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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四部 第八章 俺が征服者(コンキスタドール)?

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21.わしの屍を越えていけ?

 オウルさんの「皇帝に選ばれたのでよろしく」宣言の後、しばらくは静かだった。

 オウルさんは当然、帝国軍から退かなければならないのでその手続きに忙殺されているらしい。

 大佐クラスの高級将校が退役、それも突然となると結構面倒なのだそうだ。

 皇帝いやとりあえず皇太子になるからと言えれば簡単かもしれないのだが、それは当分伏せておく必要がある。

「オウルは帝国軍どころか帝国政府内部でも何かと目立つ存在だからな。

 判っている者は薄々察しているだろうし、この機会に取り入ったり配下に収まろうと考える(やから)も多いはずだ」

 シルさんの言う通り、自薦他薦の売り込みが凄いということだった。

 オウルさんの「従者宣言」は箝口令が敷かれているためにまだあまり広まっていない。

 関わり合った軍人や貴族の人たちも口をつぐんでいる。

 漏らしたら後でどんな報復があるか判らないからね。

 せっかく美味い話が転がり込んできたのに、それをみすみす失いたい者はいない。

 軽小説(ラノベ)だと迂闊な貴族なんかが馬鹿をやらかすんだけど、実際にはあり得ない。

 そんな事をしでかす者はそもそも関わってこられないんだよ。

 魔素翻訳のせいで全部筒抜けになるから、例えば貴族がいくら息子を可愛がってもそいつが馬鹿だったら切らざるを得ない。

 庇ったりしたら自分が周囲や配下から見限られてしまうからだ。

 従って変なのは比較的早期のうちに排除される。

 ミラス殿下の近習をやっていた貴族の摘子たちも馬鹿というほどではなかったからね。

 でもあの程度が限界だろう。

 というわけでオウルさんやフレスカ大尉(さん)が駆け回っている間、俺たちはのんびりしていた。

 ちなみにフレスカ大尉(さん)も帝国軍を除隊というか予備役に編入されるらしい。

「オウル様から副官的な立場を望まれました。

 とりあえず皇帝に登極されるまでは付き合いたいと思います」

 さいですか。

 キャリア的には大丈夫なんですか?

「このまま帝国軍にいても、これ以上の出世は望めませんので。

 そもそも軍でやりたいことは大体やりました。

 一番の目的も果たせましたし」

 フレスカ大尉(さん)は嬉しそうに言った。

 エリート将校なのに見切りが早いな。

 能力的には充分だし、俺の目から見てもフレスカ大尉(さん)は軍人に向いている気がしますが。

「ありがとうございます。

 ですが、本当にやりたいことではないので。

 少なくとも今はオウル様について行く方が目的というか目標に近づけます」

 そんなのがあるんですか。

 大望を抱いていると?

「そうです!

 いつかきっと、私もヤジマ商会に入ってマコトさんの直参に!」

 オウルさんは何がなんでも俺の従者に収まるはずだから、そのオウルさんにくっついていれば自動的に俺に近づけるそうだ。

 聞くんじゃなかった。

 そういえば初めて会った時からヤジマ商会に入りたいとか言っていたっけ。

「ヤジマ商会に入るだけならユマさんに言えばいいのでは?」

 アーリエさんすら入れるらしいのだ。

 ユマさんが「キーマン」とまで言ったフレスカ大尉(さん)なら簡単なんじゃないの?

「他の皇族方みたいにですか?

 駄目ですよ。

 あれは臨時雇用というかヤジマ商会ではなくナーダム興業舎関連でしょう。

 私はヤジマ商会に入りたいんです」

 まあ、好きにして下さい。

 いつものように面倒くさいことは忘れることにして、俺はユマさんに指示(めいれい)されるままにまた社交に戻った。

 ロロニア嬢を秘書役に、面会にやってくる人たちと会って雑談する。

 最後は握手して終わり。

 ロロニア嬢から「絶対に何か約束したりするな」と厳命されていたんだけど、幸い貴族の人たちは物判りが良かった。

 北方でもそうだったけど、相手から見ると俺は最高位の身分なんだよ。

 領主貴族の爵位はホルム領を除けば侯爵が一番上で、俺は帝国皇子だからね。

 ソラージュで言うと高位貴族と王族の関係に近い。

 部屋に入ると片膝を突いて迎えられたりして。

 いつも「立って下さい」で話を始めなきゃならないのだ。

 そういうわけで、向こうは失礼な事とか回答に困る質問とかはしてこない。

 かといっておべんちゃらも言わないけどね。

 俺がそういうのを嫌うという知識が広まっているらしく、皆さん率直に話してくれた。

 大抵は自分の領地の事だったけど。

 優れている事や特産品なんかについて語るんだが、途中で気がついた。

 これって自分の領地の売り込みなのでは。

 向こうの認識だと、俺は帝国皇子というよりはソラージュの大事業家なんだよね。

 しかもヤジマ商会が帝国に進出する、というよりは進出し始めていることも知れ渡っている。

 それに便乗しようという意図が丸見えだ。

 別にいいんだけど。

 面会の席にはラウネ嬢とロロニア嬢が同席してくれているので、俺は後から会談のダイジェスト版を教えて貰うことが出来る。

 面会相手はほぼ全員男なので、名前も話の内容もうろ覚えだったりして(泣)。

「余り大したことはおっしゃっておられませんね。

 御自分の領地の自慢や視察のお誘いばかりで。

 とりあえずは撒き餌してマコトさんが興味を示すかどうか見ている段階でしょう」

 ロロニア嬢が教えてくれた。

 ちなみに現時点で面会を希望してくるのは比較的余裕があるというか豊かな領地の貴族や儲かっている大商人だそうだ。

 現状でも上手くやっていて、さらに発展を目指そうという領地貴族や実業家だ。

 現時点で困っている人は来ていない。

 本当にヤバかったら呑気に面会希望とかしていないはずだと。

「実はオウル様よりリストを頂いております。

 帝国軍の調査で『ヤバい』と『危ない』領地ということです。

 特に『ヤバい』方はここ1、2年で何とかしなければ本当に崩壊するかもしれないとおっしゃっておられました」

 そういえばオウルさんって帝国中を自分で確かめて回っていたと言っていたっけ。

 そんなに危うい所まで来ている領地があるのか。

「州政府からの要請という形で帝国軍が展開して対症療法を行っているとのことですが、早晩それでは押さえられなくなると。

 オウル様が皇帝選挙(レース)に乗り気でなかったのも、皇帝が変わっても対応できないだろうと考えていたからだそうです。

 自分が皇帝になった所でそれは同じで、もっと別の対応策を探し回っていたわけで」

 フレスカ大尉(さん)が教えてくれたけど、知らなかった。

 俺は突然従者宣言してきたオウルさんしか見てないからなあ。

 あれだけだと奇矯な人としか思えなかったんだけど、そんなに雄大で高尚な考えの持ち主だったなんて。

 でもだったらあの従者宣言は何なの?

 趣味に走りまくった初代皇帝ヲタクとしか思えないんですが。

「何かお考えがあるのではないかと」

 フレスカ大尉(さん)も知らないらしかった。

 それはそうだよね。

 俺がユマさんの思考を追跡(トレース)出来ないのと同じだ。

 ああいう超人型(チートタイプ)の人を一般人が理解出来ると思わない方がいい。

 何か深遠な考えがあるのかもしれない。

 考えるのは止めよう。

 でも気にはなったので、ユマさんに暇が出来たら来てくれないかと伝言した。

 すると一時間もたたないうちに返事が来たのには驚いた。

 ナーダム興業舎(仮)の応接室で待っているというのでハマオルさんとラウネ嬢を伴って訪ねる。

 ユマさんはいつもの通り、涼しげな表情でお茶を飲んでいた。

 何とノールさんがいる。

 護衛?

 いつもの体制に戻ったらしい。

「暇が出来たらで良かったんだけど」

「私にとって(あるじ)の御用以上に重要な事はございませんので」

 ユマさんは澄まして言うけど、忙しいはずだよね?

 俺のために予定(スケジュール)を狂わせたら申し訳ない。

「いえ。

 そろそろ呼び出しがある頃かな、と。

 マコトさんと領地貴族の社交も一段落ついた頃ですし」

「そうそう。

 あれで良かったんですか?」

 俺としては雑談して握手しただけの仕事だったんだよね。

 言われた通り何も約束しなかったし。

「満点でございます。

 既に面会して頂いた方々とは商談に入っております」

「そうなんだ」

「元々ヤジマ商会の交易網を整備するために渡りを付けなければなりませんでしたので。

 今回、マコトさんが領主(トップ)と会って下さったためにスムーズに運べます」

 やっぱ俺は形式か。

 それはいいんだけど。

 ユマさんを呼びつけた話をしなけりゃならん。

「オウルさんの話は聞いた?

 今までオウルさんが何していたとか、ヤバい領地のリストとか」

 ユマさんはじっと俺を見つめてから破顔した。

「もちろんでございます。

 やはりマコトさんですね。

 常に先手を打ってこられる」

 何のこと?

「ちょうど今、問題の領地貴族のお一人がおいでになった所でございます。

 お会いになられますか?」

 何と。

 凄いタイミングだ。

 軽小説(ラノベ)でもこんな展開はないぞ。

 ご都合主義過ぎて読者が引くからな。

 俺が呆然としていると、ユマさんはノールさんに頷いた。

 ノールさんが「手の者」を走らせる。

 そういえばこの人も近衛騎士だった。

 自分で走ったりはしないんだよ。

 メイドさんがお茶を配膳してくれたので飲んでいると、ノックの音がした。

「タルサ領領主、メド・タルサ子爵閣下がおいでになりました」

 帝国の子爵で領主か。

 あまり大きな領地ではないらしい。

「どうぞ」

 ドアが開いて大柄な男が入って来たと思うと、俺を見ていきなり叫んだ。

「貴様がヤジマ皇子か!

 わしは屈したりはせんぞ!

 タルサ領が欲しければわしの屍を越えていけ!」

 ゲーム?

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