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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第五章 俺が支配者?

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5.被災地?

 魔王の顕現場所に着いたのは3日後だった。

 ていうか最後の一日なんか街道があちこち崩れていたり寸断されていて足止めを食ったんだよね。

 場合によっては道を補修してから進む必要があった。

 俺たちは大型の馬車に荷馬車の集団なので速度が出せなくてそのくらいかかったということなんだけど、先行部隊はとっくに到着して活動開始していたらしい。

 そこは山間の谷間みたいなところだった。

 あっちこっちに崖崩れや地滑りの跡が見える。

 粗末な家が半壊状態で並んでいたりして、相当酷い被害が出たようだ。

 ララエ公国の騎士団団長だという立派な制服の人がやってきて報告してくれた。

 制服は立派なんだけど泥だらけであちこち裂けていたりして。

 戦争でもしたんですか?

「倒壊した家屋などから瓦礫を除いておりました。

 掘ったり運んだりと仕事が山積みです」

 中年に差し掛かった団長さんはぶっきらぼうに言った。

 荒っぽいな。

 俺、一応ララエの名誉大公なんですが。

「承知しております。

 今回のご助力、誠にありがとうございました。

 事前の警告とその後の的確な指示がなければ我々はまだ現地(ここ)には到達してすらいなかったでしょう」

 頭を下げてくる。

 さすがは独立業者。

 そう、ララエの騎士団ってお役人じゃないんだよね。

 個人事業者というか会舎というか、むしろ冒険者の大規模パーティかクランみたいなものなのだ。

 傭兵団と違うのは、特定地域で長期活動していることだ。

 雇用主は基本的に大公領政府。

 だから俺たちとは雇用関係にはないわけで、組織が違えば上下関係はなくなる。

 こっちの組織的な身分は考慮されなくなるというか。

 まあ、本来無関係なオウルさんやユマさんはいいとしても、俺はララエの最高位身分だから失礼なことはしてこない。

 かといって必要以上の敬意も払わないわけで。

 アレサ公女を平騎士として使っていた騎士団があったくらいだからな。

 そこら辺は徹底している。

 でも同行してくれていた大公領政府の人が「ヤジマ財団(俺たち)はボランティアだけど公国政府の承認を得ている」と言ってくれたので口調が丁寧になった。

 逆に言えばそう明言されるまでは無関係の第三者的に扱っていたと。

 ここまで徹底していると逆に清々しいよね。

「申し訳ございませんでした。

 ヤジマ名誉大公殿下」

「いえ。

 当然のことです」

 それから空き地に臨時に設営されている騎士団本部? のテントで状況説明を受けた。

 ここで魔王の被害対処に当たっているのはムナラート騎士団といって、大公領府と継続雇用契約を結んでいる老舗の騎士団なのだそうだ。

 騎士団長はサレンさん。

 全員がここにいるわけではなく、全部で3カ所の被災地に分散して派遣されているという。

「魔王の顕現については警告を受けてまして、当然その後始末も我々の任務と心得ていたのですが、今回は具体的な地点を指定されてそこで待機することと命令されました」

 騎士団長さんは半信半疑ながら大公領府からの指示に従って指定された地点でキャンプを張っていたらしい。

 すると大地の咆吼(地震)が発生した。

 とりあえず出発の準備を整えて待っていたら、巨大な鳥が命令書を運んできたそうだ。

「予め警告を受けていたので素直に従えましたが、何も知らずにいたら射ていたかもしれません」

「命令書には何と?」

「我が騎士団が向かうべき場所が示されておりました。

 行ってどうすると思いましたが命令通りに出発すると、その後も次々に指令が届いて」

 なるほど。

 いかにもユマさんらしいけど、作戦が進行中に情報を集めて騎士団に役目を割り振っていったんだろうな。

 ボトムアップ方式で全体を指揮していたわけだ。

 例えばABCと3つの地点があったとして、初期の情報ではその辺りに魔王が顕現したとしか判らなかったとする。

 騎士団が待機している場所から3つの地点はそれぞれかなり離れているけど、途中までは同じ方向だ。

 その場合、とりあえず騎士団を出発させてしまう。

 そして情報が入るに従って順次詳しい指示を送ると。

 凄い発想だけど、これってヤジマ航空警備(エアガード)だか何だかの存在が前提だよね。

 もっと言えば狼騎士(ウルフライダー)隊みたいな強行偵察部隊がいての話でもある。

 鳥の偵察である程度の目星をつけて、狼騎士(ウルフライダー)が現地に急行して確認するわけだ。

 その情報(データ)は鳥の伝令で司令部に伝えられる。

 ユマさんたちは情報(データ)に基づいて随時指令を発して微調整していくと。

 凄いじゃないですか!

 機械的な手段なしでここまでやれるとは。

「まったくでございます。

 これまでとは騎士団(我々)の運用概念が違います。

 魔王顕現から2日で現場に到着出来ましたからな」

 何といったかの騎士団長さんが感嘆した表情で言ったんだけど、ユマさんは不満そうだった。

「付け焼き刃で混乱が多発しています。

 無念でございます」

 そうなの?

 うまくいっているように見えますが。

「そうですな。

 迅速に現場に到達出来たのは良いのですが、瓦礫を片付けたり怪我人を治療したりする道具(ツール)や技能が不足しています。

 瓦礫の撤去も手で行っている次第で」

 それで泥だらけなのか。

 確かに騎士団がやる仕事じゃない気がするけど。

「いえ。

 こういった作業も我々の担当なのですが装備が揃っておりません。

 土木作業を行うことが判っていれば、それなりの準備をしてきたのですが」

 無念そうな表情だった。

 なるほど。

 ララエの騎士団は警備隊に近い機能を持っているみたいだからな。

 おそらく任務ごとに部隊の装備を換装するんだろう。

 そういえばソラージュの中央騎士団だって任務によって部隊構成や装備を変えていたからね。

 ユマさんの「付け焼き刃」ってそのことか。

「だが充分役に立っているのではないのか」

 ずっと黙っていたオウルさんが口を挟んだ。

「必ずしも常に万全な状態で任務を遂行できるわけではあるまい。

 今現在出来ることをできる限り行えば良い。

 そして貴君とその配下の者どもは上手くやっているように見えるが」

 何と言ったかの騎士団長さんは最初胡散臭げにオウルさんを見たけど、突然目を見開いて気をつけの姿勢になった。

「失礼致します!

 貴方は?」

「こちらはホルム帝国より視察においでになったオウル様です」

 ユマさんが紹介すると団長さんはバネ仕掛けのような動作で敬礼した。

「申し訳ございません!

 ムナラート騎士団長サレンと申します!

 オウル閣下!」

 あー。

 誤解したな。

 オウルさんは帝国皇太子だから殿下なんだよね。

 ユマさんは肩書き抜きで紹介したんだけど、騎士団長(サレン)さんはオウルさん自身を見て「閣下」だと思ったと。

 「閣下」は現場における最高位の敬称だ。

 つまり身分じゃなくて能力を感じ取って判断したな。

 確かにオウルさんは帝国軍の退役大佐だから元閣下なんだけど、まさか帝国皇太子だとは思わなかったらしい。

 いやオウルさんは帝国皇族だから皇太子抜きでも殿下か。

 まあいいか。

 忙しい騎士団長さんをあまり長い間拘束出来ないと言う事で、とりあえず仕事に戻って貰った。

 ユマさんが荷馬車で持ち込んだ装備について伝えると騎士団長さんは大喜びだった。

 瓦礫の撤去作業が段違いに捗るそうだ。

 それが仕事ですか?

「先行した野生動物部隊が生存者が埋まっている場所を特定したそうです。

 そこを最優先で掘っていると」

 ユマさんが教えてくれた。

 なるほど。

 地球でも災害救助犬とかが被害者を捜すからな。

 こっちの野生動物は口がきけるから能率も段違いだろう。

 頭も良いし。

 俺とオウルさん、フレスカさんは一渡りその場所を見て回ったけど、地震というよりは地滑りとか崖崩れでの被害が多いようだった。

 山津波でも起きていたら村落ごと壊滅していたかもしれない。

 まだ時々余震が起きるから危ないし。

 少し開けた場所には被災者たちが集められていた。

 騎士団の人たちも頑張ったらしい。

 あり合わせの材料で難民キャンプが作られていた。

 俺たちが運んできた装備が降ろされて大テントが張られる。

 それとは別に急造の炊事場が作られて炊き出しが始まっていた。

 そこまでやって初めて災害救助なんだよね。

 でも残念ながら騎士団の通常装備にはそれらの資材が入ってなかったと。

 ユマさんがテストだと言った理由が判った。

 今回は何もかも試行錯誤だったんだろう。

 ララエ公国政府の動きも遅かったし、多分予算その他の関係で充分な準備も出来なかったはずだ。

 ヤジマ財団は今のところ他国について何の権限もないからね。

 主体となって動けるわけじゃない。

 だから支援程度の事しかできなかった。

「ですが私に言わせれば驚異的な救助活動でございます。

 ララエの底力は大したものですな。

 帝国ですとこうは参りません」

 オウルさんは悔しそうだった。

 帝国は独立国の集まりみたいなものだからね。

 領地に入る事自体が難しい。

 ていうか領主がおいそれとは入領許可を出さない。

 それどころか他領や帝国政府・州政府からの援助を断ってくる可能性すらある。

 メンツに関わるとかで。

「何か方法を考える必要がございますな」

「そうですね。

 領地や国を越えた救難対応組織を作るしかないかも」

 失敗(しま)った。

 うっかり口走ってしまった。

 皆さんが一斉に俺を見る。

「「そこの所をもっと詳しく!」」

 またかよ(泣)。

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