3.そろい踏み?
まだ北方諸国のどっかの国が来てないということで、ミルトバ連盟総会はなかなか始まらなかった。
これは異例の事で、いつもの定例会は参加者が足りなくても容赦なく開かれるらしい。
ていうかそもそも出席しないというか、代表を送ってこない国も結構あるとか。
開催しても特に何が決まるわけじゃないからそうなんだろうな。
惰性で続いていただけだったりして。
でも今回は違う。
俺と教団のお声掛かりなのだ。
両方とも逆らったら北方諸国自体が吹っ飛ぶくらいの脅威だ。
だからみんな絶対に参加するはずなんだけど。
「どうやら誰が行くかで揉めているようでこざいます」
ユマさんが報告してくれた。
まだ来てない数カ国は代表者が決まらずに内紛に明け暮れているらしい。
「なんで?
封建制国家なら王様の一声で決まるでしょう」
「大抵の場合はそうでございますが。
ただ、国王陛下がご高齢だったり内政に興味を示さず、王太子や宰相が実質的に国を取り仕切っておられる場合は力が均衡してしまっていて」
さいですか。
つまり、誰を送るか揉めているというよりは自分が行きたくて争いになっていると。
「我が主の主催でございます。
しかも旅行費用も滞在費もヤジマ商会持ち。
この機会を逃さずにはいられないという気持ちは判るのですが」
さすがのユマさんも腹に据えかねて相談してきた。
脅して良いかと。
いいっスよ。
別に俺に関係ないし。
というわけでヤジマ航空の至急便で当地の支店を通じて最後通牒が送られた。
曰く「来ないなら無視するぞ」。
すぐに代表が決定したという。
現金な(泣)。
「最後の国の到着は1週間後ということでございます。
それまでお待ち下さい」
別にいいけどね。
もっともこの状況はむしろ俺たちに都合が良いこともあった。
待っている間に我が祖国の代表が到着したんだよ。
他の国が間に合っていたらこっちの都合で開催が遅れるところだった。
ていうかユマさん、ソラージュ代表が来るまで遅れている国を放置していたんじゃないのか。
あいかわらずエグいな。
それはともかく助かった。
ソラージュ代表が俺っていうのはちょっと避けたかったからね。
何かマッチポンプ的な印象を与えてしまう。
ユマさんにしてもそれは同じで、色々手配していたらしい。
ソラージュ王政府は「ソラージュ代表はヤジママコトで良いのではないか」とか言っていたらしいんだけど、そこを何とかと頼み込んで説得したそうだ。
でも代表って誰?
ミラス殿下は無理でしょう。
色々仕事しているし、それでなくても身重の婚約者を置いて出てくるわけがない。
「お久しぶりでございます。
ヤジマ大公殿下」
見事な礼をとってくれた美少女、いやもう美女か。
レネ第一王女殿下がそこにいた。
ミラス殿下によく似た美貌で次期国王の妹君だ。
何とまあ。
ソラージュも思い切ったもんだ。
ミラス殿下を除けばソラージュの切り札と言ってもいい王女だぞ。
「お疲れ様でございます。
旅はいかがでございましたか?」
俺が何も言えないでいるとユマさんが尋ねてくれた。
「快適でした。
新型の大型馬車を出して頂きましたので」
ソラージュ王室に贈ったあの超豪華馬車を使われたらしい。
まあ、第一王女だからな。
王位継承権も高いしソラージュを代表する方であることは間違いない。
それにしても王女殿下がお一人で来られるとは、と思ったら後ろに控えてきた人が頭を下げてきた。
「お久しぶりです。
ヤジマ大公殿下。
ユマも」
グレンさんか!
ミラス殿下の側近がどうして?
「本来なら王太子が来るべき所なのですが、どうしても都合がつかず。
レネ第一王女殿下に代行して頂くにしても細かい社交などでご迷惑をお掛けしてはならないと、陛下の命令で私がお供することに」
あいかわらずワイルドなイケメンであるグレンさんの口上の間中、レネ王女殿下は頬を染めて俯いていた。
なるほど。
誰が企んだかしらないけど、いい手かもしれない。
グレンさんは今のところ近衛騎士だけど、ミラス殿下が戴冠すればまず間違いなく世襲貴族に叙爵される。
国王の側近だからな。
とりあえずは子爵というところか。
もちろんそれで終わりではなくて、最終的には侯爵くらいにはなると思う。
そんな重臣を引き留めて置こうとしたら、身内にして取り込んでしまうのが一番だ。
一方、レネ第一王女殿下には今のところこれといった嫁ぎ先がないんだよね。
俺は色々な意味で駄目だ。
ソラージュが潰れる(笑)。
でも、国王の妹を嫁るほど力がある貴族って他に国内にはいないんだよなあ。
候補が多過ぎる。
どんぐりの背比べというか、レネ王女殿下が臣籍降嫁した貴族が抜きんでることになってしまうからね。
そんなのは好ましくない。
かといって国外にもそれほど重要な相手はいない。
だからミルトバ連盟の総会にレネ王女殿下をソラージュ代表として送り、その補佐に王太子殿下の側近をつけて名を売る。
よく考えたものだ。
やっぱユマさん?
「とりあえずお休み下さい。
総会は数日後に予定されています」
俺の疑問をスルーしたユマさんの指示でレネ王女殿下は去った。
グレンさんは残っている。
とりあえず居間として使っている部屋にみんなで入る。
礼をとろうとしたグレンさんに私的だと継げると、グレンさんはソファーにどっかと座り込んだ。
やっぱ疲れているらしい。
「旅はどうでした?」
ユマさんの問いにグレンさんはため息をついた。
「大変だった。
レネ様には馬車に乗って頂いたが、俺はずっと騎馬だったからな」
俺は事務屋なのに、とグレンさん。
そうなのか。
一緒に乗ればいいのに。
「そうはいきませんよ。
未婚の王女殿下に変な噂を立てるわけには」
「王女殿下はそう望んでいたのでは?」
ユマさんが笑いながら言うとグレンさんはお茶を飲んでから返した。
「だとしたら尚更だ。
今の俺は身分が低すぎる。
マコトさんとは違うんだぞ」
何で俺が出てくる?
ていうかやはりそうなのか。
まあ、グレンさんほどの切れ者が気づかないわけはないからな。
「レネ様は何と?」
「何もおっしゃらないが、まあ、そこら辺は何となく」
グレンさんが照れた。
相思相愛ではないか。
イケメン下級貴族と美少女王女の恋。
軽小説でも最近はそんなベタな設定はあんまりないような。
悪役令嬢と平民のヒロインばっかで。
「俺たちの事はいいです。
こっちの状況はどうなってますか?」
グレんさんが聞いてきた。
知らないのか。
「突然、国王陛下に呼び出されてトルヌに行けと命令されたんですよ。
レネ様のお供の名目で北方を探って来いと。
いやむしろマコトさんのお役に立て、ということだったような」
グレンさんにとっては青天の霹靂だったらしい。
ユマさんの強引な作戦の影響なのか。
「北方諸国の代表は順調に集まっています。
列強も皇太子殿下を筆頭に。
ソラージュがおいでになったことで揃いました」
「来る途中で聞いたんだが、帝国以外の代表はみんな女性だそうですが」
そういえばそうだな。
エラからはルリシア王太女殿下。
ララエはアレサ公女殿下。
そしてソラージュはレネ第一王女殿下。
軽小説だ(泣)。
「そうなりますね」
「違うだろう?
ユマ、お前の計画だろう」
「そうとも言います」
グレンさんとユマさんは「学校」仲間だから友達言葉の応酬になるのか。
グレンさんも二つ名で「宰相」と呼ばれた程の人だからな。
略術の戦将相手に一歩譲らない。
「何を企んで……いや何となくは判るが。
強引過ぎないか?」
「急ぐ必要があるんですよ。
何としてでもここで決めます」
ユマさんが強い口調で言った。
何かあるのか。
ていうか何を決めるんだろう。
いや知りたくないからいいけど。
グレンさんは探るようにユマさんを見ていたけど、そのうちに肩を竦めた。
「まあいい。
マコトさんのお役に立つ事なら俺も協力するのに吝かじゃないからな。
そうなんだろう?」
「その通りです」
「判った」
グレンさんは俺に向き直って頭を下げた。
「というわけでできる限り協力させて頂きます。
お役に立てればいいんですが」
「あ、はい。
いや俺もよく判らないんですが」
そうでしょうね、とグレンさん。
判ってくれたか。
「マコトさんの『計画』ならミラスは無条件で支援するとのことです。
ソラージュは固めるので何でも命令してくださいとの伝言を預かっています」
判ってないじゃないか!
俺の「計画」って何よ?
俺は何度でも言うけどただのサラリーマンなんだよ!
大国の王太子に命令出来るような立場じゃ無いって!
「当然でございます。
そのような些事は隷共にお任せ下さい」
ユマさん、あんたもか!




