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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第六章 俺が後見人?

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24.アレサ近衛騎士?

「本当に心苦しいのですが」

 アレサ公女殿下(さん)は苦り切った表情だった。

 もともとあまり出世欲というか、世に出たいとか名前を上げたいとか考える人じゃないからな。

 どっちかというと引きこもりとまではいかないにしても遠慮がちで、しかも必要以上に失敗に悩むタイプだ。

 それでいてチャレンジ精神が旺盛という訳が判らない性格でもあるんだけど、責任感はあるし任された仕事は何とかしてやり遂げようとする。

 つまりは「都合の良いコマ」だ(泣)。

 大公会議の思惑が手に取るように判る。

 エラと同じ事をするつもりなんだろう。

 唯一(ヤジママコト)と親密な関係にあると言えなくもない公族(アレサさん)を使って、ララエ公国が(ヤジママコト)の後援を受けていると暗に示したいと。

「もちろん、その程度の事はお見通しであるとは判っております」

 アレサ公女(さん)の背後に控えていたイケメンが進み出て言った。

 片膝突かないということは、この人も公族だ。

 ユラン公子だったっけ。

 男なのに俺が名前を覚えているのも当然で、ララエ公国の野生動物対策を任されていた切れ者だ。

 次のタラノ大公だと言われていたような。

 貴方がララエの代表でミルトバ連盟の総会に出ると?

「いえ。

 失礼ながら私はヤジマ名誉大公殿下(御身)に後見を受けるほど親しくないということで候補から外されました。

 このアレサが代表です」

 さいですか。

 なるほどね。

 ルリシア王太女殿下にロロニア嬢がついているように、アレサ公女殿下はユラン公子(さん)がサポートすると。

 ユラン公子(さん)もララエ公国内ではそこそこ名の知れた公族ではあるんだけど外国では無名だからね。

 代表になってもおかしくはないが、今ひとつインパクトに欠ける。

 何せエラ王国の代表は王太女だし、帝国は皇太子を送り込んできているのだ。

 ララエとしてはやはり北方諸国に名の知れた代表を出したいというところか。

 言われてみれば確かに、アレサ公女(さん)は俺の北方諸国親善に付き合ってすべての国の宮廷を訪れたし王族と挨拶を交わした経験がある。

 北方諸国での知名度は抜群だ。

 そういう意味では適所適材なんだが。

 問題はアレサ公女(さん)(ララエ)を代表すると言えるほどの立場にはいないことだな。

 だから(ヤジママコト)を持ち出してきたと。

 エグいな。

「我が(あるじ)

 ユマさんが俺に懇願するような表情を向けていた。

 はいはい。

 判っていますよ。

「アレサ公女殿下にはお世話になりましたので。

 喜んで叙任させて頂きます」

 ユマさんのシナリオが展開する。

 凄えな。

 これでミルトバ連盟総会にオブザーバーとして参加する列強諸国のうち、ソラージュを除いたすべての国の代表がヤジマ大公家()の近衛騎士かよ。

 露骨過ぎてもう何も言えない。

 そして俺はソラージュの大公ときている。

 軽小説(ラノベ)だと俺ってどう考えても主人公(勇者)というよりは悪役だよ!

 むしろ魔王なんじゃないの?

 金の力で人類社会を征服しようとしているとか。

 野生動物(魔獣)も配下だし(泣)。

 でもなあ。

 この現実が軽小説(ラノベ)だとしたら、もはや完全に詰んでいる。

 だって既にヤジマ商会(魔王軍)が世界を征服し終わっているんだもん。

 諸国の王も味方だし。

 教団なんか魔王()に帰依するとまで言ってきているし。

 これでは魔王をつけ狙う勇者の方が体制に反逆するテロリストになってしまう。

(あるじ)殿」

 ハマオルさんの控えめな声で俺は我に返った。

 軽小説(ラノベ)の話じゃないんだよな。

 逃げちゃ駄目だ。

 仮設テントの中に絨毯が敷かれ、それっぽく叙任式の準備が整えられていた。

 俺の時よりはマシだな。

 近衛騎士叙任式の進行役としてノールさんが呼ばれ、ユマさんの後ろで待機する。

 儀礼服じゃなくて旅装だけど、騎士服ではあるのでいいんだろう。

 立ち会い騎士役は何とハマオルさんとルリシア王太女殿下だった。

 そして高位貴族役は当然のようにオウル帝国皇太子殿下。

 叙任者はソラージュ大公の俺。

 あいかわらず身分がインフレしているな。

 ハマオルさんだけ何か場違いだけど。

 ていうか見届け騎士役に何でハマオルさんが?

ララエ側(ユラン公子)からの是非とものご希望(リクエスト)でございます。

 ハマオル殿は常に我が(あるじ)のお側にあって絶大な信頼を勝ち得ておりますが故」

 ルリシア殿下の方はアレサさんの希望ということだった。

 一緒に北方諸国を回った仲だからか。

 それはそうとユマさんも最近、俺に対して何か畏まった言い方をするようになっているんだよね。

 これは多分、本当にそういう言い方をしているんだろう。

 言葉じゃなくてそこに込められた感情を魔素(ナノマシン)が翻訳しているのだ。

 みんながだんだん遠くなる(泣)。

 それはいいとして、考えてみたらアレサ公女(さん)も凄いよね。

 だって近衛騎士叙任式の参列者がソラージュ、エラ、帝国の人だよ?

 しかもハマオルさん以外はほぼ最高位身分。

 豪華すぎる。

「すべて、我が(あるじ)の配下でございます」

 ユマさんの悪魔の囁きが聞こえる。

 もうどうでもいいや。

 それから俺は北方諸国のどっかの国の街道沿いの何もない所で、ララエ公国のアレサ・ツス・ララエ公女をヤジマ大公家近衛騎士に叙任した。

 俺の前で片膝を突いたまま、オウルさんから借りた剣で俺に肩を二回叩かれたアレサさんが立ち上がる。

 これでアレサさんもヤジマ大公家()から俸給を受ける立場になったわけだ。

「おめでとう。

 アレサ近衛騎士。

 これで我々は仲間(主上の配下)だ」

 オウルさんが真っ先に進み出て握手した。

 帝国皇太子がララエの公女を同輩として認めたのか?

 ちょっと違うような。

「おめでとう」

「おめでとうございます」

 祝福を浴びるアレサさんは微笑んではいたけど表情が引きつっていた。

 今になってやっと自分がどうなってしまったのかを悟ったらしい。

 いやただのソラージュの近衛騎士で、もともとの身分(公女)の方が比べものにならないくらい高いけど。

 でもこれでアレサさんは近衛騎士(自由)だ。

 何でも出来ますよ。

 ソラージュではだけど。

 そういえばアレサさんってセルリユ興業舎で狼騎士(ウルフライダー)やってなかったっけ?

「ヤジマ学園に出向して実習講師をしておりました。

 私にはお似合いの気楽な立場で楽しかったのですが」

 アレサ近衛騎士(さん)がまたため息をついた。

「今は大公会議の命令で休職しております。

 何とかこの茶番を無事に終わらせて天職に復帰したいところです」

 自分で言いながら落ち込むアレサさん。

 無理だろうなあ。

 ここにいるということは既に政治的な存在になってしまっているんだよ。

 そしてこれからララエの代表(オブザーバー)としてミルトバ連盟の総会に参加する。

 その時点でもう戻れない。

 狼騎士(ウルフライダー)も引退だな。

「それは死守します」

 アレサさんが必死に言った。

 凄い目つきでユラン公子を睨む。

 ララエ公国の若きイケメン公子は苦笑いしながら肩を竦めた。

「アレサも鍛えられましたから。

 狼騎士(ウルフライダー)を辞めろというのなら公族を辞めると大公会議で言い切ったそうです」

「当然です!

 私はもともと騎士です。

 狼騎士(ウルフライダー)は必死で頑張ってようやくなれた私の天職ですから!」

 なるほど。

 もともとアレサさんって独立独歩の人だったからな。

 政治家や官僚なんか真っ平なんだろう。

 狼騎士(ウルフライダー)も民間企業の舎員なんだけど、騎士団と一緒で自主独立の気風があるからね。

 ある程度、自分のやり方を通せるんだよ。

 しかもアレサさんは既に狼騎士(ウルフライダー)の中では古参だ。

 それなりの立場にいるのでは?

「アレサ様の職位はセルリユ興業舎の係長待遇でございますね。

 これは狼騎士(ウルフライダー)隊を率いることが出来る階級です」

 何でも知っているユマさんが教えてくれた。

 そうなんですか。

 つまり隊長か。

 そういえばヤジマ大公()の直卒で来てくれている狼騎士(ウルフライダー)隊のあの男装の麗人(ユシルド隊長)と同じ階級(クラス)だ。

 凄いじゃないですか。

「私の職位は名誉階級のようなものですので」

 アレサさんがまた落ち込んだ。

「将来、ララエ公国で編成される狼騎士(ウルフライダー)隊の指揮を任されることになっています。

 でも実際には隊長をやったこともなければ分隊の指揮を執ったことすらなく」

「いやアレサさんはシイルと一緒に狼騎士(ウルフライダー)やっていたのでは」

 やぶ蛇だった。

「私はお荷物で、皆様のお情けで何とかついて行っただけでした。

 その証拠にあの時の仲間の皆さんは最低でも課長待遇になっているのに私は」

 これはイカン。

 俺はユラン公子に目配せして急いでアレサさんを俺の馬車に連れ込んだ。

 いや別に襲おうとかじゃなくて。

 落ち着くまでここで休んで頂こうかと。

「助かります。

 アレサが落ち着くまで申し訳ありませんがお願いします」

 ユラン公子はきっちりと礼を取ると出ていった。

 逃げやがった。

 まあいいか。

 アレサさんを席に座らせると、影のようについてくれているラウネ嬢がお茶を煎れてくれた。

 助かります。

 向かい合って座る。

 しばらく会ってなかったけど、美人度が上がった?

 いや大人びて落ち着いたのか。

 前にはなかった陰というか色気も出て来ているし。

 アレサさんはお茶を飲んでから頭を下げた。

「ありがとうございます。

 何とか落ち着きました」

「それは良かった。

 大変だろうけど頑張って下さい」

 おざなりに返すと、アレサさんは恥じらうように言った。

「はい。

 でも私、これでマコトさんの配下になれたのですね。

 実はそれだけが目的でこの話(ララエの代表)をお受けしたので嬉しいです」

 そんな目的だったんですか!

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