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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第一章 俺が後ろ盾?

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13.天才軍人?

 皇宮のエントランスで無事にカールさんたちと合流した俺たちは一路ナーダム興業舎を目指した。

 紋章院長(アーリエさん)新任皇族(こどもたち)とはその時に別れた。

 みんなで紋章院に帰るらしい。

 それはそうだ。

 その他の皇族の皆さんたちも突撃しては来なかった。

 何かのルールがあるんだろうか。

「むしろ気後れしておるのではないかの」

 カールさんが素っ気なく言った。

「俺にですか?」

「当然じゃろう。

 オウル殿が帝国皇太子に登極出来たのはマコト殿が後援(サポート)したからじゃぞ?

 オウル殿の従者宣言は半ば冗談として受け取られておるらしいが、それでも帝国のナンバー2に『命令』出来るかもしれぬ者に失礼なことは出来んじゃろうて」

 いや命令なんてとんでもない。

 オウルさんだって聞いちゃくれないでしょうし。

「そうかの?

 オウル殿なら、マコト殿が言う事を迷わず実行しかねんと思うのじゃが。

 世界征服でも帝国崩壊でも」

 何で俺がそんな最終戦争(ハルマゲドン)じみたことを命令しなきゃならないんですか。

 俺は安穏な生活を望んでいるだけなのに。

 まあ、そのためなら何だってするけどね。

「素敵です。

 マコトさん」

 この人がいたよ!

 レイリさんが強引についてきてしまったのだ。

 今も俺の馬車に乗り込んで真向かいに座っている。

 帝国軍情報局長だからな。

 ある意味、身分を越えた立場だ。

 俺としてもレイリさんを出来るだけ早くユマさんに紹介して片付けてしまいたい。

 オウルさんを呼び捨てに出来るような人と対面していると精神が削られるんだよ。

「申し訳ございません。

 そんなつもりはないのですが」

 レイリさんは殊勝に言うけど、これは俺の方の問題ですので。

 でもちょっと気になったので聞いてみた。

「オウルさんの遠縁と伺いましたけど、どんな関係なんですか?」

 帝国皇子にされる前のオウルさんはホルム領主家の王子様だったはずなんだよね。

 てことは血が繋がっているレイリさんは少なくとも貴族家の出であることは間違いないような。

 そうでないと幼いオウルさんと接触できないだろう。

「私も私の実家も貴族ではございません。

 ホルム王家の王女であった祖母が伯爵家に降嫁したのですが、その伯爵家の三男が私の父親でございます」

 なるほど。

 お父上も平民か。

 こっちの世界でも地球と同じで本物の貴族と言えるのは爵位持ちの当主だけだからな。

 祖母が元王女で伯爵夫人だったんだけど、三男である父親の段階で貴族ではなくなったのか。

 その娘であるレイリさんは、貴族家の縁戚ではあるけどほぼ平民だったりして。

 でもそれでよくオウルさんと親しくなりましたね?

「マコトさんに誤解があるようでございますが、ホルム領の領主家は王家を名乗ってはいてもそんなに堅苦しい家系ではございません。

 他国の爵位で言えば侯爵です。

 それに帝国内で独自の立場にあるせいもあって様々な優遇措置を受けております」

 レイリさんによれば、ホルム領は帝国でも指折りの豊かな領地な上に帝国からいくつかの特権を認められていて、生存競争(サバイバル)とは無縁な家系なんだそうだ。

 それはそうだよね。

 万一の場合に帝国皇帝の代理を出すはずの家が没落していたりしたら大変なことになる。

 あまりにギスギスしていると変な野心が出るかもしれないし。

 帝国政府や他の領主家に警戒されても困る。

 というわけでホルム王家は努めて下々と関わりのんびりと過ごす家風なんだそうだ。

「それで王女の臣籍降下を」

「それだけではなく、領主の正室(よめ)すら下級貴族や平民の娘を迎えることもあります。

 また臣籍降下させたり血が繋がった下級貴族や平民の家と親しく付き合い、機会あるごとに野心がないことをアピールするのが家風でございますね」

 だから本来なら声も掛けられない平民であるはずのナルシナ家もパーティなどにちょくちょく呼ばれたりしていたらしい。

 王家にも色々あるんだなあ。

「オウルさんとはパーティで?」

「というよりはむしろ家庭教師でしょうか。

 オウルはかなり幼い頃に皇族に登極したので、ホルム家での教育が出来なかったのでございます。

 もちろんホルム家が後援者(パトロン)につきましたが、立場が立場だけに過度の干渉は避けるべきとの判断で」

 その頃既に帝国軍で活躍していたレイリさんに押しつけられたと。

「軍は退役したんですか?」

「予備役に編入して貰いました。

 経歴(キャリア)的にはマイナスでしたが、皇族の専属家庭教師についたことで視野や付き合いが広がりまして」

 レイリさんにも恩恵だったらしい

 確かに皇族をダシにすれば何でも出来そうだ。

 交友関係(コネ)も凄いことになったんだろうな。

 オウルさんの教育を終えて帝国軍に復帰したレイリさんは情報畑に進路を転じて出世していったそうだ。

 今は情報局長だもんね。

 もともと有能な所にもってきて皇族関係に顔が利くし、その頃には帝国軍に入隊したオウルさんがめきめき評価を上げていたこともあって出世が早かったと。

 この場合、オウルさんとレイリさんはお互いにコネと伝手を利用し合ったと見るべきだな。

 片や現場のエースで皇族。

 片や情報部門の幹部。

 それはお互いに出世するわ。

 なるほどなあ。

 やっぱコネや伝手がないとどんな組織でも頭打ちになるからな。

 それで思い出したんだけど、ナポレオン戦争時代のヨーロッパの軍隊ってまさにコネや縁故で動いていたとどっかで読んだっけ。

 特に海軍は縁故がないといくら有能でもどうにもならなかったらしい。

 まあ縁故は血縁に限るわけでもないけどね。

 下層階級の出身であっても貴族の高級士官に目に留めて貰えば出世することが出来た。

 もちろん有能であることが条件だけど、単に有能なだけの人ならいくらでもいるんだよ。

 現代の会社だってそうだ。

 仕事が出来る社員は結構多い。

 でも出世するのはその中の一握りだ。

 上の人に目を掛けて貰ったり、勧められてその人の親戚と結婚したり、あるいは純粋に偶然で気に入られたりして人は出世する。

 それがない人は一生下積みだ。

 まあ、下積みが悪いというわけではないんだけど。

 だって上の人に気に入られるってことはつまり子分や手下になるってことだ。

 ろくなもんじゃない。

 多少なりとも人生における選択肢は狭まるだろうし、意に添わないこともやらなきゃいけなくなるかもしれない。

 そんなのは嫌だという人は自由に下積みをやればいいのだ。

 でも軍隊ってマジで死ぬからね。

 縁故がないおかげで危険な最前線に送られるというのはよくあることだし(泣)。

「そのような事があるのですか」

 レイリさんが驚愕していた。

 帝国軍はないんですか?

「危険度という意味ではあまりありませんね。

 帝国軍は戦わない軍隊ですので」

 ああ、そういうことか。

 実戦というものが皆無ではないにしても珍しいんだろうね。

 だって帝国には敵どころか仮想敵国すらなさそうだもんな。

 まず地形が素晴らしい。

 ソラージュ以北とは険しい山脈で切り離されているから、まず大規模な戦争にはならない。

 いや地球の場合はどんなに離れていても戦争が起こったりしたけどね。

 国家運営の失敗を侵略で解消しようという方法論が有効だったから。

 でもこっちでは魔素翻訳のせいで庶民すら騙されないんだよ。

 あまりにも圧迫しすぎると為政者に向かって牙を剥くし。

 そもそもこっちの国家はそこまで追い込まれる前に自壊する。

 帝国もそれは同じで、発生するとしても戦争じゃなくて内乱だ。

 山脈のせいでおいそれとは北上出来ないからな。

 南の方については俺もよく知らないけど、どうも秘境が続いているらしくてあまり発展していないらしい。

 ローマ帝国もエジプト辺りの沿岸は支配したけどアフリカ大陸の奥には侵攻しなかったからね。

 あまり魅力がある土地ではないんだろうな。

 それでも南にはまだ帝国に編入されていない小国家が乱立しているらしく、時々小競り合いはあるようなんだけど、帝国軍のほとんどには関係がないそうだ。

 つまり帝国軍には戦う相手がいない。

「でも訓練はしているんですよね?」

「はい。

 戦争しないからといって戦闘が起こらないわけではございませんから」

 それはそうだ。

 戦闘までしなくなったら軍隊じゃなくなる。

「ですが本当に戦争が出来るのかと言われれば疑問でございます。

 本格的な集団戦は八十年ほど前にあったものが最後ですので」

 それは酷い。

「オウルが評価されているのは実戦演習で際立った成績を残しているからです。

 少なくとも同等の条件でオウルが負けた事はないはずです」

 やっぱ天才軍人だったか。

 それはいいんだけどね。

 オウルさん、登極したら事実上の軍人皇帝になってしまうんじゃないんですか?

「そこは大丈夫と愚考致します。

 マコトさんがおられる限り、オウルが暴走することは有り得ませんので」

 俺がストッパー役かよ!

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