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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第一章 俺が後ろ盾?

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19.NPO?

 オウルさんがみんなに宥められて席に着くと、ユマさんは何事もなかったかのように話を再開した。

「実は先日、マコトさんより非営利団体(NPO)の設立を命じられました。

 NPOとは事業組織でありながら利益を求めない会舎という理解で良いかと思います。

 マコトさん、それで合っていますか?」

 合ってます。

 違う気もするけど、どっちにしても市民の概念がないこっちの世界ではそこら辺が限界と思うので。

「EぬPーオウ、ですか?」

「内容がよく分かりません」

 案の定、出席者から疑問の声が上がる。

 無理ないよなあ。

 利益を上げないでどうやって組織を維持するんだよ。

 よく考えたら言葉というか概念自体が自己矛盾という気がしてきた。

 まあ、本来は政府や公的な組織が行うべき事業をやる私的な団体のことなんだけどね。

 俺の記憶だと、公式に政府がやるべき事業を推進したり、あるいは国際的な活動を行う非政府的団体の名称はNon Governmental Organizationつまり「非政府組織(NGO)」だ。

 国連で活動したりする大規模な団体はそういう形になるわけだが、俺が考えているのはもっと小規模なのでNPOでいいと思う。

「マコトさん直々の命令でございます。

 何としてでも実現せねばなりません」

「そうだ!

 勅命なら万難を排してもやり遂げなくては!」

 ユマさん。

 俺はそこまで激烈に言ってないし、そもそも「命令」した覚えはないんですが。

 そしてオウルさん。

 貴方は帝国の皇太子なんだから皇帝陛下以外から勅命受けたら駄目でしょう!

「そのエヌピイオウを作るのはいいとして、それがヤジマ商会やマコトとどう関係するんだ?」

 シルさんが冷静に聞いてきた。

 NPOの発音が本来のものに近くなっているような。

 多分、意味を考えずに単語をそのまま言ったな。

「まずその団体を設立します。

 これはヤジマ商会の関連組織ということで良いでしょう。

 形としては教団と同じような登録になりますね。

 調べてみましたが、教団の事業内容は利益を求めないとまでは謳っていないものの、本質的にはマコトさんの言われるNPOそのものです。

 配下の企業が事業を運営してはいるのですが、そこから上がる利益を教団の活動に使用していて、その活動自体では利益を生みません」

「なるほど、の」

 カールさんが短く言った。

「お判りになるのでございますか?」

 レイリさんが聞くと、カールさんは淡々と言った。

「わしも迷い人じゃからな。

 故郷(ドイツ)にも似たような団体はあった。

 『財団』じゃったかの」

 カールさんも知っていたか。

 そうなんだよ。

 マ○クロソフトや○ェイスブックの創立者が作ったのも財団だったと思う。

 それ自体では利益を生まない事業を行う組織。

 でもやっていることは普通の企業と同じだ。

 国際的な支援や協力なんかも出来るんだよね。

 国連の場での発言権もあったりして。

 何せ莫大な金を動かせるからな。

 俺の理解だから違うかもしれないけど。

「『財団』でございますか。

 ぴったりですね。

 ということで設立した『ヤジマ財団』の理事長はマコトさんということになりますが、その際マコトさんはヤジマ商会の名誉会長に就任して頂きます」

 場がざわめいた。

 なるほどね。

 俺が執行権限を持たない名誉会長になることで経営陣から外れると同時に、対外的にはまだ俺がヤジマ商会の頂点(トップ)にいるように見せるわけか。

 いいんじゃないの?

「どちみちマコトさんはヤジマ商会の所有者(オーナー)ですので。

 実質的には今までと何も変わらないことになります」

 ロロニア嬢が淡々と言った。

 やはり出来レースか。

「ヤジマ財団は表向きは単なるヤジマ商会関連の一法人ですが、実際にはヤジマ商会の上に立つ組織になります。

 ヤジマ商会の関連企業群はヤジマ財団配下の組織ということです。

 ヤジマ財団の活動内容は自由(フリー)

 それ自身では営業活動等は行いません」

 ユマさんが言い切った。

 凄い。

 俺が言ったことを全部実現してしまっている。

 ていうか俺、NPOを作りたいとは言ったけどそれで何かするとは一言も言ってない気がするんだよね。

 俺はヤジマ商会会長(トップ)の立場から逃れられるのなら何でも良かったわけで。

 でも、そんなことをするのなら何らかの言い訳が必要になるってことなんだろうな。

 ヤジマ商会の会長辞めて隠居しますでは世間に通らないのは俺にも判る。

 だから休眠NPOの理事とかやって誤魔化そうと思ったんだよね。

 利益を上げないんだから俺にだって運営出来るはずだ。

 間違ってもヤジマ商会みたいな事にはしたくない。

 ジェイルくんとかラナエ嬢とか、ほっといたら何をするか判らないからな。

「大体、判りました。

 これは決定事項でしょうか」

 レイリさんが口を挟んだ。

 俺が最初に相談したのはレイリさんだからね。

「いえ。

 とりあえず共通認識を作ろうと考えただけです。

 まだ本国の了解も得ておりませんし」

 確かにジェイルくんたちの承認がないと難しいだろう。

 そもそもヤジマ商会の人事権はジェイルくんたちが握っているからな。

 俺がヤジマ商会の会長職を降りるとしたら、釣られてヤジマ商会の人事がかなり異動になるはずだ。

 まず最初に考えなければならないことは、誰がヤジマ商会の次の会長になるかだけど。

 ユマさんとかジェイルくんとかラナエ嬢とかでいいんじゃない?

 シルさんは嫌だろうし。

「よく判っているなマコト。

 私はそんな立場は真っ平だ」

 やはりそうですかシルさん。

「私もご遠慮させて頂きます。

 私はマコトさんの参謀(懐刀)でございますからね」

 ユマさんもやんわり否定してきた。

 いや口調は軟らかいけど完璧な拒絶だよね。

 まあいいか。

「それでは皆さん、この件についてはご他言無用でお願いします」

 ユマさんが締めて、会議は終わった。

 何の結論も出なかったけど、ユマさんとしてはむしろみんなの反応を確かめたかったんじゃないかな。

 俺がヤジマ商会の会長を降りる件については反対の人がいなかったことは確認出来たみたいだし。

 ヤジマ財団(仮)の設立についても否定的な意見は出なかった。

 もっとも何をする団体なのか不明なんだから反対も賛成もしようがないけど。

 まあいいか。

 これからの方向性について、俺の中では漠然としたものは出来かけているんだけどね。

 ここでユマさんたちに相談しても、ソラージュに戻ったら改めてジェイルくんたちに説明しなきゃならないし。

 二度手間は面倒くさいから後でいいか。

 ソラージュに戻ってからの話だよね。

 そうと決まれば早く帰りたいんだけど、帝国側の準備が整わないということでなかなか許可が降りない。

 そうこうしている間に、いったん収まっていた社交が復活しそうな気配がしてきた。

 またあの果てしない訪問者との無駄話が始まるのか。

 ユマえもん、何とかならない?

「かしこまりました。

 我が(あるじ)

 マジで何とかしてしまった。

 ユマさんがオウルさんに直談判して、とりあえず俺の帰国を優先して良しという許可をもぎ取ってくれたんだよ。

 オウルさんは憤懣やるかたない表情で俺の手をがっしり握って言った。

「すぐに、いえ出来るだけ早くお側に参ります!」

 帝国の皇太子が片膝突きそうになるのを何とか阻止する。

 やっぱまずいでしょう!

 オウルさんがソラージュに来るまでは派手な動きは出来るだけやらないと約束してやっと引き取って貰った。

 オウルさんはどうしても俺の切り込み隊長をやりたいそうだ。

 帝国皇太子が切り込んでどうする。

 そもそも俺はそんな物騒な事はしませんから。

 疲れた。

 俺のソラージュ帰還の準備は大車輪で進められた。

 紋章院長(アーリエさん)が送別会をやりたいとか言ってきたけど丁寧にお断りする。

 ヤジマ食堂(レストラン)目当てなのが見え見えだぞ。

 シルさんは新しくヤジマ商会関連事業に参加してくれる皇族の人たちの世話があるのでしばらく帝国(こっち)にいることになったそうだ。

 ロロニア嬢は貧乏くじを引いたようで、ナーダム興業舎が軌道に乗るまでは帝都(ナーダム)に駐在らしい。

 無表情だけど相当怒っているな。

 その分仕事に切れ味が増していて、配下の人たちの声なき悲鳴が響いていた。

 シイルたち狼騎士(ウルフライダー)隊の本体は俺とは別ルートでソラージュに戻るけど、いくつかの分隊は帝国に残ることになった。

 ナーダム興業舎所属の狼騎士(ウルフライダー)隊を作るそうだ。

 帝国人の隊員を募集したり、帝国領内の野生動物たちと折衝したりする任務があるという。

狼騎士(ウルフライダー)隊と言えば野生動物にとってはヤジマ商会そのものですので。

 契約の取り決めなども任されています」

 ユマさんが教えてくれたけど、今や狼騎士(ウルフライダー)隊は野生動物たちの間でも生きた伝説になっているそうだ。

 よって新しい野生動物の群れと契約する場合など、狼騎士(ウルフライダー)隊が立ち会うことで円満に進むという。

 シイルって凄いな。

「私などは案山子です。

 言われた通りに突っ立っているだけなんですよ」

 シイルが苦笑して言った。

 やっぱかよ!

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