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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第四章 俺が勇者?

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9.帝国軍部隊駐留?

 オウルさんを何とか言いくるめて俺たちは寝室に籠もった。

 まだ昼間だったけどいいのだ。

 こういう気持ちになる事って本当にあるんだなあ。

 いや漫画とか小説で読んだことがあるんだけど、カップルが普通にデートとかしていていきなり両方ともその気になってしまうことがあるらしい。

 日本の場合はとりあえず近くのラブホテルに駆け込んでヤるらしいけど。

 俺には日本で恋人とかいなかったので真偽は判らない。

 でも本当だったんだね。

 何がトリガーになるのか不明だけど、俺たちもまさしくそうなった。

 連続して何度もヤッてしまった。

 そういえば結構久しぶりだったりして。

 よく考えたら俺たちは夫婦なんだし、別に遠慮することなかったんだよな。

「そうですね。

 わたくしも息子(ジーク)の世話にかまけて貴方(マコトさん)の事を疎かにしていた気がします。

 申し訳ありません」

「いや俺こそハスィーを放置していたと言われても仕方がなかった。

 今後は気をつけるよ」

 でも近いうちに出張しないと駄目らしい(泣)。

 まあとりあえずは満足したのでしばらくは大丈夫だろう。

 やっぱ俺って淡泊なのかも。

 それから数日は特に何もなかった。

 ユマさんとレイリさんは忙しく動いているらしい。

 俺は結果待ちだ。

 そうこうしているうちにオウルさんが来て言った。

「帝国軍の派遣部隊がセルリユに到着致しました。

 閲兵しますのでいらして頂けませんでしょうか」

 帝国皇太子(オウルさん)の護衛の人たちが来たらしい。

 でも何で俺が?

「是非ヤジマ皇子殿下にお目にかかりたいと」

 何だろう。

 まあいいか。

 暇だし。

「どれくらい来たんですか?」

「あまり各国を刺激したくはございませんので絞りました。

 一個騎兵中隊に加えて補助(サポート)部隊というところでございます」

 百人くらいか。

 その代わりに精鋭揃いなんだろうな。

 何たって次期帝国皇帝陛下のお供兼護衛だ。

 実力と誇り(プライド)がレベルマックスまで行っているはずだ。

「それはその通りでございますが」

「何か?」

「その。

 フレスカが言うには『それ以上に食い意地が張っている連中だ』と」

 あれか(笑)。

 ソラージュには俺がいるからと、クイホーダイ目当てに随行護衛の立場を狙って武闘大会までやったと。

 しょうがないな。

「判りました。

 同行させて頂きます」

 オウルさんの護衛部隊は全員騎兵で、補給部隊と共に国境の砦を抜けて来たとのことだった。

 つまりアレスト市を通って来た訳か。

 ソラージュ王政府にとっての悪夢が実現してしまった。

 まあ今回は平和の使者らしいけど。

 閲兵はセルリユ郊外のソラージュ軍練兵場で行われた。

 ソラージュの騎兵隊に先導されて入って来た帝国軍部隊は精鋭そのものだった。

 さすが。

 俺が帝国で見たのは道路工事ばっかやっている歩兵がほとんどだったんだけど騎兵は訳が違う。

 本気でやりあったらハマオルさん指揮下のヤジマ警備でも苦戦するかもしれない。

 オウルさんが微動だにせず立つ前まで一糸乱れぬ動きで滑るように進んでくると、帝国軍騎兵隊はぴたりと止まった。

「全員下馬!」

 バネ仕掛けのように揃った動きで颯爽と地面に降り立つ騎兵の人たち。

 軽装騎兵というのか最小限の鎧や防具を着けた姿はひたすらカッコいい。

 何、この厨二的な風景は。

「捧げ筒!

 オウル帝国皇太子殿下およびヤジマ帝国皇子殿下に礼!」

 ザッとブーツが音を立てて地面を削り、キラキラした剣が林立する。

 でもやっぱ「筒」と聞こえるんだよなあ。

 俺の思い込みって視覚情報を覆すくらい強力なのか。

 指揮官らしい人がその場で百八十度回転して俺たちに向き直る。

「帝国軍中央管区選抜派遣部隊47名。

 オウル皇太子殿下の護衛任務を遂行するべく参上致しました!」

「「「万歳(ウラー)!」」」

 やっぱちょっとビビるね。

「ご苦労」

 オウルさんは俺と違って全然気にしてないようだった。

 悠々と整列した騎兵の人たちを見回してから短く演説する。

 皇太子というよりはむしろ元軍人だからな。

 こういう人たちの扱いには慣れているんだろう。

「……休め!

 長旅ご苦労であった。

 状況によってはすぐに行軍になるかもしれぬが、とりあえずは英気を養っておけ」

「「「お心のままに!」」」

 騎兵の人たちが乗馬して去ると、今度は補助部隊の皆さんだった。

 替え馬の世話や機材の整備なんかをやる人たちらしい。

 こっちも帝国軍の正規部隊ということで、同じように整列して敬礼する。

 オウルさんも騎兵隊と同様に短く演説する。

 補助部隊が去ると俺は強ばった身体を伸ばした。

 気をつけの姿勢を続けるって結構きついんだよ。

 これで閲兵は終わりか。

 気になったので聞いてみた。

「あの人たちはどこに駐留するんですか?」

「ソラージュ当局が用意するはずでございます。

 おそらくは軍の宿舎といった所だと思いますが」

 するといつの間にか寄ってきたフレスカさんが教えてくれた。

「王都郊外に使われていない騎士団の宿舎があると聞いております。

 騎兵を収容できる施設はそこくらいしかないということで」

「やむを得んでしょう。

 泊まる所があるだけ幸いです」

 オウルさんの悟ったような声。

 まあ、戦争したり遠征したりする時は宿なんかないからね。

 でもせっかく帝国からはるばる来てくれたのに、そんな施設では大変なんじゃないのか。

 そもそもオウルさんの護衛なのに離れた場所に隔離されたりしたら任務を果たせないのでは。

「仕方がないことでございます」

 いや達観しちゃってますが帝国皇太子(オウルさん)に何かあったら俺も困るんですが。

 俺はハマオルさんを呼んだ。

(あるじ)殿」

「あの騎兵部隊を収容出来る施設ってヤジマ屋敷(俺の家)の近くにありませんか?」

「ございます」

 平然と応えるハマオルさん。

 凄すぎるぞ俺の護衛。

「野生動物部隊を駐留させるために、一部の屋敷を多数が居住可能な宿舎に改造してあります。

 馬屋もございますので、そちらにお泊まり頂ければよろしいかと」

 あまりにも都合が良すぎるのでは。

 それに今は野生動物の人たちが住んでいるんでしょう?

「余裕をとっておりますもので。

 将来的な部隊の拡張を見越して施設してあります。

 現時点でもあの程度の騎兵部隊なら、補助部隊を含めて収容可能でございますな」

 凄い。

 いやそれだけの余裕があるのもそうだけど、むしろそれを即決できるハマオルさんが凄すぎる。

 今の判断って俺の護衛どころか警備部隊の長程度の人が出来るレベルじゃないよ。

 軍司令官並の権限があるのでは。

 ハマオルさんが笑みを見せた。

「私はヤジマ財団より(あるじ)殿の要求を満たし、お命をお守りするためなら無制限(フリーハンド)の権限を与えられております。

 この事案はそれに該当致します」

 与えられているって誰に?

 いや判っているけど。

 ユマさんとラナエ嬢にだな。

 ヤジマ大公家代行(ユマさん)ヤジマ大公家名代(ラナエ嬢)が揃えば何だって可能だ。

 つまりハマオルさんは俺の「近衛隊司令官」に任命されているわけか。

 予算権限も持たされているんだろう。

 金を使い放題だ。

 別にいいですけど(泣)。

「判りました。

 では帝国軍はその施設に入って貰うということで。

 手配をお願いします」

「お心のままに」

 ハマオルさんはすぐに配下らしい人を呼んであれこれ指示を与えていた。

 俺がオウルさん経由で帝国軍部隊に伝えて貰うと、あちこちから「万歳(ウラー)!」とか「ヤジマ皇子殿下!」といった声が沸き起こった。

 失敗(しま)った。

 こりゃもう、帝国軍の皆さんに飯を奢るしかないなあ(笑)。

 まあいいか。

主上(マコトさん)

 そこまでして頂かなくても」

 オウルさんが恐縮していたけど、俺がやりたいだけですから。

 はるばるソラージュまで来てくれたんだしね。

 そういうわけでヤジマ屋敷から少し離れた施設にオウルさん配下の帝国軍部隊が入った。

 ソラージュ王政府との交渉はユマさんとフレスカさんがやってくれた。

 ていうか向こうは大歓迎だったらしい。

 他国の軍隊だからね。

 色々と軋轢があるかもしれないと覚悟していたところにヤジマ大公がネギ背負(しょ)ってのこのこ現れたわけだ。

 つまり何か不祥事が起こってもヤジマ家に押しつけられるわけで。

「帝国軍が駐留する間の費用は王政府が負担するとのことでございます」

 さいですか。

 そんなの別にいいけどね。

 肝心の帝国軍部隊は羊の群れのように大人しかった。

 オウルさんが睨みを利かせていたこともある。

 帝国軍部隊からの懇願で、帝国にいた時と同じようにローテーションで俺の朝練に参加して貰うことになった。

 俺と一緒に走った人たちはヤジマ屋敷の大食堂で朝クイホーダイにありつける。

 騒ぎを起こしたらパーだ。

 でも帝国と違う所は、その食堂がヤジマ屋敷(俺の家)にあるということだ。

 料理人の人たちはヤジマ食堂(レストラン)の最精鋭。

 材料その他も最高。

 初めてヤジマ屋敷(うち)の食堂で朝クイホーダイを食した帝国軍人(ひと)たちは感激で失神しかけたり、滂沱の涙で何も見えなくなったりしたそうだ。

 「万歳(ウラー)!」の声が収まらず、とうとう実力(こぶし)を持って沈めなければならなかったとオウルさんが苦い表情で謝ってきた。

「あやつらは一皮剥けば蛮人でございます。

 このような洗練された屋敷街で朝から蛮声を張り上げることの問題について何も判っていない。

 主上(マコトさん)にご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません」

 いや、この周りにはヤジマ関係者しかいないのでそれはいいんですが。

 まあ確かに朝から「万歳(ウラー)!」の歓声が轟き渡る環境というのはあまり教育上よろしくないけどね。

 (シーラ)が喜んで真似するようになってしまって五月蠅いんだよ。

「重ね重ねご迷惑を!」

 いやオウルさん。

 息子さんたちと一緒になって謝らなくてもいいですから!

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