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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?

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18.未成年?

 俺は、ハスィー様をまじまじと見つめてしまった。

 ハスィー様はサラダを口に入れかけていたが、俺の視線に気づくとパタリとフォークを落とした。

 あ、こっちの食器ってほぼ地球と同じというか、西洋風だ。

 箸はないみたいだ。

 ただし、フォークはスプーンと一体化したみたいな形で、小学校の給食の時に使っていたアレに似ている。

 スプーンの先の方がフォークになっている奴ね。

 ちなみに、ナイフはそのままナイフだ。

 どこの世界でも、似たような発想になるんだろうな。

 いや、今はそれどころじゃない。

「マコトさん?」

「し、失礼しました。てっきり、ハスィー様はもっと」

「ご自分より年上だと思われてました?」

 ラナエ嬢が澄まして引き取る。

「無理もありませんわ。本当の歳を知っているわたくしですら、時々年齢詐称を疑うくらいです。

 あの学校でも、ハスィーが浮いた存在だった主な理由は、外見年齢でしたのよ」

「それはありません!」

 ハスィー様が顔を赤くして叫んだ。

「ありますわよ。ヤジママコト様、想像してご覧なさいませ。十代初めから中頃の男女の中に、一人だけ成熟した女性美を輝かせているエルフが混じっている様子を。

 殿下が一瞬でハートを射貫かれたのも当然のことです」

 俺は想像してみて、納得した。

 その当時でも、ハスィー様は18歳か20歳くらいには見えただろう。

 中学生の間に一人だけ、大人の物凄い美女が混じっているのだ。男にとってみれば、ロリコンでもない限り、ハスィー様以外の女なんか目に入るはずがない。

 しかも、その時のハスィー様はラナエ嬢の言葉が正しければ12歳か13歳。

 今ほどの完成された女性美ではなかったにしろ、むしろ初々しさを含めると、別の意味でより美しかったとみるべきだ。

 毒だな。

 頬を染めてあたふたしているハスィー様を見る。

 どう見ても、成熟した美女だよなあ。

 ちょっとドジが入っているけど、むしろ大人としての幅を感じさせる。

 これで17歳。

 まあ、確かに地球でも12歳くらいで成人しているように見える女の子はいるけどね。

 ヨーロッパあたりだと、それがむしろ当たり前だという話も聞いた事がある。

 だが、現在でも17歳。

 ギルドに雇用されたときは、それこそ15歳くらいだったのではあるまいか。

 ギルドも、そんな未成年を雇ってどうするつもりだったのだろう。

 あ、いや、違うか。

 こっちの世界には、年齢による雇用制限とか、成人認定とかはないんだった。

 一人前の仕事が出来れば、あるいはそう認めて貰えれば成人。

 ハスィー様は、王都でこの国の現状における最高度の教育を受け、生来の利発さと外見から来る落ち着きを発揮することで、ギルドに自分を認めさせたのだろう。

 そして、いったん仕事が出来ると判れば、これほどの逸材を平職員として使うのはもったいなさ過ぎることは誰にでも判る。

 特にギルド・アレスト市支部の対外折衝要員としては、ハスィー様以上の人材はいないと言っていい。

 よってやや強引だが執行委員に任命されて、現在に至るというわけか。

 恥ずかしがっているハスィー様には失礼だが、お顔をよく見てみた。

 肌なんかきめ細かくてつやつやしている。

 ていうか、輝いているな。

 これですっぴんだとしたら恐るべきことだ。

 いや、化粧くらいしているとは思うけど。

「ハスィーは、ほとんどお化粧しませんわよ」

 ラナエ嬢が囁いてくる。

 本当かよ。

 本当なんだろうな。

 少なくとも、日中ハスィー様がお化粧を直していたり、また化粧が崩れたりしたところを見たことないし。

 改めてそう思ってみると、確かに十代に見える。

 整いすぎた顔立ちと抜群のスタイル、溢れる気品がカリスマとなって廻り中に放散されているため、その光にかき消されてなかなか判らないが、ハスィー様は確かに「女の子」だった。

 全員が黙ってしまったテーブルからメインディッシュの皿が持ち去られ、デザートが届いた。

 何かのお菓子らしかったが、俺は無意識に食ったようだった。

 味がしなかったな。

 待て待て。

 よく考えてみよう。

 あの莫大な予算を投じられて進行中のプロジェクトは、17歳の女の子が企画立案して実行に移したものだということだ。

 俺は、17歳の女の子に冒険者から拾い上げられて、プロジェクト次席というご大層な立場に就いている。

 その他もろもろ。

 何だ、別にいいじゃないか。

 ハスィー様はハスィー様なんだし、何も変わっていない。

 年齢は関係ないな。

「少し、葛藤があったようですけれど、落ち着かれたみたいですわね」

 ラナエ嬢が言った。

 どうしてこっちの人はみんな、人の心を読めるんだろう。

「はい。お恥ずかしい限りですが、私の中でのハスィー様は何も変わっていないことが確認できました」

「それはよろしかったですね、ハスィー? 心配ご無用でしたわ」

「わたくしは、最初から心配などしておりませんでした」

 ハスィー様は、明らかに嘘とまではいかなくても間違っている事を言いつつ、お茶を飲んだ。

 ランチが、いつの間にか終わっていた。

 何食ったのか覚えてないな。

 衝撃の事実が衝撃的すぎた。

 本来なら、ラナエ嬢とお知り合いになるためのランチだったはずが、まったく違うイベントになってしまった。

 それで思い出したが、そもそもラナエ嬢が俺の家に来たのはどういう理由なのか、聞いていなかったような。

「それは、ですわね」

 ラナエ嬢が口ごもると、さっきのお返しとばかりにハスィー様が割り込んできた。

「ラナエのフライングです。わたくしがタフィに依頼したマコトさんの一般ギルド制服のお届けを、ラナエが横取りしたのです」

 こっちでもフライングというのか。

 いや、魔素翻訳だろうけど。

「人聞きの悪い。依頼を代行したまでです」

「タフィの話では、抵抗するタフィから制服を強引に奪っていったそうではありませんか。

 そんなにマコトさんに会いたかったのですか?」

「そんなことはありません! たまたま手が空いていたというだけです」

 ラナエ嬢が防戦一方だった。

 なるほど、お二人は気の置けない友人というところか。

 女性同士の友情はよく判らないが、おそらくお互いに認め合っているのだろう。

 美女度ではハスィー様が桁外れだから、それ以外の部分でラナエ嬢が何かを持っているんだろうな。

 いや、ラナエ嬢も単体でなら、なかなかの美少女なんだけどね。やっぱり、エルフの美女と並ぶと色あせる。

 逆に言えば、そこの所をクリアできるくらい、ラナエ嬢は自分に自信があるということだ。

 まあ、お二人とも異端児だそうだからな。

 凡人の俺には理解できなくて当然だ。

「お二人は、仲がいいんですね」

 ポロッと言ってしまった。

 それを聞いたハスィー様とラナエ嬢は、お互いを見た後、同時にくすっと笑った。

 ああ、本当に気が合っているようだ。

 というよりは、親友なのだろう。

 考えてみれば、ラナエ嬢は供も連れないでただ一人、何の縁もないアレスト市に逃げてきているわけだ。

 ミクファール侯爵家という家がどれほどの格式なのかは判らないが、普通この年頃の未婚の令嬢を一人で行動させるとは思えない。

 ハスィー様も一人だが、ちゃんとお付きの人はいるし、第一住んでいるのは自領である。

 アレスト家としても、妥協の余地はあるだろう。

 だがラナエ嬢には、そんなものは一切ないのだ。にもかかわらず、ラナエ嬢はハスィー様を頼ってここにいる。

 そこまで信頼できる相手なんだろうな。

 百合(違)?

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