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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?

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7.真相?

 問題の部屋は、重厚な造りだった。

 窓が無く、外からのぞけないようになっている上、ドアの厚さからしても密談にぴったりだ。

 そういう客のための部屋なのだろうな。

 何となく、ドラマなんかで政治家の人たちが何か重要なことを決めるために籠もるための部屋に雰囲気が似ている。

 こういったものは、異世界共通だな。

 かなり広い板張りの部屋に、テーブルが4つ。つまり16人収容だから、それだけでちょっとしたレストランの規模はある。

 儲けているな、この店。

「マコト。呼びつけて申し訳ありません」

 アニメの美少女声がして、一番奥のテーブルに一人でついている僧正様が立ち上がった。

 ていうか、ラヤ僧正様だよね?

 ちょっとスウォークの個体識別は出来ない。

 名前は覚えているんだけど。

 アニメ美少女声だし。

 でもまあ、いいか。

 ひょっしたら、スウォークの人たちって個体を区別しないのかもしれないし。

 いや、それはないか。

 前に集まって情報を伝え合うとか聞いた覚えがあるから、別に集合意識とかではないだろう。ラノベじゃないんだから。

「特に忙しくないので、大丈夫です」

「来ていただいたのは、マコトの誤解を解いておきたかったからです」

 誤解?

 何か俺、誤解していたっけ。

 考え込んでいると、何か合図があったらしい。別のテーブルについていた数人の教団員の人たちが、さあっと部屋を出て行った。

 凄いな、これ。

 よほど重大なことを誤解しているらしいぞ、俺。

 それにしても俺って信用されているなあ。

 スウォークの僧正様と、二人っきりして、大丈夫と思われているらしい。

 その根拠は何なのかね?

 ぽかんとしていたら、ラヤ僧正様が俺に座るように促したので、対面に腰掛ける。

「マコトは初めてこの世界に来た時のことを覚えていますか?」

 勿論です。

 まだあまり日もたってませんし。

「その時、異常なことがありませんでしたか?」

 いや、異常といったら俺が突然この世界に来た以上のことは……って、アレか?!

 禁忌。

 そうだ。

 俺は、初っぱなからそれに遭遇しているではないか。

「思い出されたようですね。

 禁忌のことは知ってますか?」

「はい」

「あの時、マコトはもちろんあれが禁忌とはご存じなかったはずですが、結果として正しい行動をとられました。

 遺体には、触れなかった、ですね」

「はい。避けて通りましたが……なぜ、ご存じなのでしょうか」

「私も、そこにいましたから」

 ラヤ僧正様は、あっさりと言った。

「正確に言えば、マコトが載った荷馬車とは別の馬車に乗っていました。

 私だけではありません。相当の人数の教団員が同乗していました」

 なんだって。

 ラヤ僧正様が、あそこにいた?

 それを俺に隠していた?

 ジェイルくんもマルトさんも、そんなことはまったく臭わせてなかったけど。

 あ!

 じゃあ、あの禁忌はどういうことなんだ?

 マルトさん達が、禁忌を犯して知らないふりをしていたというのか?

「マルト殿や、部下の方達を責めないでください。あれは契約だったのです。

 私どもがこちらに参ることを、帝国に知られるわけにはいきませんでした。

 だから、主要な街道ではあるものの、流通が極端に減少するこの時期を狙って、商隊に紛れてアレスト市に向かっていました。

 ところが、馬たちの疲労と上り坂のために荷馬車隊の速度が落ちている時に、後ろから誰かが尾行してきていることが判ったのです」

「……それが、俺だったと?」

「はい。

 もっとも人の歩く速度よりは馬車の方が速い。

 マルト殿は、少し無理をして急ごうとされました。

 ところが運の悪いことに一台の馬車の車軸が折れてしまったのです」

 そうか。

 それで、あの荷馬車隊はあそこに止まっていたのか。

「このままでは追いつかれる。

 ただの商人ならまだ良いが、単独で街道を進む人は希です。

 旅人でも同じです。

 追跡者がそうである可能性は低いでしょう。

 追跡者が一人かどうかも判りませんでした。

 それは斥候で、すぐ後ろに大部隊が続いているかもしれなかった。

 もっともそれが帝国の追っ手、あるいは間諜という可能性も、実を言えばそんなに高くはなかったでしょうが、マルト殿は万一を恐れた」

「でも、なぜ禁忌なんですか。

 スウォークの方を犠牲にしてまで行った意味が判りません。

 大体、俺は禁忌を見ても何のことだか判らなかったんですよ。

 足止めどころか、それからむしろ急いで進んだくらいで」

 ラヤ僧正様は、少し姿勢を正した、ように見えた。

「それは追いかけてきていたのがマコトだったからです。

 帝国人ならあのような禁忌を見て、それ以上進むなどということは通常考えられません。

 それはどこの国の人でも同じです。

 大抵の人間から見て私どもスウォークの姿は異常にうつりますし、状況からして禁忌であることは確実ですから誰であってもそれ以上の追撃を諦めるはずでした」

 追撃って。

 そんなもんじゃないんだけどなあ。

 大体、あれがなかったら疲れてその辺りで野宿でもしていたかもしれないしな。

 あんなのが出て、しかもスッパリやられていたので怖くなって足を速めたわけなので。

「でも俺は進んできた」

「はい。

 マルト殿は激しく葛藤したそうです。

 一時は自ら禁忌を犯しても、マコトを葬るつもりだったと」

 怖っ!

 俺、思っていたよりヤバかったんじゃないの?

 異世界転移して数時間で、この物語が終わるところだったぜ。

 いや物語じゃないけど。

「でも、マルトさんは俺に親切でしたよ」

「マルト殿も言っていましたが、不思議なことにマコトを見た途端に始末するというような考えが綺麗に消えてしまったそうです。

 また少しお話ししてマコトが単独であり、後続の部隊などいないことはすぐに判った。

 それで私どもを故障していない馬車に出来るだけ詰め込んで、空けた馬車にマコトを乗せて街に向かったのです」

 あの時、どうも観察とか監視されているように感じられたのは、そういうわけか。

 マルト商会に着いたらすぐに事務所に呼び込まれたけど、俺の目を避けて教団の人たちを移動させるためだったんだな。

 何か、俺って凄い迷惑?

 マルトさんたちやスウォークの方に禁忌を犯させてまで、足止めしようとされていたなんて。

 あ!

 ジェイルくんの鬱ぎの原因はそれか!

 あの切れ者がこの件に関わっていないはずがない。

 それでスウォーク関係では態度がぎこちなかったのか。

「そう。

 あの若い方が悩んでいらっしゃるのも判っていました。

 私どもの失態です。

 なかなか機会がありませんでしたが今回偶然にも不自然でなくあの方と接触することが出来て、何とか誤解を解くことができました」

 心を読まないで欲しいな。

 しかも偶然と言ってはいるけど、どこまで本当なのか。

 俺がこの店に来る度に偶然出会うって都合が良すぎないか?

 まあいい。

 それはともかく、誤解は解けたのか。

 でも誤解って何だ?

「マコトはあれが禁忌だと、スウォークを犠牲にしてまで、と思われるでしょうね」

「はい。

 どう考えてもそんなことをする値打ちはなかったでしょう」

「それが誤解です。

 あのスウォークが亡くなったのは純然たる事故でした。

 禁忌でも何でもありません。

 こちらに到着してから改めて遺体を弔うつもりで同行させていましたが、スウォークの遺体でマルト殿のお役に立つのならと提供しただけです」

「でもお腹と喉にどうみても殺人としか思えない切り傷がありましたよ」

「そういう事故だったのですよ。

 もちろん衣類は取らせていただきました。

 そうしないと事故だということがすぐに判りますから」

 そうか。

 あのスウォークは事故で亡くなったのか。

 そしてその遺体を利用しただけだと。

 本当かどうかは判らない。

 スウォークは自己の利益に関心がないだけで、目的のためなら相当自由に動きそうだからな。

 俺を騙した方がみんなのためになるというのなら、ためらいなくそうするだろう。

 だが俺はその疑いを捨てた。

 だってアニメ美少女声で言ってくれるんだぜ。

 嘘であるはずがない。

 いや、そこまでは俺も単純じゃないけど。

 了解した。

「判りました。

 誤解が解けてほっとしました」

「あのマルト商会の若い方にも負担をかけてしまいました。

 そのせいで、マコトにもご面倒があったかもしれません。

 重ね重ね、お詫びします」

 面接はそれで終わった。

 どういう合図があったのかドアが開いて教団の人たちがぞろぞろと入ってくるのを尻目に、俺はみんなの所に戻った。

 お昼休みが終わるにもかかわらず全員が待っていてくれた。

 それについて謝ると異口同音に「マコトさんと会っていたと言えば、どんなに遅くなってもオーケーです」と訳の判らない返事をしていた。

 やれやれということで、みんなが店を出た後食事代を払おうとするとウェイターさんに断られた。

 教団の人が払ったそうだ。

 また僧正様に奢られちゃったよ!

 俺、この店で飯食って自分で払ったことないんだけど。

 こんなんでいいのか?

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