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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?

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9.制服?

 おかげで、翌朝は夜が明ける前に目が覚めてしまった。

 ところで、ホトウさんが式の開始時刻を言わなかったのには理由がある。

 何と、こっちの世界(国)では統一された時間割がないのだ。

 暦が太陰暦なせいなのか、原則としては昔の日本で採用されていたという不定時法に似た方法が採用されている。

 簡単に言えば、夜明けと日没を基準にして時刻を測るという方法だが、確か江戸時代はそれでも一定時刻が決まっていたのに対して、こっちではもっと適当だった。

 定時が、夜明けと真昼と日没くらいしか決まっていない。しかも、雨だったりするとそれすら曖昧になる。

 地球で昔やってたみたいに、昼になると大砲を撃ったり、教会の鐘を鳴らしたりすることもないので、社会全体がものすごくファジイに動いているのだ。

 だから、例えばギルドが開く時刻も毎日きちんと決まっているわけではない。何となく、このくらいだったらもうやっているな、という程度の感覚で動いている。

 よって始業時刻とか終業時刻も曖昧だ。

 極端に言えば、全員が揃ったから授業を始める、というような状態なのだ。

 なぜこうなっているのかはよく判らないのだが、おそらく正確な時刻を測れる機械式装置が未発達なことと、社会がまだそこまで厳密な時刻計測を必要としていないからではないかと思う。

 こんなことで社会が回るのかと思ったけど、これってある意味便利なんだよね。

 例えば多少遅れても遅刻はない。

 早引きはあるけど、よほどのことでない限り容認される。

 最初からそういうファジイな方法論で計画を立てるので、特に混乱も起こらない。

 もっとも、厳しい面もある。

 怠け者はいくらでも怠けられそうだけど、歯止めがないので、続けているといつかは脱落してしまうのだ。

 何かで集合する必要がある場合なんか、一人だけ遅れるとメチャクチャに悪目立ちするし。

 始業時刻だけ守って後はサボッている、という方法が使えなくなっているんだよなあ。

 ある意味、凄くいいシステムだとは思う。

 まあ、機械式動力が導入されたら、そうは言っていられなくなるだろうけどね。

 列車の時刻表とか、工場の始業時刻が判らないなどということになったら、混乱するなんてもんじゃないぞ。

 でも、今はまだ大丈夫。

 だから俺としては、大体始業時刻かな、と思える時にギルドに着けばいいわけなのだが、何かあるというので念のために早く行くことにした。

 初出社だというのに、俺が来るのを全員が待っていた、というのはあまりにも駄目すぎるし。

 早めに飯を食ってマルト商会を出る。

 ギルドに着いて、勝手知ったるプロジェクトの部屋に行くと、部屋のドアに新しくプレートが付いていた。

 絵本で鍛えたので、何とか読める。

『プロジェクト・あの丘の向こう』

 僧正様、チクッたな!

 恥ずかしいわ!

 なんで俺の黒歴史発言がそのまま採用されているんだよ!

 しかも、あれって本当はフクロオオカミのツォルの奴の、妄想というか厨二発言だぞ!

 スタートから出鼻を挫かれてしまった。

 しかし今更どうしようもない。

 覚悟を決めてドアを開けると、銀髪が眩しいアレナさんがいた。

「おはようございます」

「マコトさん、おはようございます。良かった。ちょっとこれ、お願いします」

 大きな包みを渡される。

「何ですか?」

「ギルドの制服です。着替えて下さい」

「今ですか?」

「はい。今日の式典で着ていただきます」

 普段着でいいというか、ドレスコードの指定がなかったのは、そういうわけか。

 包みを開けてみると、上下揃いの制服と、高そうな靴が入っていた。

 色は暗い紺で、あちこちに金色の筋やら編み込まれた刺繍やらが付いている。

 何これ?

「あ、それは儀礼用のフォーマルスーツです。通常の作業服は、別途支給されます」

 いや、それは判るんだけど、どうして肩章とか袖飾りまでついているんだ?

 一日警察署長みたいだぞ。

「ギルドの上級職用の正装です。ハスィー様が着用されていたのを、見たことありませんか?

 ハスィー様の正装は、ギルドの最上級職用のものですから、これよりもっと派手ですけれど」

 言われて気がついた。

 これって、フクロオオカミとの協定締結の時に、ハスィー様が着ていたのに似ているのだ。

 でも上級職用って!

「ギルドのプロジェクト次席って、管理職ですから。ハスィー様がいらっしゃらない時は、プロジェクトの指揮をとる立場ですよ」

 聞いてないよ!

 ハスィー様の話だと、単なる相談役だったはずなのに。

 なんでそんな立場にならなければいけないんだよ。

 ギルドのことなんか、何も知らないのに!

 いやそれ以上に、俺はぺーぺーの平社員なんだよ。係長すら雲の上の人なのだ。

 それが、いきなりプロジェクトリーダー代理だと?

「すみませんが、あちらに小部屋がありますから、ハスィー様がいらっしゃる前に着替えてくださいね」

 アレナさんはそれだけ言うと、仕事に戻ってしまった。

 なんでみんな、俺を無視して動くのかなあ。

 いや、無視される程度の存在感なんだろうけど。

 あれ?

 これって、ラノベでよくある「モテるけど軽視されている主人公」のポジション?

 いや違うか。

 ラノベの場合は暴力がついてくるからな。

 それに比べたらマシだ。

 比べるなよ。

 俺は仕方なく、ロッカールームのような暗い部屋に入ってごそごそと着替えた。

 資料室か何かなんじゃないかな。

 ひょっとしたら、更衣室かもしれないけど。

 服は、あつらえたようにぴったりだった。

 靴までぴったり合っていた。

 採寸とか、された覚えがないんだけど、不気味だ。

 着替え終えたが、鏡がないのでどうなっているのかよく判らん。

 もっとも、チンドン屋よりは少しマシ、というレベルであろうことは、想像がつく。

 畜生、俺はピエロか!

 アイドルの人とか、有名スポーツ選手なんかが一日消防署長とかやらされる時は、やっぱりこんな想いをしているのだろうか。

 いや、あっちは仕事だからね。

 俺も、そういえば仕事か。

 だったら我慢するしかないよな。

「よくお似合いです」

 ロッカールームを出ると、アレナさんが心にもないお世辞を言ってくれた。

「気になるんですが……ぴったりなのはなぜなんでしょう」

「マルト商会と『栄冠の空』からデータを頂きました。作業服の仕立てに合わせてあります」

 データか(笑)。

 打てば響くように答えが返ってくるって、有能なんてもんじゃないかもしれない。

 俺の会社(地球)には、ここまでの人はなかなかいないぞ。

 それこそ、社長室とか人事部とか、内務のエリートでなければ。

 あ、ギルドってそういう所か。

 アレナさんだって、ハスィー様の近侍(違)になれるくらいだから、特に有能なんだろうな。

 いや、それより聞き捨てできないことを言われたぞ。

「わざわざ仕立てたんですか?」

「ギルドの制服は、基本的にオーダーメイドです。古着を出すわけにはいきませんから」

 ああ、そうか。

 ここが地球じゃないってことを忘れていた。

 既製服なんか、ないんだ。

 つまり、新品の服は全部オーダーメイドというわけだ。

 普通の人は、古着を仕立て直したりして着ているのだろう。

 作業服のたぐいも、おそらくは古着を改造して作っているんだろうけど、俺の場合『栄冠の空』に行くことが決まったときに、マルトさんか誰かがあつらえてくれたんだろうな。

 そういや、前にソラルちゃんに採寸されたような覚えが。

「ようやくマコトさんの服が仕上がってきたので、やっとプロジェクトの発足式が出来ると、ハスィー様が喜んでおられましたよ」

 そんな理由で遅らせるなよ!

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