの勢力が強すぎてそういう出し物は導入出来なかったんだろう。
剣闘士とかもいなかったらしい。
魔素翻訳のせいで、殺し合いを楽しむことが出来ないんだよ。
ああいうのは戦っている人たちの傷みや苦しみを感じないからこそ見世物として成立するわけだから。
戦争なんかでも、よほど切羽詰まらないと実際に戦ったりはしなかったそうだ。
もちろん殺し合い自体は存在するし、むしろ刃傷沙汰は地球より多いくらいらしいけど。
相手の感情が判ってしまうから、激発の沸点が低いんだよね。
すぐに殴り合いになるのもそのせいだ。
でも大量殺戮は難しい。
大勢が同時に傷つけ合うと魔素翻訳で凄まじいことになるからな。
大抵の人はその毒気に当てられて倒れてしまう。
よってこっちの戦争って、お互いに出来るだけ大量の戦力を揃えて威嚇し合うのが本筋なんだよ。
帝国で皇帝選挙のための決闘をやったけど、あれは実は常套手段だったそうだ。
「もっとも古代では本当に殺し合ったそうでございます。
魔素翻訳は沸点を超えると果てしなく感情をエスカレートさせますので」
最後の一人になるまで殺し合うような戦いが大半だったらしい。
ユマさんが教えてくれたけど、おっかないな。
あまりみんなを刺激しないようにしなければ。
そんな話をしながら護衛に囲まれて会議場に向かう。
いい天気で助かった。
ていうか野外会議場だから雨天順延だろうけど。
おそらく古代ローマかギリシャから発想が持ち込まれたと思われる施設があった。
円形劇場という奴だ。
俺もギリシャで見たことがあるけど、舞台が中央にあって階段状の客席が周りに広がっているんだよ。
ていうか客席がすり鉢状になっている。
俳優が舞台で演技するのをお客さんは周りに座って見下ろすわけだ。
なるほど、これはいいね。
ミルトバ連盟の総会といっても芝居みたいなもんだからな。
何か演説する人は中央の舞台で話すと。
護衛に囲まれて席に着くと、周り中から注目されているのが判った。
参加者の皆さんは既に席についているらしい。
自由にやって下さい。
俺は大人しく見てますので。
そう思って寛ごうとしたけど誤算があった。
寒いんだよ!
もう秋も深まっているというのに吹きさらしの屋外で石の椅子に座っているのだ。
みんなよく平気ですね?
「北方諸国の皆様は寒さに慣れておられるのでは」
ハマオルさんが言うけど、そういう問題?
でもラウネ嬢がすぐに座布団だかクッションだかを差し入れてくれた上で暖かいマントを渡してくれたので、俺はぬくぬくとくるまった。
助かったぜ。
「静粛に!
これよりミルトバ連盟の臨時総会を開催する!」
中央の舞台、じゃなくて議席についた人が叫んだ。
言い忘れたけど俺が座っているのはかぶりつきだ。
舞台のすぐそばなんだよ。
だから何とか聞き取れる。
ていうか魔素翻訳で意味が判る。
「あれ、何語ですか?」
隣に座っているユマさんに聞いてみた。
だって意味はとれたけど、発音はまったく判らなかったからね。
「北方の共通語というか、エラ語やソラージュ語の元になった言葉です。
大半の単語は共通していますが、発音自体はかなり変化していますね」
さいですか。
でもそんなこと言い出したら俺、母国語だって話せないもんね。
字の読み書きは何とか人並には出来るようになったけど、話し言葉は駄目だ。
未だに魔素翻訳頼りなんだよ。
それで不自由ないし。
大体、オウルさんは帝国語で話しているみたいだしルリシアさんやアレサさんはエラ語やララエ語だ。
魔素翻訳が効く距離で話す分にはそれで全然不自由がない。
野生動物たちも言葉というか鳴き声だもんなあ。
話し言葉が廃れないのが不思議なくらいだ。
でもこういった場では、やっぱり話して聞けないとまずいんだろうね。
魔素翻訳効果が効かないくらい遠い場所がほとんどだし。
「この会議は、その北方共通語じゃないと駄目なんでしょうか」
「そうですね。
でもご心配なく。
参加者は全員、言葉には堪能でございます故」
それがこういった国際会議の代表としての必要条件なんだそうだ。
いや、俺は駄目なんだけど(泣)。
てことは俺、話さなくてもいいって事か。
ちょっと安心した。
舞台では誰かが話し続けていた。
議長とか?
あまり大したことは言ってないみたいだけど。
「あれはトルヌ皇国の祭事長……つまり普通の国の宰相にあたる方ですね。
トルヌにおいてはむしろ閉職です。
ミルトバ連盟の総会開催宣言を行うはずが暴走しているようです」
さいですか。
舞い上がってしまっているのかも。
ミルトバ連盟の会議がトルヌ皇国でついに開かれたわけだからな。
これまでずっと無視されてきたらしいし。
でもそろそろ止めて欲しいんだけど。
するとキラキラしい制服を着た人が出てきて話している人の肩を叩いた。
何かやりとりがあって、肩を落とした人が引っ込む。
やれやれ。
「ああいう方はどこにでもおられます」
いずこも同じか(泣)。




