表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第五章 俺が支配者?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

927/1008

19.物流拠点?

 俺たちの馬車が近づくにつれて、何とも言えない華やいだ雰囲気が漂ってきているのが判った。

 こっちの世界に来てからは感じたことがない、独特のイメージだ。

 日本で言うと渋谷とか表参道とか秋葉原とか、いやそのどれとも違うというか全部合わせてそれにネズミーランドを足したような。

「ほう。

 これはこれは」

 俺の隣で窓から外を見ていたオウルさんが唸った。

 混沌?

 何か色々とごちゃまぜになったような風景がそこにあった。

 もちろん俺たちの馬車の周りは護衛馬車や帝国軍の騎兵、さらに野生動物たちがびっしり取り巻いているんだけどね。

 それらとすら調和して、一種のお祭り騒ぎ的な状況が出現していたんだよ。

 普通のお店と屋敷と遊園地と倉庫街がそのまま同居しているような。

 歩いている人たちもバラバラなようでいて統一感がある。

 非日常というか。

「何と」

 ユマさんも絶句していた。

 知らなかったらしい。

「報告は受けておりましたが……甘く見ていたようでございます」

 そんな装備で大丈夫か?

「問題ございません。

 これを作り上げたのはフォムでございます」

 一瞬の狼狽から覚めたユマさんは自信満々だった。

 なるほど。

 フォムさんか。

 アレスト興業舎時代から一緒にやってきた警備隊出身のイケメンマッチョで、その経歴にもかかわらずなかなかの策謀家と聞いているけど。

 俺の北方親善旅行にヤジマ商会派遣部隊長としてついてきて、エラでの事業拡張というか推進のために残ったんだよね。

 帝国に残されたロロニア嬢と同じ役割だ。

 一応エラでの事業に区切りがついたということでソラージュに帰国して待命中じゃなかったっけ。

 確か俺が近衛騎士に叙任したよね?

 それだけの実績を上げたわけだ。

 つまり、この状況はフォムさんが意図して作り上げたものだと。

「そうでございますね。

 フォムは一風変わった性向の経営者でございます。

 自らの意図よりは環境に適応した企業経営を行うので」

 ユマさんによれば、自分(フォムさん)が意図するというよりは状況とか流れを見て、それに逆らわずにいつの間にか思い通りの状況が出来ているというような手法らしい。

 言葉は悪いけど(ぬえ)のような人だそうだ。

 だから、混沌とした勢力が入り乱れているエラ王都(エリンサ)でのヤジマ商会の事業を任せたと。

「エラは難しい土地でございます。

 領地貴族の力が強く、他国のように合弁会舎を作って取り込む、ということが困難という報告を受けておりました。

 フォムが好きなようにやらせてくれと申すものでお任せしたのですが」

 その結果がこれだと。

 でもちゃんと成果が上がっているのでは。

「それはもう。

 事業主体に割り込むのが難しいとみたフォムは流通に手を付けたと聞いております。

 野生動物を活用した交易と物流ネットワークを構築し、エラの情報と物資の流れを支配したとの報告が」

 それは凄い。

 でもなるほど。

 その結果がこれか。

 混沌としつつも活気に溢れるこの空気。

 これって多分、港町というか交易都市のそれだ。

 大量の物資と人が絶えず行き来することで金が動き、人が通り過ぎるだけで喧噪が生まれる。

 人はただ移動するだけじゃなくて飲み食いしたりどっかに泊まったりするから、その分の施設やサービスも必要になる。

 歓楽街も併設されたりして。

 そして物資流通のための広大な敷地。

 一大拠点じゃないか。

 確かにここは王都(エリンサ)の中では郊外に近いけど、よくもまあこれだけまとまった敷地を確保出来たものだね。

「これもまた……ヤジマ商会の力でございますか!」

 オウルさんが呆れたような口調で言った。

「いやはや。

 お恥ずかしい話でございますが、私はまだ主上(マコトさん)の『力』をよく理解していなかったようでございます。

 もはや仰ぎ見る事すら畏れ多いかと」

 いえ。

 俺も驚いているんでそんな遠慮は無用です。

 それにしてもフォムさん。

 アンタ凄いよ。

 何よりスゲーと思うのは、こんな状態なのにきちんと秩序だっていることだ。

 何と言うか荒れた雰囲気がないんだよね。

 活気があっても乱暴ではない。

 華やかな舞台の裏で貧困や暴力が蠢いている様子もない。

 フォムさんはもう引き上げたはずだから、その後継者の人たちがこの環境を維持していることになる。

 つまり事業を育て上げただけじゃなくて、それを維持し発展させる事が出来る人材をも育てたと。

 これはフォムさんを見誤っていたかな。

 ていうか俺がそんな事を思う事自体が畏れ多いけど。

 サラリーマンにはとても無理な仕事だ。

「そういえばフォムはすべて我が(あるじ)から学んだと言っておりました」

 ユマさんが思い出したように言った。

「自分が先頭に立って皆を率いて切り込むのではなく、一段上からあたかも水の流れを操るかのごとく周りの環境を整える。

 さすれば事業は自ずから発展するものであると。

 我が(あるじ)のその神業の一端なりと再現出来たとは思いませんが、と笑っておりました」

 そんなことを言っていたと。

 うーん。

 確かに俺、自分がみんなを率いて何かやった覚えはないかな。

 ていうか出来ないし。

 そんなリーダーシップもなければカリスマもない。

 そもそも俺、自分から何かしようと思った事ってないもんな。

 いつもみんなが勝手に動いて凄い結果を出しているだけで。

「その通りでございます」

 オウルさんがしみじみと言った。

 判ってくれましたか。

主上(マコトさん)のやりようは、まさしく君臨する方のそれでございます。

 ただそこにおられるだけで、あるべきものがあるべき場所に綺麗に収まる。

 私のごとき、自ら切り込んでいくような未熟者とは次元が違います」

 駄目だった。

 その切り込んでいく力自体、俺にはないだけなんですが(泣)。

 そもそも切り込むという発想がないし。

 でもオウルさんが切り込んだら大抵の物は真っ二つになりそうだな。

 おそらくオウルさんの行く手を阻める物なんか存在しないのでは。

「おおっ!

 そのようなご評価を!」

 オウルさんが叫んだ。

「我が本懐、ここに成れり!

 その通りでございます!

 (オウル)主上(マコトさん)の行く手を阻むすべてを粉砕するためにこの世に生を受けたと!」

 あ、これは駄目だ。

 オウルさんの中で歌劇(オペラ)が始まったらもう止まらない。

 距離を置いて沈静化を待つだけだ。

 ユマさんが微笑んでちらっと副官(フレスカさん)を見た。

 フレスカさんはため息をついて頷いてくれた。

 お任せします。

 そういうドタバタ劇を演っている間にも馬車は進んで、少し静かな場所に向かっているようだった。

 喧噪が遠ざかって行く。

 良かった。

 あの歓楽街みたいな場所で降ろされたらどうしていいのか判らないからなあ。

 そういえば俺、こっちに転移し()てからいわゆる「夜の娯楽場」には一度も近寄ってないんだよね。

 こっちの世界にはそういう場所があまりないからでもあるけど。

 魔素翻訳のせいで酔うと本音が筒抜けになってしまうから、お酒と綺麗なお姉さんがいるような店自体が少ないというかほとんどないらしいのだ。

 肉体労働派の庶民向けの酒場みたいな店はあるけど貴族や商人、あるいは人を使う立場の人は近寄らない。

 理由は言うまでもないよね。

 俺の場合、平民だった時は忙しくてそんな店に行っている暇がなかったし、近衛騎士(貴族)になった後はもちろん行く機会がなかった。

 あまり興味もないしな。

 俺、日本にいた頃からそういう店に行ったことなかったから。

 金が無かったし(泣)。

 だって俺、転移する前はペーペーのサラリーマン二年生だったんだよ!

 金がないのもそうだけど、そもそも夜そんな場所に行く余裕自体なかったから。

 精神的にも肉体的にも時間的にも。

 一番大きな原因として金銭的にも。

 よってこっちに来てからも全然接点がなくてここまで来てしまった。

 まあ参考のために一度くらいは行ってみたい気もするけど、こっちの世界では「お忍び」が難しいからね。

 本人は忍んでいるつもりでも周囲にはバレバレで生暖かく合わせてくれているのがほとんどだ。

 そんな状態でお酒とお姉さんのいる店なんかに行けるはず、ないでしょう!

 ていうか別に期待していたわけでは。

「そろそろ到着でございます」

 ユマさんが言った。

 妄想に走っていた事は不問にしてくれるらしい。

 フレスカさんと一緒に何か議論していたオウルさんが俺の側に来た。

「これは……なるほど。

 受け入れ準備が出来ているということでございますか」

 そこは広大な広場というか物流拠点だった。

 遙か遠くに巨大な倉庫が連なり、だだっ広い平地には無数と言っていい馬車とか荷馬車が並んでいる。

 アレスト市の大商人であるマルトさんの物流拠点がこんな感じだったっけ。

 規模が全然違うけど。

 つまり、大量の物資と馬の人たちを収容する建物があり、ついでにそこで働いたり通り過ぎたりする人たち用の宿泊施設も準備されているわけね。

「俺たちもここに泊まるんですか?」

 思わず聞いてしまった。

 いや、だって何か懐かしくて。

 俺、転移してからしばらくはマルト商会の木賃宿みたいな所で暮らしていたからな。

「お戯れを」

 ユマさんの視線は冷たかった。

「ソラージュ王国大公殿下とホルム帝国皇太子殿下のご一家がお泊まりになる宿舎(ホテル)がこのような場所には存在しようはずがございません」

 ご免なさい(泣)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ