2.ミルトバ連盟会議?
うん。
判ってないと言えば嘘になるというか、想像している事はあるんだけどね。
でもそれが正解かどうかは判らないし。
間違っているかもしれない意見なんか言いたくないからな。
「主上が間違うなどということはございません」
その信頼はどこから来るんですかオウルさん(泣)。
俺の判断なんか正しい方が少ないくらいなのに。
「もちろん、主上が無謬であるなどとは申しません。
何も間違えない者など、既に人とは言えませんからな。
ですが主上のお考えは常に正しい」
その理屈はどうよ?
アレか。
「親分が黒と言ったら白でも黒」という奴?
オウルさんって何気に暴力団とか任侠とか合いそうだもんね。
元軍人だし。
上司の命令は常に正しいとか。
「僭越ながら申し上げます」
ハマオルさんが口を挟んだ。
珍しい。
出来る限り引っ込んでいるのが習い性になっている人なのに。
「オウル様のご意見は盲信ということではなく、主殿のご判断ならどうあれ傾聴に値するということではないかと。
絶対者である主殿にただ従うだけの私とは違うと愚考致します」
「絶対者だからといって盲信しているわけではございませんが」
ユマさんが軽く続けた。
「それとは違った次元で私は我が主に絶対的な信頼をおいております。
我が主は間違えない。
これは経験則から導き出された結論でございます」
何か禅問答みたいになってきたけど、つまり俺を絶対者だと思っているお二人は盲信している臭いな。
面倒くさいなあ。
俺としては、誰かの判断に従っている方が楽なんだが。
例えばラヤ様とかユマさんとか。
「判断し、命令を下すのは主上でございます。
我等配下の者どもは従うのみ」
帝国皇太子の言うことじゃないような。
もういいや。
言えばいいんでしょう?
俺の意見というか考えとやらを。
「どうぞ」
ラヤ様のアニメ美少女声が虚しい。
「では言いますけど、つまりミルトバ連盟の定例会というか総会ですね?」
そう言うとユマさんがキラキラした瞳で俺を見た。
恍惚としてない?
「やはり我が主。
言葉もございません」
言っているけど。
「マコトなら当然です」
「なるほど。
これは凄いね」
ラヤ様とラルレーンさんが頷き合う。
てことは合っていたわけですか。
「お待ち下さい。
それは……ああ、そういうことでございますか!」
フレスカさんが叫んだ。
どういうことなんですか?
ていうか面倒くさいからフレスカさん、続きをお願いします。
オウルさんはまだよく判ってないみたいだったけど何も言わない。
するとフレスカさんが話し始めた。
「間違っていたらおっしゃって下さい。
ラヤ様の意図はマコトさんとオウル様をトルヌに送ることではなく、それによって北方諸国をまとめることでございますね?」
「合っています」
ラヤ様がぱちぱちと手を叩いた。
マジでトカゲ顔の人だということを忘れそうになるね。
俺も魔素翻訳に慣れてきているのかもしれない。
「教団の真の意図は私などには判りませんが、これによって帝国の問題は解決されます。
オウル様がミルトバ連盟の会合に出席されることで、北方諸国の代表に親善のご挨拶を行ったという状況を作れますから」
そうなんだよ。
正直言って、オウルさんたちはこれからどうすればいいのか迷っていたんだと思う。
いやフレスカさん以下官僚の人たちが。
オウルさんはあまり考えてなかったかもしれないけど。
でも、帝国皇太子の親善訪問って考えてみれば難しいんだよ。
俺がソラージュの親善大使として訪問したときとは重みが違う。
俺はあの時はたかが子爵で、しかも外交というよりはむしろ物見遊山的な訪問だったからね。
親善大使と言っても何か使命とかソラージュ外交の目的があったわけじゃないし。
だから訪問する順番なんかある意味どうでも良かったんだよ。
でも帝国皇太子は違う。
将来の帝国皇帝陛下なのだ。
ソラージュやエラ、ララエといった大国ですら国賓として迎えて色々気を配らなければならない立場だ。
訪問順についても本当は問題なんだけど、幸いにして帝国から見たソラージュ、ララエ、エラの各国はほぼ合理的な訪問順の選択が出来る位置関係にある。
まず国境を隔ててすぐ北にあるソラージュを最初に持ってくるのは当然だ。
次にララエかエラかという選択があるけど、ララエには海路で行けるからね。
もしエラを次の訪問国にしたら、結局ララエにも陸路で行くしかなくなる。
だからソラージュ、ララエ、エラの順で親善訪問した。
というわけでエラまでは順当だったんだけど。
エラやララエから北は似たり寄ったりの小国の集まりだ。
順番と言っても何通りもある上、そもそもすべての国を訪問する必要があるのかという問題もある。
悪いけど帝国皇太子がわざわざ自ら訪問する相手としては弱小国過ぎるんだよ。
例えば日本の首相が外交のためにEUに行くとして、ドイツとかフランスとかイタリアとか、そういういわゆる「列強」を訪問するのは当然だ。
そうしないと失礼になる可能性があるからな。
だけど普通の日本人だと名前どころか存在も知らないような国にいちいち行くかということだね。
そんな暇もないし理由もない。
だけど完全無視というのもちょっと角が立つ。
だから「ミルトバ連盟」だ。
「そうですね。
オウル様がミルトバ連盟の会合に参加すれば、そこには北方諸国を代表する方々が揃っていらっしゃるはずです。
しかも序列や順番といった問題もない。
本会議で演説なさった後、個別に社交なされば親善外交を行ったことになります」
フレスカさんは言い切って俺たちを見た。
ぱちぱち、とラヤ様が小さな手を叩いた。
スウォークがやるからいいけど、それ人間だったらむしろ侮辱になるのでは。
「素晴らしい」
オウルさんが深く頷いた。
副官が優秀で良かったですね。
「主上はこそまで読み切られていたか」
俺ですか(泣)。
「早速、ヤジマ大公からの親書という形で各国に連絡させて頂きます。
次回の定例会議でよろしいでしょうか」
ユマさんが強引に話を進めてきた。
それ、この場で決めるんですか?
「署名は教団と連名にしましょう。
私どもにも幾ばくかの影響力がありますから。
それにユマ。
ミルトバ連盟の定例会はまだ先です。
むしろ臨時総会の開催を依頼するということで」
開催場所はトルヌでお願いします、とラヤ様。
何か陰謀臭いぞ。
ていうかむしろスウォークに何か目的があって、そのために北方諸国を集める必要が……あれ?
「何か気がつきましたか?
マコト」
ラヤ様のアニメ美少女声が降ってくる。
楽しそうですね。
いえ、ちょっとひっかかっただけなんですが。
「何でしょうか。
言って下さい」
挑発しているのか?
みたいだな。
ラルレーンさんも笑っているし。
「開催は数ヶ月後でいいんですよね?」
「そうですね。
必要があればもっと後でも結構ですよ」
「ご案内は俺とラヤ様名義で、各国の国王陛下宛に?」
「そうなりますね」
誰も口を挟んでこない。
ヤバいよこれ。
ユマさんが楽しそう、というよりはもう歓喜の表情だ。
「さあさあマコト」
くそっ。
駄目か(泣)。
「ラヤ様。
まさか国連を作るつもりですか?」
「よく出来ました」
パネェ。




