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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?

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2.臨時職員?

 なんか、俺の知らないうちに俺の転職が決まっていたらしい。

 マルト商会の食客やら、『栄冠の空』の見習い契約社員を外れて、ギルド職員に採用だと。

 実際には特定契約職員、つまりある目的のために採用される臨時職員らしいけどね。

 ま、ハスィー様やアレナさんたちと違って、現場の期間労働者だよね。

 それでも、バイトとかじゃなくて正規のギルド職員であることには変わりはない。

 やったぜ! 大出世だ!

 だが素直に喜べないなあ。

 だって、どう考えてもこれって俺に対する誤解が積み重なっての暴挙だろう。

 しかも、何か変な技能だとか知識だとかで即戦力を期待されているみたいだし。

 そんなもんはまったくないから。

 有能だと思われて高給で引っこ抜かれたサラリーマンが、実は全然役立たずだったというようなケースと同じなんじゃないのか。

 ご期待に添えず、大失敗して大恥をかくだけでなく、ハスィー様のご進退にまで影響してしまっては申し訳が立たない。

 だが、もう後には引けない。

 決まったことなのである。

 もちろん、理論的には今からでもこの話を断ることは可能だ。俺が「出来ません」と言えばいいだけだ。

 だが、そうした途端にギルドはもちろん、マルトさんやモス代表まで敵に回る。

 だって、面子を潰されたわけだから。

 サラリーマンって、そういうところがきついんだよ。

 本人の意志はあまり考慮されないのだ。

 まあ、敵に回ると言ったって、別に殺される訳じゃないだろう。だが、これまで俺を守ってくれていた諸々の優遇措置が全部消える。

 まず、マルト商会の寮は出て行かなければならないし、かといって『栄冠の空』に戻れるわけでもない。

 ギルドはもちろんだ。

 職も衣食住もなくして、自力で生きることになってしまうのだ。

 というわけで、その時点で俺は詰んでしまう。

 あー、嫌だ嫌だ。

 何でまた、こんなことになったんだろう。

 俺は、『栄冠の空』の下っ端冒険者としてコツコツとやっていくことだけが望みだったのに。

 いや、それはそれでハードルが高すぎて無理だったかもしれないけど。

 そもそも、俺が冒険者なんかになれるはずがないでしょう。

 地球でプロ野球選手とか、外資系のトレーダーになるようなもんだぞ。宇宙飛行士やノーベル賞の授賞ほどの難関とは言えないと思うけど。

 絶対に不可能ではないが、まず普通の人では為し得ないことだ。そのための才能も運も欠けているし、大体モチベーションがない。

 だから、俺は単なるサラリーマンなんだよ!

 と、愚痴っていても始まらない。

 街の外れでハスィー様の馬車から下ろして貰った俺は、『ハヤブサ』に合流して、とりあえず『栄冠の空』に戻った。

 日が暮れかかっていたのは、やはり馬車を伴う大人数での移動に時間がかかったためだろう。

 まあ、あの式典でも結構時間を食ったしな。

 点呼をとった後、ホトウさんの好意でその日は解散となった。上への報告は、ホトウさんが代表してやっておいてくれるそうだ。

 まあ、俺なんか付いていっただけだったから、何も報告することはないしな。

 そんなことを言い出したら、ホトウさんだって報告することがあるかどうか怪しいものだが、それはまあパーティリーダーの義務だから仕方がない。

 それに、クエスト自体は大成功だったわけで、ホトウさんの実績がまた一つ積み上がったことになる。

 めでたいめでたい。

 でも俺には関係ないもんね。

 とはいえ、馬車の中でハスィー様に告げられた衝撃の事実は、さすがにみんなには言えなかった。

 言っていいものなのかどうか、判らなかったし。だってあれ、ギルドの人事情報だもんな。冒険者のチーム内でばらしていいものんどうか、判断がつかなかったこともあるし。

 まあ、当然だけどモス代表は知っているはずだが、ホトウさんまで情報が降りてきているかどうか。

 そんなトップシークレットを簡単に言わないで下さいよ、ハスィー様!

 いやまあ、単に一下っ端冒険者の進路というだけなんだけどね。

 そんなわけで、精根尽き果てた俺はまっすぐマルト商会の自分の部屋に戻り、飯も食わないでベッドにぶっ倒れた。

 ハスィー様の膝という極上の場所でいくらか眠ったくらいでは、この精神的・肉体的な疲労は回復しなかったらしい。

 目覚めると、窓の外が明るくなっていた。

 飯を抜いたせいか、堪らないほど腹が減っている。

 それにトイレに行きたくて爆発しそうだ。

 慌てて部屋を出ると、ドアの脇にお盆に載ったサンドイッチのようなものが置いてあった。

 メモはない。

 ソラルちゃんか?

 とりあえずトイレに駆け込んで、ついでに風呂で水を浴びてから部屋に戻り、差し入れの夕食/朝飯をありがたく頂く。

 美味いなあ。

 腹が減っていると何でも美味い。

 だけど、出来れば飲み物も付けて欲しかった。

 食い終わって、寮を出て中庭の井戸に行って水を飲む。

 冷たくて美味い。

 うーん、俺もこういう田舎暮らし的な生活に慣れてきているな。

 テレビもゲームもラノベも何もない世界。

 洗濯だって、自分で手洗いだぞ。

 そういう、言い忘れていたけど、『栄冠の空』に勤めだしたのを契機に何着か着替えを買って、ローテーションで着るようにしているのだ。

 もちろん下着も。

 で、実は朝飯前に汚れたものを洗濯して、自分の部屋の窓の外に干している。

 これは俺だけじゃなくて、ちらほらいる寮生たちはみんな同じ事をやっているようだ。

 誰かが洗濯してくれるような、設備の整った場所ではないんだよね。

 ちなみに寮生とは言っても、原則として俺とは没交渉である。生活時間があまり合わないし、この寮はマルト商会の正規職員ではなく、商隊のメンバーなどが数日間泊まっていくといった使われ方をしているからだ。

 常駐者は俺だけらしい。

 マルト商会って、もちろんアレスト市で手広く商売をしているのだが、そっちは市の中心部にある店でやっていて、郊外のこの場所は主に市外との取引や荷物の配送などを行うためのものということだった。

 だから、寮に泊まるのは基本一時滞在者ばかりだ。

 マルト商会の正規の職員(例えばジェイルくんのような)は、もちろん市内に自分の家とか滞在場所を持っていて、通勤しているらしい。

 給料いいんだろうな。

 俺もいつかは。

 そういうわけで、俺は自分の部屋に引き返してまず服を脱ぎ、新しい服を着てから裏にある洗濯場に行って全部洗った。

 昨日は一日中、山道を歩いたりでかい獣にこづき回されたりしていたわけで、服は汚れている上に変な臭いがしみついていて苦労した。

 この状態で、ベッドで寝てしまったのか。

 ということで、部屋に戻って洗濯物を干した後、ベッドメイクもやっておく。

 シーツみたいなゴワゴワした布は、とりあえず干すだけでいいだろう。

 というか、洗ってしまうと一日では乾かないので、今夜寝るところがなくなってしまう。

 部屋の中に大きく広げて、あとは風が通るようにして、少しでも臭いが消えることを願うだけだ。

 天気予報などはないので今日晴れるかどうか判らないけど、まあいいか。

 俺もワイルドになったもんだなあ。

 それから、俺は軽い服装になって部屋を出た。

 早朝の体操とランニングは、もはや習慣化している。

 いや、でもこれやってなければ多分、山道でバテて倒れていたと思うんだよな。

 昨日なんか、結局倒れたし。

 もっと鍛えなければ駄目だろうな。

 でもホトウさんは「まだまだ」というばかりで、先は遠い。

 まあ、気長にやるさ。

 と思っていたけど、思い出した。

 俺って、なんかよく判らないままギルドに引っこ抜かれて、よく判らない仕事をさせられることになっているんだった。

 どうよ?

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