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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第一章 俺が後ろ盾?

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9.昏倒?

 それからは大した質問も出ず、帝国政府の重鎮の人たちは再び片膝を突いて礼をとった後、去って行った。

 疲れた。

 しかし疑問はある。

 「帝国政府の重鎮」という割には職位や身分がバラバラだったような。

 帝国宰相と言えば皇帝陛下の次くらいに偉そうだし、それに対して帝国軍情報局長って良くて中堅幹部だもんね。

 極端な言い方をすれば下っ端だ。

 歳も若すぎたし。

 俺とあまり変わらないのでは。

「レイリは見かけより年配でございます」

 オウルさんがお茶を啜りながら言った。

「それに帝国政府の人事は身分や血縁に関わらず、ただ能力のみで行われます。

 男女区差もございません。

 あの者どもはしかるべき理由があってその職責を担っております」

 さいですか。

 徹底しているな。

 何となく判った。

 つまり今の人たちって帝国政府の中でもオウルさんから見た「重鎮」なんだろう。

 表面的な役職や地位とは別に、帝国を動かしている真の実力者という所か。

 もちろんオウルさんの独断と偏見も入っているはずだ。

 重要ではあるけどオウルさんの統治にあまり関係ないルーティンワーク担当の人なんかは呼ばれていない。

 つまりオウルさんが帝国皇帝に登極した後の配下になる人たちで、オウルさんが直接指示を出せる立場の者か。

帝国宰相(トナル)などはむしろ皇太子として動く際に関わる者ですが」

 オウルさんが言った。

「おそらく私が登極した際に宰相(トナル)は引退すると思われますので」

「そうだな。

 奴も皇帝(わたし)に付き合わせ過ぎて些か草臥(くたび)れておるからな。

 もうじき引退出来ると内心喜んでおるであろう」

 アリヤト陛下も喜んでいらっしゃいますね?

「そうだとも。

 長かったぞ。

 後継者に定めた皇太子(オウル)に逃げられ続けてここまで来てしまった」

 オウルさんってもともと皇帝候補だったんだな。

 逃げていたのか。

「お戯れを。

 私でなくともシルレラがおります」

「あやつでも上手くやるであろうが、些か乱暴な解決策を取りそうでな。

 帝国皇帝としてはあまり望ましくない」

 やっぱシルさんも皇帝候補だったのか。

 でも条件が悪すぎる気がする。

 出自だけでも反発する人って多いと思うぞ。

 その点、オウルさんはホルム王家出身だからな。

 サラブレッドと言っていい。

「あまり関係はございません。

 そもそも初代陛下は」

「そのことはもう良い。

 今は御前(オウル)が皇太子なのだぞ」

 帝国皇帝と皇太子の戯れって軽小説(ラノベ)じゃあるまいし。

 そんな場に立ち会わされる俺って一体。

「それもそうですな。

 マコトさん。

 お忙しい所を申し訳ありませんでした」

 帝国皇太子がそういう事を言っちゃ駄目な気がします。

「交易ネットワークの件は感謝する」

 皇帝(アリヤト)陛下がちょっと頭を下げた。

 恐れ多いって!

「まだ油断は出来ぬが、とりあえずの破綻は回避出来よう。

 とはいえこれからが本番だ。

 いつまでもヤジマ商会に頼っているわけにもいくまい」

「もちろんです。

 私が対処します」

 アリヤト陛下とオウル皇太子の間で緊張感を持ったやり取りが行われた。

 俺、もう帰っていいですよね?

「おお、すまぬことをした。

 送らせよう」

「近日中にご報告に上がりますので」

 だから皇太子がそういう言い方は駄目ですって!

 アリヤト陛下も何で咎めて頂けないんですか?

皇太子(オウル)の自由だからな」

 アリヤト陛下って結構芸人(アレ)だよね。

 そのくらいじゃないと皇帝なんかやってられないのか。

 まあソラージュやエラ・ララエといった大国の支配者(トップ)もみんな芸人(アレ)だったからなあ。

 日本じゃ滅多に無いけど、欧州(ヨーロッパ)とかじゃコメディアンや道化(クラウン)が政治家になったりするというし。

 こっちの世界ってどっちかというと地球の西洋風だから同じなのかもしれない。

 魔素翻訳がある世界だと、強面(コワモテ)や品行方正が必ずしも強いとは限らないからな。

 アリヤト陛下はこの巨大な帝国を数十年に渡って(つつが)なく運営してきた偉大な指導者なのだ。

 俺がどうこう言っていい存在じゃない。

 そういう意味ではソラージュやエラの芸人(こくおう)も偉大なことには違いないんだけどね。

 何というかどうしても印象(イメージ)が。

 ぼうっとしていたら執事の人が来て片膝をついたので、皇帝陛下と皇太子殿下に礼をとってから退席させて頂く。

 帝国のナンバーワンとナンバーツーはこれから打ち合わせ? があるらしい。

 ご苦労様です。

 ドアを抜けるときに振り返ると、お二人は既に何かの書類を広げて議論していた。

 凄いなあ。

「ヤジマ皇子殿下。

 こちらでございます」

 へい。

 執事? さんに連れられて誰もいない廊下を進む。

 護衛どころか衛兵のたぐいもまったくいないな。

 軽小説(ラノベ)だったらこの辺りで暗殺者が出てくるんだが。

 執事? の人は何も言わない。

 緊張しているのか歩き方が堅いぞ。

 何かあるのか?

「……申し訳ございません!」

 突然、執事? の人が言った。

「ヤジマ皇子殿下……いえ初代帝国皇帝(ヴァシール)陛下の再来様に何と失礼な事を!」

 何かされたっけ?

 いやいや、本当ならここで口をきくこと自体がヤバいのでは。

「何もありませんでした」

 事態をなかったことにした。

「……ですが!」

「誰も何も言いませんでしたので」

「……!」

 執事? の人が一瞬、深く頭を下げてから何事もなかったかのように歩き始める。

 助かった。

 一体何があったんだ。

 ひょっとして軽小説(ラノベ)なのか?

 だがその後は何も起こらずに廊下を抜け、俺は無事に待機室らしい部屋に案内された。

 執事? の人が片膝を突くのを尻目にドアをくぐる。

「ヤジマ皇子殿下!」

 ラウネ嬢が駆け寄ってきて片膝を突いた。

「ご無事で……いえ、申し訳ございません!」

「無事というか何もなかったので」

 冷静に。

 何か別の事を考えなければ。

 皇帝陛下と皇太子殿下に会ってだね。

 何したっけ?

「とにかくこちらへ」

 ラウネ嬢に連れられて進むと、そこら中に立っている給仕の人や貴族・文官が一斉に片膝を突いた。

 嫌だなあ。

 疲れるんだよ。

 でもしょうがないので軽く頷きながら足早に歩く。

 何とかその部屋を脱出して廊下を渡り階段を降りるとハマオルさんが片膝を突いていた。

 助かった。

(あるじ)殿」

「戻りました」

 あー、やっぱハマオルさんのそばは落ち着くわ。

 護衛なしでは不安が押し寄せてくるんだよね。

 まあ、まさか皇宮の中で襲われることはまずないような気がするんだけど。

 でも俺にとってはまったく未知といっていい国だからな。

 ソラージュなら何とかなりそうでも、帝国ではどういう論理で話が進むのかイマイチ判っていない。

 皇族の「決闘」なんか完全に予想外だったもんね。

 こんな国からはさっさと脱出したい。

 ハマオルさんとラウネ嬢がお互いに目配せ合う。

(あるじ)殿。

 少し休んでいかれますか」

「動揺が激しいようでございます。

 よほどお心が揺れるような事が?」

 判るのか。

 それはそうだよね。

 魔素翻訳で一発だ。

「すみません。

 どっかでちょっと休みたいんですが」

「判りました。

 こちらへ」

 ラウネ嬢が近くに居た執事? の人に何か言ってから言った。

「お部屋をご用意させます。

 絶対安全な場所ですのでご安心下さい」

「ありがとう」

 俺、どうしちゃったんだろう。

 何か不安でたまらないんだけど。

「お疲れが出たのかと」

 そうなのか。

 そうかも。

 休暇とかとったけど、あれだけでは駄目だったみたいだ。

 くそっ。

 情けない。

 あの執事? の人も、俺の不安を感じ取って動揺してしまったんだろうな。

 悪い事をした。

 俺が連れて行かれたのは居心地が良さそうな小部屋だった。

 20畳くらいの狭い(笑)部屋だ。

 ソファーが並んでいるので予備の居間(リビング)か何かかも。

 ハマオルさんが手早くソファーを並べ直してベッドのようなものを作ってくれた。

 ありがたい。

「寝室を手配できれば良かったのでございますが。

 少し距離があるということで、申し訳ありませんがここでお休み願えますか」

「充分です」

 何か目眩までしてきたぞ。

 急造のベッド? に横たわる。

「絶対にお守りします」

 ハマオルさんが断言したのを最後に、目の前が暗くなった。

 ヤバくね?

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