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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?

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6.赦し?

 それから数日間は、ギルドからは何の音沙汰もなかった。

 大きな組織がそんなに敏捷には動けないのは判っていたけど、実に居心地が悪かった。

 ホトウさんたちは、知らないんだもんな。

 あるいは知っているのかもしれないが、怖くて聞けない。

 それでも俺が『栄冠の空』を離れてギルド所属になるということは伝わっているらしくて、仕事も回ってこなくなった。

 『ハヤブサ』は引き続いてプロジェクト専任のパーティとして動くことになるらしいが、俺がパーティから外されてしまったのだ。

 尚、冒険者の個人用装備は記念にとっておけと言われて、俺の所有物になった。

 やったぜ!

 これで俺は昔冒険者だった、という証拠が出来た。

 虚しいけど。

 ホトウさんたちは、ハスィー様やギルドの人たちと細々と打ち合わせをしているらしく、忙しく飛び回っている。

 俺だけ、蚊帳の外だ。

 俺だってプロジェクトのメンバーのはずなのに。

 『栄冠の空』の所属でなくなるにしても、正式に発表されるまでは仲間のはずなんだけどなあ。

 でも、これは地球でもよくあることだ。

 俺の会社でも、人事部付きになって、官庁関連団体に出向することになった先輩がいた。

 その人は、それが決まった途端に自分の受け持っていた仕事を周りの人たちに引き継がせて、その後は延々とレポートというか報告書を書いていた。

 発表があってから異動するまでに2週間くらいかかったんだけど、その間はもちろん仕事がない。

 かといって、受け入れ先でもまだ準備が整っていないということで、向こうに行くことも出来ない。

 そもそも正式に辞令が発令されるまでは、向こうにとっては赤の他人だから、受け入れられるはずがない。

 結局、元の自分の机で毎日何かしているふりをしていたわけだ。

 別に休暇をとったとか、休職したわけでもないから、会社を休むわけにもいかないしな。

 他の人も、忙しいので手伝って貰いたいのは山々なんだけど、もうすぐいなくなる人に仕事をふるわけにもいかず。

 ようやく出て行った時には、課長以下全員がほっとしたものである。その人の机は、たちまち荷物置き場と化したあげく、誰かに乗っ取られていたなあ。

 出向するくらいだから、結構年期が入った先輩で、つまり事務所内の力関係からいっていい場所の机を使っていたんだよね。

 で、その場所は次に年期が入った先輩に取られたと。

 『栄冠の空』における俺の場合、もっとひどかった。

 もともと仕事を担当してなかったので、引き継ぐ業務もないし、机もない。

 やることもない。

 でもまだ『栄冠の空』の所属なので、毎日出勤しないわけにはいかず、困ってホトウさんに相談したら、裏庭かどこかで身体を鍛えていろと言われた。

 でも、そんなに一日中やってられないよね。

 結局、毎朝『栄冠の空』の朝礼に顔を出した後は、身体訓練と称してアレスト市をひたすら歩き回っていた。

 どうせならということで、絵本も持って行って、公園みたいなところで読む。

 お昼は、屋台みたいな店で売っているファーストフードみたいな食べ物を買って食うことにした。

 これがなかなかイケる。

 冒険者の装備を持っていると、そういうものだと思って貰えるらしく、特に注目を引くこともない。

 いや、大人は無関心なんだけど、子供たちに遠巻きに見られている気がする。

 ラノベだと、主人公の黒髪が珍しくて注目を集めたりするが、アレスト市ではむしろありふれているし、人種についてもごった煮で、日本人的な風貌の人も珍しくない。

 俺なんか埋没してしまっているしな。

 ハスィー様とかアレナさんみたいに派手な髪の色や、キディちゃんのような特殊な髪型ですら、特に注目されないんだから、アレスト市は人種のるつぼとも言うべき街だった。

 ちなみに、モス代表はもちろん俺の進退を知っている。

 呼ばれたので何かと思ったが、ギルド発行の就業許可証とアレスト市の滞在許可証を渡された。

 両方とも、小さな板に色々書き込んである。

 紙でそういうのを作るという文化がないらしい。

 就業許可証は判るけど、滞在許可証は初耳だったので聞いてみたら、日本で言うビザと外国人登録証を合わせたようなものということだった。

 それがないと、つまり不法滞在ということになる。逆に、滞在許可証があれば、アレスト市だけではなく、ソラージュ王国のどこにでも行けるそうだ。

 今までは『栄冠の空』で管理していたが、これからは俺自身で持っておくように、ということらしい。

 もっとも、ギルドに採用された時点で、そっちに提出することになると言われた。

 その辺りは、日本と同じだな。

 それに加えて貯まっていたこれまでの給料の精算をしてくれた。

 驚くほど、渡された金額が多かった。

 しかも、これはマルト商会を通じない手取りだそうで、インターンって凄いんだなと思ったが違った。

 何でも、俺がやった(ことになっている)クエストでの実績によるボーナスがほとんどだそうだ。

 俺自身の活動というより、その結果として『栄冠の空』にかなりの実入りがあったからだということで、そんなもんかなと思う。

 ギルドが気前良かったのだろうか。

 あるいは、ギルドとの繋がりというか新しい業務請負が確保できたことに対する報酬だったのかもしれない。

 ありがたくいただきましたが。

 ちなみに、来年からは税金がかかってくるから、全部使うなと警告された。

 こっちでも、それは同じなんだなあ。

 そういうわけで、結構懐が温かくなったため、これまでお世話になったお礼と今後もよろしくという意味を込めて、ランチにソラルちゃん、キディちゃんおよびジェイルくんを誘ってみた。

 本当ならホトウさんたちこそ、それをやらなければならないんだけど、目上の人たちだからちょっとね。

 まあ、また機会はあるだろう。

 お店は、例の『楽園の花』にした。

 初めて自費で食べに行ったわけで。

 しかも3人に奢りで。

 所持金のかなりの部分を蕩尽することになるけど、まあ大丈夫だろう。

 冒険者は先のことは考えないのだ。

 いや、税金がかかってくるらしいけど。

 ドアを開けて前に貰ったカードを見せると、ウェイターさんは恭しく礼をして俺たちを案内してくれた。

 でも、この人確か、最初の時はカード無しでも入れてくれたような。

 あれは何かの間違いだったのかなあ。

 まあいい。

 案内されたのは、またしても大きな窓ガラスがあるいい席だった。

 俺、ここしか座ったことがないんじゃないのか?

「凄いです! マコトさんって、やっぱり違うんですね!」

 初めてこの店に来たらしいソラルちゃんが、はしゃいで礼を言ってきたけど、違うって何が?

 ジェイルくんは、誰かに連れて来て貰ったことがあるらしく、落ち着いていた。でもちょっと興奮しているというか、怯えている?

 キディちゃんは、前にシルさんに奢ってもらったことがあるので慣れたのか、他の二人よりはよほど平静だった。

 ウェイターさんが持ってきたメニューを見て、あれこれ悩んでいる。

 おい。

 一番高い奴を、とか考えているんじゃないだろうな?

 ランチにしろよ!

 幸い、キディちゃんも最後の最後で常識を発動させたらしく、4人揃ってランチになった。

 もちろん、ランチにも何種類かあったけど、全部同じ値段なので平気だ。

 我ながらみみっちいなあ。

「マコトさん、ご馳走になります」

「ありがとうございます、マコトさん」

「わあ、今日もおいしそうです」

 キディちゃんだけ、俺に対する感謝が足りない気がするけど、まあいいか。

 食い終わってまったりとお茶を楽しんでいると、突然ジェイルくんがガタッと音を立てて立ち上がった。

 同時に、周りにいるお客さん達からざわっと声なき声が上がる。

 見ると、マントに身を包んだ数人の人影が店に入ってくるところだった。

 あれは教団のマントか。

 またしても、偶然僧正様に接近遭遇してしまったのか。

 ウェイターさんが落ち着いた態度で迎え入れ、少し話してから、予想通りこっちに向かってくる。

 同席しようにも、テーブルは一杯なんだが。

 しかし、ウェイターさんは俺にちょっと頷いただけで、ジェイルくんに向かって言った。

「教団の方が、お話ししたいと申されています。少し、お時間を頂けますでしょうか」

 ジェイルくん、どうしたんだ?

 真っ青だぞ。

 しかしジェイルくんは覚悟を決めたように頷くと、立ち上がった。

 ウェイターさんに先導されて、お客さん達が何事かと見守る中を、真っ直ぐに歩いていく。

 教団の人たちは、いつの間にか見えなくなっていた。ウェイターさんとジェイルくんが、重厚なドアを開けて入っていった事から見ると、どうやら別室というか特別な部屋があるらしい。

 なるほど、前にアレナさんが言っていた「教団の人たち御用達の店」というのは、そういう部屋があるからか。

 僧正様が、一般のお客さん達に混じって食事するとは考えにくいからな。

 それから俺たちは、ジェイルくんを置いて帰るわけにもいかず、かといっておしゃべりを楽しむことも出来ず、しばらく黙ってお茶を啜っていた。

 どうしようか。

 長引くと、昼休みが終わってしまいそうなんだけど。

 いや、俺はいいけど、後の3人は勤務中だし。

 いざとなったら、俺が相談を持ちかけたとか言い訳して、仕事だったことにするか?

 もっとも、心配は無用だった。

 10分もたたないうちに、ジェイルくんが帰ってきた。

 目が赤いから何かあったらしいけど、態度は堂々としていて、自信が戻っている。

 何か、気が晴れるようなことがあったな。

 僧正様、さすが。

 ジェイルくんは最近、塞ぎ込むことが多かったような気がするからなあ。

「マコト様、お呼びでございます」

 俺も?

 しょうがない。こないだ奢って貰ったお礼もあるし、ちょっと面接受けてくるか。

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