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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第三章 俺が財団理事長?

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8.意気投合?

 帝国、というよりは皇太子殿下(オウルさん)から連絡が来た。

 いや手紙なんだけど、例によってヤジマ航空便(クーリエ)によって速達で届けられたそれの字が躍っていた。

 いよいよ来るらしい。

 初めて遠足に行く幼稚園児のようだ。

 ていうかオウルさん、俺に配慮してソラージュ語で手紙をくれるんだけど、達筆というか崩し字というか解読が難しい。

 普段でもそうなのに、今回は輪をかけて躍動感に溢れていた。

 よほど嬉しいらしい。

 (ハスィー)に見せると微笑んでくれた。

「帝国皇太子殿下ですか。

 噂では貴方(マコトさん)の従者とか」

「あっちが勝手に言っているだけなんだよ。

 しかも俺の従者というよりは『初代皇帝陛下の再来』に仕えたいらしくて」

貴方(マコトさん)がその再来様なのでしょう?

 でしたらご期待に応えて差し上げるべきかと」

 (ハスィー)は時々真面目な顔で冗談を言うので困る。

「冗談ではありませんよ。

 貴方(マコトさん)はまさしく皇太子殿下(オウル様)がおっしゃっておられる通りの方だとわたくしも思います」

 そういって息子(ジーク)を抱いたまま頭を下げる傾国姫(絶世の美女)

 (ハスィー)よ、お前もか。

 俺はただのサラリーマンだっちゅうに。

 いや、もうヤジマ商会辞めたから無職か。

「まだ退任されておられません。

 それに既にヤジマ財団の理事長に就任されておられますので無職でもないかと」

 ユマさんが割り込んできた。

 駄目か。

 そう、俺は未だにヤジマ商会の会長職に居座っているんだよね。

 最初はルディン陛下とソラージュ王政府に一言断れば済むと思っていたんだけど、ちょっと漏らしただけでそこら中がパニックに陥った。

 俺が辞めるという話だけが出回ってしまったみたいで。

 おかげで危うくヤジマ商会の株が暴落するところでした、とジェイルくんに言われてしまった。

 世間的には(ヤジママコト)がヤジマ商会を陣頭指揮していることになっているらしいんだよ。

 ジェイルくんはあくまで俺の意を受けた代理という認識なのだ。

 そのカリスマ経営者が突然辞めると言い出したみたいに受け取られていたのだという。

「マコトさんの名誉会長就任とヤジマ商会の新体制については各国の首脳や領主の方々、それに大商人には個別に説明させて頂いています。

 それ以外の方々には説明会を開いて」

 何で辞めるだけなのにそんなに大事になるんだろう。

 ていうか今の話だと俺は辞めないよね?

 代表権の無い名誉会長になるだけで。

「そこの所をうまく説明するのに時間がかかっております」

 さいですか。

 まあ、自由にやって下さい。

 俺は別に急いでませんから。

 実際、今の生活は楽だ。

 屋敷からほとんど出ないで一日中家族と一緒にいられるからね。

 息子(ジーク)(シーラ)と遊んでいるだけで退屈する暇もない。

 それに(ハスィー)と毎晩。

 第三子の誕生間近かもしれん。

「良い事でございます。

 ヤジマ大公家直系の御子はいくらいても多すぎるということはございませんから」

 ユマさんも平気で言うね。

 貴族の子供が多い方がいいのは判るけど、俺の場合は将来ヤジマ大公家の血を引く平民が大量に出るだけじゃないのかと思っていたら違うそうだ。

 グレンさんが教えてくれたんだけど、ルディン陛下が俺を大公にするときに「叙爵」と言ったのは間違いではないらしい。

 伯爵から大公に昇爵したんじゃなくて、新しく設定された「無地大公」という身分に爵されたんだと。

 だから俺は依然として「ヤジマ伯爵」でもある。

 これはララエ公国の名誉大公(爵位)や帝国皇子と違って世襲の身分だから、いずれは俺の跡を継ぐ人に受け継がれるものなのだそうだ。

 つまりヤジマ大公とは別にヤジマ伯爵も存在しうるわけだ。

 両方とも世襲身分なので、俺の後継者は複数の身分持ちになるらしい。

 ミラス殿下やルディン陛下が子爵や伯爵の身分を持っていたのと似ている。

 もっともあっちの爵位はご自身ではなくて国王とか王太子の立場についているらしいけどね。

 よって譲渡は出来ない。

 でも俺の爵位は俺自身のものだから王家(ルディン陛下)の許可があれば他人に譲渡できる。

 だから俺の子供が複数いても爵位を分け与えることが出来るそうだ。

 本人が望むかどうかは別にして。

 だって俺の子だよ?

 大公だの伯爵だのになりたがるとはとても思えん。

「ないよりはあった方が良いかと。

 それに、我が(あるじ)の場合はその他にも色々とご身分をお持です」

 ユマさんが言った。

「そうだったっけ?」

「例えばララエ公国の男爵でもあられますね。

 領地付きで」

 そういえばサレステ興業舎が建っているもと軍事基地の地所は俺の所有だったっけ。

 小さいけど領地になるから名誉大公位では所有できないということで、いつの間にかララエ公国男爵にもされていたんだよね。

 あれも世襲身分だから俺の跡継ぎが受け継ぐわけか。

「その他にも北方諸国から様々な称号を贈られております。

 代表的なものはフユラの伯爵位でしょうか」

「そんなのあったの?

 知らなかった」

「フユラ国王陛下が直々に叙爵されたはずでございますが」

 そんな覚えは……あったような気がしてきた。

 北方親善でフユラに立ち寄った時に助けてくれとか言われてヤジマ商会が進出したんだよな。

 それが縁で親しく話すようになり、しまいには愚痴をこぼし合うくらいになってしまった。

 いよいよ明日にはフユラを立つという日、お互いに王族や貴族なのにフツメンというハンデを負った身を嘆いて慰め合っているうちにアル(国王)が俺を跪かせて剣で肩を叩いたったっけ。

 その場に宰相の人とかもいたな。

 あれ、冗談(ワルノリ)じゃなかったのか。

「国王陛下がしかるべき立会人を揃えて略式ながら叙爵の儀式を行ったわけですから。

 後日、正式な授爵の通達が書類と共にヤジマ家に届いております」

 知らん。

 ていうか俺はあの後もずっと北方諸国をほっつき歩いていたから気にもしてなかったんだけど。

「このフユラ王国法衣伯爵のご身分も世襲ですので、マコトさんの後継者に自動的に受け渡されます。

 もちろんどなたかを指名してお譲りすることも出来ます」

 そうなの。

 俺ってフユラ王国の伯爵だったのか。

 何の意味があるのか判らないけど。

「ございますよ。

 マコトさんのご身分があることで、ヤジマ商会の子会舎はフユラ王国においても国内企業の扱いになります。

 税金面や運用面で有益です」

 ヒューリアさんが教えてくれた。

 そういやヤジマ商会の会議でそんなことを言ってたっけ。

「ヤジマ商会が北方諸国にスムーズに進出できた理由はそれなのですが。

 まあいいです。

 マコトさんですから」

 ヒューリアさんが失礼な事を言ったみたいだけどスルーする。

 果てしなく話が逸れたけど何言おうとしていたんだっけ。

 俺がヤジマ商会を辞めるとか辞めないとかだよね?

「根回しが完了したら正式に発表することになりますので、それまでお待ち下さい」

 それはいいんだけど、違うでしょう。

 帝国皇太子(オウルさん)が来るらしいけどどうしよう、という話だったはずだ。

「別によろしいのでは?

 皇太子殿下は国賓としていらっしゃるわけですから、ソラージュ王政府にお任せなされば」

 (ハスィー)はオウルさんを知らないから事態の深刻さに気づけないんだよね。

 ユマさんがため息をついた。

「この件については我が主(マコトさん)がご心配なさるのも無理はないわ。

 ハスィー。

 あなたはオウル様を知らないから仕方がないけれど」

「そうなのですか?」

 俺に尋ねる(ハスィー)

「残念ながら。

 オウルさんは『初代陛下の再来』が絡むと見境がつかなくなりそうなんだよ」

「簡単に言えば我が主(マコトさん)が絡んだ時のハスィーと同じだと思えば」

 俺のユマさんの言葉に(ハスィー)は頷いた。

「判りました。

 ならば安心ですね」

「どうしてそんな結論になる?」

「だって、わたくしが主人(マコトさん)の偉業の妨げになったり、ご機嫌を損ねたりするはずがないではありませんか。

 帝国皇太子(オウル様)も同じだと思いますよ」

 そうなのか。

 それはそうだよね。

 オウルさんって言動は過激でも俺の邪魔をすることは絶対になさそうだ。

 それどころか俺が頼むと何でも即座に了承してくれたからな。

 そもそも俺の不利になるようなことはしないと思う。

 だけどそれって必ずしも俺が望む方向じゃないんだよなあ。

 ソラージュ政府が俺の邪魔になると思ったら平気で戦争を起こしかねないくらいで。

「それほどまでにマコトさんをご信奉されていらっしゃるのですか!」

 (ハスィー)が嬉しそうに言った。

「いやまずいでしょ」

「何がですか?

 わたくしも同じです。

 マコトさんの邪魔をするような存在(もの)は抹殺するべきです」

 ハスィーまで変な事言わないで!

「……確かにそうですね」

 ユマさんの優しいけど不気味な声。

「つい失念しておりました。

 私は我が主(マコトさん)の盾であり矛。

 行く手に立ちふさがるものはすべて蹴散らすと誓った身でございます。

 なるほど。

 そう考えれば何の憂いも存在しませんね。

 ハスィー」

「でしょう?

 ユマ」

 怖いからそんなことで意気投合するのは止めて(泣)。

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