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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?

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3.休日?

 その日は休みだったが、気になって昼から『栄冠の空』に顔を出してみたところ、特に変わったことはなかった。

 まあ、昨日の騒ぎも『栄冠の空』にとっては、緊急のクエストが一つ入っただけだもんな。

 冒険者は、大抵の場合、当事者じゃない。

 依頼された仕事を完了させたら、それで関係が切れる。

 だから、フクロオオカミとギルドがどうなろうが、依頼が来ないうちは無関係ということで、通常運転なのだろう。

 あのクエストに関係していない人たちにとっては、よそ事だしな。

 当然だが、ホトウさんや『ハヤブサ』のメンバーも誰一人として見当たらない。休みだから当たり前と言えば当たり前だ。

 シルさんやキディちゃんもいない。

 みんな休みなのかなあ。

 『栄冠の空』では、原則としてクエスト完了の翌日は無条件で休んで良いことになっている。もちろん、リーダークラスはそうもいかないのだが、メンバーは仕事が終われば休日が貰えるわけだ。

 例え半日で出来る日帰りクエストだったとしてもそれは同じだけど、何日もかかるような長時間クエストの場合は、かかった日数に応じて長い休みが貰えるそうだ。

 そうだ、というのは、俺は未だにそんなに長時間のクエストをやったことがないからだ。

 というより、今回の緊急クエストを含めても2回しか出動していない。

 それでもう、ギルドの臨時とはいえ正規の職員になるんだぜ。

 ラノベ並のスピード出世ではないか。

 でもチートも何もなく、冒険者としての実力はゼロで、みんなにおんぶに抱っこで連れて行かれているだけだ。

 不安だ。

 というようなことを相談したり愚痴をこぼしたり出来る相手がいるわけもなく、俺はトボトボと帰途につくのであった。

 帰って絵本と格闘しているうちに飽きてきたので、とりあえず財布を持って外出する。

 かといって行くところもないので、ブラブラ歩いてから夕飯前に帰るつもりで、今まで行ったことがない方向に向かった。

 マルト商会の飯場は大らかで、食べるも食べないも自由だ。つまり、俺が居ようが居まいが誰も気にしない。

 実際、昨日は夕食抜きで寝てしまったわけだが、差し入れがあったのはソラルちゃんかジェイルくんが気にかけてくれたからだろう。

 あ、そういえばどっちか判らないけど、まだお礼を言ってなかったな。

 どちらも朝から出会えなかったんだから仕方がないけど、次に会った時にはちゃんとお礼を言わなければ。

 街の中心と違う方向ということは、つまり街の外周に沿って進むことになる。

 街の外に向かっても何もないので、俺は無意識のうちに言うところの「街外れ」を進んでいたらしい。

 家が途切れ、畑が続くようになった。

 つまらないので、その場所から街の中心らしき方向に向きを変えて進む。

 次第に家が増え、畑が減り、そして道が広くなっていく。

 この辺りは地球、いや日本と同じだな。

 日本の場合、地方に行かないと「街が途切れる」とか「家が無くなる」という状態にはなかなかならないけど。

 歩いているうちに、ちらほらと店らしき建物が増えてきたので、絵本で鍛えた文字読解力を試してみる。

 駄目だった。

 ほとんど判らない。

 こっちの文字は、どうやら日本と同じ表意文字らしくて、英語みたいにアルファベットを並べて組み立てるというものではない。

 だから、見たことがない文字はまったく意味がとれない。そして絵本に出てくるのはものすごく即物的なものばかりで、店の看板に書いてあるような文字があまりなかったのである。

 かろうじて判ったのは「野菜」「肉」「魚」のたぐいだった。でも、それらの店には色々な野菜が並んでいたり、でかい肉の塊がいくつもぶら下がっていたり、魚が大量にあったりで、看板を見なくても間違えようがなかったけど。

 ああ、そういえばこっちの世界、というよりはこの国では冷凍技術が未発達兼高価なので、あまり使われていない。

 だから野菜はともかく、肉については殺したての新鮮なものか、あるいは燻製などの保存肉になる。

 言葉を話せる家畜を殺して食うことについて禁忌は特にないらしいけど、そこまでいかなくても結構気にする人が多いらしい。

 禁止されてはいないものの、牛とか豚とかの地球なら定番の食用肉はほとんど売られていなかった。

 その代わりに鶏肉とか小動物の肉が主流で、つまり言葉を話せない程度の小さな脳しか持ってない動物が食用にされているようだ。

 それでも、肉自体を忌避する人が多いせいか、肉はメインのおかずにはなかなかならない。

 マルト商会の飯場でも、焼肉とか豚汁みたいな料理はほぼ出なくて、シチューにいくらか肉片が入っている程度だった。

 あとは魚だな。

 あ、そういえばあの、名前忘れたけど僧正様と会ったりシルさんに連れて行かれた高級店では、ランチにソティーとか出ていたな。

 あれは、つまり高級店だからそういったメニューがあったということなのだろう。

 多分、値段からして庶民の口にはなかなか入らない食材ということだ。

 まあ、俺自身はあまり肉が好きというわけではないので、いいんだけど。むしろ魚が好きなので、こっちの食事は俺に合っていると思う。

 それにしても、日本では江戸時代までは獣肉は四つ足として忌避されていたという話を聞いたことがあるけど、こっちがそれと同じ状態とは。

 理由は違うけど。

 そんなことを考えながらせっせと歩いている内に、喉が渇いてきた。

 足は疲れていないので、俺も丈夫になったもんだ。

 昔だったら、これだけ歩いたらそれだけでバテていたと思う。

 そういえば、測ってないので正確なところは判らないけど、何となく体重が減って身体が引き締まってきたような。

 強制されたとはいえ、健康状態が改善されたのはいいことだなあ。もっとも、周りにいる人たちが俺とは桁違いに健康かつ頑健なので、俺の改善が目立たないんだけど。

 ちらほら人通りが増えてきているので、喫茶店のたぐいがないかと歩きながら捜したが、まったくない。

 そういう店で休むという習慣がないのかもしれないなあ。まあ、機械文明が進んでいない状況では、日中からお茶を飲んで休むというような余裕のある暮らしは流行らないのかも。

 そういうお金持ちの人は、自分の家で環境を整えてしまうだろうし。

 もしあったとしても、それはサロン的な豪華な店になってしまうのかもしれない。

 大衆文化が未発達だからな、まだ。

 食事をするお店、つまりレストランにしても、あの教団や裕福な人向けのものと、あとは飯場的な貧乏人向けに大別されてしまって、その中間がないのだ。

 これについては、一般庶民の余裕が出てこないとどうしようもない。現状でファミレス的な店を開店しても、おそらく客が入らずに潰れてしまうだろう。

 飲食店チートは駄目か。

 いやいや、何を考えているのだ。

 俺みたいな庶民がちょっと考えただけで成功できるほど、現実は甘くない。

 やはり、コツコツと与えられた仕事をやっていって、首にならない程度に頑張って年金を貰って平凡な一生を送るのが、まっとうな社会人というもので……無理だな、もう。

 ギルドの臨時職員には年金はないだろうし、健康保険も多分ない。

 つまり、俺はこれから出来るだけ怪我や病気をしないようにしながら、身体が効かなくなったら引退できるだけの金を貯めていかなければならないのだ。

 厳しいなあ。

「マコトさんじゃないですか」

 いきなり声をかけられて、俺は立ち止まった。

 見ると、ギルド職員のアレナさんがいた。

 プロジェクトの内務担当。

 というよりは、ハスィー様の秘書役。

 銀髪の沈着冷静キャラだ。

 美人は一度会えば覚える。

「アレナさん」

「こんなところに何か? 教団に何かご用ですか?」

「いえ、休日なのでちょっと散歩などと思って……って、教団の支部ってこの辺りにあるんですか?」

「はい。ご案内しましょうか?」

 そうか、こっちの方にあるのか。

 そのうちに僧正様に会いに行ってもいいかも。奢って貰ったお礼もまだ言ってないしな。

「いえ。今日は結構です」

 そうですか、と頷いて、アレナさんはバッグを抱え直した。

 ずいぶんでかい荷物だな。

「アレナさんは、ギルドの仕事ですか」

「はい。今後のことについて、教団と打ち合わせです」

 そういえば、アレナさんは教団担当だとか聞いたことがあるような。

 大変だな。

 まあ、『栄冠の空』と違ってギルドはクエストの翌日だからといって休んでいいわけがないか。

「これからギルドに帰って、書類仕事です。突然、やることが増えてしまって大変です」

 珍しいな。

 他人に愚痴をこぼすタイプじゃないと思っていたけど。

 それにしても、そんなに仕事が増えているのか。次席の、何といったっけあの男。あいつが首になって、補充が来ていないのかもしれない。

 あれは俺に原因の一端があるようなものだし、悪いことをしてしまったな。

「ギルドまでお伴します。その荷物、お持ちしましょうか?」

 サラリーマンだから、このくらいはいいよね。今後は多分、上司というか上の人になるはずだし。

 アレナさんは、ちょっと躊躇ってから笑顔を見せた。

「すみません。お願いできますか」

「いいですよ」

 重要書類だから、と断られるかと思ったけど杞憂だった。さすがに女性にこの大荷物は大変だろう。

 受け取ってみると、ずっしりくる。

 これはひどい。

 ギルドって厳しい職場なのかも。

 それでも、男の俺にとってはちょっと重い程度だったので、肩にかけてアレナさんに並んで歩く。

「本当に助かりました。重くて、腕が抜けるかと思いました」

「大変ですね。こういう仕事は、こっちの担当だと思うので、用があれば呼んで下さい」

 リップサービスのつもりで言ったら、アレナさんは首を傾げた。

「お願いしておいて何ですが、逆だと思いますけれど? マコトさんは、私たちの上司になるんでしょう?」

 な、なんだってーっ?

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