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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第一章 俺が後ろ盾?

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21.パレード?

 数日後、「アレスト」の出港準備が整ったという知らせが入った。

 まだ(ハスィー)たちの土産は完成してないということで、後から送ってくれることになった。

 俺が自宅に帰り着くまでにお願いします。

「万難を排しても」

 聞くところによれば超一流の職人さんたちが突貫工事で俺の帝国土産を製作しているそうだ。

 そこまでしてくれなくても良かったのに。

「ヤジマ皇子殿下のご注文でございます。

 製作に関わることが出来れば家名の誉れ。

 職人街の者どもが争って志願し、選抜会場で殴り合いになったとのことでございます」

 こっちの人たちって何かというと殴り合うのね。

 多分、魔素翻訳で内心が赤裸々になってしまうために沸点が低くなっているんだろう。

 口喧嘩をすっ飛ばしていきなり拳がものを言うのかも。

「大丈夫だったんですか?」

「ご心配なく。

 希望者をすべて採用し、それぞれ仕様に従って製作して頂くことになったようでございます。

 完成品を選ぶのはヤジマ皇子殿下ということで」

 ラウネ嬢が事も無げに言った。

 何と。

 そんなに大量の宝飾品(アクセサリー)、俺はとても購入出来ないぞ?

「もちろん経費や原石代には制限をかけております。

 それに、選ばれなかった宝飾品(アクセサリー)についてもヤジマ商会が購入することで話しがついておりますので」

 これを気に宝飾品関連事業を立ち上げます、とロロニア嬢。

 呆れてものも言えないぞ。

 何でも商売にしてしまうのか。

「ナーダム興業舎の目玉事業が必要なので。

 私が去る前の置き土産のひとつです」

 ロロニア嬢も怪物(チート)化してきたな。

 局地戦専門の軍師か。

 司令官の資質もある。

 何でこんな物凄い人ばかり集まってくるんだろう。

「それは違う。

 マコトさんがいるからみんな凄くなるだけ」

 ロロニア嬢が小声で言った。

「そうかなあ」

「私もラナエもユマも、きっとマコトさん以外の下では思うように動けない。

 全部マコトさんの功績」

 違うと思うけど、いつもの水掛論になるだけだから俺は黙った。

 何にせよ、みんな実力を発揮出来ているのは良いことだ。

 ラナエ嬢なんか、もはやセルリユいやソラージュ一の経営者という評判らしいからね。

 ジェイルくんも凄いんだけど、彼はむしろ株主企業(ホールディングス)の経営に特化しているから個人の実績が判りにくいんだよ。

 それに対してラナエ嬢はヤジマ商会の人間関係事業を一手に握っているもんな。

 シルさんみたいに潜行していない分、名前が上げられやすいらしい。

「すべてマコトさんの配下の者です。

 ヤジマ商会の配下企業はあらゆる方面に進出しています。

 国際ネットワークが機能し始めていて、特に北方諸国での進展が著しいと」

「北方っていうと?」

「基本的に現地資本と組んで興業舎を立ち上げ、交易ネットワークに組み込みます。

 王政府の直轄事業が多いですね。

 その収入は即税収に繋がりますので、各国とも大車輪で推進しております」

 ユマさんが微笑みながら言った。

 帝国に居ながらにしてすべてを観ているのか。

 ヤジマ商会の支配者。

 いや世界のか?

「違います。

 私は我が(あるじ)(しもべ)でございます」

 はいはい。

 もう諦めました。

 俺はラウネ嬢やハマオルさんを連れてナーダム興業舎を出た。

 ユマさんは(しもべ)らしく一歩下がってついてくる。

 いいのかねえ。

 ナーダム興業舎の人たちが鈴なりで見送ってくれた。

 オウルさんやフレスカ大尉(さん)は事前にお別れを済ませてあるからここにはいない。

 あの人、土壇場でどういう行動に出るか判らないからな。

 人前で帝国皇太子に片膝突かれたりしたらとんでもないスキャンダルになってしまう。

 カールさんが握手を求めてきた。

「わしも近いうちに戻る」

「よろしくお願いします」

 カールさんには引き続きヤジマ商会の顧問を務めて貰わないと。

 シルさんもいるけど、他の帝国皇族が入舎する予定だからトップには皇族が必要なんだよね。

 でないと俺が引退出来ない。

 そのシルさんはいなかった。

 またどっかに行っているんだろう。

 神出鬼没が信条の皇女様だからな。

 別にいいんだけど。

 レイリさんも姿が見えない。

 まあ、あの人は諜報員(スパイ)の親玉だからな。

 エントランスでみんなに向き直る。

「それでは」

 カールさん以外のみんながロロニア嬢を筆頭に一斉に片膝を突いてくれた。

「「「お早いお帰りをお祈りしております。

 どうかご無事で。

 ヤジマ皇子殿下」」」

 よして(泣)。

 これから戦場に行くみたいじゃないか!

 俺は母国(ソラージュ)に帰るんだよ!

「みなさん、寂しいのですよ」

 ユマさんが囁いた。

「我が(あるじ)は帝国の皇子殿下ですから。

 皆の恩人でもあります。

 その大切な皇子を他国(ソラージュ)に取られるような気持ちなのでしょう」

 さいですか。

 いや、俺は帝国の者じゃないので。

 もやもやした気持ちのままで礼を返して馬車に乗り込む。

 ユマさんとラウネ嬢が続き、ハマオルさんは御者席に飛び乗った。

「出発します」

 なぜか沸き起こる拍手。

 俺は退場するらしい。

 何の舞台だったんだろうか。

 まあいいや。

 これでようやく帝国から離れられる。

 俺は(ハスィー)(シーラ)が待つ母国(ソラージュ)に帰るんだ!

 周り中の護衛馬車や狼騎士(ウルフライダー)隊などが動き出し、俺の馬車を囲んでくれた。

 また大名行列か。

 しょうがないな。

「この馬車は?」

「ソラージュに回送する予定ですが、ロロニアが乗って帰るかもしれません。

 予定は流動的ですね」

 ユマさんによれば、既にセルリユのヤジマ商会には俺専用の改良型が数台準備されているそうだ。

 このシリーズも大ヒットで、俺が使っている馬車であるとかそういう理由とは別に使い勝手の良さと何より居住性? が評価されて続々と同型が生産されているらしい。

「最新の報告では王太子府からも数台発注があったそうです。

 王政府には既に納品済みです」

 ミラス殿下も買ってくれたのか。

 そういやそんなことを言っていたな。

 でも王政府にも納品したの?

原型(プロトタイプ)は司法省が辺地勤務の司法官用に設計した馬車ですので。

 特許(パテント)の件で少し揉めたようですが解決済みで、各地の司法官向けに優先して導入されています」

 ユマさんの古巣か。

 確かにこの居住性は辺境で使うのにぴったりだったりして。

 俺の北方巡業にも耐えたということで耐久性が証明されて次世代型馬車として評価されたらしい。

「その他、軍用の指揮車としても導入が検討されているようです。

 『ヤジマ馬車製造』では急ピッチで工場を拡張していると報告を受けています」

 また新しい会舎か。

 別に好きにしてくれていいけど。

 俺には関係ないし。

「ヤジマ商会の100%子会社ですのでマコトさんのものですよ?」

 さいですか。

 いやいいんですけどね。

 その設立運営費用はどっから出たのか聞きたくない。

 どうせ俺の借金なんだろうし。

 気が滅入るような話を続けながら馬車は街道を走る。

 ナーダム興業舎に続く道が随分広くなってない?

 そういえば帝国軍部隊の皆さんが拡張工事をやっていたような。

「それは完了しましたが、現在は新しい街道を造営中です。

 ナーダム興業舎の周辺は急速に開ける予定ですので、交通量からして街道を通してしまった方が良いとの判断だそうです」

「判断?

 帝国政府が?」

「はい。

 おそらく『上』から交通省に要請(めいれい)があったのではないかと」

 オウルさんだな。

 いやもう俺には関係ないから。

 ぼーっとしているうちに周囲が開けてきた。

 道が広くなり、大きな屋敷が建ち並ぶ。

 今回の目的地はナーダム港なので中心部は通らないけど、港のそばってことはつまり交易の心臓部だからな。

 人も馬車も多い。

 ていうか多すぎない?

 街道の両側に人がびっしりだぞ?

(あるじ)が本日ソラージュに向かうという情報が漏れたようですね。

 『アレスト』の出港準備が進んでいることからの情報漏洩かと」

「困るよ」

「でも一言述べないと出発できないかもしれません。

 お覚悟を」

 やだなあ。

 消えるときくらいひっそり()ちたかったのに。

 無理そうだった。

 港に近づくに連れて人は群衆になり、ひっきりなしに歓声や「万歳(ウラー)!」が混じるようになってきたんだよ。

 誰だ叫んでいる奴は!

「軍港が近くにありますから。

 非番の帝国軍人が繰り出してきているようです」

 ラウネ嬢が教えてくれた。

 帝国海軍の人?

 俺、別に接触なかったと思うんだけど。

「帝国軍は一蓮托生でございます。

 ヤジマ帝国皇子殿下は断トツの人気ということで」

 いらんわ!

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