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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?

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20.アレスト興業舎?

 ビジネスランチの翌日、ハスィー様は早速俺からの推薦があったということでラナエ・ミクファール侯爵令嬢の雇用を発表した。

 プロジェクトというかギルドではなくギルドが出資して設立した『アレスト興業舎』の舎員としての雇用である。

 いつそんなものが設立されていたのかと思ったが、どうもアレナさんやマレさんがプロジェクト開始当初から進めていたらしい。

 さすがプロだなあ。

 『アレスト興業舎』はギルド調整局傘下の民間団体で100%の資金をギルドが出資する。

 日本でもよくある、いわいる天下り団体という奴だ。

 ギルドが直接は出来ない事業、例えばサーカスなんかを運営するためのカモフラージュ団体で俺はプロジェクト次席と兼務でここの顧問ということにされた。

 というか、ずっと顧問だったらしい。

 俺が知らなかっただけで。

 いや何かの顧問ということは聞いていたけど。

 まあいい。

 ラナエ嬢は事務部門のトップという立場だ。

 まあ部長かな。

 予算関係はギルドのマレさんが兼任するが、それを除く現場以外のすべての活動はラナエ嬢が取り仕切ることになる。

 俺は顧問だけど、それ以前にプロジェクト「あの丘の向こう」の次席なのでラナエ嬢の上司ということになるらしい。

 ちなみに興業舎の舎長はとりあえずハスィー様が兼任する。

 といっても名目上で実際にはそのうちに舎長代理が任命されるということだった。

 ラナエ嬢はプロジェクトの部屋にもあのフリフリのドレススカート姿で現れて、みんなの度肝を抜いた。

 もっとも侯爵令嬢でハスィー様の同窓生、そしてかつての王妃候補だったことが噂となって駆け抜けると、誰も疑問に思わなくなったようだった。

 何せ貴族だから、ということで。

 アレスト市やギルド支部には、あまり貴族の人っていないんだよね。

 アレスト市が辺境の小領であることが関係しているけど、むしろアレスト伯爵以下のご家族が王都に滞在していてハスィー様しかいらっしゃらないことが原因のようだ。

 貴族は大抵の場合貴族と交際したり交渉したりするわけで、アレスト伯爵がいない以上、アレスト市に来ても貴族としてはやることがない。

 だから貴族の方たちは寄りつかないらしい。

 たまにハスィー様への求婚目的でやってくる貴族のぼんぼんがいるらしいが、そんな無謀かつ考え無しは希だ。

 というのは、あの後でラナエ嬢に教えて貰ったのだがハスィー様のスキャンダルというのは王太子殿下がらみらしいのだ。

 つまり王太子殿下はハスィー様にまだ未練たらたらだというんだよね。

 王妃候補から正式に外れた以上、王太子としても表だってアタックすることは出来ないのだが、それでもハスィー様がみすみす他の男のものになるのを黙って見過ごすとは思えない。

 現実的に何ができるということもないのだが例えばハスィー様を妻にした男に対しては王太子側から色々と圧力がかかることが考えられる。

 王太子でいるうちはまだいいが、王太子はいずれ王様になるわけで、その時点でハスィー様の夫は自国のトップに睨まれる立場になるわけだ。

 そんな悪条件を承知でハスィー様に求婚する貴族の男は、あんまりいないのは当然だろう。

 たまにはいるらしいけど。

 馬鹿とは限らない。

 自分の妻にしておいて王太子が即位したら献上しようと考える奴もいるとか。

 ハスィー様がそんな手に乗るはずもないけど。

 とにかく王太子がハスィー様にどれほど執着しているのか判らない以上、現時点ではリスクが読めなくてうかつに動けないということは本当のようだった。

 だから絶世の美女でエルフな上に伯爵令嬢、さらに言えば適齢期のハスィー様が独り身でいられるわけで、実はかなり危ういバランスの上に立っているらしい。

 また実際問題として王太子が即位した場合、下手するとハスィー様に側妃になるように命令が下ることも考えられる。

 アレスト家は伯爵だから身分からいっても側妃はあながち間違いではない。

 もっとも、伯爵令嬢なら正妃になっておかしくないらしいけどね。

 ただ現時点での正妃候補からは外れてしまっているので、王太子がいくら頑張っても今更ハスィー様を正妃にするのは無理だそうだ。

 他の貴族が黙っていないだろうし。

 従ってもし即位した王太子が強硬手段に出た場合、下手すると国を割るような事態にまで至ってしまう可能性もある。

 というわけでハスィー様もある意味結構危ない立場にいることになる。

 王太子が即位する前に求婚を撥ねつけるだけの地位を築くとかしないと将来どうなるのか判らないわけだ。

 いっそ外国のどこかに嫁に行くという手もあるけど、そんなことが出来る性格ならそもそも王太子とトラブルにはならないわけで。

 頭が痛い問題だということだった。

 ハスィー様は今のところそんな問題はないという態度を崩していないので、外野がどうのこうの言うことは失礼だろう。

 いずれにしても王様がいきなり崩御でもしない限り、王太子が即位するにはあと最低でも5年くらいかかるらしいので、とりあえずこの問題は置いておくことになっているらしい。

 ハスィー様といいラナエ嬢といい、貴族ってのは面倒だなあ。

 それはともかくラナエ嬢は掘り出し物だった。

 ギルドのプロジェクト室で挨拶したその足で分室に行くと、みんなを集めて着任宣言してそのまま働き始めた。

 本当に17歳なのだろうか。

 まあハスィー様と同い年なんだけど。

 ハスィー様があれほど有能なんだから確かにその親友、いや同志であるラナエ嬢も同程度には出来て不思議はないかもしれない。

 あのお二人って自分と同レベルじゃないと相手を認めない雰囲気があるからな。

 それにしてはお二人とも俺を認めているというのがおかしいけど。

 『学校』で二人が浮いていたのは、ひょっとしたら出来すぎたせいもあるのかもしれないな。

 いくらなんでも王太子のために集められた貴族の子弟全員があれほど切れるということはなかろう。

 ハスィー様はもちろんラナエ嬢が外されたのも、有能すぎる次世代の女性が現体制に嫌われたからだという可能性もあるな。

 そんな訳でラナエ嬢はアレスト興業舎で働き始め、たちまちそこの主として君臨してしまった。

 しばらくしたある日、俺が出勤すると寄ってきて言った。

「マコトさん、少しよろしいでしょうか」

「あ、はい。

 何か?」

「これまでの進捗状況とこれからの短期計画について予備報告させていただきたいのですが」

 ラナエ嬢、マジでサラリーマンに成りきっている!

 王都にあった臨時の『学校』って物凄い教育機関だったのかも。

 たった3年間で何も知らない貴族の子弟を、ここまで育て上げたのだ。

 そこら辺の専門学校の比じゃないぞ。

「判りました。

 では会議室で」

 事務室の隣を仕切ってちょっとしたスペースを作っただけの場所だが、分室なんかまあこんなもんだよね。

 予算がまだ下りてないのだ。

 古ぼけた机について俺がそれらしく報告を受ける体勢を取ると、ラナエ嬢は書類をめくりながら話し始めた。

「プロジェクトの最初の計画であるサーカス班、護衛班、郵便班の3タスクについては初期設定が終了しました。

 実験ということで、まずはそれぞれ雛形を作って期限を切って運用することになります」

「はあ」

「それで、ですね」

 ラナエ嬢は、ジロッと俺を見た。

「実験部隊の根幹であるフクロオオカミは揃いましたが、人間側の準備はどうなっているのかお聞きしてもよろしいですか?」

 え?

 それ、俺の責任?

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