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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第四章 俺が勇者?

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15.帰還?

 サレステ港は久しぶりだった。

 セルリユ港でもそうだったけど、俺が離れた時より交通量? が格段に増えたらしくて沖合でしばらく待たされた。

「ヤジマ海洋警備の協力で海豚の水先案内業が導入されておりますが、まだ順調に稼働しているとは言い難く」

 乗り込んできた水先案内の人が謝るように言った。

 そうなのか。

 後ろに控えている「アレスト」の船長さんを振り返ると深刻な表情で頷かれた。

 何て名前だったっけ。

(ツワナ船長でございます)

 ハマオルさんの遠当ての術が嬉しい。

「というと?」

「そもそもセルリユ港の場合は御身(ヤジマ大公殿下)のお膝元ということで、海洋生物たちも最初から協力的であったわけでございます。

 セルリユでは野生動物会議も定期的に開催されておるそうでございますから。

 しかしサレステでは」

 なるほど。

 ソラージュ王都(セルリユ)の海豚って俺と知り合う前からオランダリ商会などを通じて人間と交流があったからな。

 こっちの海豚たちもそれなりに人間社会に馴染んではいるらしいけど、すぐに水先案内協会と共同作業にかかれるほどではなかったんだろうね。

「判りました。

 俺の方から言っておきます」

 そう言うと水先案内の人は片膝を突いて頭を下げた。

「お心のままに。

 ヤジマ名誉大公殿下」

 ララエ公国(こっち)ではそうなるのか。

 ソラージュでも大公だから俺にしてみれば同じだけど。

 でもララエ公国の人たちから見たら俺って「外国から久々に帰国したララエの名誉大公」という認識になるらしい。

 外国(ソラージュ)人じゃないのだ。

 何かまたややこしいことになりそうだけど無視。

 そんなのにいちいち関わっていたら話が進まないよね。

 しばらくすると海豚を先頭に大型のボートが近寄って来た。

「許可が出ました。

 このまま入港します」

 ツワナさんの言葉と同時に「アレスト」が動き出す。

 鯨の艦隊が潮を吹きながら離れて行くのが見えた。

 あの(くじら)たちは別の場所にある停泊所みたいな所に行くそうだ。

 サレステ港にも鯨劇場があるんだけど、そこに出演できる鯨は限られている。

 群れの中でも選ばれた数人だけらしい。

 その(くじら)たちが歌っている間、残りの(くじら)たちは湾外に設けられた専用施設に行って背中を掃除して貰ったりするという。

 「鯨類背中清掃サービス」はララエ公国が発祥なんだよね。

 ヤジマ商会の資金で専門会舎が作られたんだけど、最初はセルリユ興業舎からの出向者がやっていたそうだ。

 そもそもは俺が鯨の人たちと話している間に口走った思いつきから始まったので、最初は採算無視のボランティアみたいなものだった。

 そのうちに口コミで利用者(鯨の群れ)が殺到してくるようになって、ヤジマ商会が本格的に事業に参入したと。

 この時点ではまだ鯨の人たちの支払い能力が疑問視されていたんだけど、ヤジマ警備の誰かが海上警備艦隊を作ればいいじゃない、とか言い出して。

 あっという間に鯨が組織化されていったと報告を受けた覚えがある。

 俺には関係ないと思ってスルーしたけど。

 でも俺の所に回ってくる事業報告書には鯨関係事業は急速に黒字化されてしかもどんどん発展しているとあったからなあ。

 鯨公演周遊(ディナークルーズ)とか色々やっているみたいだし。

 気にしてなかったんだけど。

 ユマさんを呼んで貰って話したら、やはり既に動いていた。

「ララエだけではなく、北方諸国や帝国を含む海臨都市で事業会舎を立ち上げています。

 水先案内業と鯨海上護衛、および鯨公演をセットにして売り込み中とのことでございます。

 幸いどちら様からもご好評で、順調に推移しているとラナエが申しておりました。

 我が(あるじ)

 さいですか。

 俺の知らない所で色々動いているらしい。

 ラナエ嬢とユマさんは直通回線(ホットライン)で繋がっているんだろうな。

 多分ユマさんは未だにヤジマ商会の戦略部門を裏で指揮しているとみた。

 というよりは顧問か。

 ヤジマ商会の株主(ヤジマ財団)の立場から色々動かしているんだろう。

 俺、好きにやっていいって言っちゃったからね。

 別にいいんだけど。

 「アレスト」は護衛船に囲まれて桟橋に近づいていた。

 帝国海軍の御座船は既に離れた桟橋に入港していて歓迎の楽隊演奏(ブラスバンド)が聞こえてくる。

 オウルさんたちはあっちだ。

 帝国皇太子の公式なララエ公国親善訪問なんだよ。

 だからララエ公国政府の注意は向こうに集中しているはずで、俺たちはその間に上陸する手筈になっている。

 言わば帝国皇太子を囮に使ったわけで、あまりにも不敬だと周り中が渋い顔をしたけど、オウルさんは上機嫌だった。

 やっと俺の役に立てると言って。

 皇太子がいいと言っているんだからその他の人たちに逆らえるはずがない。

 というわけで「アレスト」はかなり離れた目立たない桟橋に着いたわけなんだけど。

 やはり楽隊が居ました(泣)。

 ブカブカドンドンと、それでも控えめな演奏が響く中を下船する。

 儀仗兵に囲まれて立っていたのは見覚えがある人だった。

 ていうかユラン公子殿下(さん)じゃないか!

 野生動物対策担当の切れ者だったはずなのに。

 そのユラン公子は俺の前に立つと片膝を突いた。

「ヤジマ名誉大公殿下。

 ご帰還をお慶び申し上げます」

 そう来る?

 しょうがない。

「ユラン・タラノ公子。

 お立ち下さい」

「は」

 ようやく正対出来る。

 あいかわらずイケメンだ。

 切れ者でもある。

 ララエ公国政府から野生動物の集合事件対処を任されたくらいだからね。

「お久しぶりですね」

「は。

 ヤジマ名誉大公殿下もご健勝で何よりでございます」

 堅いな。

 俺は後ろに控えていたユマさんやラウネ嬢を紹介した。

 二人とも初対面だよね?

 ハマオルさんとは旧知の仲(違)のはずだけど。

「それではご案内させて頂きます」

 驚いた事に用意されていたのは明らかに俺の愛用馬車と同規格の大型馬車だった。

「これは?」

「ソラージュから輸入致しました。

 ヤジマ名誉大公殿下がご使用になられているのを見て、我が公国政府や領主たちも欲しがりまして。

 国内でも近々ライセンス生産が始まるはずです」

 ユラン公子が説明してくれたけど、明らかにヤジマ商会が絡んでいるな。

 サレステ興業舎はヤジマ商会の子会舎だからね。

 筒抜けだ。

 まあいい。

「そういえば帝国皇太子(オウルさん)が親善訪問したはずなんですが、そちらはいいんですか?」

「レナルディ大公以下要人が出迎えています。

 おかげで私のような者にもヤジマ名誉大公殿下をお迎えするチャンスが回ってきたわけで」

 満面の笑みを浮かべるユランさん。

 この人、多分次のタラノ大公のはずなんだよね。

 なるほど。

 大公会議はこうやってバランスを取ったか。

 俺はララエ公国においては身分の最高位である大公と同格なんだけど、同時にソラージュや帝国の身分も持っている。

 だから本当を言えばオウルさんと一緒に歓待するべきなのかもしれないが、自国の名誉大公が帰還したのを公式に歓迎するというのも変だ。

 俺の希望もあって歓迎式典はやらないことになったんだけど、その代わりにララエにおいては大公に継ぐ高位身分である公子を迎えに寄越したんだろうな。

 しかもただの公子じゃなくて、ユランさんは俺と旧知な上に有力な次期大公候補だ。

 これによって釣り合い(バランス)が保たれる。

 相変わらず狡猾だな大公会議。

 まあいい。

「どこに行くんですか?」

 聞いてみたらユマさんが答えた。

「ひとまずはソラージュの臨時親善大使館、ではなくてヤジマ男爵領に向かいます。

 ヤジマ名誉大公殿下の居城はそこと聞いておりますので」

 私もまだ見たことがございませんので楽しみです、とユマさん。

 そんなユマさんをユラン公子は興味深げに見つめていた。

 ちなみにララエにおけるユマさんの肩書きは「ヤジマ無地大公代行」だ。

 この場合の「無地大公」はソラージュの爵位だけど、領地を持っていないので身分的にはララエの大公に準ずるくらいか。

 ララエの大公は統治者だからね。

 つまりヤジマ無地大公代行はユラン公子とほぼ同格。

 ララエ側にもソラージュ(こっち)の情報はわたっているはずだから、それはユマさんには興味津々だよね。

 だってヤジマ商会の頭脳(世界の支配者)なんだし。

「ユラン公子殿下はどうします?」

 聞いてみた。

「私はヤジマ名誉大公殿下の送迎役ですので。

 この後は大公会議に報告しなければなりません」

 律儀に答えるユラン公子(さん)

 うーん。

 真面目過ぎるのでは。

 あのおちゃらけた大公会議に入ってうまくやっていけるだろうか。

 ちょっと心配になるよね。

「父上からは何も言われておりませんので」

 意外にもユラン公子は肩を竦めて言った。

「私もどちらかと言えばなりたくはありませんが、こういう問題は自分の意志に関係なく決まると父上も申しておりました。

 なるようになる(ケセラセラ)、ですよ」

 フランス語かよ!

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