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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第一章 俺が後ろ盾?

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3.休暇?

 次の日から本当に休暇になった。

 紋章院には基本的に皇族以外は入れないので、ほとんどの人はシャットアウトできる。

 皇族の皆さんにも俺に会いたがっている人がいたらしいけど、ここで強行するとかえって俺の不興を買うぞとフレスカ大尉(さん)辺りに脅されたらしく、一切訪ねてくることはなかった。

 紋章院の職員の人たちも極力俺を避けてくれているようで、まったく姿を見せない。

 とはいえ俺が住んでいる屋敷が定期的に清掃されていたり、ベッドメイクや新しい寝着がいつの間にか用意されていたりするので、いないわけじゃないようだ。

 欧州の童話か何かに出てくる妖精(ブラウニー)みたいなものか。

 目に見える部分の世話はラウネ嬢とハマオルさんがやってくれた。

 食事の給仕とかお茶の用意なんかだけど、ハマオルさんはともかくラウネ嬢はプロ並みの腕だった。

「凄いですね」

「それが随伴騎士採用の条件でございますので」

 さいですか。

 この機会にもっとラウネ嬢に色々聞きたい気もしたけど、俺は休暇中なんだからと思い直す。

 サラリーマンの休暇ってかくあるべしだよね。

 もっとも俺は北聖システムでの長期休暇ってとったことなかったんだよなあ。

 年末年始も仕事だったし(泣)。

 今思うとブラック企業だった気がしてきた。

 もっとも北聖システムは社員をこき使うけど、大企業だけあって福利厚生は整っていた。

 特に休みについては有給休暇の他に特別休暇というものがあって社員は全員、年に一度3日連続で休めるんだよ。

 これは創始者の人が決めたらしく、先輩たちはこれがあるから辞められないとか言っていたな。

 どういうことかというと、例えばこの特別休暇と有給2日を使えば、一年中いつでも土曜日から翌週の日曜日まで9連休が取れるのだ。

 それだけあれば地球どこでもツアーに行ける。

 もちろん仕事を片付けた上で周り中に根回しが必要だけど。

 さらに別にお盆時に限定されているわけでもないので、ツアー料金が安くなる時期に自由に動けるわけだ。

 素晴らしい制度なので将来的にはヤジマ商会系列企業には導入したいと思っていたんだけど。

 でもこの制度、社員向けだから経営者には適用されないんだよね(泣)。

 どっちにしてもヤジマ商会ではやっと週休1日制が確定した程度だからまだ机上の空論なんだよ。

 それでも周囲からは驚きの念を持って見られていたりして。

 こっちの世界だと、会舎には休みなんかないというのがまだ常識だからな。

 ヤジマ商会が楽すぎるという批判も出ているくらいで。

 まあいい。

 何が言いたいのかというと、北聖システムの先輩社員から休暇の過ごし方について聞いたことがあるんだよ。

 その人は旅好きで、毎年特別休暇を利用して世界各国のツアーに参加していたんだけど、ある時気づいたのだそうだ。

 片道12時間も飛行機に乗って外国についてからもバスでかけずり回って観光して回るより、ハワイかどっかでぼーっとするのが本当の休暇ってもんじゃないの?

 その人は翌年、ハワイのコンドミニアムを1週間くらい借りて、文字通りぼーっとして過ごしたそうだ。

 ヤバかったと。

 1週間だから何とか仕事に復帰できたけど、あれを一月も続けたら現地で沈没していたかもしれなかったと言っていた。

 馬鹿になってしまうらしい。

 ていうか、休暇ってのはそのくらいじゃないと休んだことにならないのではないかということだよね。

 ちなみに、俺は最初に言った通り北聖システムでは特別休暇なるものを取得出来なかった。

 入社1年目の新人には適用されない制度だったんだよ(泣)。

 転移する前、2年目の今年は特別休暇を取得できると期待していたのに!

 結局経験する前にこっちに来てしまったもんなあ。

 今となっては北聖システムは間違いなく馘首だろうし残念な事をした。

 どっちにしても今さら日本には戻れないけど。

 というわけで俺はサボッた。

 朝起きて一応朝練をやってから飯食った後はブラブラしつつ紋章院の敷地を当てもなく彷徨(うろつ)き回る。

 そこら辺の木陰で昼寝したりして。

 昼飯食ったらまた彷徨(うろつ)き、敷地内を探検して回った。

 無駄に広いので疲れて夕食の後はすぐに眠る。

 ぐっすり眠れた。

 そんな生活を3日ほど続けて、さすがに飽きて来た頃にハマオルさんが言った。

「お顔が穏やかになられたようで、ようございました」

「そんなに変わった?」

「はい。

 休暇に入る前まであった緊張感が抜けておられます」

 そうなのか。

 やっぱ疲れていたらしい。

 ここまでのんびりしたのは転移してから初めてかも。

 よし。

 これで何とか人生に立ち向かえるような気がしてきたぞ。

「ヤジマ皇子殿下」

 ラウネ嬢が来た。

「何でしょうか」

「お目通りを願う者がおりますが、いかがいたしましょう」

 俺に会いたいと?

 昨日までなら断っていたけど、今ならいいかな。

「仕事関係じゃなければ」

「お心のままに」

 聞くと、紋章院に滞在して勉強中の今期の新任皇族の子供たちが俺に会いたがっているそうだ。

 そういえば紋章院(ここ)には寄宿舎みたいなものがあるんだった。

 まだ幼い皇族は随伴騎士と一緒にみんなで基礎を学ぶらしい。

 図らずも「学校」みたいな状況になっているのか。

 もっともこれもケースバイケースで、例えば突然皇女にされたシルさんなんかは随伴騎士にマンツーマンで教え込まれたと言っていた。

 カールさんみたいに成人してから皇族になった場合なんかは随伴騎士の方が護衛を兼ねて付き従う形になる。

 俺の場合、ラウネ嬢は護衛兼家庭教師兼メイドみたいなものだ。

「俺が会ってもいいんですか」

 その新任皇族方にも随伴騎士がついているはずだけど。

「随伴騎士は皇族の助力(サポート)がお役目でございます。

 皇族ご自身の望みは危険がない限りは出来るだけ意に添うように動きますので」

 つまり俺と会っても危険はないと判断されたか。

 思想汚染みたいなのは大丈夫なんだろうか。

「問題なしと判断されたようでございますね。

 本来はヤジマ皇子殿下のお役目ではありませんが、先方は名高い狼騎士(ウルフライダー)で『野生動物の王』がおられるのならば是非親しくお話ししてみたいと」

 それはちょっと嫌だな。

 でもまあ、そろそろ退屈してきた所だしいいか。

「いいですよ。

 会いましょう」

「お心のままに」

 というわけで、その日の午後に俺はハマオルさんとラウネ嬢を伴って新任皇族用の施設に赴いた。

 俺が住んでいる屋敷から森を隔てた場所にある屋敷で、寄宿舎というよりはやはり大邸宅だった。

 部屋数は20くらいあるらしい。

 新任皇族の教育用に改装されていて、皇族用の個室に加えて随伴騎士用の部屋もあるそうだ。

 居間(リビング)というには広すぎる部屋で皆さんに相対する。

 外国だと茶話室(ティールーム)とでもいうような部屋だ。

 ソファーが並んでいて、俺は行儀良く座っている皇族の美少年や美少女と向かい合った。

 俺の後ろにはラウネ嬢とハマオルさんが立っているし、皇族の少年少女にはそれぞれ随伴騎士がついている。

 結構混み合っていたりして。

 どこにでも出てくる紋章院長(アーリエさん)が仕切った。

「みんな!

 お待ちかねのヤジマ皇子だ!

 拍手!」

 一斉に手を叩く幼い皇族方。

 何の羞恥プレイだよ!

「皇族集会で会っているはずだから、もう紹介済みだ!

 何でも質問していいよ!」

 人事(ひとごと)だと思って言いたい放題だ。

 美少年が手を上げた。

 その辺は世界が違っても共通か。

「あの。

 ヤジマ皇子様。

 ヤジマ皇子様が狼騎士(ウルフライダー)様だというのは本当ですか?」

 いきなり来たよ。

 そんな形而上の質問されても反応に困るんだけど。

「忘れていた!

 紹介しよう。

 ヤジマ皇子の後ろにいる男はソラージュのハマオル近衛騎士殿だ!

 狼騎士(ウルフライダー)の従者として有名だから、みんな知っているだろう!」

 アーリエさん、余計な事を!

 するとハマオルさんがわざわざ俺の前に出て来て、新任皇族方(こどもたち)に対して片膝を突いた。

「ハマオル・ムオ近衛騎士でございます。

 ヤジマ皇子殿下の護衛を務めさせて頂いております。

 皇族の皆様にお目通りさせて頂き、光栄でございます」

 シン、と静まりかえった次の瞬間には幼い皇族方が一斉に話し始めた。

「知ってる!

 絵本で見た!

 狼騎士(ウルフライダー)様に助けられて従者になるんだよね!」

「元は帝国出身なんだよ!」

「『フクロオオカミ山岳救助隊』にも出ていた!」

「あれは本当に起きた事だったんだ!」

 パネェ。

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