22.計画(プロジェクト)?
黒幕は俺だったと。
違うよ!
誰かが俺の名前で何かやらかしているだけのことだろう。
大体判っているけど(泣)。
オロスさんを先頭にゾロゾロと進む。
サリさんは消えていた。
まあ上司の庶務課長がいればね。
俺とオウルさん、フレスカさんに加えてハマオルさんとラウネ嬢が「本体」だけど、護衛の数が半端ない。
帝国皇太子と帝国皇女、ソラージュ大公に近衛騎士、そして帝国騎士。
これだけの高位身分の集団なら随員は最低30人くらいは必要らしい。
実際、そのくらいの人数が展開していた。
ちなみにフレスカさんの個人衛士であるオロサさんも混じっている。
ちょっと聞いてみたら、やっぱりセダン家の家臣で実は貴族なんだそうだ。
本来なら俺たちに混じってもおかしくないんだけど、本人が嫌がったとか。
表に出てしまうと万一の場合にフレスカさんを守りにくくなるからだと。
つまりオロサさんって第一にフレスカさんで、後の連中はどうでもいいとまでは言わないまでも余裕があったら守るという程度らしい。
「当然でございますね。
私もまず第一に主殿で」
「ハマオル殿のおっしゃる通りでございます。
ヤジマ皇子殿下の安全が確保されて初めて」
いやハマオルさんとラウネ嬢もそんなに露骨に言わなくても。
みんな聞いているんだし。
「構いません。
個人の護衛とはそういうものです」
オウルさんは悠々と言った。
そういうオウルさんには個人護衛っていないんですか?
帝国騎士の皆さんは別にして。
「腹心の事でしょうか。
あいにく私についてこられる者を見い出せず」
オウルさんは苦笑しているけど、それってまずいのでは。
帝国皇太子に個人護衛がいないのは問題だよ!
そうか。
前にレイリさんが言っていたけど、オウルさんって強すぎるんだよね。
今まで精神的にも肉体的にも守られる必要を感じなかったのかもしれない。
奥方にしてもむしろ戦友とか同僚といった印象で、守るとか守られるとかじゃなさそうだし。
でもこれからは違うんじゃないかな。
皇帝としてやっていくためには自分で戦ったり守ったりするだけでは手が不足することになると思うけど。
「耳が痛いご指摘ですが、おっしゃる通りでございます」
オウルさんが渋い表情を作った。
「レイリにも忠告されました。
少し、考えてみたいと」
「そうですね」
まあオウルさんの事だから大丈夫だろうと思うけど。
でも気をつけて下さいね?
オウルさんに帝国の未来がかかっているんですから。
「おお!
主上が私を!」
失敗った。
また余計な事を言ってしまった。
無視。
前方を見ると、なぜか庶務課長とフレスカさんの護衛が話していた。
名前が似ているのは偶然だそうだ。
軽小説と違ってよくあることだ(笑)。
オロスさんは俺たちの喧噪に構わず、ヤジマ学園の奥まった場所にやってくると言った。
「あれが『計画』の本拠地でございます」
指さした先には普通のお屋敷があった。
というよりは「家」か。
貴族の館という印象じゃなくて、むしろ作業用の建物といったかんじだ。
計画って建物だったの?
まさかあそこで巨大ロボットを製造しているとかじゃないよね?
「キョDAI?
いえ、あそこは司令部といった所です。
計画の各チームはヤジマ学園全体に点在しています」
よく判らないけど、つまり計画って複数の研究開発や事業を同時並行的に進めているらしい。
日本でもそうだけど、研究拠点が分散していることはよくある。
あの屋敷には司令部というよりはその調整組織が入っているんじゃないかな。
「おっしゃる通りでございます」
オロスさんが驚いたように言った。
「さすがはヤジマ大公殿下。
何もかもお見通しでございますね」
いや知らんけど。
「こちらでございます」
オロスさんが案内してくれた屋敷は司令部というよりは事務所だった。
エントランスで出迎えてくれた人によると、今ここにいるのは言わば待機要員だそうだ。
月に1回くらい会合があって、その時は各部署から人が集まってくるらしい。
屋敷を案内してくれたけど、何と言うこともなかった。
各部屋には机が置かれ、事務員らしい人たちが忙しそうに働いている。
でもその数は少ないんだよね。
机が5つあったらそのうちの一つか二つしか使われていないようだ。
「まだ暖機運転状態でございますので。
本格的な稼働はしばらく先になります」
なるほど。
「計画」とか言うから凄い事をしているのかと思ったけど、まだ稼働していなかったと。
これではフレスカさんが見つけられなかったのも無理はない。
「これではさっぱりですね。
帝国政府の主計局を視察した時のようでございます」
オウルさんがぼやいていた。
確かに書類をまとめたりしているだけで、何が何やら意味不明だもんね。
「ユマさんに聞いた方が早いのでは」
「そうですな。
フレスカもそれでいいか?」
「はい。
これ以上見ても仕方がありませんね」
というわけで俺たちは引き上げることにした。
「計画」か。
何となく内容が判る気がするけど、そんな大それた事をするかね?
いやユマさんの事だからやるかもしれない。
まあいいか。
直接聞けば済むことだ。
「では続きを」
庶務課長が案内を続けてくれるというので、俺たちはその後もついて回った。
ヤジマ学園はしばらく見ない内に更に発展を遂げていた。
空き地だった場所に建物が並び、人間や野生動物たちが行き交っている。
広大な訓練場では野生動物の皆さんが走り回っていたりして。
一際高い建物があったので聞いたら、最近完成した鳥類の人たちの施設だということだった。
「現時点ではまだ人と鳥類との共同作業を模索している段階です。
ヤジマ航空警備関係の企業がいきなり事業活動を開始したため、訓練方法などの整備が追いついていません。
教官や訓練生も出たとこ任せで動いているような有様で」
この施設の管理者と名乗った人が汗を拭きながら教えてくれた。
ヤジマ航空警備なんかではちゃんと働いているように見えたけど、あれって出来る鳥だけを集めた見切り発車だったらしい。
習うより慣れろの段階なんだろうな。
そういえばアレスト興業舎も最初は似たようなものだったっけ。
何とか野生動物と人を一緒に働かせようとして郵便事業とか警備とかサーカスとか、手当たり次第に試していたもんな。
あれはシルさんの功績が大きい気がする。
フクロオオカミを劇に投入したりして。
今思うと無茶やったもんだ。
「そうなのですか。
シルレラが」
オウルさんが聞いてきた。
「はい。
初期の野生動物事業はほとんどあの人が立ち上げたようなものです。
『野生動物の女王』ですね」
「なるほど。
その功績があればこそ、シルレラは主上の側近の立場を得ることが出来たわけですな。
判りました。
私も必ずや」
オウルさんに変なスイッチが入ってしまったようだ。
もういいけど。
気にしない。
鳥の次は海洋生物といきたいところだけど、さすがに無理だった。
「ヤジマ学園の海洋生物学部はセルリユ湾岸に建設中でございます」
庶務課長が簡単に言った。
「独立した学部として離れた土地に作るのは初めてでございますが、これもヤジマ大公殿下の示唆によるものと聞いております」
ああ、昔言った覚えがある。
日本の大学だと全学部がひとつのキャンパスにまとまっていない場合があるからね。
総合大学なら学部ごとに散らばっている方がむしろ自然だ。
だって海洋学部とか農学部なんか、近くに海や農場がないとどうしようもないでしょう。
ていうか、ヤジマ学園にも海洋学部があったのか!
「新設の学部でございますね。
『計画』の一部と聞いております」
何てこった。
「計画」って俺が考えていたより遙かに大規模な計画らしい。
だって新しい学部を作っちゃうんだよ?
俺の……いやヤジマ商会の金が湯水のように流れ出ていく様子が見えるようだ。
「凄いですね。
新学部を創設してしまうなんて」
思わず呟いてしまったら庶務課長が怪訝そうに言ってきた。
「失礼ですが、海洋生物学部の創設はその一部でございますよ?」
「まだあるんですか?」
「私も詳しくは知らないのですが……新設の各部としては地学部、理学部、工学部、建築学部、農学部とあと……失念しましたが多数ございます」
指を折って数え上げる庶務課長。
ユマさん。
マジで何やってるの?




