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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第四章 俺が勇者?

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21.罠?

「確かに承りました。

 尚、経費については別途請求させて頂きます」

 言ってやると大公の何人かが微妙に動揺した。

 甘いんだよ。

 俺は商売人(サラリーマン)だよ?

 ただ働きなんかするはずないでしょう。

 ヤジマ商会が動くということは当然経費が発生する。

 その負担はララエに負って貰わないとね。

 だってララエ公国の問題なんだし。

「それはもちろんじゃな」

 ホト大公は平然と言った。

 やっぱ役者が違うわ。

 ナルなんかは苦笑いしていたけど、この人も切れ者だからね。

 当然そういう展開は予期していたはずだ。

 ここで経費はこっち持ちで、とか言ったら俺への貸しがチャラになるもんね。

「では。

 公国政府には通達しておく」

「判りました」

 後はジェイルくんなりラナエ嬢なりがどうとでもするだろう。

 言っちゃ悪いけど大公会議もララエ公国政府も統治者や政治家・役人であって商人じゃない。

 ララエが商業国家であるのとは関係なく、商売に関する交渉事には不向きのはずだ。

 ユマさんにあまりぼらないように言っておかないとね。

「ではララエ(こちら)からのお願いなんだが」

 ええと、確かカリス大公(さん)が言った。

 ツス領の大公でアレサ公女(さん)の従兄弟だったっけ。

 だから覚えていたりして(泣)。

 今はこの人が大公会議の交渉人(スポークスマン)か。

「もちろんマコト殿なら判っているだろうが魔王対策だ。

 公国政府だけではとても手が回らん。

 サレステ興業舎にも出来るだけ協力して貰っているが焼け石に水でな」

 そうだろうね。

 報告は受けている。

 ええと、サレステ興業舎から魔王(災害)対策に特化した部門を独立させたんだっけ。

 ララエ公国の出資で。

 サレステ防災舎と言ったか。

 レムルさんがその舎長に就任したことは知っているんだけど、現場は大混乱だそうだ。

 無理ないよ。

 だって支援体制が全然整っていないらしいのだ。

 これはララエ公国の特殊な政治体制が障害になっているからだろう。

 絶対君主制じゃないから上意下達が弱いんだよ。

 公国政府自体も色々な意見や方針があるし、そもそも大公領は独立国みたいなもんだからね。

 大公会議は示唆(サジェッション)することしか出来ない。

 レムルさん、苦労しているんだろうなあ。

 そもそもレムルさん(キーマン)がサレステ防災舎に引き抜かれたことでサレステ興業舎やララエ公国政府の野生動物対策がなおざりになってしまっているんだろうし。

 だから俺は言った。

「了解しました。

 ヤジマ財団が対応させて頂きます」

 静まりかえる大公会議。

 さすがに予想はしていなかったらしい。

 でもヤジマ財団ってそのために作られたみたいだからね。

 俺の命令で(泣)。

 ソラージュだのララエだのは関係ないんだよ。

「それは……全面的に協力して貰えると?」

「はい。

 ただしヤジマ財団は活動を開始したばかりですので、必ずしも完璧(パーフェクト)な対処が出来るとは限りませんが」

「それは当然だ。

 いやありがたい。

 当然経費は負担させて頂く」

 さすがはカリス大公(さん)

 あっという間に立ち直ったな。

 だけど経費をララエが負担するのは当然だからね?

 それでもヤジマ財団はボランティアみたいなものだ。

 請求しようがない間接経費も膨大になるだろうし、そもそも国家事業規模だからな。

 とても私企業が賄える額じゃない。

 いやヤジマ財団なら多分余裕で可能だけど。

「やれやれ。

 さすがはマコト殿だな」

「まったくだ。

 悩んでいたのが馬鹿のようだ」

「だから言ったでしょう。

 マコト殿に任せておけばすべて大丈夫だと」

 早速勝手な論評が飛び交っているけど別に聞きたくない。

 もう帰っていいですか?

「いや。

 ララエの名誉大公としてもう一働きして頂きたい」

 さいですか。

 今度は何?

 すると何か合図でもあったのかドアが開いて給仕やメイドの人たちが入って来た。

 お茶のセットが配膳される。

 それに伴って大公の方々が席を立った。

 椅子を自ら移動させている?

 そんなことを自分でするんですか?

「大公なんぞやっていると運動不足でな」

「機会があれば動くようにしている。

 ほれ、マコト殿も立った立った」

 椅子の間隔が狭められると空いた場所に新しい椅子が備え付けられた。

 円卓だから出来る芸当だな。

 客でも来るんでしょうか。

 ていうか大公会議室をそんなことのために使っていいんですか?

「禁止はされとらんよ」

「この会議室はある意味、我が国(ララエ)の中核と言える。

 そこに人を招くということの意味がマコト殿なら判るであろう?」

 マコト殿がここに居るのがその証拠だな、と誰かが言った。

 なるほどね。

 現在の状況で大公会議に客を招くとしたら一人しかいない。

 最高の栄誉だ。

 日本で言うと外国の要人を天皇陛下が皇居に招いてもてなすようなものか。

 いやもっとだ。

 執務室(プライベート)で接待するくらいの待遇だぞ。

 俺もそれをやられているわけだけど(泣)。

 俺とナル大公の間にもう一脚の椅子が置かれ、その前にお茶がセットされる。

「お呼びしてくれ」

 ホト大公の言葉に執事らしい人が頭を下げてドアから出ていった。

 しばらくしてノックの音。

「ホルム帝国オウル皇太子殿下がおいでになりました」

「お通しするように」

 ドアというよりは重厚な扉が開いて凄い存在感(カリスマ)が入って来た。

 ビリビリくるほどなんだよ。

 まさに支配者の器。

 帝国皇太子(オウルさん)は鋭すぎる目で大公会議を見回す。

 俺と目が合った途端に厳格なムードが胡散した。

 一瞬、顔に純粋な喜びの表情が走ったような。

 判り易すぎでしょう!

 すぐに厳格な表情に戻ったオウルさんが少し足を引いて頭を下げる。

「ホルム帝国皇太子、オウル・ホルムでございます。

 ララエ大公国連邦大公会議に敬意を表させて頂きます」

 なるほど。

 帝国を代表して敢えて後ろの名前は省いたか。

 カリス大公(さん)が返す。

「よう参られた。

 大公会議は御身を歓迎する。

 さ、席に着かれよ」

「それでは失礼して」

 オウルさんはまっすぐ円卓に歩み寄ってくると、堂々と空いている椅子に事を降ろした。

 執事の人が椅子を引く間もなかった。

 何ともはや凄い。

 大公の人たちが苦笑したり頷いたりしている。

 そういえば謁見はもう済んでいるはずだから両者とも知り合いなんだよね。

 オウルさんが席に落ち着くとホト大公が何気ない口調で語りかけた。

「今までヤジマ名誉大公と喫緊の課題について話していたところでな」

「ほう?

 あの件でございますか」

 オウルさんも悠々たるものだ。

 大公会議もいつもの芸人(タヌキ)から転じてシリアスなムードになっている。

 ある意味、これってララエ公国と帝国のトップ会談なんだよね。

 ここで何か決まればそれは歴史に残る。

 凄い場に立ち会っちゃったなあ。

「ヤジマ名誉大公は快諾してくれた。

 オウル殿はどうお考えかな?」

 ストレート過ぎる!

 まあオウルさんに腹芸は通じないんだけどね。

 でもこれって俺を人質に取って帝国を脅しているようなものなのでは。

 もちろんオウルさんは判っている。

 渋く微笑みながら応えた。

ヤジマ大公(マコトさん)がお決めになったことでしたら、私は従うだけです。

 帝国皇太子として誓いましょう」

 言っちゃっていいの?

「もちろんでございます。

 むしろ心配なのはヤジマ大公(マコトさん)が我が力を必要とするかどうかですが」

「どうかな?

 ヤジマ名誉大公」

 ホト大公(さん)が投げてきた。

 しょうがない。

 巻き込むしかないよね。

「ホルム帝国の助力を大いに期待しております。

 オウル殿」

 大公会議の皆さん、その表情はせめて隠すべきだと思いませんか?

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