23.再会?
みんなで一緒に出かける必要があるそうだ。
お忍びで。
オウルさんのご家族はすみませんが別行動になるそうです。
ユマさんにそう言われてオウルさんは平然と頷いた。
「もちろんだ。
つまりは政治的な事だな?」
「そうなりますね」
お互いに微笑み合う略術の戦将と帝国皇太子。
両方ともタヌキだ。
この状況だと政治以外の何者でもない気がする。
「私も同行してよろしいのでしょうか」
フレスカさんが首を傾げた。
帝国皇太子の副官なんだからいいんじゃないの?
「当然というよりは、是非お願いします。
今後の予定にも関わって参りますので」
やっぱ謀略が進行中らしい。
知りたくないので言わないで下さいね。
結局、俺とオウルさんにフレスカさん、それにユマさんといういつものメンバーになった。
もちろんハマオルさんとラウネ嬢もいる。
この二人は絶対に俺から離れないからな。
ちなみにオウルさんの方にも護衛として帝国騎士の人が何人かついているはずだけど、あまり近寄るなと言われたらしくて視界は入ってこない。
気を悪くしてない?
「あの者共も専門家でございますので」
さいですか。
色々難しいんだな。
いやむしろ簡単か。
気にしなければいいのだ。
サラリーマンは言われた事だけに専念すればいい。
下級貴族が使うような馬車にみんなで乗り込んで出かける。
周りをさりげなく似たような馬車が囲んでいるし野生動物護衛もわざとバラバラになってついてきてくれているみたいだ。
あとフレスカさんとユマさんの膝の上に乗っている猫の人が二人。
貴族女性が猫撫で用の契約者を連れているように見せかけているつもりらしいけど、不自然過ぎる。
まあ馬車の中を覗く奴もいないからいいんだけど。
しばらく走ってヤジマ商会関連施設を抜けると馬車はそのまま郊外に向かった。
同じ方向に向かう人や馬車が多い。
何かあったっけ?
「はい。
エラでも貴族から庶民まで満遍なく馴染み深い場所でございます」
あれか。
30分くらいで馬車は広い敷地に入った。
前方に巨大な建物が見える。
「教団のエリンサ大教堂でございます。
エラでは最大の拠点ですね」
ユマさんに説明して貰うまでもなく、広い駐馬車場はお参り? に来た馬車で埋まっていた。
貴族や大商人がそれだけ来ていると。
庶民は徒歩で来るのでその人たち相手の屋台や売店も並んでいる。
これだけ混雑していたら俺たちでも目立たないか。
そう思っていたんだけど、馬車は広場を大きく迂回して大教堂の裏に回った。
途中で教団の人に止められたけど、ハマオルさんが何かの符丁を見せると通してくれた。
「皆様の存在感が大きすぎますので。
群衆の中でも際だってしまいます。
よってここはお忍びで」
「判りました」
オウルさんなんか目立って仕方がないだろうな。
魔素翻訳は本人の意識に関係なく発動するからね。
マジで帝国皇太子はただ居るだけで周り中の人に意識されてしまうんだよ。
「マコトさんもです」
フレスカさんが世迷い言を言うけど無視。
馬車はその後も何度も検問を受けつつ大教堂の裏門というか裏口のエントランスに着いた。
ここまで来るともうほとんど人がいない。
野次馬も押しかけてこられないだろうね。
「では」
まず護衛馬車から降りた帝国騎士の人たちが展開し、その外側にヤジマ財団の護衛が散らばる。
それからやっと俺たちが馬車から降りた。
すぐにエントランスに迎え入れられる。
連絡が通っているらしく、エントランスには教団の執事らしい人が待ってくれていた。
「こちらへ」
護衛はここで待機らしい。
ヤジマ財団の人と帝国騎士の人たちも足止めだ。
ハマオルさんはなぜか同行を許された。
そういえば在野の教団員の資格を持っていると聞いたっけ。
俺たち4人とハマオルさんを加えた集団で廊下を進む。
かなり歩いて曲がったり上がったりしたあげく、俺たちが通されたのは結構広い部屋だった。
そういえば帝国の大教堂でも似たような場所に行ったっけ。
あの時は僧正様の集団に謁見されたんだよなあ。
今度は何が出るか。
同じでした(泣)。
扉の向こうは広い応接室で、僧正様の皆さんが思い思いの場所で寛いでいた。
やはり十人くらいいるぞ。
帝国の時は人間の子供みたいな服装だったけど、今回はローブ姿だ。
助かった。
あの時はトカゲ少年少女の集いみたいだったからなあ。
あれ、視覚的に結構きついものがあるんだよね(泣)。
「よく来てくれました。
マコト。
それに同行者の方々」
一歩進み出ておっしゃる僧正様。
聞き慣れたそのアニメ声はラヤ様ですね?
「そうですよ。
私はマコト担当ですから」
ズザッという気配がして、俺以外のみんなが背後で片膝を突いたのが判った。
帝国皇太子だろうが皇女だろうが同じだ。
やっぱ階梯的な身分差があるのか。
俺も片膝を突こうとしたらラヤ様に止められた。
「マコトは良いのですよ。
我等はマコトに帰依しているのですから」
さいですか。
後ろでオウルさんの「おおっ!」とかいう呟きが聞こえたような気がするけど無視。
とりあえずスウォークの皆様にご挨拶する。
「ヤジママコトです。
よろしくお願いします」
何をお願いするのかよく判らないけど、とりあえずそう言ってみた。
「まあ、礼儀正しい子だこと」
「君がラヤの秘蔵っ子か」
「なるほど。
これは凄い」
「後ろの者たちもなかなかだぞ」
勝手な事を言っているなあ。
僧正って結構いい加減というか、砕けた性向の人が多いんだよね。
もちろん人間並に性格の違いはあるけど、基本的には趣味人という感じだ。
ていうかそもそも人間に興味がある人しか隠れ里とやらから出てきていないという話だし。
人間じゃないんだから言われる事にいちいち反応しても始まらない。
「マコト。
この者どもに皆さんを紹介してあげて下さい」
ラヤ様に言われて俺は仲間を一人ずつ紹介していった。
「こちらがホルム帝国皇太子のオウルさんです。
それから副官のフレスカ皇女。
ララネル公爵家のユマさんに近衛騎士のハマオルさん。
皆さん、私の仲間です」
考えてみたら雑多な集団だ。
全体的にみて異様に身分が高いけど、何を目的とするどういう集団なのか全然判らん。
「オウルでございます」
「フレスカと申します」
「ユマ・ララネルでございます」
「ハマオルとお呼び下さい」
みんな余計な事は言わないな。
それにしても全員腹が据わっているというか、これだけの数のスウォークを見てもびくともしていない。
普通の人なら固まって動けなくなる所だぞ。
キリストや釈迦が大量に出てきたみたいなものだからな。
スウォークの方達は「どうも」とか「よろしく」とか、露骨に人間的な反応だった。
向こうから自己紹介はしないらしい。
やっぱあれか。
噂のヤジママコトがやってきたみたいだから一目見ておこうというわけか。
「これでよろしいでしょうか」
ラヤ様が尋ねるとスウォークの集団は頷いてゾロゾロと出ていってしまった。
やっぱ見世物役だったか。
踊りとか芸とかを要求されなくて助かった。
俺の役目は案山子で、歌って踊って芝居が出来ることまでは求められていないらしい。
「マコト。
それに皆さんも。
どうぞお掛け下さい」
ラヤ様に勧められてソファーに腰掛ける。
俺の後ろに立とうとしたハマオルさんが窘められて強制的に席につかされていた。
僧正様には逆らえません(笑)。
ところで御用とは何でしょうか?
まさかさっきのお目見えだけじゃないですよね?
「違います。
マコトに紹介したい者がいるのと、もう一つはお願いがあります」
お願いはいいとして、紹介したい人ですか?
何か合図でもあったのか、ドアが開いて人間の男が入って来た。
金髪で紫の瞳、長身細身の超絶的なイケメンだった。
北方種だ。
それも嫁に匹敵するほどの純血種と見た。
初対面だ。
これほどのイケメンと一度でも会っていたら、俺すら忘れるはずがない。
オウルさんやユマさんは無反応だったが、なぜかフレスカさんがはっと息を飲んだ。
イケメン北方種の人がフレスカさんを見て微笑む。
「ほう。
私を知っているのか?
美しい南方種のお嬢さん?」
態度までイケメン過ぎる!




