14.後見人?
俺は誤解を解くべく必死で弁明した。
少なくとも平伏はしなかったと思う。
片膝突かれたけど。
「当時でもそのオウル殿は帝国皇子だったのにか?」
あからさまに疑問視された。
それはそうだよ。
俺も皇族だったけど、皇族同士でそこまでする理由がない。
まあ、オウルさんはあの時は現役の帝国軍大佐だったから身分が停止されていたんだけどね。
それでも異常だ。
「僕が聞いた噂ですと、マコトさんは帝国内で『初代皇帝の再来』と呼ばれているとか」
バラされた。
聞かれたくなかったのに!
「教団がマコトを後援するという話も伝わってきている。
史上二人目で、これまでは初代帝国皇帝のみが受けた栄誉だったと。
それも『初代皇帝の再来』だからではないのか」
そうみたいです(泣)。
「帝国軍がマコトさん個人に忠誠を誓ったという情報もあります」
「なるほど。
ならば次期帝国皇帝がマコトの従者でも不思議はないな」
ありますよ!
どうしようもなかったので、俺は全部ぶちまげた。
これはソラージュ王家の秘密にしておくようにとお願いして。
そのために給仕やメイドの人たちには全員出ていって貰って、更に食堂の周辺から人払いしたほどだ。
皆様、さすがに王族だけあってきちんと約束して下さった。
頼みますよ?
「そのような事が」
ミラス殿下がしみじみとした口調で言った。
「判りました。
僕も早速『舎弟』宣言を」
「それは止めて下さい」
ミラス殿下は「お心のままに」と言って着席した。
何なんですかそれ!
「大公位を与えておいて良かったな兄上」
王弟殿下がなぜか汗を拭いながら言った。
「帝国皇太子に無礼を働くところだった」
「公には大した問題にはならないでしょう。
ただ……今後は帝国の対応を多少変える必要がありますね」
今までずっと黙っていた王妃殿下が初めて口を開いた。
その音楽的な声質に反応してしまう。
この方も嫁並に女神なのでは。
「そうだな」
ルディン陛下が顎に指を当てて考え込む。
やはりそうか。
王妃殿下ってただ国王の愛妻というだけじゃなさそうだな。
おそらくは参謀、いや頭脳か。
精神的な支柱でありさえするかもしれない。
一国の国王陛下に嫁に望まれるほどの方なのだ。
異能であることは間違いないだろう。
こっちの世界では、一応身分とか家柄とかはあるけど、どうも絶対的なものじゃないみたいだからね。
本人の実力が一番。
だから時として王女が平民に嫁いだりもするし、伯爵令嬢が近衛騎士の婚約者になっても公には問題にならない。
もちろん身分なんか無視しても構わないというわけじゃない。
不利な条件を圧倒する実力があれば身分差は覆せるんだよ。
考えてみればミラス殿下の婚約もそうだもんね。
普通、王太子の嫁選びなんかは王政府の重鎮とか有力な貴族とかがよってたかって干渉してきそうなものだ。
でもソラージュ王国王太子は自分の嫁を自分で選んだ。
むしろそれが王太子としての資格試験みたいになっているらしい。
変な嫁を選ぶようでは王太子としての資質を疑問視される。
もちろんその嫁が認められるかどうかは別の問題だけど、つまり嫁選びも本人の実力として評価されるということだ。
フレアさんはたまたま帝国皇女だったんだけど、例え平民だったとしてもミラス殿下は押し通したかもね。
何てこった。
軽小説の設定みたいじゃないか!
まあいいけど。
「……判った。
帝国皇太子のことはここまでとする。
皆、今の話は忘れるように」
ルディン陛下が宣言し、そこにいた全員が「お心のままに」と返す。
やはり絶対権力者。
和気藹々に見えても王族だな。
ところで俺はどうすればいいのでしょうか。
「マコトはしょうがない。
どっちにしても当事者であるから問題はなかろう」
さいですか。
その後は当たり障りのない話題が続いて、疲れる食事が終わった。
途中で王女様方が強引にヤジマ商会の話に持っていって、いつの間にかここにいる皆様へのサービスを約束させられてしまった。
つまり前と同じように、王族の皆様全員に俺が一人ひとつずつお望みを叶えて差し上げることになってしまったのだ。
王弟殿下の王女様方は大はしゃぎだった。
そこに持っていったレネ様方に尊敬の眼差しを向けている。
王族って凄いなあ(泣)。
でもクレパト王妃殿下も少し微笑まれていたからいいか。
何か、嫁とは別に「騎士の忠誠」を捧げたくなってしまうほどの方なんだよね。
「マコト。
御前には傾国姫殿がいるだろう。
嫁は俺のものだからな」
間違ってもそんなことは考えてませんから!
凄まないで下さい!
「なら良い。
俺が嫁を得るのにどれほど頑張ったかを知らない奴が多すぎるからな」
そうなんですか。
王妃殿下は微笑んでいるだけだ。
うん、傾国の美女だな。
嫁とは違った意味で。
「私は助かったけどね」
王弟殿下も笑っていた。
「どういうことでしょうか」
「陛下は当時の宮廷の重鎮たちに人質を取られたんだよ。
義姉上と結婚したければ王位を継げと。
確かに義姉上ほどの方を嫁にして登極しないというのは不自然だった」
「駆け落ちしたかったんだが」
ルディン陛下がため息をついた。
「嫁に反対されてな。
責任から逃げるのですか、と」
凄え。
つまり今ソラージュのルディン国王陛下があるのはクレパト王妃殿下のおかげというわけか。
すると王弟殿下がまだ王子なのも?
「そうだ。
陛下が逃げたら国王の立場が俺に回ってきたはずだからな。
重鎮たちには精一杯協力した。
そのせいで陛下には恨まれて」
さいですか。
つまりミラス殿下が生まれた時点で後継者予備としての立場を外れても良かったはずなのに、ミラス殿下が立太子しても王子を辞めさせてもらえなかったと。
「酷い話だろう?」
王弟殿下が俺に振ってくるけど何も言えませんから。
そんな王族内部の問題を部外者に押しつけないで下さい。
「そういうことだな。
マコトはマコトで問題が山積みのはずだ。
しばらくはのんびりしていろ」
ルディン陛下が立ち上がりながら言った。
他の皆様も食堂を去っていく。
一人一人俺に礼をとってから出ていくんだもんなあ。
困る。
特に王女様方は全員が俺に対して挨拶をして下さったりして。
わざわざ俺の前に来てやるんだもん。
何か言われたんだろうか?
「練習ですよ。
あの娘達は自分より身分が高い方にご挨拶する機会がほとんどありませんからね。
マコトさんはその数少ない例外ですから」
ミラス殿下も残っていたか。
「王女殿下の方が上なのでは」
「解釈の仕方によりますけど、この場合マコトさんは大公として王族と同格もしくは目上になります。
特にヤジマ商会のサービスを約束して下さったばかりですし。
あの娘たちもマコトさんのご機嫌を損ねないように動きますよ」
そうなの。
考えすぎだと思うけど。
俺が意地悪で猫撫での権利を取り上げたりするはずがないでしょう。
「ま、練習台になったと思えば良い。
マコトはこれからどうする?
泊まっていくか」
ルディン陛下。
本気で言ってます?
怒りますよ?
ヤジマ屋敷では嫁と娘が待っている……はずですから!
「そうか。
引き留めてすまなかった。
ではまた近いうちに」
どうやら帰らせて貰えるらしい。
陛下の気が変わらないうちに脱出しなければ。
「あ、それから」
駄目だった。
「何でしょうか」
「近いうちに王太子とフレア殿の婚約を正式に発表する。
結婚式は跡継ぎが生まれてからになるがな」
まだ発表してなかったんですか?
「帝国の情勢を見極めてからと思って止めていた。
だがこれ以上引き延ばすとフレア殿が」
それはそうだよ。
腹が大きくなってしまったら、いかにも出来婚みたいじゃないか。
まあ、俺には関係ない話ですね。
それが何か?
「うむ。
息子と嫁のたっての希望もあって、マコトを二人の後見人として迎えたい。
もちろん了解してくれるよな?」
パネェ。




