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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第三章 俺が財団理事長?

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5.使命?

 俺たち一家がまったりと暮らしている間にもヤジマ商会は躍進を続けているようだった。

 北方諸国やララエ公国での事業展開は順調。

 帝国でも既に大半の領地にナーダム興業舎の支店や出張所が設立されたらしい。

 俺が帝国にいる間にせっせと社交した領主や大商人からの投資を得て組織を編成し、片っ端から人を雇って配置する。

 皇族の方々がナーダム興業舎の顧問についてくれたために大抵の領地での事業はフリーパスだ。

 帝国の主立った領地の領主家は大抵皇族を後援しているからね。

 自家の親族である皇子皇女が間に立ってくれるので、ナーダム興業舎との取引にも抵抗がないらしい。

「現地法人の設立も推進しております。

 基本的には北方諸国と同様の体制を構築したいと。

 資本が足りない領地についてはこちらからの投資という形で」

 ユマさんが報告してくれた。

 ヤジマ商会を退舎したとはいえ、非公式な相談役の立場は確保しているらしい。

 というよりはジェイルくんたちに懇願されて仕方なく残ったそうだ。

 それはそうだよね。

 大戦略の作戦参謀がいなくなったらヤジマ商会だって困る。

 しかも、どうもユマさんはヤジマ商会自体を手駒として使おうとしているみたいだからな。

 情報のフィードバックを期待されているんだろう。

 それはいいとして、投資したのはあの何とかいう帝国子爵の領地とかだな。

 とても新しい会舎を作れるほどの資本はないと見た。

 それでも先祖伝来の宝物とか骨董品とかはあるだろうから、それをカタにして流動資産化したらしい。

 質屋だね。

 返済期限を思い切り長期にしてあるから、少なくとも今の当主が悩むことはない。

 フユラ王国のアルみたいに王家の財産を片端から投げ出すような人もいるけど。

 でもヤジマ商会の流動資産にも限りがあるはずなのでは。

「それ、こっちからの持ち出しにならない?」

「ヤジマ商会の投資部門を通しておりますので安全保障(リスクヘッジ)は出来ております。

 ナーダム興業舎の投資部門が整備され次第、そちらに付け替えます」

 やっぱまだユマさんが指揮をとっているようだ。

 悪の組織で言ったら俺が首領でユマさんが参謀というところかな。

 参謀が幼稚園バスを襲うとか貯水池に毒を入れるとかの作戦を立案して俺が「良きに計らえ」とだけ言う。

 後は参謀が大幹部に命令して作戦が動き出すと。

 ジェイルくんやラナエ嬢、シルさんなんかは大幹部の役か。

 シイル辺りが幹部で。

 フクロオオカミは怪人か?

 いかん。

 マジで当てはまってしまった。

「そうすると帝国はナーダム興業舎に任せるわけ?」

「資本関係はナーダム興業舎に収束させます。

 もちろん」

 ユマさんが薄く笑った。

「ナーダム興業舎自体はヤジマ商会の百パーセント子会舎です。

 経営層の人事もこちらで」

 怖っ!

 やっぱ経済侵略だったよ!

 でもヤジマ商会ってもう、ソラージュの会舎とは言えなくなってきているんだよね。

 既知の世界のほとんどの国から投資を集めているし。

 ヤジマ商会本舎がソラージュにあるというだけで、配下企業の経営はそれぞれの国で独自に進めている。

 完全に多国籍企業になってしまった。

 ト○タ自動車みたいなものだ。

 トヨタア○リカとかはそれ自体が独立した経営法人だからな。

 本舎は経営戦略を立てるだけだったりして。

「それでよろしいのです。

 今後、ヤジマ商会はヤジマ財団の支援企業として活動します」

 もちろん利益を度外視するわけではございません、とユマさんは微笑みながら言った。

 この人、マジで(ハスィー)以上の化物(モンスター)かもしれない。

 現時点で既に世界征服し終わっているのでは。

「世界を征服しても、目的がなければ虚しいだけでございます。

 これからです。

 (マコトさん)が自由に使える環境や戦力を整えるのが私の仕事です」

 さいですか。

 俺自身が何の目標も持ってないから虚しいのは同じな気がするけど。

 企業はある程度でかくなると目標とか目的なしでも動き始めるものだ。

 それ自体が一個の生物みたいに成長するんだよ。

 経営者が出来るのは方向性を与える事だけだったりして。

 現にヤジマ商会は俺の意志や意図と関係なく成長している。

 オーナーと言っても出来る事はあまりないのだ。

 そもそも俺、自分でヤジマ商会を作ったわけじゃないからね。

 ジェイルくんたちがギルドに登録した事で動き出したわけで。

 まあいいか。

 とりあえずはアルのフユラ王国とか帝国のヤバくなった領地とかの経済的支援で役に立っているんだし。

 あれはあのまま続けて貰いましょう。

 儲けも出ているみたいだから別に俺が気にすることじゃない。

 後は「魔王」か。

 そういえば帝国でレイリさんからお願いされて「考えてみます」とか言っちゃったんだっけ。

 ヤバい。

 全然考えてないどころか忘れていた。

「そんなことはございません。

 既にご命令を頂いております」

 ユマさんが真面目な表情で言った。

「そうだったっけ?」

「はい。

 魔王対策について検討するように、と」

 全然覚えがないけど、レイリさんに言われてそのままユマさんに投げた可能性はある。

 俺、誰かに何かを頼まれたら近くにいた人に投げる癖があるからな。

 投げられた人が上手くやってしまって、それが俺の実績だとか言われているんだよね。

 自分が引き金(トリガー)だって事を忘れていた。

 するとユマさんは俺の命令で動いていたと?

「現時点では考えられるあらゆる事態に対応できるように組織を整えている段階でございます。

 幸い(あるじ)が諸国に伝手を作ってくださっていたため思ったより順調に進んでおります」

 やっぱ俺のせいでした!

 ヤジマ財団ってそのために作られたのか!

 俺はニート化のカムフラージュのためだと思っていたけど、この分だと本格的な緊急対応機関になっている臭い。

「そういえば本部を作っているって?」

「はい。

 ただ、計画段階で判明したのですが位置的にセルリユはあまり適当ではございません。

 そもそも中央集権組織が対処出来る相手(魔王)ではございませんし、一国の首都に近すぎることも不適当要因かと」

 言っていることはよく判らないけど、そういうからにはそうなんだろう。

 ユマさんの頭の中では既に魔王と戦うための組織体制が出来ているはずだ。

 もちろんユマさんは「大戦術家」なので、ボトムアップ方式というか造りながら体制を整えていく方法をとっていると思う。

 だからセルリユに作っている本部とやらも過渡期のものである可能性が高い。

 ユマさんがため息をついた。

 何?

「さすがは我が(あるじ)

 私の計画(プラン)をすぐに理解されましたね。

 はい。

 将来的にはより相応しい総本部を建立することになります」

 いや、俺は妄想しただけだけど。

 でも「魔王と戦え」というような理不尽な命令に対して有効なアプローチを取るとしたら、俺だってボトムアップ方式をとるなあと。

 聞いてみた。

「ヤジマ財団はとりあえず『対魔王機関』になるわけだね?」

「はい。

 どちらにしても現時点で我が(あるじ)の相手となるのはもう、魔王くらいしか」

 俺は勇者か!(泣)

 そんなもんと戦わされるのかよ俺は。

 別に自分で聖剣を振るうわけじゃないみたいなのが救いだ。

 そもそもこっちの世界でいう「魔王」って単なる自然現象なんだよ!

 魔法もないし聖剣もないから戦いようがない気がする。

 そう言うとユマさんは首を傾げた。

「戦う、という事ではない気がします。

 我が(あるじ)のご命令は『魔王の被害に対処しろ』ということであって、魔王を退治するとか封印するとかではなかったと」

「それはそうだよ。

 そもそも人間にどうにか出来る相手じゃないし」

「ですから考えました。

 要は『魔王の被害を防ぐ』あるいは『できる限り軽減する』ということではないかと。

 我が(あるじ)故郷(ちきゅう)でもそのような方向で対策をとっておられるのでしょう?」

 そんな事を話したような覚えがあるな。

 ララエ公国で魔王顕現が迫っているという話を聞かされた時、日本では色々やってますよとか説明したっけ。

 日本は地震国で台風来襲国だから発生予測とか被害想定とか、あるいは人命救助体制が発達していたからね。

 来るものは仕方がないので、出来るだけ被害を減らそうという考え方だ。

 自然現象に怒ったり防ごうとしても始まらない。

 いかに予測して事前に対策を練り、始まったら臨機応変に対処し、通り過ぎた後はどれだけ早く救助できるかという問題なんだよ。

「そのお話を聞かせて頂いた時、朧気ながら我が(あるじ)が目指す方向が見えた気がしました。

 我が(あるじ)のこれまでの行動はすべてそのためであったと」

 ユマさんはいつの間にか胸の前で両手を組み合わせていた。

 何か祈っているようだ。

 巫女?

「俺はそんなつもりは」

「そうかもしれません。

 ですが、マコトさん(あるじ)は目の前の危機を見過ごすことが出来る御方ではございません。

 そして何か事を為すためには力が必要です。

 そのための『力』を整えて差し上げるのが私の使命と存じます。

 我が(あるじ)

 パネェ。

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