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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第一章 俺が後ろ盾?

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1.帰還?

第五部開始です。

 もう隠す必要はないということで、俺たちは堂々と隊列を組んで帝都ナーダムに向かった。

 狼騎士(ウルフライダー)隊も公然と護衛の列に加わっている。

 おかげで街道でも途中の街でも大名行列のパレード状態だ。

「いいんですか?

 ここまで派手にやって」

「むしろ必要でございます。

 我が(あるじ)は帝国皇太子殿下、そして次期皇帝陛下であるオウル様の後ろ盾なのですよ?」

 さいですか。

 嫌だなあ。

 何でここまで話が大きくなってしまったんだろう。

 俺、何度でも言うけど本質はサラリーマンなのに。

 政治とか支配とか身分とか、そういうのとは無縁な人種なんだよ。

 一番向いてない方向に来てしまっているような。

「そうかの。

 わしにはなるべくしてなった立場という気がするのじゃが」

 カールさんも無責任な。

 むしろカールさんの方が相応しい気がします。

「とんでもない。

 わしなどはせいぜいギルド総評議長やヤジマ商会顧問がお似合いの、ごく平凡な男じゃよ」

 いやそれだって世間的には凄いと思いますが。

 帝国皇子でもあるし。

 馬車に乗っているのは俺とカールさん、ユマさん、そしてラウネ嬢だけだった。

 ハマオルさんとナレムさんは例によって御者席にいる。

 俺の長距離用馬車は広いからあと数人は乗れるんだけどね。

 自分の本分は護衛であるという信念を貫きたいそうだ。

「それはナレムも同じじゃよ。

 一種の美学だと思って好きなようにさせておる」

 さいですか。

 まあいいけど。

 帝都ナーダムに入るとまだ郊外にいるうちから何だか街の様子が違って見えた。

 お祭り騒ぎ?

「噂が広まっているので。

 久しぶりに帝国皇太子が立つということで、街……いえ帝都を上げての大騒ぎです」

 ユマさんはのほほんとしているけど、また何か仕掛けた臭いな。

 この機会に何かを売りまくるとかそういう事を企んでいるのでは。

 あれ?

 でもオウルさんってまだ立太子してなかったよね?

「そうですね。

 近いうちに登極の儀式があるようです。

 帝国儀典局はその準備で大わらわということですよ」

 それはそうか。

 よく考えたらそれってヤジマ商会と俺には何の関係もないよね。

 他人事だ。

「そんなことはございません。

 登極式には皇族が立ち会うことになっているそうです。

 我が(あるじ)を初めとしてカル様やシルレラも駆り出される予定です」

「しょうがないの」

 カールさんも諦めムードだった。

 まったく同感だけど、逃げられないよね。

 増して俺はオウルさんの後援者(パトロン)ということになっているのだ。

 当局が呼ばなくてもオウルさんは絶対に俺を招待してくる。

 でも俺、皇族だから集団に混じっていればいいのか。

「この場合、我が(あるじ)はむしろ後援者(パトロン)枠で呼ばれるかもしれません。

 ヤジマ商会は紛れもなくオウル様の後ろ盾です。

 我が(あるじ)はそのオーナーでございますので」

「わしは関係ないぞ」

 カールさんが慌てて言った。

「儀式には皇族枠で参加させて貰う」

 逃げたな。

 裏切り者め!

「シルレラも間違いなく逃げますね。

 ということで我が(あるじ)、よろしくお願い致します」

 何てこった。

 無責任な奴らばっかりだ。

 そんな話をしながらも馬車隊は順調に進み、帝都の中心部に入る前に横に逸れてナーダム興業舎に向かった。

 帝国における俺の仮宿はあそこだからね。

 郊外にあってその気になれば引きこもれるし。

 この状態で帝都中心部とかに行ったら戻って来られなくなる。

「オウル殿やフレスカ殿は寝る暇もないそうじゃぞ。

 当事者だから仕方がないのかもしれんが、わしなんぞ真っ平ご免じゃよ」

 完全に同意です。

 そもそもこれは帝国のお祭りなんだよ。

 ソラージュ人の俺たちは参加する義務もないくらいだ。

 帝国皇族って帝国人じゃないんだし。

 ユマさんは微笑むだけで何も言わない。

 ラウネ嬢は何か言いたそうだったけど沈黙を守ってくれた。

 よろしく。

 派手な護衛隊に囲まれている割にはひっそりとナーダム興業舎に帰還し、俺は自分の部屋に逃げ込んだ。

 とりあえずシャワーを浴びてからベッドに倒れ込む。

 あー、やっぱ自分の部屋はいいわ。

(あるじ)殿」

「夕食まで寝ますので」

「お心のままに」

 着替えもせずにそのまま寝入って起きたら窓の外が暗かった。

 疲れていたんだなあ。

 今回は精神的というよりは体力的にだけど。

 日本で言うと「バスで巡る欧州6ケ国」みたいなツアーに参加したようなもんだからな。

 狭い馬車に押し込められて移動に次ぐ移動だった。

 着いたら着いたで慌ただしく相手と挨拶を交わして飯食って翌日には立つ。

 疲れるだけだ。

 いや、俺が行くとみんな嬉しそうだったからいいんだけど。

 契約を交わすと領地の人たちはみんな飛び上がって喜んでいたもんなあ。

 だから無駄だったとは言わない。

 でもその役が本当に俺でなければならなかったのかどうか。

 別にユマさんでもカールさんでも誰でも良かったんじゃ。

 俺としてはどっかの静かな別荘でのんびり過ごしたかったんだよ。

 それが休暇ってもんでしょう!

 腹が立ってきたのでベッドから跳ね起きてトイレに行き、またシャワーを浴びた。

 判ってますって。

 ああやって移動しているのが一番安全だったはずだ。

 静かな別荘とかに籠もったら2日くらいで突き止められて色々な人が殺到してきただろうし。

 そうなったら逃げられない。

 いいんですよ。

 言われたとおりにやりますから。

 でももう終わったんですよね?

 夕食の席で希望を込めてそういうとユマさんが返してきた。

「まだです」

 さいですか。

「何があるんですか」

「オウル様の立太子式の参加後、いくつか儀式があると聞いております。

 その後もしばらくは帝国内で動いて頂きたく」

 まだソラージュには帰れないのか。

 (ハスィー)の出産に立ち会えなかったらどうしてくれる。

「それまでには片付くと思いますが」

「片付くって何が?」

「帝国の問題が、です」

 ユマさんが真剣な声で言った。

 そうか。

 そうなんだよね。

 オウルさんが帝国皇太子になったら何もかも上手くいくなんてことはない。

 むしろヤジマ商会が派手に動いたことで、揺り返しが来るかもしれない。

 その波が収まるまでは帝国内で頑張るしかないと。

「判りました。

 出来るだけはやく片付けてソラージュに戻りましょう」

「お心のままに」

 ユマさんだけじゃなくてカールさんやロロニア嬢までほっとしたようだった。

 いや心配しないでも俺は逃げたりしませんので。

 逃げられないだろうし(泣)。

 何となく沈んだ気分で食事を終えると給仕らしい人が泣きそうになっていた。

 いや違うんです!

 飯はいつも通り充分美味しかったから!

 慌てて今晩の料理人(コックさん)をテーブルに呼んで弁解というか料理を褒めておいた。

 沈んだ表情がみるみるうちに明るくなるんだよ。

 どうしてそこまで?

「敬愛するヤジマ閣下に不味いお食事を出してしまったのかと。

 もういっそ喉を突いてしまおうかと思っておりました」

 止めて!

 そんなんじゃないから!

 飯がいくら美味くても悩むことだってあるんだから!

 何とか判って貰えて助かった。

 しかしこれはまずい。

 俺の機嫌次第で自決する人が出たりしたら問題どころじゃないだろう。

 ユマさんに念を押しておく。

「俺の機嫌が悪そうな時でも、使用人の皆さんが悪いわけじゃない事を徹底させて下さい。

 俺だっていつもいつも元気なわけじゃないので」

「お心のままに」

 これで何とかなるといいんだけど。

「僭越ながら申し上げます。

 (あるじ)殿はお疲れです。

 本当の休暇が必要かと」

 ハマオルさんが言ってくれた。

 ユマさんも頷く。

「そうですね。

 少し、私も浮かれていたようでございます。

 我が(あるじ)にご負担をかけてしまい、申し訳ございません。

 この件は早急に対処させて頂きます」

 あの。

 本当の休暇、貰えるんですか?

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