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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第四章 俺が勇者?

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3.名代?

 喧噪が収まるまでしばらくかかったけど、その後は早かった。

 早速テーブルが片付けられて叙任のための空間(スペース)が作られる。

 一致協力して働くヤジマ商会関係者の人たち。

 皇族や貴族、あるいは貴族家の者が大多数だ。

 オウルさんやフレスカさんまでが張り切って机を運んだりしていた。

 マジでもう身分なんかすっとんでいるな。

 辺りが片付いたところでさて近衛騎士の叙任式をと思ったら、何と執行役がいないことが判明した。

 考えてみれば近衛騎士の叙任なんか王族と公爵しか出来ないんだから、その執行役って相当な特殊技能(レア)なんだよ。

 まあ実を言えば技能というよりは知識なんだけど、ユマさんすら正しい手順が覚束ないという。

 文言なんかは覚えているけど、それが本当に正しいかどうか自信がないとか。

 ご本人が俺を叙任しておきながら何で。

「ああいった事はノールが全部やってくれましたので。

 ノールは騎士団出身ですので詳しいのです」

 だったらここにバリバリの現役騎士隊長がいるではないかと思ってロッドさんに聞いてみたけど駄目だった。

「近衛騎士の叙任手順は騎士の必須技能とは言えませんので。

 私も知りません」

 何てこった。

 つまりノールさんが凄すぎただけのことか。

 あわや計画倒れかと思ったけどユマさんがノールさんを呼ぶことで解決した。

 ユマさんの護衛役であるノールさんは当然、近くで待機していたんだよね。

 そういえばノールさんだってヤジマ商会関係者で近衛騎士(貴族)のはずなのに、どうしていなかったんですか?

「私はユマ様の従士でございます。

 とてもヤジマ商会の幹部といえるほどの資格はなく」

 でもララネル公爵家近衛騎士な上にこないだまでヤジマ商会戦略室にいたのに。

 近衛騎士叙任の執行役が出来るくらい博識だし。

「近衛騎士に叙任して頂いた時、いつか必要になるはずだと考えて学びました。

 お役に立てて幸いでございました」

 そう言って頭を下げるノールさん。

 この人もある意味完璧なんだよね。

 騎士として。

 ユマさんが「知りませんでした」とか言いながら落ち込んでいる。

 万能の略術の戦将(ユマさん)にも弱点はあったか。

 いやその弱点をカバーするためにノールさんがいるというわけだ。

 とにかくこれで役者は揃った。

 近衛騎士の叙任に必要な役者(ひと)は「殿下」が1名、立ち会い役として騎士位が2名、そして近衛騎士になる人と直接の利害関係がない高位貴族が1名だ。

 執行役は役者じゃなくてディレクターかな。

 本物の騎士隊長を含めて騎士はごろごろいるし、高位貴族というよりは帝国皇族も大量にいる。

 俺の時はシルさんがやってくれたんだよね。

 何という巡り合わせだ。

「まったくだ。

 こんなことになろうとはな」

 そう言いながら列に並んでいるシルさん。

 近衛騎士になりたいんですか?

「当然だろう。

 ろくにマコトの役に立ってないオウルが叙任されるのに私がならなくてどうする」

 さいですか。

 フレスカさんもちゃっかり並んでいるし、何とカールさんまでいる!

「皆さん帝国皇族なんですよね」

「わしはソラージュでは平民だからの。

 ここらでひとつ爵位が欲しくなった」

 戯れ言だ!

 もういいです。

 ところで今気づいたんだけど、近衛騎士の叙任って騎士位が二人必要なのは最初だけだよね。

 近衛騎士になった人も騎士位なんだから、次の人からはその近衛騎士(ひと)を立ち会い役にすれば良かったりして。

「そうですね。

 ですが混乱を避けるために立ち会い役は出来るだけ同じ人でお願いします」

 ユマさんが言うには近衛騎士の叙任自体は簡単に出来るけど、それを王政府に認めさせるために色々な書類や証拠、証明書などが大量に必要なんだそうだ。

 そういえば俺もあの後で何枚も書類にサインさせられたっけ。

「立ち会い役のサインも必要ですので」

 バラバラだったら混乱すると。

 結構大変そうだな。

 でも立ち会い役ってある意味、叙任される人の後見人というか名付け親的な立場になるからな。

 出来るだけ権威ある人がいい。

「ならば私がやりましょう」

 オウルさんが名乗り出てくれた。

 凄ぇよ。

 高位貴族どころか帝国皇太子だよ。

 近衛騎士始まって以来の大物立ち会い役なのではなかろうか。

 進行役はノールさんにお願いするとして、立ち会い騎士役はジェイルくんとハマオルさんにやって貰うことにした。

 ロッドさんにお願いしようとしたら断られたんだよ。

「私は現時点では王政府の役人(もの)ですからヤジマ大公家の叙任にうかつに関わらない方が良いかと」

 それはそうか。

 同じ理由で近衛騎士への叙任も遠慮された。

 今ロッドさんがヤジマ大公家近衛騎士になったりすると、取り込まれたと邪推されかねないらしい。

 もちろんロッドさんがヤジマ商会べったりなのは周知の事実なんだけど、それが(おおやけ)になるのとは違うからね。

 それにロッドさんはいずれ実績で王政府から近衛騎士に叙任されることはまず間違いない。

 騎士団内でもどこまで出世するか判らないくらいなんだし。

「そのことですが」

 ロッドさんはちょっと躊躇ってから言った。

「虫の良い話なのですが、私が騎士団を辞めてヤジマ商会に入る時まで近衛騎士叙任を保留、いえ予約にして頂くわけにはいかないでしょうか」

 何と。

 王政府から叙任されるんでしょう?

「私はヤジマ大公家近衛騎士になりたいと思います」

 さいですか。

 別にいいですよ。

 それでは好きな時に言ってくださればいつでも叙任しますので。

「ありがとうございます!」

 何で俺なんかに叙任して貰いたがるのかね。

 ロッドさんは商売に関係ないのに。

「それは当然です」

 復活したジェイルくんが言った。

「マコトさんに叙任して貰えば自動的にヤジマ大公家の家臣になれますからね。

 一番手っ取り早い方法です」

 そういう本人(ジェイルくん)は近衛騎士で男爵だけど。

 でもジェイルくんを叙任したのはソラージュ国王(ルディン)陛下なんだよね。

「私もマコトさんに叙任して頂きたかったのは山々ですが。

 まあいいです。

 私がヤジマ大公家の家臣であることは揺るぎない事実ですので」

 俺の知らない所で決まっていたらしいので何も言えないけどね。

 まあいいか。

「それでは始めさせて頂きます」

 俺が中央に立ち右側にオウルさん、左側にハマオルさんとジェイルくんが並ぶ。

 ノールさんはちょっと離れた場所で見事な騎士の礼をとった。

 俺に頷く。

「略式にて近衛騎士の叙任式を執り行います。

 執行役はララネル公爵家近衛騎士、ノール・ユベクト」

 ああ、何か懐かしいな。

 しかし、まさか俺が叙任者になろうとは。

 ノール近衛騎士の声が響く。

「近衛騎士の叙任は、公爵以上の高位貴族が執行できる権利であります。

 略式では見届け役として正騎士以上の騎士位2名および立会役として授爵者と直接利害関係のない高位貴族1名が必要となります。

 叙任者」

 俺はなるべく平坦な声で言った。

「ソラージュ王国無地大公ヤジママコト」

 何でこんなことになったんだろうなあ。

「確認しました。

 見届騎士」

「ソラージュ王国近衛騎士ハマオル・ムオ」

「ソラージュ王国近衛騎士ジェイル・クルト」

 二人とも慣れたものだ。

 ジェイルくんの身分は本当は男爵なんだけどね。

 近衛騎士でもあるからいいのだ。

「確認しました。

 立会役」

 オウルさんがバリトンの声で応える。

「ホルム帝国皇太子オウル・ホルム・セレ・ホルム」

「確認しました。

 授爵者は前へ」

 列の最初の人が進み出る。

 ラナエ嬢だ。

 やっぱこの人じゃなくちゃね。

 実を言えばこの近衛騎士量産計画はラナエ嬢がヤジマ商会会長代理に就任することが決まった時から始まっていたんだよ。

 ヤジマ商会のトップが無爵ではまずいとまでは言わないけど、やっぱり貴族社会では不利になるから。

 ラナエ嬢はもともとミクファール侯爵家の令嬢なんだけど、身分は貴族家の者というだけで貴族とは言えない。

 本物の爵位を持つ相手だと押されかねないんだよなあ。

 本当言えば近衛騎士でも役者不足で、ジェイルくんもそれで苦労していたからね。

 世襲貴族にしたかったんだけど俺では無理。

 でも近衛騎士(きぞく)だったら何とかなる。

「授爵者、ラナエ・ミクファール」

 ラナエ嬢が俺の前で片膝を突いた。

 いつものフリフリドレスなので何か雰囲気が違うな。

 余計なことは考えるな。

 俺は鞘に入ったままの剣でラナエ嬢の両肩を叩いてから淡々と言った。

「ラナエ・ミクファール。

 汝をソラージュ王国ヤジマ大公家近衛騎士に任じる」

「ありがたき幸せでございます」

 ラナエ嬢も淡々と言って立ち上がる。

 これでラナエ嬢は近衛騎士だ。

 ちなみに騎士と言っても別に馬に乗って戦うわけじゃないので女性も授爵できる。

 役職じゃなくて身分だから。

 イギリスとかだと勲爵士(ナイト)は男だけで、女性は勲爵士(デイム)とか呼ばれたとどっかで読んだけど、ソラージュでは女性も近衛騎士なんだよね。

 それはいい。

 さて。

 ラナエ嬢がヤジマ商会を率いるためにはもうひとつ必要だ。

 俺は続けて言った。

「ラナエ近衛騎士。

 汝をヤジマ大公家名代に任じる」

 あとはよろしく!

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