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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第二章 俺が無地大公?

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4.帝国土産?

 俺は適当に挨拶して逃げた。

 「野生動物の王」か。

 あれってララエ辺りで誰が言い出した戯れ言だったと思ったけど。

 てっきり野生動物側はそんなこと全然思ってないものだと。

「『野生動物の王』の称号はもともと人間が言い出したもののようでございますが、ヤジマ商会関連会舎で働く野生動物たちがそれを聞いて仲間に広めたそうでございます」

 ハマオルさんが説明してくれた。

 何そのやっつけ感。

 適当過ぎる!

「じゃあ野生動物の人たちは内容も知らずに使っていると?」

「いえ。

 『王』の称号の意味は理解しておるようでございますな。

 私がヤジマ警備の野生動物舎員から聞いた所によりますと」

 聞いたのかよハマオルさん!

「野生動物も人間には身分があるということは理解しておるそうでございます。

 言うまでもなくこれは野生動物には存在しない概念でございますし、当人(どうぶつ)には意味がないものですが、大概の野生動物の群れには長老(リーダー)というものが存在いたします」

 なるほど。

 身分じゃなくて職階とか役職とかそういう形で理解しているわけね。

 群れの一員が長老の命令に従うのは当たり前だ。

 その長老(えらいひと)みたいなものだと。

「ただし『野生動物の王』はそういった指揮系統的な概念ではないようでございますな。

 むしろ上位身分つまり僧正様(スウォーク)のような自分たちより上の存在である、というような理解のようでございます」

「そういえば野生動物の人たちってスウォークを尊敬、というか自分たちの上位存在と思っているみたいですね」

 それははっきりしている。

 ララエで出会った時も、ラヤ僧正様が乗った輿が通るとみんな前足を折っていたからな。

 あれってやっぱ身分なのか。

 で、「野生動物の王」がそれと同じだと。

「少し違います」

 ハマオルさんが首を振った。

「野生動物の方々にとって僧正様(スウォーク)は神聖侵すべからざる存在で、例えば何かを命じられたら最優先でなし遂げるべきお相手のようです。

 それに対して(あるじ)殿は『偉い人』という認識で」

 何じゃそりゃ?

 いや、俺も別に神聖視されたいとは思わないけど「偉い人」って何かちょっと馬鹿にされているような。

「それだけ親しみを持った存在ということのようでございますな。

 無条件に従うべき相手ではございませんが、敬意を払う必要はあると」

 何かやっぱ馬鹿にされている気がする。

 野生動物(れんちゅう)って俺に対する扱いが結構ぞんざいだもんなあ。

 海豚連中なんかわざを水をかけていきやがったし。

 それでなくても珍獣を見るような目つきだった。

「それだけ身近に感じているのでございましょう。

 実際、野生動物の方々は例えば(あるじ)殿の関係企業以外とは正式契約しないことになっておるそうでございます。

 野生動物会議での決定とのことで」

「そうなんですか?」

「はい」

 道理でヤジマ商会の競合企業が出てこないと思った。

 野生動物関連事業って、極端に言えば野生動物たちが協力してくれたら誰にでも出来るからな。

 前に猫喫茶をやろうとした人が猫に拒否されて撤退したらしいけど、そういうことか。

 何で?

「そこが『野生動物の王』のお力でございましょう。

 他の方と契約することは裏切りになるそうでございます」

 俺、別に気にしないんだけどな。

 まあいいか。

 結論として俺は野生動物(れんちゅう)の間ではどういう存在なんでしょうか?

「そうでございますね。

 野生動物の方々は、例えば人間も野生動物の一種と見做しております。

 貴族(しはいしゃ)は群れの長老との理解でございますね。

 野生動物の間でも、他の種族の長老には敬意を払います。

 (あるじ)殿の場合、種族を超越した長老(リーダー)と考えられているのではないかと」

長老(リーダー)ですか」

「もう少し上でございます。

 言ってしまえば僧正様(スウォーク)と群れの長老の中間くらいの存在かと」

 なるほど。

 つまり俺って野生動物から見た場合、人間社会におけるララエの名誉大公的な存在なわけだ。

 身分は高いけど支配者じゃない。

 敬意を持って遇するが絶対服従はしない。

 だけど俺を差し置いて他の人間と契約したりはしない程度には存在感があると。

 ああ、そうか。

 つまりこれって外国の人から見た天皇陛下みたいなものなんじゃないか。

 自分たちには直接関係しないけど日本にとっては至高の存在。

 自分たちにはない概念で、何か凄いという感覚だけはある。

 だから敬意を払う。

 でも海豚連中とか随分失礼だったから、そこら辺はまた違うんだろう。

 まあいいか。

 それにしても鳥の人は海豚たちと違って妙に畏まっていたけど、なんでだろう?

「第二世代、と申しましょうか」

 万能のハマオルさんが教えてくれた。

「現在、ヤジマ商会関連企業に参加している野生動物の方々はほとんどが(あるじ)殿に出会ったことがないわけでございます。

 その一方で人間社会に染まっております。

 特に企業文化における職階や役職については最初に教え込まれます」

 それはそうだよ。

 企業研修だってそれが最初に来る。

 学生の時にはなかった概念だからな。

 階級が上の者に従うって、社会に出ないと発生しない状況だ。

 ああ、なるほど。

 野生動物舎員(れんちゅう)にとっての俺って「野生動物の王」以前にヤジマ商会の会長なのか。

 それは畏れ入るよね。

 入社したばかりの俺が北聖システムの社長に会うようなもんだから。

 ツォルみたいに俺が見習い冒険者だった頃から知っている連中は気軽に付き合ってくれるけど、最近入った野生動物(ひと)たちには雲の上の人になってしまうわけね。

 いや、それは野生動物だけじゃないか。

 人間も似たようなもんだからな。

 面倒くさい。

 気を削がれた俺は船室に戻ってふさぎ込んだ。

 早く帰りたい。

 それから俺は朝昼晩と雨が降らない限り甲板で飯を食いながら鯨公演を聴いた。

 食事仲間はユマさんとエスタ少佐(さん)が固定で、時々「アレスト」の船長さんや護衛隊の何とかいう人が参加した。

 ハマオルさんやラウネ嬢は護衛ということで誘っても参加してくれなかった。

 鯨の歌を聴いてうっかり呆然自失してしまったらお役目を果たせなくなるからだと。

 堅いな。

 他の人たちにも「ここは私的(プライベート)で」と言っているんだけど駄目なんだよね。

 ちょっと寂しい。

 エスタ少佐(さん)は次第に慣れて気絶しなくなったけど、今度はやたらに興奮するようになってしまった。

 食事の時間は至福なのだそうだ。

 海豚マニアなのかと思っていたけど、海洋生物なら何でもいいらしい。

 鯨についても大好物ということで、いや食おうというんじゃないけど語らせると止まらなくなる。

 この人、ひょっとして帝国海軍で持て余されて、視察という名目で追放されたんじゃないだろうね?

 そんな騒ぎを繰り返しながら「アレスト」は順調に航路を進んでいるらしかった。

 特に海賊などが出る事もなく、また海はずっと穏やかでいい航海だった。

 明日辺りにセルリユ港に到着すると聞いた午後、巨大な鳥が「アレスト」の甲板に舞い降りてきた。

 広げた翼が2メートルくらいある茶色の鳥の人で、俺たちに同行しているヤジマ航空警備(エアガード)の舎員じゃないようだ。

 鳥の人はハマオルさんとちょっと話してから、背中につけていたバッグを外して貰って舞い上がった。

 そのまま飛んでいくのかと思ったらヤジマ海上警備の輸送船の甲板に舞い降りるのが見えた。

 何だ?

(あるじ)殿」

 ハマオルさんに呼ばれて船室に入り、居間(リビング)で向かい合う。

 ハマオルさんはテーブルの上にバッグを置いた。

 あの鳥の人が運んできた奴か。

「ナーダム興業舎のロロニア殿より至急便でございます。

 お確かめ下さい」

 俺に?

 ラウネ嬢を見たけど首を振られた。

 ハマオルさんは知っているみたいだけど何も言わない。

 バッグを開けると厳重な包みがあった。

 危険なものじゃないよね?

「大丈夫でございます」

 ならいいか。

 包みを開けるといくつかの布の塊が出てきた。

 手紙も入っている。

 ラウネ嬢に渡し、俺は布を解いた。

 これは!

「宝飾類が一部完成しましたので、急ぎ送達するとのことでございます。

 残りの物は出来次第送るそうです」

 ラウネ嬢が手紙を読んで言った。

 忘れていた。

 レイリさんに相談した帝国土産か。

 確か職人さんたちに作って貰っていたんだよね。

 (ハスィー)の分だけかと思ったけど、いくつかある。

 こんなにたくさん?

「ヤジマ皇子殿下のご自由にして頂いてよろしいとのことでございます。

 職人どもの製品のうち最高級の宝飾品のようでございますね」

 見てみると物凄く精緻なペンダントのような物があった。

 宝石もついている。

 これは凄い。

 他の包みを開けてみると色々出てきた。

 髪飾りとか腕輪もある。

 指輪なんかごつくて俺にすら似合わなさそうだけど。

 このペンダントなんか(ハスィー)にぴったりかも。

「いかがいたしますか?」

 いや、俺判んないし。

 まあいいか。

「全部買います。

 (ハスィー)に好きなのを選んで貰えばいいから」

 高そうだけどいいか。

 ラウネ嬢が困ったように言った。

「これらはすべてヤジマ商会の経費で購入済みですので、ヤジマ皇子殿下のご自由にして頂きたいと書いてありますが」

 パネェ。

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