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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?

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1.昇進?

 誤解されている。

 しかも、こんがらがりすぎて、もう解消できないくらい話が進んでしまっているようだ。

 どうしてこうなったのかは判らないが、とりあえずうまくいったらしいから、まあいいか。

 無理矢理自分を納得させた俺は、ジェイルくんを伴ってギルドに行くことにした。

 何か、ラナエ嬢が報告してこいと言うもんだから。

 そんなのラナエ嬢がやればいいのに。

「ラナエ様は上司であるマコトさんに報告したわけです。

 その報告をさらに上に上げるのはマコトさんの役目だと思いますが」

 ジェイルくんの口調も、ちょっと変化しているな。

 ラナエ嬢の秘書になったからか?

「そういうわけではないのですが、今のマコトさんはギルド上級職ですから。

 それに言われるほど変えていないと思いますよ」

 そうなのか。

 まあいいや。

 それにしても、いつの間にかアレスト興業舎に班が3つも4つも出来ていて、組織や要員も決まっていたなんて、俺は全然気づかなかったけど。

「分室で独自に動いていたんですよ。

 ギルドの認可を待っていたら、とても期限までには目標を達成できないということで」

 目標とか期限とかすら、俺は知らないんだけど(泣)。

「『栄冠の空』組は前から分室に泊まり込みで働いています」

「泊まり込んで?

 宿泊施設もあるんですか?」

「はい。

 フクロオオカミ用の部屋を作った時に人間用の寮も用意したそうです。

 通いでは出来ない仕事もありますし、マコトさんの話では特にサーカスという事業は構成員が全員一緒に生活するということでしたので」

 あー。

 俺のいい加減な話のせいか。

 困るなあ。

 俺、サーカスなんか見たこともないのに。

 しかも、話したのはドリトル先生の本で読んだ事だぞ。

 あれって童話な上に、確か19世紀の話だったはずだ。

 時代的にミスマッチ……というか、むしろ合っているのか。

 いや違うか。ドリトル先生の時代って、確か蒸気機関やガス灯があったもんな。

 こっちの世界より、50年くらいは進歩していたと思う。

 まあ、どちらにしても、いいかげんな話である。ここまで暴走されたら、もう俺ではどうしようもない。

 みんなの優秀さを信じて、放置するしかないかなあ。

 サーカスが団として仕事と生活の場を共有するというのは間違っていないはずだし。

 なるようになるだろう。

 俺は顧問らしいから、あまり関係なしいね。

 優秀な人たちが何とかしてくれることを願って、優しく見守ればいいか。

 ギルドで報告すると、ハスィー様はニコニコしながら言ってくれた。

「さすがマコトさんですね。

 ラナエから聞いていますよ。

 事務方を無視して動かれるのは困りますが仕方がなかったことは判りました、と。

 でも、次からはきちんとラナエにも言ってから動いて頂きたいとのことです」

「はあ、気をつけます」

 俺が何したって言うんだよ。

 何もしてないけど。

 とは言えないので、曖昧に頷いておく。

 動くなというのなら、動かないのにやぶさかではない。

 次からは、全部ラナエ嬢に押しつけてやる。

 だが、次の瞬間、ハスィー様は斬撃を放ってきた。

「こちらでも、手続きが済みました。

 本日付でマコトさんは正式にプロジェクトの顧問を降りて、次席兼務のままアレスト興業舎の舎長代理となります。

 同時にアレナとマレも興業舎に出向になりますので、よろしくお願いいたします」

 な、なんだってーっ!

 アレナさんとマレさんが?

 じゃなくて、俺が舎長代理?

 舎長代理って言ったら、会社でいうと社長代理ではないか。ギルドが役所なら、アレスト興業舎は官庁関連団体のようなものだ。

 そのトップ、いやその次か、をやれって?

 無理無理!

 プロジェクト次席だってよく判らないのに。

 ただの相談相手だって言ったじゃないですかハスィー様?

 と思ったけど、もちろん口には出さない。

 表情には出てしまったかもしれないが。

 まあ、会社の人事だって似たようなものだしな。

 この場合は昇進に近いので、ギルド側は文句を言われる筋合いはないと思っているんだろう。

 俺は、全然そんなの求めていないのに!

「判りました。

 お受けします」

「良かった。

 わたくしが名目上の舎長ということになりますが、運営はマコトさんにお任せします。

 ご自由にやってください」

 ハスィー様、俺に丸投げ?

 顔で笑って心で泣いて、ということわざじゃなくて、そういう文章を読んだことがある。

 何かのバラエティの台詞らしかったけど。

 サラリーマンは「忍」の一字だよ、という話もあった。昭和の時代のサラリーマン小説に出てきた台詞らしい。

 茫洋とした心象風景の中を、そんな言葉が流れていった。

 いいですよ。

 俺は、こうやって何もかも乗り越えて来たんだ。

 大学入試も、道路工事のタコ部屋も、就活だって乗り越えてきた。

 異世界転移には心が折れそうになったけど。

 でも。

 今まで何とかなっていたんだし、これからも何とかなるだろう。

 無理にそう思うことにする。

 ハスィー様に礼をして、次席のデスクにつくと、アレナさんとマレさんが挨拶に来てくれた。

 人目があるので、ジェイルくんと一緒に二人を連れて、ギルドの喫茶室というか、休憩場所に移動する。

 前に、ここでジェイルくんに水を奢ってもらったったけ。

 いや奢るとは言わないか。

 改めて向かい合って、ふと気がついた。

 そういえば、この二人ってハスィー様の両腕なんじゃないのか?

 手放して、ハスィー様は大丈夫なんだろうか。

「ハスィー様は、これからはマコトさんのお仕事を後方支援するおつもりです」

 アレナさんが生真面目に答えた。

「後方支援、ですか」

「はい。

 分室が本格的に稼働するとプロジェクトの実際の活動はそちらに移ります。

 プロジェクト室で行われるのは主に上に対する報告や意見調整、後は各方面との折衝などになります。

 ハスィー様はそういった雑音をここで食い止めて、なるべくマコトさんには興業舎の活動に専念していただきたいとおっしゃってします」

 活動?

 俺がやるの?

 何を?

 相談役という話はどうなったんだろう。

 まあ、戦争やっている時に、指揮官の命令がいつまでも最初のままであるはずがない。

 戦況が変わって、俺の任務も変化したということだろうな。

 困るなあ。

 何てったって、これからはハスィー様のお顔が見られなくなってしまうではないか。

 そっちかよ!

 自分で突っ込んでいると、マレさんが明るく言った。

「大丈夫ですよ。

 私たちも出向にはなりましたが、プロジェクト室と分室との調整がありますので大半の時間はハスィー様の近くにいることになります。

 ハスィー様に何かあったら、すぐに対処できます。

 マコトさんも次席なんですから、いつでもプロジェクトに来てハスィー様とお話しすればいいんですよ」

 そうか。

 俺って次席だったっけ。

 何の役割があるのかよく判らないけど。

 俺が考え込んでいると、ジェイルくんが二人と話し始めた。

 分室のこれからの体制や、活動範囲なんかを打ち合わせるらしい。

 長くなりそうなので、俺は三人を置いてプロジェクト室に戻った。

 ハスィー様はいなかった。

 忙しそうだな。

 プロジェクト室も、知らない数人が仕事しているくらいで、閑散としている。

 仕事の重点が分室に移ったというのは、そういうことか。

 俺は次席の机の上を整理してから、行動予定の掲示板に「アレスト興業舎」と書いて、ギルドを後にした。

 特訓の成果で、俺も自分の名前や「アレスト興業舎」くらいなら、こっちの字を書けるようになったんだぜ!

 小学生低学年かよ(泣)。

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