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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四章 俺は派遣の冒険者?

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21.出来レース?

 思った通り、ホトウさんとフクロオオカミの長老は知り合いらしかった。

 最初から儀礼も何もあったもんではなく、砕けた会話が飛び交っている。

「ところで、この騒ぎは何でしょうか? こないだ、ツォルくんがこの辺りをうろついていましたが、それ関係ですか?」

「ババウ、ボォウ、バウ!(それについては、きっちり叱っておいた。だからまあ、その関係だな)」

「そうですか。まあいいです。判りました。こちらもギルドの執行委員が来ていますから、後は直接話し合って下さい」

「バウッババウ!(かたじけない)」

 友好的だなあ。

 それに、長老の言葉、というか会話は異様に流暢だ。

 人間並みの知能があることは間違いない。

 でも、長老以外のフクロオオカミさんたちは、一言もしゃべらないのはいいとしても、全員がジロジロこっちを見つめてくるんだよ。

 動物園とかで、ライオンの群れの全員に一斉に見られたらどんな気分になると思う?

 みんなライオンどころの迫力じゃないし。

 しかも、檻も格子もないんだぜ。

 そんな俺に構わず、ホトウさんがちらっと振り返ると、マイキーさんが落ち着いた足取りでギルド派遣部隊への向かった。

 走り出したりしないところなんか、場慣れしているなあ。

 みんなプロだ。

 俺以外は。

 しばらくして、馬車から降りたハスィー様と僧正様がこっちに向かって歩いてきた。

 周りを騎士と警備隊員、それに教団のマントを着た人たちが囲んでいる。といっても、それぞれ3人ずつしかいないので、何かあったら一瞬だろうな。

 少なくとも騎士と警備隊員は、肉の壁になる覚悟は決めているだろう。

 武器のたぐいはまったく持っていないようなので、稼げたとしても10秒くらいか。

 ハスィー様たちは平然としているので、多分フクロオオカミ自体はかなり信頼されていると見た。

 まあ、ギルドと協定を結んでいるくらいだからな。

 こんな風に強面で押してくるようなことがあるにしても、これは地球で言うデモみたいなもので、対立とまではいかないのだろう。

 案の定、フクロオオカミの群はハスィー様たちが近づいてくると、心なしか姿勢を改めたようだった。

 それなりの敬意を払うらしい。

 まったくもって、人間並じゃないか。

 これほどの知的生物と、今までほぼ没交渉だったのが不思議なほどだ。普通だったらこんな形式だけの接触じゃなくて、商業的・文化的な相互交流が出来ていても不思議はないのに。

 いや、文化的には違いが有りすぎて駄目なのか?

 お互いに、相手の持っているものを欲しがるとは限らないしな。

 でも、それにしてはツォルさんの思考はやたらに厨二的だったけど。いや、俺にも理解できるような人間的厨二というか。

 ハスィー様と僧正様が並んで進んでくる。

 ホトウさんをはじめとする俺たち『ハヤブサ』は、自然と左右に分かれて長老の正面を譲った。

 ハスィー様は、凄いほど綺麗だった。

 ピンと緊張した空気をまとっていらっしゃる。

 纏ったギルドの正装がかっこいい。

 僧正様も、トカゲ顔だが厳粛な雰囲気だ。

 このお二人は、やっぱり人種が違うな。

 僧正様は種族も違うけど。

「お初にお目にかかります。アレスト市ギルド執行委員のハスィーと申します」

「教団のラヤと言います。僧正の位階を頂いております」

 それぞれの挨拶に、フクロオオカミの長老は頭を下げた。

「ボウォォウム、バウ。ヴボウウムホウム、バウム(フクロオオカミ・マラライク氏族のホウムでございます)」

 それを合図に、フクロオオカミの群が、一斉にはいつくばった。

 すげえ。

 ギルドって、そんなに権威があるのか!

「違うよ。僧正猊下に敬意を表しているんだ。教団、というよりスウォークは彼らにとっても特別な存在だからね」

 ホトウさんが、呟くように言った。

 心を読まないで下さい!

 ひとしきり頭を下げると、フクロオオカミのホウムさん【長老】は寝そべるような恰好になって、ハスィー様たちと顔の高さを合わせた。

 長老、パネェよ。

 全長4メートル以上はあるだろう。

 もう怪獣といってもいい。

 少なくとも魔獣だ。

 ラノベなら、四天王のうち最弱の存在くらいの迫力はある。

 手足なんか、筋肉の塊だよ。

 何食ってるんだろうな。

 肉だよね。

 考えるのは止めよう。

 ハスィー様と長老が打ち合わせに入ったらしく、切れ切れに話が聞こえてくる。

 俺たちはホトウさんの指示で、声が聞こえない場所まで下がった。

 見ると、フクロオオカミの群もジリジリと下がっていって、ぽっかりと開いた空間に長老とハスィー様、そして僧正様だけが浮いていた。

 巨頭会談だな。

「さて、僕たちはこのまま待機だ。ここまで来たら、終わるまでは出番はないから、ゆっくりしていいよ」

 ですよね。

 まあ、地球だったら首長同士が会談している間も、秘書官とか記録官がせっせと記録を録っているところだが、こっちの世界ではまだそこまで洗練されていないのだろう。

 トップの決断が、そのまま通ってしまう世界なのだ。記録についても、おそらくは後で決まったことだけを明文化して確認するだけとみた。

 それはつまり、ここで決まることは主要な取り決めだけであって、細かい部分はむしろ現場でその都度対処するということだ。

 まあ、あらゆる局面について最初から取り決めておくなんて事は、地球でも無理だしな。

 それに、これは人間同士の協定とは違って、異種間交渉だ。

 文化的な違いが大きすぎて、細目まで決めるのは無理があるということなのだろう。

 俺がぼんやりそんなことを考えている間に、交渉はまとまったようだった。

 やけに早いな、おい。

 10分もたってないぞ。

 どうも、ハスィー様の出した提案を、長老がそのまま承認しただけのように見える。

 そんなに簡単なものなのか?

 俺の疑問をよそに、ハスィー様の合図で俺たちは再び集合した。

 フクロオオカミの群は、改めて僧正猊下に一礼すると、そのまま去っていった。

 一部を残して。

 残ったのは10頭(人)ほどで、大半は長老と遜色ないほどデカい人【フクロオオカミ】たちである。残りの半分は、一回り小さく見えるがそれでも体長3メートルはあるだろう。

 ツォルさんくらいの大きさだな。

 小さい方(相対的に)の半分は落ち着きがなくて、その場でウロウロしたり、寝そべったりしている。

 どうやら、フクロオオカミって年齢と体長がかなり比例するらしい。小さい方の団体さんは、精神的に幼いようだ。

 ツォルさんが混じっているかどうか、さすがに判らないな。フクロオオカミの個体識別が出来るほど、修行を積んでないし。

 ハスィー様は、騎士団と警備隊の長を呼んで何か話した後、ギルド派遣部隊の全員に向かって演説した。

「フクロオオカミ・マラライク氏族の長老と話し合ったことで、今回の事態は協定破りではなく、正式な会談として記録されることになりました。

 その結果として、ギルド・アレスト市支部はフクロオオカミ・マラライク氏族との間で新しく限定協定を結ぶことになります。

 その内容は後日ご報告いたします。

 この成果は、皆様の迅速な行動と献身的な対処によるものです。

 改めて、ありがとうございました」

 一斉に拍手が起こった。

 きれい事というか、やっぱり出来レースだな。

 そもそもフクロオオカミが群でやってくるという所からして怪しい。

 最初から打ち合わせ済みだったんじゃないかな。

 というよりは確実にそうだ。

 新しい協定を結ぶために、強引に会談せざるを得ない状況を引き起こしたわけだ。

 表面的には、ギルドが突発事態に迅速に対処して、多大なる成果を上げたと発表するんだろう。

 ハスィー様、お嬢様かと思っていたけど、いやそれには間違いないだろうが、なかなかどうして食えない性格をしていらっしゃる。

 ああ、嫌だ嫌だ。

 ラノベのヒロインとしては、ちょっとアクが強すぎないだろうか。美貌のエルフなら、もうちょっと正統派ヒロインとしてふるまっていただきたかった。

 いやラノベじゃないんだから、仕方がないけど。

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