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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第三章 俺が財団理事長?

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11.お任せ?

 扉が開く。

 堂々と歩み入ってきたのは見慣れたはずの帝国皇太子殿下(オウルさん)だった。

 そのはずなんだけど、まるで別人だ。

 威厳というか存在感が完全に違う。

 周囲をゆっくりと見回してから玉座に向けて歩き始める。

 お供の人はそのまま扉の向こうに留まるようだ。

 帝国皇太子殿下らしい正装を身に纏い、支配者色(カリスマ)をまき散らしながら進むオウルさんに、居合わせた貴族たちは釘付けだった。

 それどころかオウルさんが近くを通った貴族たちが少し後退するほどだ。

 圧力に押されたらしい。

 これほどまでだったとは。

 俺が知っているオウルさんって軍人の制服姿とか皇族集会で面倒くさそうに挨拶していた他は、お笑い芸人と化している印象しかないからな。

 本来の姿になったオウルさんは凄い。

 まさしく光輪(ハロー)を背負っているぞ。

 そのオウルさんは無表情ながらもさりげなく周囲を伺っているようだった。

 これは俺にしか判らないかもしれない。

 他の人たちは魔素翻訳情報(衝撃力)に圧倒されてイメージがあやふやなはずだから。

 キョロキョロとまではしないまでも周囲を探り続けるオウルさんの視線が俺を捉える。

 ていうか目が合っただけど。

 反応は劇的だった。

 オウルさんの全身から凄まじい何か(オーラ)が発散され、近くにいた貴族の人たちがざっと後退した。

 これ、俺の精神攻撃(厨二技)に近いんじゃないの?

 心の壁(A・T・フィール○)を持ちながらこの攻撃力!

 無敵の軍人と言われる理由が判った気がする。

 オウルさんは一瞬でその「気」を静めると何事もなかったかのように歩を進める。

 ルディン陛下の玉座の手前で立ち止まり、片膝を突いた。

 バリトンの声が響く。

「ホルム帝国皇太子オウル・ホルム・セレ・ホルムでございます。

 ルディン・ソラージュ陛下に帝国より友好のご挨拶を申し上げます」

「ルディンだ。

 オウル殿のご来訪を心より歓迎させて頂く。

 どうぞお立ちあれ」

 ルディン陛下も堂々としたものだ。

 さすが国王(げいにん)

 オウルさんは機敏な動作で立ち上がった。

 続いて玉座の隣に立つクレパト王妃殿下に真っ直ぐ相対する。

「オウルにございます。

 妃殿下にご挨拶申し上げます」

「オウル殿下のことは聞いております。

 よろしくお願い致します」

 クレパト妃殿下も堂々たるものだ。

 全然迫力負けしてない。

 これって凄いことなんじゃない?

 クレパト妃殿下は美女過ぎる所を除けば典型的な貴婦人で純粋な南方種(ドワーフ)みたいだけど、嫁ぐ前の身分は何だったんだろう。

 まさか皇族じゃないよね?

 まあ、最低でも上級貴族だろうな。

 オウルさんが僅かに身体の向きを変えてミラス殿下たちの方を向いた。

「オウルです。

 ミラス殿のことは……から伺っております。

 初対面という気はしませんな」

「そうですね。

 私もオウル殿の武勇伝は……から伺っています。

 よろしくお願いします」

 何か意味がとれない言葉があったけど何?

 疑問を解消する間もなくオウルさんがフレアさんに優しく話しかけた。

「久しいな。

 元気そうで何よりだ。

 フレア殿。

 そういえばまだ言っていなかったが婚約おめでとう」

「オウル様も。

 機会がなくて申し上げておりませんでしたが皇太子殿下ご登極、おめでとうございます」

 そうか。

 オウルさんとフレアさんは同じ帝国皇族だから知り合いか。

 皇族集会とかで会っていたはずだしね。

 それでなくてもフレアさんは皇帝陛下の姪だし、オウルさんは傑物として皇族の間でも話題に上ることも多かったはずだから、お互いに名前くらいは知っていただろう。

 オウルさんは頷くと落ち着き払って周囲に鈴なりの貴族(ひと)たちを見回した。

 今度は貴族の人たちか。

「オウルである。

 ソラージュの背骨を担う貴族(かたがた)にも友好の挨拶を。

 貴国の繁栄は我がホルム帝国にとって羨望の的である。

 それを実現されているおのおの方に敬意を表したい」

 そう言って軽く頭を下げる。

 凄い。

 敬意を表しつつ(へりくだ)っていない。

 これが帝国皇太子(支配者)か!

 貴族の人たちも俺と同感らしく、期せずして拍手が起こった。

 人心掌握術が凄まじい。

 ちらっと見るとルディン陛下が一瞬苦笑いしていた。

 ソラージュが王制国家で良かったですね。

 下手するとオウルさんに乗っ取られていたかも。

「それはマコトさんでは?」

 後ろからユマさんの不吉な言葉が聞こえたけど無視。

 考えない考えない。

 オウルさんはもう一度貴族の人たちを見渡すと軽く頭を下げた。

 好印象スタートだな。

 これで謁見は終わったわけだからもう俺、帰ってもいい?

「ルディン陛下にお願い申し上げる」

 玉座に向き直ったオウルさんが言った。

「何かな?」

「私はソラージュの方々と友好親善を行いたいと考えております。

 そのためには案内役が欲しい」

「ふむ」

 ルディン陛下が面白そうな表情を作った。

「ですが失礼ながら王政府の方々への依頼はご遠慮したい。

 我々(貴族)の我が儘に付き合わせることは迷惑この上もない話ですからな。

 それに私は帝国外に出たのは初めてです。

 ここは是非、気の知れた方に案内を頼みたく」

「なるほど。

 もっともだ。

 具体的には?」

 何だよこの茶番劇。

 ルディン陛下もオウルさんに合わせてるんじゃないよ。

 どうみても出来レースだろうが!

「はい。

 出来れば私がよく知る方で、私に匹敵する身分を持ち、ルディン陛下が信頼できる方をご推薦頂きたく」

 やっぱし(泣)。

 その条件に当てはまる奴って一人しかいないでしょ!

 ルディン陛下の笑みが深くなった。

「ならば推薦しよう。

 ヤジマ無地大公」

 はい。

 もうしょうがない。

 俺はユマさんに促される間もなく進み出た。

 オウルさんの隣まで歩いてから玉座に向いて片膝を突く。

「ここに」

「そちは帝国より帰国したばかりであったな。

 オウル殿と親交が深いと聞いた。

 よってソラージュ国王として命ずる。

 ヤジマ大公。

 オウル帝国皇太子殿に便宜を図るように」

 勅命だよ!

 もうどうしようもないよね。

「お心のままに」

「頼むぞ。

 そちに任せる」

 任されてしまった。

 立て、と命じられて立ち上がるとオウルさんが頭を下げてきた。

「よろしくお願い致します。

 マコトさん」

 その名で俺を呼ぶ?

 案の定、周りの貴族(ひと)たちから疑問や驚愕の声が上がった。

 帝国皇太子(オウルさん)と俺の関係はソラージュではあまり広まっていないからね。

 ていうか戯れ言のたぐいだと思われているらしい。

 そうであったらどんなに良かった事か(泣)。

 でもまあ、俺の責任なんだろうな。

 次期帝国皇帝の接待役って俺くらいしかいないだろう。

 王族が自らやることは出来ないし、かといってなまじの貴族では格落ちで失礼になる。

 相手は帝国皇太子なんだよ?

 もちろん国賓なのも大きいけど、実際のところは単純に金だ。

 接待にどれだけかかるのか判らない。

 普通の貴族は絶対に案内役なんかご免だろう。

 で、身分的にも経済的にも適任な無地大公にお役が回ってきたと。

 この大公、金が有り余っている上に今のところ何の役目にもついてないからね。

 すべての条件が揃ってしまった。

 まあ、そんなの関係なく俺はもともとオウルさんを引き受ける気ではいたけど。

 だって逃げられないじゃん?

「喜んで」

 そう言いながら手を差し出す。

 オウルさんの身体からぶわっと何かが飛び出したようだった。

 何かもう、身体中で喜びを表現しているというか。

 まさかこの場で片膝ついたりしないよね?

 必死で念じるとオウルさんは我に返ったようだった。

 本当にやる気だったの?

 やめて下さい!

「……失礼しました。

 マコトさん」

 俺は頷いてがっちりと握手した。

 そういうのは後でお願いします。

 オウルさんが不承不承ながら頷いて、俺は手を離してから玉座に向かって一礼した。

 そのままララネル公爵殿下とユマさんの元に戻る。

「ご苦労様でございました」

 ユマさんが慰めてくれたけど、笑いを堪えてない?

「……なるほど。

 さすがはマコト殿だな」

 ララネル公爵殿下(ライトールさん)も頷いている。

「どうやら帝国と事を構えなくて済みそうだ」

 当たり前ですよ!

 それと俺が原因で最終戦争(ハルマゲドン)が始まるとか言う妄想は謹んで下さい。

「いや、ユマがこんなことになってしまったし、マコト殿はアレだし。

 ララネル家(うち)も覚悟を決めるべき時が来たのかと」

 止めて。

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