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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第二章 俺が無地大公?

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21.引退?

「マコトさんが引退なさればよろしいかと」

 ユマさん、簡単に言ってくれるね。

 俺もそうしたいのは山々なんだけど、これまで何だかんだで拒否してきたのはユマさんなのでは?

「失礼ですが、状況が変わりました。

 ヤジマ商会はこれまでヤジマ伯爵閣下あっての企業でございました。

 マコトさんのお名前というか信用で投資を集めていたわけで、マコトさんが会長の座を降りることで信用が低下する可能性がございました」

 それは判る。

 何か俺、スーパーカリスマ的な経営者ということになっているらしいからね。

 アレスト興業舎から始めて立て続けに創立した企業を全部成功させてきたのも俺の手柄だと思われているような。

 もちろん違うんだけど世間的にはそうらしいのだ。

 俺がいくら配下の人たちの頑張りだと主張しても、その配下の人たち自身が俺がトップにいるからだと言い張るし。

 だから投資家の皆さんたちは「俺が会長をやっているヤジマ商会」を信用して金を預けてくれている。

 地球で言うと、例えばビル・○イツが社長をやっていた頃の(株)マイ○ロソフトみたいなものだ。

 天才経営者とか持ち上げられていたから、もしゲイ○氏が○イクロソフトを辞めたら株価がド下がりしただろう。

 資金調達もうまくいかなくなったりして。

 今? はゲ○ツなしでもマイクロソフ○はうまくやっているみたいだけど、それでも往年の覇者というほどの存在感はない。

 旗印ってそれくらい大切なんだよ。

 イメージ戦略というか。

 マイク○ソフトは製造業なのでその程度で済んでいるけど、ヤジマ商会はあいにく持ち株会社(ホールディングス)だ。

 自分では何も生産していないし、原則としては集めた金を回しているだけだからな。

 ヤジママコトという旗印を失ったヤジマ商会がどうなるのか、俺にすら判る。

 でも俺、辞めていいと?

「ヤジマ伯爵閣下ならともかく、ヤジマ大公殿下ほどの身分の方が市井の企業の会長では役不足ということでございます。

 国レベルの統治者なのでございますよ?

 このままではヤジマ商会が国策企業になってしまいますので」

 そういうことね。

 国有企業という物も存在はする。

 国家として戦略的にその分野を発展させたいとか、私企業では資金面や採算面で起業・事業運営が難しい場合などに、税金を使って会社を作って運営することがある。

 JRも昔は国鉄だったし。

 米や煙草も専売だったもんね。

 今の日本ではあまり馴染みがないけど中国やソ連なんかでは当たり前に存在していたはずだ。

 税金使って運営しているのでやり放題、採算なんか無視して作ったり売ったりするので私企業には大迷惑だ。

 あとは外国向けの輸出とかも国有企業がやったりしているとか。

 帝国でも戦略物資や国際交易なんかは国営企業が担当していると聞いている。

 でもヤジマ商会は駄目だ。

 すでに採算が取れているというか自立している優良企業で、しかも他の私企業と真っ向からぶつかる立場なんだよ。

 そんなのが国有企業化されたら独占禁止法なんてレベルじゃない。

「とはいえ、ヤジマ商会がマコトさんの所有物であることは否定できようはずがございません。

 ですのでマコトさんには代表権の無い名誉会長に就任して頂き、実権は他の者に任せることでこの二律背反(アンビバレンツ)を解消できます」

「でもそれだと、俺が黒幕的な立場になるだけなんじゃ」

「マコトさんの資産をヤジマ商会から切り離して非営利団体に移せばよろしいのです。

 その団体はマコトさんの所有になります」

 ラナエ嬢が言った。

「もちろん株式等の権利もその非営利団体が所有します。

 これによってヤジマ商会は『国家レベルの団体を大株主に持つ私企業』という位置付けになります。

 経営権や人事権をヤジマ商会の経営陣(トップ)が持つことで、ヤジマ大公殿下の口出しを阻止できるという建前になるわけです」

 うわあ。

 詭弁だよね、それ?

 言わんとするところは判るけど、状況としては今とあまり変わっていない。

 そもそも俺は既にヤジマ商会の経営から手を引いているどころか人事権すらないもんね。

 でもそうか。

 そんな内情は世間に知られていない。

 現時点では俺がまだヤジマ商会の独裁者に見えているということだ。

 そういう奴が大公なんかやっていたら怖いからな。

 だから敢えて公式に俺をヤジマ商会から切り離すことで、世間様に「俺はもう傍観者でございます」と徹底させるということね。

 いいんじゃないでしょうか。

 正直、ヤジマ商会の会長から降りられるのなら何でもしますので。

 でも本当に大丈夫か?

 ヤジマ商会が困ったりしない?

御身(マコトさん)の配下をご信頼なさいませ」

 ラナエ嬢がため息交じりに言った。

「初期の頃ならともかく、現在のヤジマ商会の配下企業群は押しも押されぬ大企業でございます。

 ヤジマ商会こそ御身(マコトさん)のイメージが強うございますが、配下企業群は既にそれ自体の信用がございます。

 各会舎にはそれぞれ舎長がいますので。

 親会舎の経営陣(トップ)が変わったところでびくともするものではございません」

 そうか。

 だよなあ。

 ヤジマ商会は持株企業(ホールディングス)だから金を握っているけど、実際に事業を行っているのは配下企業だ。

 例えばセルリユ興業舎はラナエ嬢のものだし、取引先はヤジマ商会の子会舎だからではなくラナエ嬢が経営するセルリユ興業舎の実績を信用して取引してくれるんだよね。

 これは失礼しました。

 ヤジマ商会の配下企業群はとっくに巣立っていたんだよ。

 俺なんかの出る幕じゃない。

「了解しました。

 引退したいと思います」

「それがよろしいかと。

 ただちに手続きに入ります」

 ユマさんの言葉にヒューリアさんが頷いた。

 今はこの人(ヒューリアさん)がヤジマ商会の総務部長的な立場にいるらしい。

 ロロニア嬢はまだ帝国のナーダム興業舎の支配人だからな。

 まあいいか。

 人事には口を出すまい。

「用件はそれだけですか?」

 聞いてみる。

 ユマさんが肩を竦めた。

「一番大切な事は了解を頂けましたので。

 後は、その後の(あるじ)の立場でございますね」

 そりゃそうか。

 ヤジマ商会を引退というか名誉会長(おかざり)的な立場に退いて、そのままフェードアウトというわけにはいくまい。

 出来ればニート化したいんだけど。

「無理でございます」

 ヒューリアさんが言った。

「マコトさんは超絶的な有名人でございます。

 それだけではなく、その手腕は並ぶ物無きとまで噂されるほどの経営者と称されているのですよ?

 たちまち引き抜き(スカウト)が殺到して参るのが目に見えております」

 スカウトか。

 でも俺、無地とは言え大公なんじゃないの?

 そんな奴を引き抜いてどうしようと。

「引き抜き、という言葉は適当ではございませんね。

 でもお立場を押しつけてくる輩には事欠きません。

 マコトさんには自由に動かせる膨大な資産と何よりその気になれば世界を征服する事すらたやすいほどの『力』をお持ちなのですから」

「むしろ世界はそれを望んでいるのかもしれません」

 ジェイルくんが口を挟んだ。

「マコトさんは既に既知の世界の大国である帝国やララエ、そしてソラージュにおいて支配階層です。

 北方諸国もマコトさんに逆らうどころか進んで配下に下りたがっています。

 『党主』『救世主』『野生動物の王』などの数々の異名(二つ名)をお持ちですし」

 ジェイルくん、嫌な事を思い出させないでよ!

 せっかくアレは悪夢だったんだと思い込みかけていたのに!

 もう二度とあっち方面には行かないつもりだから!

「世間はそう見ません。

 マコトさんほどの方がただ引退してそのままということは許されないでしょう。

 何かしていないとたちまちどこかの国から国王就任の要請が来ますよ」

 ユマさん、脅かさないでよ!

 そんなこと、あるはずが。

「なぜです?

 これほどの財力、配下、信用、そして『力』を持つ者を世界が放置できるはずがございません。

 マコトさんがどこかの国の国王(トップ)になるということは、その国が世界を支配する事と同義語と言ってもよろしいのです」

 悪夢だ。

 そんな風に思われていたの俺?

 暗殺されたりしない?

「そうしたいと思っている者も多いはずでございます」

 ラナエ嬢が冷ややかに言った。

「ですがご安心下さい。

 そんなことは我々(配下)が許しません。

 例え相手(てき)が国家であろうがお守りします。

 いえ」

 ラナエ嬢、何か瞳が暗く燃えてない?

「率先して叩き潰します」

「配下一同、同じ思いですので」

 ユマさんが言って、全員が頷いた。

 つまりアレね。

 俺に敵対すると思われた人や国はお仕舞いになってしまうと。

 参った。

 うかつには動けないけど、動かないでいると色々殺到してきそうだと。

 どうすりゃいいんだよ?

「大義名分を作ればよろしいのでございます」

 ユマさんが軽く言った。

「どういうこと?」

「マコトさんがご自分で何かを行おうとしている、と世間が認識すれば口や手を出しては来なくなります。

 むしろ協力を申し出てくるかもしれません。

 配下ほどの旨味はございませんが、協力者という立場もなかなかのものですので」

 俺、何すりゃいいのよ?

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