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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第四章 俺が勇者?

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2.叙爵?

 鮮烈な自己紹介(デビュー)だったけど、ヤジマ商会のみんなもその程度ではびくともしない。

 パラパラと拍手が聞こえただけだった。

 いや、みんなもっと驚こうよ?

 帝国皇太子が俺の従者だとかみんなの同輩だとか言い出したんだよ?

 普通ならパニックになるはずなのに。

「この程度で動揺していたら我が(あるじ)の配下は勤まりません」

 ユマさんが言った。

 さいですか。

「フレスカでございます。

 オウル様の副官です。

 よろしくお願い致します」

 フレスカさんの挨拶は順当だった。

 本人が帝国皇女じゃなければだけど。

 でもそんなの気にする人などいない。

 つくづく恐ろしい集団だよヤジマ商会。

「後で我が(あるじ)からご説明があると思いますが、ここにおられる方々は全員、ヤジマ財団のメンバーだと思って下さい。

 職員ではなく、言わば影の理事会ということです」

 ユマさんが話を進めてくれたので俺は着席した。

 こんなの柄じゃないからな。

 サラリーマンはせいぜい会議の司会くらいしか出来ないんだよ。

 オウルさんとフレスカさんがシルさんたちの近くの席につく。

 それを待ってユマさんが説明を始めた。

「ヤジマ財団は我が(あるじ)の財産管理および事業を遂行するための団体です。

 組織形態はギルドに近い形で、我が(あるじ)を理事長として不特定数の理事が補助(サポート)を行う形になります」

「影の理事とは?」

 質問が上がった。

 ロッドさんだ。

 本人は騎士団所属で公務員だからな。

 得体の知れない団体の理事なんか出来るわけがない。

 本人はやる気満々みたいだけど。

「理事会の出席等は求められませんが、それぞれの立場で業務遂行に尽力して頂きたく」

「ああ、なるほど。

 了解しました」

 了解しちゃっていいの?

 まあいいか。

 俺には関係ないし。

「ヤジマ財団の目的は決まっているのでしょうか」

 これはフォムさんだ。

 そこは気になるよね。

 俺の財産管理だけならここまで凄いメンバーを集めて理事をやらせる必要はないんだし。

「色々ありますが、とりあえずは魔王対策です」

 ユマさんがあっさり言った。

 さすがにざわっと揺らめく皆さん。

 でもあっけにとられるというよりは妙にポジティヴなんですが?

「なるほど」

「確かに今のマコトさんの相手になるのは魔王くらいですわね」

「面白い」

「そうか!

 そういうことか!」

 皆さん納得しちゃってますがいいの?

「いいも何もございません。

 我が(あるじ)がやるというのなら私どもはついていくだけでございます」

 何か独裁国家臭い危なさを感じる。

 でも俺、別に魔王を倒すとかそういう気はありませんので。

 勇者じゃないし聖剣もないし。

 無視された。

「ということで、ここに集まった皆さんにはご苦労をかけることになります。

 さらに言えば現在の立場では対応が難しくなることも考えられますので、我が(あるじ)よりご依頼がございます」

 ユマさんが言った。

 全部ユマさんの考えなんですが(泣)。

 よくもまあ、こんなことを思いつくよね。

 当事者の俺なんかじゃ絶対に出てこない考えだよ!

「ほう。

 主上(マコトさん)の」

 オウルさんが低く言って微笑んだ。

 いや微笑みとかそういうレベルじゃないな。

 猛獣の舌なめずりみたいな印象(イメージ)だ。

 怖っ。

「依頼などと。

 ご命令で充分では」

「そうじゃね。

 今さらじゃな」

 誰も何も考えてない!

 どうなっちゃったんだよ皆さん!

「わしらはもともとこういうスタンスじゃよ?

 何が起ころうがマコト殿についていくだけじゃ」

 同じ迷い人のカールさんにまで言われてしまった。

 サラリーマンには重いっス。

 俺の一言で何か物凄く巨大なものが動き出したりして。

 嫌だなあ。

 でもしょうがない。

 俺は立ち上がった。

 (ハスィー)が微笑んでくれる。

 もう破れかぶれだ。

「まず、皆さんにお礼を言いたい。

 俺みたいな奴を今まで盛り立ててくれてありがとう。

 今の俺があるのは皆さんのおかげです」

 そんなことはございません、というような声がいくつか上がったけど敢えて無視して続ける。

「ヤジマ商会もこれだけの『力』を持つようになりましたが、そのトップに立つ皆さんは大変だろうと思います。

 だから俺が持っている『力』は全部貸します。

 自由に活用して下さい」

 誰も何も言わない。

 そんなの当然だからね。

 そもそも俺の「力」なんてもんはないんだよ。

 みんなの「力」があるだけだ。

「それからもうひとつ。

 俺から皆さんに贈れるものがあります。

 これによって皆さんが少しでもやりやすくなればいいんですが」

 みんな? な表情。

 ユマさんだけが微笑んでいる。

 ご本人は拒否してきたからなあ。

「俺はソラージュの無地大公に叙爵されました。

 ソラージュの法によれば『殿下』の称号で呼ばれる者には特権があります。

 近衛騎士の叙任です」

 唖然とした雰囲気。

 そうなんだよね。

 こいつは盲点だった。

 大公位は「殿下」で呼ばれるのだ。

 教えてくれたのはユマさんで、悪戯っぽい表情で囁いてきた。

「この際、近衛騎士を大量生産しませんか」

 いや、だってそれってソラージュの法に触れるかどうかするんじゃないですかと聞いたら澄まして返された。

「別に禁止はされておりません。

 『殿下』の称号を持つ者の特権として認められております。

 色々条件をつけてやりにくいようになっているだけです」

 ユマさんが言うには近衛騎士の叙任に数の制限はないそうだ。

 かつて政権争いのために部下を近衛騎士にしまくった公爵(ひと)がいて、現在では騎士位2名と直接関係の無い高位貴族1名の立ち会いが必要だとか、近衛騎士に叙任したら少なからぬ俸給を支給しないといけないなどの条件がついているけど、それはあまり制限になっていない。

 だったらやる人がいてもおかしくない気がするけど、実際には個人で叙任することは滅多にない。

 王政府が毎年叙勲の意味で何人か叙任するだけだ。

 ユマさんが俺を近衛騎士にしたのは数少ない例外だったらしい。

 なぜか。

 「近衛騎士は自由」という権利だ。

 つまりせっかく叙任しても、近衛騎士にされた人は叙任者に従う義務がないんだよ。

 それでいて金はかかる。

 並の「殿下」ではハイリスクローリターン過ぎて手が出せないということで。

「でも我が(あるじ)は違います。

 既に忠誠心溢れる配下を大量にお持ちです。

 近衛騎士への叙任は巨大な褒賞になる上、近衛騎士位を得ることで仕事が随分楽になる人も多いのですよ」

 確かにそうだ。

 近衛騎士は貴族としては最下位だけど平民よりは遙かに上だ。

 持っているといないとでは天地の差があるからね。

 爵位持ちの商人なんかでも対等に話せるようになるんだよ。

 少なくとも同じ立場からスタート出来る。

 もちろん貴族の中での身分は低いんだけど、それを補って余りある(経済力)があるなら仕事が桁違いにやり安くなるはずだ。

 俺自身、そうだったもんなあ。

「しかもただの近衛騎士ではございません。

 『ヤジマ大公家近衛騎士』でございます。

 (しもべ)にとって、これ以上の褒賞はございません」

 ユマさんの悪魔の囁き!

 いいですよ。

 判りましたよ。

 やればいいんでしょう?

 別に俺の懐が痛むわけでもないし。

 いや、俸給出さないと駄目か。

 まあいいや。

「というわけでこれから叙任式をやりたいと思います。

 とりあえずここにいる人のうち希望者は全員近衛騎士になって貰います。

 断る人は名乗り出て下さい」

 誰か、叫び声が上がった。

 反対の声じゃない。

 歓喜の絶叫だ。

 そんなに嬉しいの?

 あ、忘れてた。

「ええと、既に近衛騎士の人は残念ですが対象外ですので」

 一部で悲痛な声が上がる。

 「ヤジマ大公家近衛騎士だ!」とか「これは夢か?」とかの喚く声。

 頭を抱えて突っ伏しているのはジェイルくんか。

 ハマオルさんですら唖然としている。

 いや、近衛騎士って一度しかなれないみたいなんですよ。

 それはそうだよね。

 複数の人から叙任されたら何かヤバい気がするし。

 騒ぎが収まりそうにないので待っていたら誰かが寄ってきた。

 オウルさん?

 何かカリスマが失せてますけど?

「あの、主上(マコトさん)

「何でしょうか」

「その……帝国人でも叙任して頂けるのでございますか」

 後ろにフレスカさんもいるけど、その表情は何?

 いやいや、帝国皇太子や皇女が今さら。

 とは言えない雰囲気だよなあ。

 別にいいんだよね?

 俺だって近衛騎士で帝国皇子なんだし。

 ユマさんを伺うと笑顔で頷かれたのできっぱりと言った。

「大丈夫です。

 まだ近衛騎士じゃない人は全員です」

 いやオウルさん。

 笑顔のまま気絶しなくても。

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